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吟詠・発声の要点 ◎第二十回
原案 少壮吟士の皆さん
監修 舩川利夫
2. 各論
(4)発音=4
(五つの母音続き)
 読者から戴く投書のなかで「・・・口の開き方等、苦労していたところです。先生に『少し響きのある声になった』とほめられました」とありました。五母音それぞれの口形などは今回で一通りの説明は終わりますが、“響き”という観点から、それにまつわる留意点を、次回にかけてもう一度整理してみましょう。
 
4、「オ」の口形
付随する舌形の分類
 
 【図1】母音の三角図、右上の「イ」から次第に口を縦に広げ、同時に唇形は横長から縦長に変えながら「エ」「ア」と進んだ。今回の「オ」「ウ」は再び縦の口形を少しずつ狭めながら、唇形を前へだすような感じで音を作ってゆく。
 
【図1】母音の三角図
口の形と五母音の関連(再掲)
 
 図で見ると「オ」は「ア」に隣接していることからもわかるように、口の中の構えなどはほとんど変わらず、違うのは縦に開いた口を幾分狭くする。唇の円周を少し小さくして、気持ち前へ突き出す感じ(吟詠では〔図2〕「オ」の口形より、左右両端の唇を少し絞る感じでよい)。ここで舌の形に注目してみよう。「ア」が舌の前も後ろもほぼ平らなのに対して「オ」は(写真1参照)舌の後部が少し上がっている。次に観察する「ウ」も同じ形で母音を形作るため、この二つを後舌母音と呼ぶ。反対に「イ」「エ」は前に見たように舌の前部を上げて発音するので前舌母音と呼ぶ。「ア」は中舌母音という。
 
【写真1】「オ」の口腔内
 
【図2】「オ」の口形図
(音楽の友社刊
「発声の技巧とその活用法」から引用)
 
 なぜこのように詳しく分類する必要があるかといえば、発音練習をするに当たって、標準的な中舌母音「ア〜」から始め、次に前舌母音の「エ〜、イ〜」とつなげる。再び「ア〜」に戻り、こんどは後舌母音の「オ〜、ウ〜」と続ける。つまり「ア〜エ〜イ〜、ア〜オ〜ウ〜」と繰り返し発声発音することにより、初めのうちは中舌〜前舌〜前舌、中舌〜後舌〜後舌という舌の動きを意識する。慣れるにつれて、舌が無意識のうちになめらかに動いてスムースな母音の移行ができるようになる。これが“技”として定着した後は、前舌、後舌などの言葉は忘れてもよい。
 
5、「ウ」の口形
付随する、五母音均質な共鳴
 
 「ウ」は前の「オ」からさらにアゴの引きを狭め、唇の円周も狭くし、前へ突き出す度合いを幾分強める。舌は先に見たように後舌母音の形。
 口腔内の写真1、2を見ると「ウ」の口内空間が「オ」の約半分ほどになっている。言葉として発音する日本語の「ウ」は大体これが標準だと思われる。吟詠家の大部分は詠うときにもこれとおなじ口形をしている。言葉の途中に出てくる母音や、子音を伸ばしたときに出る母音(生み字の母音という)の「ウ」はこの口形でよい。しかし例えば転句の末尾などで「ウ〜」を強く長く伸ばすときなどは、一工夫が必要となる。というのは「ウ」が後舌母音で舌根が上がり気味のため、声の通り道は狭くなっており、口内空間も狭められた状態では、口腔共鳴が十分には働かない。それを無理して強い声を出そうとすれば、不自然なノド声になりやすいからだ。
 これを解消するには、どうすれば口内と声の通り道(声道)を広くし、しかも「ウ」らしい発音を作れるかを考えなくてはならない。縦長の口をあまり狭めず、後舌にかかる力をゆるめ、その分、唇のつぼめにより「ウ」らしく発音する。簡単に言えば、口の奥で作っていた「ウ」から、唇の形で作る「ウ」へ重点を移すこと。ただしあまり極端にすると洋楽的な「オ」に近い音声になる。
 五母音が同じような共鳴で響き、どれか一つが突出して響いたり、逆に一つだけが弱かったり、暗かったりするのでは、吟詠の情感がそれによって左右され、本当の味が消されてしまう。そうしたことを避ける意味からも、右のような工夫を考えないといけない。
 
【写真2】「ウ」の口腔内
 
【図3】「ウ」の口形図
(音楽の友社刊
「発声の技巧とその活用法」から引用)







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