日本財団助成事業
NPO&企業 協働のための評価システム
「第1回パートナーシップ大賞」決定までの評価プロセス
特定非営利活動法人
パートナーシップ・サポートセンター(PSC)
岸田 眞代 編著
パートナーシップ・サポートセンター(PSC)が評価に取り組んでから3年余を経過したことになります。
1999年、恒例となったPSC主催のアメリカ視察ツアー『企業とNPOのパートナーシップ・スタディツアー』で、私たちは、企業に対する評価活動がNPOの側からさまざまなかたちで行われているという事実に直接触れました。それまでNPOに対する行政や企業からの評価ばかりに目を奪われがちだった私たちにとって、これは少なからず衝撃でもありました。それが、「評価」に取り組む大きなきっかけになりました。
それは、とりもなおさず、われわれNPOの主体そのものの見直しであると同時に、企業に対する「新しい視点の提起」でもありました。規模や売上高、利益だけでなく、環境への配慮や従業員の福利厚生、地域への貢献といった企業評価の指標は、今でこそ当たり前になってきてはいますが、NPOがその評価に関わることによって企業の行動に変化をもたらしているという事実が、新鮮な驚きを与えてくれたのでした。
早速、私たち自身の課題として取り組み始め、2000年度には『PSCパートナーシップ評価』を発表し、第3回日本NPO学会でも注目を浴びました。それは、この取り組みが「企業とNPOのパートナーシップ促進」という私たち自身のミッションを実現するための一里塚として、大きな意味を持つということを改めて思い起こさせてくれました。
それを起点に、『パートナーシップ大賞』が現実のものとなり、評価活動が加速されていきました。『パートナーシップ評価』をもとにしながら、『PSC評価検討委員会』、『パートナーシップ大賞運営委員会』と、状況に応じてその名称を変えつつ、「パートナーシップ」と「評価」という2つの課題に向かい合ってきたのです。
そして『パートナーシップ大賞』というPSCとしての自主事業を立ち上げ、応募事業に焦点を合わせてこれまでの評価活動を反映させていきました。このプロセスは、対象者である協働事業のNPOや企業の担当者たちの反応を直接確かめながら進められ、私たち自身の評価活動の反省や自信にもつながっていきました。
この報告書は、そうした評価活動のプロセスを明らかにし、現在の日本における企業とNPOのパートナーシップの到達点を見据え、さらに見えてきた課題をも明らかにしておきたいと作成したものです。
幸いなことに、『パートナーシップ大賞』への関心も高く、その受賞事業の事例を中心に『NPOと企業 協働へのチャレンジ ケース・スタディ11選』(同文舘出版)として、別途出版にもこぎつけることができました。この報告書は、それを補完するものとして、別の角度からまとめたものです。併せてお読みいただけると、評価活動の背景やその課題等が見えてくると思います。
協働を進めているすべての人に、またNPOの発展を願うすべての人に、また評価に関わる方たちに、ぜひお読みいただきたいと思っています。
なお、この報告書の作成および『パートナーシップ大賞』の応募事業に対する取材・評価活動は、日本財団の助成によるものであり、ここに深くお礼申し上げます。
また、『パートナーシップ大賞』への協賛をいただいた下記企業の方々にも、改めて心から感謝申し上げます。
協賛企業:
三井住友海上火災保険(株)
三井住友海上スマイルハートクラブ
トヨタ自動車(株)
(株)デンソー
(株)リコー
アイシン精機(株)
(株)アバンセコーポレーション
近畿ろうきん
シーキューブ(株) 他
*なお、この他個人からもご協賛いただきましたことを付け加えさせていただきます。
ありがとうございました。
2003年3月
特定非営利活動法人パートナーシップ・サポートセンター
代表理事 岸田 眞代
1. 『パートナーシップ大賞』までの道のり
2002年6月15日、名古屋市千種区の会場で、『第1回パートナーシップ大賞』の最終プレゼンテーションが行われました。これが、『パートナーシップ大賞』の評価活動の最終ステージでもありました。
100名を上回る参加者と7名の審査員の目が、プレゼンテーターにそそがれ、映し出される画面に吸い込まれていきました。
『大賞』が、NPO法人「飛んでけ!車いす」の会と札幌通運株式会社の協働事業に決定し、跡田直澄審査委員長から温かい講評が述べられ、その他の5つの「賞』に対しても各審査員からそれぞれ心のこもったコメントが寄せられました。このとき、それまで数年をかけて準備し実施してきた『パートナーシップ大賞』におけるすべての評価活動が、ひとつの形として仕上げられたのです。
今、その『大賞』決定までの道のりを、「評価」という観点から振り返っておきたいと思います。ただ、『パートナーシップ大賞』は、まだわずか1回開催したに過ぎません。NPOと企業の協働事業の推進を願う私たちにとって、これから先はまだまだ遠いのです。しかし、「評価」は普遍のものではありません。それを自覚しているからこそ、そのとき私たちは何を考えて評価していたのか、というのちの検証を可能にするために、『パートナーシップ大賞』創設およびその過程で重ねてきた議論の数々を記録にとどめておきたいと考えたのです。
経済的状況における制約はあるにせよ、個々の企業によるそれぞれの企業市民活動、社会貢献活動は、日本においても一定程度の広がりを見せてきました。が、私たちパートナーシップ・サポートセンター(以下PSCと略す)が、その目的として掲げ、設立当初から意図してきた「企業とNPOとの協働」は、増えつつあるとはいえ、必ずしも思った通りの成果を上げているとはいえません。
しかし、1998年に特定非営利活動促進法(いわゆるNPO法)ができ、NPO法人の数が1万を超えた今、市民社会をつくりだす基本は、「税金」という極めて市民にとっては使いにくい対象を市民の手に取り戻すことと同時に、自由な意志と力で持てる資源をいかようにも使い得るNPOと民間企業が、それぞれ独自に活動を強めるというだけではなく、可能な範囲で互いにしっかりと手を組んでさまざまな問題解決に取り組むことではないかと考えます。お互いの自由な発想と互いにもっている底知れぬ力とが重なり合い、相乗効果を生み出す時、日本の市民社会は大きく前へ進むことができるのではないかと思うのです。
もし仮にそうであるとしたら、それぞれが互いに力を出し合い、対等な関係で協働事業を進めていくために何が必要なのか。徐々に増えてきた協働(パートナーシップ)事業をより効果的に進めていくために、今求められているものはいったい何か。各地で徐々に広がりつつある協働事業が、果たしてうまくいっているのかいないのか。相乗効果を生むために必要な要素はいったい何か。私たちPSCは、それらを検証しようと、企業とNPOのパートナーシップとその評価法について考えてきたのです。
「評価」について語る前に、まず「パートナーシップ」とは何か、またその条件とは何かについて、確認しておきたいと思います。すでにさまざまなところに何度も書いてきてはいますが、改めて記しておきます。
「パートナー」というのは、パートとパートが互いに補い合いながら一つのものを作り上げていくその互いの相手を指します。「パートナーシップ」は、パートナー同士が一つのものを作り上げていく時の互いの姿勢や考え方や行動をつきあわせるそのプロセスやあり方です。
「パートナーシップの条件」として、違いを認め合うこと、対等であること、互いの合意の上での役割分担、という3つの要素が必要といわれます。私はそこに「愉しみあえる」という要素を付け加えたいと思います。
互いに違うもの同士が一つの事業に取り組もうとすれば、現実にはさまざまな困難やトラブルがつきものです。しかし、どこかに「愉しめる」という要素がなければ、長続きしないし、新たな発展も生まれません。パートナーシップの神髄は、「違いを愉しむ」「役割を愉しむ」「効果を愉しむ」というプロセスそのものではないかと考えます。それが、対等な関係の上に成り立っている時、「パートナーシップはうまくいっている」といえるのではないでしょうか。そのために、目的に合ったパートナーシップ(協働のあり方)が必要になってくるのです。
●パートナーシップの条件
「評価」という言葉には一種の抵抗感が伴います。これまでに行われてきた「NPO評価」「企業評価」も、協働事業を推進する役割を果たしてきたかというと、その多くは、選別のため、ランク付けのためであって、「ともに何かを生み出す」ことを主要な目的とはしていなかったように思われます。
私たちPSCでは、2000年に「PSC評価検討委員会」を立ち上げました。あくまで互いの評価を、「評価のための評価」や近づくことを拒否するための評価ではなく、日本におけるNPOと企業(あるいはNPOと行政の場合も基本的には同じと考えられる)が、まさに自由意志によって自分たちで自分たちの市民社会を「愉しく」作っていく、そのツールとして、「パートナーシップ評価」をとらえたいと考えました。
従って、あくまで評価が先にあるのではなく、協働で行うパートナーシップ事業を前提にしました。それらが社会にどんなインパクトを与え、何を達成できたのか、あるいは互いにどんな役割を期待し、どう力を合わせたのか、あるいはどう合わせれば最大限の力を発揮できるのか。そうした観点から、具体的事例に基づいて、何を評価するのか、どう評価するのか、その評価をどう生かすのか、評価基準やその項目について検討を重ねました。
企業とNPOのパートナーシップを推進する立場にあるPSCとして、さまざまな協働事業を検証し、パートナーであるそれぞれが、互いに「協働事業をやってよかった」と思えるようにしたいとの願いが背景にありました。そのために、(1)協働事業を始める前、(2)進行中、そして(3)事業が終了した後にも、それがうまくいくために何が必要かを考え、効果的に実行していくための「パートナーシップ評価基準」を検討していきました。
そこで、まず私が作成した試案が11ページに挙げる「パートナーシップ評価シート」です。
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