■財団法人日本ナショナルトラストは文化財や自然を保護し、利活用しながら次の世代に伝えていくことを目的に昭和四三年一二月に設立された民間団体（財団法人観光資源保護財団）です。設立後、一般公募により愛称を［日本ナショナルトラスト］と名づけ、英国のナショナルトラストの活動の基本である保有・維持管理・一般公開を目的に事業をすすめてまいりました。

　そして平成四年九月に正式名称を財団法人日本ナショナルトラストと変更しました。

■昭和五九年一二月には免税団体［特定公益法人］に認定され、翌々年から第一次文化財取得保護計画が始まり、おかげさまで白川合掌造り民家二棟と蒸気機関車と旅客車四両を取得することができました。また、昨年の一二月から新たに総額三億円の第二次文化財取得保護計画を立ち上げ、藤沢市の旧モーガン邸の取得と当財団に寄贈された旧安田楠雄邸［文京区］と駒井家住宅［京都市］の修理のために皆様からの寄金を募ることになりました。

　今後、「維持管理」「公開」に加えて、さらに保護対象を保有する団体としてナショナルトラストへの道を進んでいく所存です。

　皆様のご協力を切にお願い申し上げます。

　

　名勝旧大乗院庭園の保存修理と文化館の管理運営〈奈良市〉

　天心遺跡記念公園〈北茨城市〉

　京都市指定文化財駒井家住宅の修復・管理〈京都市〉

　トラストトレインの動態保存〈静岡県大井川鉄道〉

　葛城の道歴史文化館の管理運営〈御所市〉

　飛騨の匠文化館の管理運営〈古川町〉

　白川郷合掌文化館の管理運営〈岐阜県〉

　旧安田楠雄邸庭園の修復管理〈東京都〉

　長浜鉄道文化館の管理運営〈長浜市〉

　北陸線電化記念文化館の管理運営〈長浜市〉

　琴引浜鳴き砂文化館の管理運営〈京都府〉

　村上歴史文化館建設〈村上市〉他

　飯高寺を中心とした巨木を育む里山〈八日市場市〉

　近江八幡のホフマン窯と赤レンガ〈近江八幡市〉

　観光資源としての鳴き砂（鳴り砂）の浜の総合調査事業　白川村平瀬地区街並環境整備事業〈白川村〉

　村上歴史文化館建設委員会の運営〈村上市〉

　宮島の景観診断〈宮島町〉

　長浜鉄道文化館展示企画調査〈長浜市〉

　名勝旧大乗院庭園文化館展示企画調査〈奈良市〉他

　会員を募集しています。大切な自然と文化財の保護を進めるために皆さまのご協力が必要です。ぜひご参加下さい。

年間費・・・個人四千円〈新入会は五百円の入会費を加算して下さい〉・団体三万円〈一口以上〉

■本誌は日本財団の支援を受け発行しています。

　

　

　

　

　

表紙＝武田育雄（イラストレーション）

表紙デザイン＝杉浦康平＋佐藤篤司＋島田薫

協力＝呂敬人＋金升坤＋金秀男＋白智舜＋野村伸一＋Abhijit Chatterjee

翻訳＝小西正捷＋岡田陽一＋中西恭子

印刷進行＝佐藤竜哉

写植印字＝プロスタディオ

　

　

　

　

　

　

　

　これは打楽器一般についていえることであるが、韓国にあっても打楽器はもっとも原始的でありながら壮快な響きをもち、人の心を揺り動かす。なかでも太鼓は、人間の鼓動を最も即応的に表現する楽器である。戦（いくさ）時、太鼓の音は進軍と退却を知らせる合図となり、その響きほど、時に力強く、時に恐ろしく聞こえるものはないであろう。

　韓国人にとって太鼓は、ある悲しい事件の記憶と結びついている。おそらくそれは韓国人の太鼓に対する原体験を形成するものでもあろう。韓国人であれば誰もが知っている「好童王子と楽浪姫」の話がそれである。

　高句麗の第三代国王・大武神王の一五年（西暦三二年）四月のこと。王と第二夫人の間に生まれた好童は、沃沮に赴いて楽浪の王・崔里と親交を結び、彼の娘・楽浪姫を妻に迎えることになった。高句麗はのちの朝鮮半島にあって新羅・百済とならぶ主要三国のひとつとなるが、この時点ではまだ周辺の沃沮、東、楽浪といった国々のうちのひとつにすぎなかった。このうち楽浪は、中国・漢が衛満朝鮮を退けて朝鮮半島に設置した四か国中のひとつであった。

　その後本国に戻った好童は、極秘裏に人を遣わし楽浪姫に、「国の武器庫に忍び入り太鼓を裂くことができるなら、礼式に法って迎え入れよう。しかしそれができぬなら、そなたを迎え入れることはできぬ」と申し送った。「太鼓」とは楽浪が所有していた神秘の品のことで、敵が攻め入って来るとひとりでに鳴り出すため、あらかじめ戦に備えることができるというものであった。果たして楽浪姫は、鋭い刀を携えて武器庫に忍び入り、太鼓の皮を裂いたのちその旨を伝えてよこしたので、好童は王に進言して楽浪を襲撃した。太鼓が鳴らなかったため無防備状態でいた崔里は、高句麗軍を目の当たりにしてようやく太鼓が裂かれた事実に気づき、ついには娘の楽浪姫を殺して投降した。^{（注（1））}

　好童王子が、結婚を約した楽浪姫を戦略的に利用しようとしたのは確かだ。女が愛する男のために自らの国まで捨てたことに比べれば明らかに不純な動機であったといえよう。しかし楽浪姫が父親の手にかかって死んだとの知らせを聞き、好童もまた自殺してしまう。たとえ女を利用して目的を遂げようとしたとはいえ、それが正しい選択でなかったことを知るや自らも命を絶ったことを思えば、彼の本心がもっぱら自らの利を得ることにのみあったわけではなかったことがわかる。

　韓国ではこの太鼓を「自鳴鼓」と呼ぶ。自鳴鼓とそれにまつわるこの話は政治と戦争の歴史を越えて、引き裂かれた愛、あるいは悲劇的な人間愛の終末を意味するものとして広く知られている。