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 【F】釣漁法・・・釣り漁法は、手釣り法と磯釣竿漁法に分けられる。前者は舟に乗って、沖合いで魚を釣る漁法(十種)、珊瑚礁の磯辺の切り目で手釣り漁法と潜水手釣り漁法等の三つの漁法がある。沖合いで手釣り漁法には「mikenakena do chinedkeran so chinaknan do maep(ミクナクナ ド チリクランン ソ チナクナン ド マウップ)」と呼ぶ漁法があり、主に游漁時期に大きい魚(サワラ、オニカマス)を釣る漁法である。この漁法とは漁師が舟の中にすわり、ovid(オヴィル)(釣糸)を海中におろし、手でovidを持ち、魚がエサを食べていることがわかったら、漁師は立って、両手で釣糸を引きあげる。この漁法を彼らはsomoo(ソモオ)という漁法を行う時に一緒に行っている。つまり、彼は、somoo漁法で取れたトビウオをmikenakena do chinedkeran so chinaknan do maep漁法のエサとし、大型な魚を捕るわけである。また、沖合い手釣り漁法には、長さは約八〇〜一〇〇メートルのtoyogan a ovid(トヨガン ア オヴィル)という釣縄に長さ五〇メートルのiktan(イクダン)(釣糸)をつないで、iktan釣糸に二つの拳ぐらいの大きい石を自然にはずれるような縛り方にする。小さいタコを釣針にしっかり縛り、糸を海底におろし、魚が当ったら、縛られた石は自然にはずれる「maneireng(マニルン)」という海底の棲息魚を釣る漁法である。磯手釣り漁法(mapahahahap do maraw mangna a zawazawang do kisakan(マパハハップ ド マラウ マンナ ア ラワラワン ド キサカン))とは約太さ〇・三センチの釣糸を手首の所に縛る。釣糸は大体一メートルの所に直径三・五センチぐらいの拳石を結び、その先に釣針を縛る。漁師は珊瑚礁の磯辺の切り目のそばに座り、釣糸を切り目の海中におろし、海底の棲息魚を釣る漁法である((7))。後者の磯釣竿漁法は獲物の対象、釣針、漁撈時間等の要素によっていくつかの違う漁法名称が付けられている(十種)。例をあげると、「maninilat do pasalan so maraw do likey a cilat a among)マニニラッド ド パサラン ソ マラウ ド リクイ ア チラット ア アムン)」と呼ぶ漁法は主に、cilat(イトとキアジ、カスミアジ)、malavanga a cilat(マラバン ア チラット)(シマガツオ)を釣る漁法で、使えた漁具のサオの長さは約三メートル、糸の長さは約四メートル、釣針の長は〇・七センチ、幅は〇・三センチである。また、「tomingyab a mangna so among do maep do kisakan(トミギャッブ ア マンナ ソ アムン ド マウップ ド キサカン)」という漁法は、夕方頃に珊瑚礁の磯辺で漁法を行い、ivay(イヴァイ)(ミナミハタンポ)、mavala(マバラ)(キンメダイ、アカマツカサ)を釣る漁法である。使われた釣針の長さは二センチ、幅は〇・七センチである。((8))
 
(7)磯釣竿漁法
(mapahahahao do maraw mangna a zawazawang do kisakan)
 
(8)磯釣竿漁法
 
(2)漁法とヤミ族の人々
 彼らにより分類された漁法は同じ漁法を行っても、出漁の時間、利用海域、漁具のサイズの違いにより、漁法に付ける名称が変る。また、漁獲物が決まっていれば、漁獲の名称が、漁法の名称の中に入れ込まれて、一つの独立した漁法名称として取り扱われていることが特徴的である。
 潮汐の現象は漁撈にとって重要な自然現象である。採集した五二種類の漁法の中には潮汐と関連している漁法は二五種類で約五〇パーセントを占めている。それには、海岸海域で行うかきおこし漁法・採集漁法、魚毒漁獲法及び岩礁域の網漁と磯辺の釣漁法である。
 漁撈を性別分業、年齢分業することがヤミ族の社会の特徴である。彼らの社会には、男性がmacipang lalagarawo(マチパン ララガラウ)(約一一才)になると、初めて釣りざおを持ってlagaraw a among so maraw do kisakan(ラガラウ ア アムン ソ マラウ ド キサカン」という漁法を行うことができる。他方、女性もipanomao yageza da(イパノマオ ヤグラ ダ)(約一一才)になると、両親と一緒に珊瑚礁の磯辺のかきおこし漁法を行うことができる。青年後期になってから行われる漁法は段々に増えて、結婚してから(結婚適齢期は男性=二二〜二五才、女性一六〜二〇才)子供を持っている段階に入るとおよそ殆どの漁法が行える。換言すればこの年令層は漁撈技術の成熟期であるといえる。
 漁撈を男女性別分業すると、五二種類の漁法の中で女性が参加する漁撈は八種類である。それらは、かきおこし漁法、採捕漁法・網漁法の中の掬網漁であり、これらの海岸海域、岩礁域の資源には女性も参加する。他方、岩礁域の潜水漁法・大型網漁法、沖合、海岸域の釣漁法はすべて典型的な男性のみの漁撈である。
 また、彼らにより行う五二種類の漁法は年中すべてを行うわけではなく、「rajun(ライアン)」(游漁撈期)に行われることが禁忌にされている漁法も見られる。女性が一年中できる漁撈は二種類(manavassavat do kisakan do mavakes, managasagaps do maraw do kisakan a liblibton so lilikey a lokton(マナバサバット ド キサカン ド マバクス マナガサガップ ド マラウ ド キサカン ア リブリブトン ソ リクイ ア ロクトン)のみで、その他はrajun期を過ぎた七月以降から女性も漁撈に従事する。毎年一〇月すぎてから翌年二月まで東北季節風が強くなり、沖合い漁撈、岸礁域の網漁撈を行うのが難しくなるため、海岸域の漁撈による獲物はこの時期彼らにとって大切なタンパク質源である。ヤミ族における漁撈は主に男性が行い、女性は補助的な役割を担うが、女性が行う漁撈の位置を彼ら漁撈活動の中から無視することはできないと考えられる。







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