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吟剣詩舞の若人に聞く第55回
 
後藤未由子さん
 
後藤未由子さん(十七歳)●三重県四日市市在住
(平成十四年度全国吟詠コンクール決勝大会少年の部優勝)
次女・・後藤亜梨子さん
長男・・後藤啓祐くん
父・・後藤丈太郎さん
母・・後藤里子さん
祖母(師)・・後藤芳繕さん(関心流日本興道吟詩会)
祖父の最後に伝えた、涙の優勝報告
弟の啓祐くんにつづいて優勝を果たした後藤未由子さん。大学への進学も決まり、さらなる飛躍が期待される彼女に、ご家族を交えながら、詩吟の話をおうかがいしました。
 
――本日はよろしくお願いします。お久しぶりですね。四年ぶりぐらいですか。前回は弟の啓祐くんを取材したときでしたね。四年前の取材はどういう印象でした?
未由子「私も取材を受けたいと思いました」(笑)
――やはり何か感じるものがありました?
未由子「弟が優勝して、よし私もという感じでした」
祖母「幼年の部で優勝したときは、まだ取材はありませんでしたよね」
「最初に出たのは五歳くらいの頃でした。そのときは裏表紙に載せていただいたはずです」
――その頃はまだこの「若人に聞く」の企画はありませんでしたね。さて、少年の部、最後の年に優勝された感想はいかがですか?
祖母「運がよかったです」
「運がよかった。本当に良かった」
未由子「ありがたいことです」(笑)
――少年の部は、何回ぐらい挑戦されたのですか?
未由子「去年が中部地区で三位だったので全国大会に出場できませんでした。それ以外はずうっと全国大会には出場していました」
――ずっと出場していたのですか?
未由子「はい、優勝するまでは最高が三位でした」
――三位という結果はどう思いました?
未由子「三位という成績がどうだと思うことより、入賞できて良かったと思います。でも大きなトロフィをもらいたいとも思っていました(笑)。特に二年連続して三位が続いていましたから、ひとつ進んで二位には入りたいと思っていました」
――前回は三位で今回は優勝できましたけど、何が違ったと思います?
未由子「練習量が違います。前回よりは増えていますし、お祖父ちゃんが亡くなりまして、そのお祖父ちゃんのためにもがんばろうと思いました。優勝したいという気持ちはあまりありませんでしたが、自分が満足できるように吟詠をしようと考えていました」
――お祖父さまはご病気ですか?
「去年の十月です。全国大会の時には、もう入院していました。詠い終わってすぐにお祖父ちゃんのことを思い出してしまいまして、未由子はすこし泣いていましたね」
――もう、そのときには病床にいらしたのですか?
「本当は一緒に全国大会に行く予定でしたが、祖母もとりやめて看病していました」
――コンクールの結果はどう伝えられましたか?
祖母「結果は、東京からすぐに電話で病室に連絡が入りました。お祖父ちゃん、未由子から報告がきたよ、優勝したよ、というと自分で受話器を取って、未由ちゃん、良かったねとそれだけ言ったんです。もうそれ以上は分かりません。意識も雲がかかったみたいになっていましたから」
――お祖父さん、待っていたんですね。いい報告ができてよかったですね?
未由子「本当に良かったです。いい報告ができて」
――そういう思いを抱きながら、自分としては、うまく吟じられましたか?
未由子「出来としては。また出番の番号が早かったんですよ。一番になったんです。後のほうが絶対に有利だと思っていましたから」(笑)
――少年の部の最初、一番だったのですか?
未由子「そうです。また一番だ、みたいな感じで。で、どうしよう、どうしようみたいになってしまって、舞台裏でもずっとお母さんについていてもらいました。詠いながらでも途中で泣きたくなったので、これはいけないと、がんばって最後まで吟じました」
――舞台の袖で見ていて、未由子さんはどんな感じでしたか?
 
インタビューに答える後藤未由子さんを中心にご家族の皆さん。左より父・丈太郎さん、母・里子さん、未由子さん、妹・亜梨子さん、弟・啓祐くん、祖母・芳繕さん
 
「舞台の屏風を回って戻ってくるときは、もう泣きじゃくっていました」
――出る前はどうだったですか?
「出る前は緊張していました。もう一番目でしたから、かえって、他の人の詩吟を聞かなくていいから、落ち着いて自分の吟のことだけを考えられるからいいのじゃないかな、と思いました」
――本当は何番目が良かったの?
未由子「せめて後ろから三番目ぐらい。真ん中を越して欲しかったです。私、いつも早いのです」(笑)
――今はどなたが教えられているのですか?
「お祖母ちゃんです」
祖母「未由子が三歳ぐらいの頃から公民館での稽古のときにいつも連れていったんです。初めのうち公民館の館長さんに、ここは子守してもらう場ではないからって言われました。子守じゃないですよ、この子は詠うんですよ、と言って、公民館祭のときに大きなホールでこの子が詠つたときにはびっくりされていましたよ(笑)。そのときには大変誉めていただきました」(笑)
――どうですか、その成長ぶりというのは?
祖母「私も大いに期待しております。今度、愛知教育大学の音楽コースへも進め、さらに期待しております。高校はカトリックの学校だったんですけど、卒業のときに校長先生が未由子の詩吟を聞きたいと申されましたので、謝恩会のときに詩吟を披露したのです」
――校長先生は未由子さんが詩吟をしているのを知っていたのですか?
未由子「調査書を提出するときに賞なんかも全部記入しなければならないので、その書類をご覧になって知ったのだと思います。卒業式の最後にみんなが集まったところで、プログラムに企画みたいなものが組み込まれていて詠ってと求められたので、初めてみんなの前で詩吟を披露しました」
 
ご家族で未由子さんの優勝を支えた。左から妹の亜梨子さん、母の里子さん、祖父の写真を持つ後藤未由子さん、父の丈太郎さん、祖母の芳繕さん、弟の啓祐くん
 
――みんなの反響はどうでしたか?
未由子「初めて詩吟を聞いたという人が殆んどでした。みんなびっくりしていました。そんな小さいからだからよくあんな大きな声が出るのね、と」
――今度大学に進まれるのですよね。めざすのは音楽の先生でしたよね。
未由子「はいそうです」
――ピアノもずっとやっていたの?
未由子「はい、ずっと」
――さて、話は変わりますが未由子さんは、どんな性格ですか?
「長女にありがちな仕切り屋です」(大笑)
――お父さんはいかがですか?
「優柔不断ですね」(笑)
――仕切り屋だけど優柔不断?
未由子「はい」(笑)
「兄弟の中では自分が一番でしょうね」
――弟とか妹の詩吟については、どう思いますか?
未由子「妹の亜梨ちゃんは私よりも声量があるので、すごく強い詩を吟じていて、それはそれでいいと思います」
――妹さんはお姉ちゃんの優勝のことはどう思う?
亜梨子「はやく優勝してもらいたかった」(笑)
「お姉ちゃんに優勝してもらわないと、亜梨子が中部大会に出場できませんから」(笑)
「お姉ちゃんがいるから、なかなか中部大会に進めないんですよ」
――そうか、少年の部でぶつかってしまうんですね?
「はい。お姉ちゃんとは二つ違いですし、三重県の大会は一人しか中部には行けないのです。いつもお姉ちゃんがいるから中部大会に出場できないのです」(大笑)
――亜梨子ちゃん、良かったね。お姉ちゃん、少年の部出て行って?
亜梨子「はい」(大笑)
――最後の質問となりますが、これで少年の部は優勝しましたが、今度は青年の部ですよね、今年は挑戦するの?
未由子「はい、挑戦するつもりです」
――もう練習は始めていますか?
未由子「いま、ちょっとお休みみたいな感じです」
――大学も決まったし、いま一番いい時期だものね。すこしのんびりしますか?
祖母「そうはいかないですね(笑)。三重県の大会がありますし、十月には関心流の大会もあります。せっかく優勝という箔をつけていただいたので、新しい詩にも挑戦して欲しいと思っていますから」
――今後の抱負として何かありますか?
未由子「青年の部は、中部大会の段階でうまい人がいっぱい出場するので、ひとまず中部大会に出場することが目標ですね」
「まず中部大会をクリアすることですね」
未由子「青年の部は年齢の幅も広いので、まずは諸先輩方の吟を拝聴して勉強していきたいと思います」
――本日はお忙しい中、インタビューにお答えいただきありがとうございました。今後のご活躍を期待しております。







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