今月の詩(4) 平成十六年度全国吟詠コンクール指定吟題から
【幼年・少年・青年の部】(絶句編)(4)
元二の安西に使するを送る
王 維
《大意》元二が西域の安西都護府に使いするのを送って渭城まで来、そこで別れるにあたっての送別の情を述べた詩。渭城の町には朝の雨が降って、軽い塵ぼこりをしっとりとぬらしている。さあ君、ここでもう一杯酒を飲みたまえ。西の方、あの陽関を出てしまえば、もう共に酒を酌みかわす友もいないだろうから。
【一般一部・二部・三部】(絶句編)(4)
静夜思
李 白
《大意》秋の静かな夜ふけ、寝台の前に月の光がさし込んでいる。あまりにも白いので、地上に降った霜かと疑ったほどであった。光をたどって頭をあげてみると、山の端に明月がかかっている。その名月を眺めるうち、故郷のことがふと思いおこされ、知らず知らず首をうなだれて、しみじみ望郷の念にひたったことである。
(解説など詳細は財団発行「吟剣詩舞道漢詩集」をご覧ください)
吟詠・発声の要点 ■第二十五回
原案 少壮吟士の皆さん
監修 舩川利夫
2. 各論
(4)発音=7
子音(その三)
前月号の*印で説明があった。「拗音」について少し補足します。続いて子音の中でも、吟詠家にとって大変重要な「鼻濁音」に関して、その正しい使い方と注意点に移りましょう。
拗音は、最初の父音の延長で・・・
「キャ、キュ、キョ」など拗音と呼ばれる音は【表】のローマ字表記を見ると解るように、各音の頭に「k(キ)、g(ギ)、s(シ)」などの父音があり、次に「y」で始まるヤ(ya)ユ(yu)ヨ(yo)などが続いている。“明瞭な日本語で詠う”という考えからすると、初めは子音の頭にある父音を念入りに発音した後で、「ヤ(ya)、ユ(yu)ヨ(yo)などの音もはっきりと発音しなければならないと考えがちだが、吟詠の場合には、ある種の情感を出すために一工夫しなければならない。
50音(濁音、半濁音を含む)・拗音とその(訓令式)ローマ字表示
ア
a |
イ
i |
ウ
u |
エ
e |
オ
o |
|
|
|
カ
ka |
キ
ki |
ク
ku |
ケ
ke |
コ
ko |
キャ
kya |
キュ
kyu |
キョ
kyo |
ガ
ga |
ギ
gi |
グ
gu |
ゲ
ge |
ゴ
go |
ギャ
gya |
ギュ
gyu |
ギョ
gyo |
サ
sa |
シ
si |
ス
su |
セ
se |
ソ
so |
シャ
sya |
シュ
syu |
ショ
syo |
ザ
za |
ジ
zi |
ズ
zu |
ゼ
ze |
ゾ
zo |
ジャ
zya |
ジュ
zyu |
ジョ
zyo |
タ
ta |
チ
ti |
ツ
tu |
テ
te |
ト
to |
チャ
tya |
チュ
tyu |
チョ
tyo |
ダ
da |
ヂ
di |
ヅ
du |
デ
de |
ド
do |
|
|
|
ナ
na |
ニ
ni |
ヌ
nu |
ネ
ne |
ノ
no |
ニャ
nya |
ニュ
nyu |
ニョ
nyo |
ハ
ha |
ヒ
hi |
フ
hu |
ヘ
he |
ホ
ho |
ヒャ
hya |
ヒュ
hyu |
ヒョ
hyo |
バ
ba |
ビ
bi |
ブ
bu |
べ
be |
ボ
bo |
ビャ
bya |
ビュ
byu |
ビョ
byo |
パ
pa |
ピ
pi |
プ
pu |
ぺ
pe |
ポ
po |
ピャ
pya |
ピュ
pyu |
ピョ
pyo |
マ
ma |
ミ
mi |
ム
mu |
メ
me |
モ
mo |
ミャ
mya |
ミュ
myu |
ミョ
myo |
ヤ
ya |
(イ)
(i) |
ユ
yu |
(エ)
(e) |
ヨ
yo |
|
|
|
ラ
ra |
リ
ri |
ル
ru |
レ
re |
ロ
ro |
リャ
rya |
リュ
ryu |
リョ
ryo |
ワ
wa |
(イ)
(i) |
(ウ)
(u) |
(エ)
(e) |
(オ)
(o) |
ン
n |
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例えば「きょねん(去年)の〜」と詠うとき、「きょ」は拗音だから一拍で発声しなければならない。そこで呼吸が一瞬(上アゴと舌の奥による)障害を経て、声になる父音を明瞭に出し、次の母音はその延長線上で、ほんのわずか前へ出す。ということは、母音(kyoの「o」)は殊ことさらに前へは出そうとしない、という感じ。そのためのコツとしては、横隔膜を上げて(またはミゾオチをすぼめて=腹腔の共鳴を小さくする)「きょねん」までの読み下し、「最後の「ノオ〜」をよく響かせて節回しに繋ぐとよい。
日本語の美しさの一つ「鼻濁音」
財団が主催する吟詠コンクールに適用される「審査規定」の中に次のような一項がある。
(3)発音について。審査のポイント=標準アクセント及び鼻濁音の正確さ。
またコンクール審査に関する笹川鎮江前会長の講義録の中には「発音=標準アクセント及び鼻濁音が正確に表現されていることをポイントとする。アクセント、鼻濁音が守られていない現在、我が吟界だけは美しい日本語で吟詠するよう心がけねばならない」とあり、さらに「鼻濁音=カ行の濁音が熟語の2字以後にある場合は鼻濁音化し、「如し」は詩文の中間にあっても鼻濁音で発声する」と、その用法にも多少具体例が挙げられている。
コンクール審査に際して重要視されているということは、これが大切であるにもかかわらず正確に守られない例が多いということで、吟詠家にとって心すべき点である。
では、鼻濁音は何か。簡単にいえば、「ガ、ギ」などの濁音を発声するとき、始めの声を鼻へ通して、破裂音の鋭さを幾分緩和させた音である。前回の解説で「ガ行」には二種類の発音があり、「連吟(れんぎん)」の「ぎ」は鼻濁音であると記した。発音の実際を観察すると、「吟詠」というときの「ぎ」舌の奥と上アゴの奥(軟口蓋)で息を遮断し、呼吸をためて一気に破裂させる。これに対し「連吟」の「ぎ」は「れん」の「ん」という鼻へ通す音(通鼻音)を引き継いで、閉じられた舌と上アゴを力まず穏やかに離し、次の生み字の母音「い」へつなげる。
ギャ、ギュ、ギョなどの拗音の場合も同じ要領で、「玉笛(ぎょくてき)」の「ギョ」は前の破裂音と同じ音の出し方。「珠玉(しゅぎょく)」という場合の「ギョ」は鼻濁音で、舌の奥と上アゴで閉じた後、息を半ば鼻へ通しながら穏やかに開く。
笹川鎮江前会長講義録でご指摘のように、特に最近の歌などでは鼻濁音の使い方が混乱している。鼻濁音の標準的な使い方については次回で。
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