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 安政4年の鰊釜の員数調べによると、運上屋分が56枚、出稼分が110枚。安政5年には運上屋分は変わらないが、出稼分が173枚と数では運上屋の2倍から3倍と増えつづけているのがわかる。また、1人で26枚と相当数の釜を持つ藤左衛門のような有力な出稼人も現われてくる。
 
大タモによるニシンの汲み上げ
 
 また、文久3年の建網笊網員数調べによると、運上屋分は建網9統、笊網4統の計13統。出稼分は建網63統、笊網7統で計70統を数える。経営網数の多いものをあげると、最高が唐津内澤町藤左衛門で建網5統、笊網2統の計7統で、次が4統を経営するもの5人、3統が4人、2統が3人、1統が24人となっている。このように天保11年にハママシケ(浜益)以北の鰊出稼が許可されて以来、奥地場所のルゝモッペにも出稼の波が押し寄せてきた。それも天保11年の解禁から安政2年まではわずかに3軒の出稼しかなく、安政4年以降にその数が急激に増加をするという傾向を示している。それにつれルゝモッペ場所の出産高も飛躍的に増えていった。その中には出稼から永住へと道をたどったものもある。文久3年の建網笊網員数の経営者はほとんどが出稼であり、永住のものは3人しかいない。しかし、慶應3年になるとルゝモッペ永住人別は19軒男31人、女34人計65人であり、出稼者は54軒男1,264人女100人計1,364人となる。しかし、このころにはルゝモッペ出稼者の鰊生産高も頭打ちになり、7,500石位が平年漁となった。
 
表1 江戸時代末のルルモッペ場所の鰊生産高(安政元年〜慶応3年)
鰊取り出稼ぎ軒数 運上屋分鰊出産高(石) 出稼ぎ分鰊出産高(石) 場所鰊出産高
安政元年 3 940 1,700 2,640
安政2年 3      
安政4年 13 2,058 3,402 5,460
安政5年 16 2,998 7,059 10,057
安政6年 48      
文久元年 53 4,597 15,379 19,976
安政2年        
安政3年   2,372 7,947 10,319
慶応3年 73 2,500 7,500 10,000
「旧記書類写 留萌」より作成
 
ニシンの豊漁にわく港
 
〜鰊漁の発展〜
 戌辰戦争の影響により、鰊漁は明治元年は生産はあったものの、荷物の積み取船が蝦夷地には来なかったせいもあって、鰊製品の価格が暴落し、漁民は困難を極めたという。しかし、資金力のあるものはこれを買置きし利益を得た者もあった。また翌年は箱館戦争等の影響で本州との航路が途絶え、出稼人が来れなかった。ただ、鰊は大漁で値段も騰貴したという。また、この年の7月に明治政府は開拓使を設置し、8月蝦夷地を北海道と改め11国86郡を置いた。9月には従来の場所請負人を廃止したが、10月には名称を漁場持ちと改称し、従前の通り経営を認めた。また、明治維新前は松前に人別のある者しか出稼を認めなかった。そのため南部津軽辺の者は松前の人の名儀を借りて出稼をしていた。そして、この名儀借賃を名代金として納めていたが、この年これが廃された。
 明治9年開拓使は漁場持として従来通り場所の経営をしていた旧場所請負人に対して、漁場持を廃止し、鰊漁場は開放されて営業は自由になり、志願者に漁場を割渡す旨布達した。この結果明治10年新規漁業が開始され、留萌の漁場拝借者は礼受31統、留萌30統、三泊51統の計112統であった。しかし、開拓使は漁業資本が乏しい漁業者が多く、その経営に支障があったため、明治11年漁業資本の貸与を決め、札幌本庁管内3万円、函館・根室支庁管内各1万円を年1割2分で漁業者に貸与した。この利息のうち5分は官において徴収し、6分を資本として積み立てた。このお陰で漁業へ従事する者が増加したという。
 明治10年から20年の間は漸次漁獲量は増加し、北海道鰊の漁獲高は年平均60万石〜90万石の間を推移してきた。留萌郡水産物統計によると代表的な鰊絞め粕の生産高は明治5年約30,038石だったものが明治14年には38,775石と増加している。明治15年から明治23年の統計が欠如しているが明治23年には69,905石、明治24年73,437石と倍増している。
 この間、北海道は明治15年開拓使の廃止、札幌、函館、根室3県の設置、明治19年の北海道庁の設置と政治的にはめまぐるしく変転した時代であった。北海道の統一的な行政機構が北海道庁の設置という形で完成を見たため、水産関係にも多くの改革が行われた。明治19年3月9日、肥料魚粕荷造法を定め、従来まちまちであった1俵の重さを正味20貫目とし、縄莚の用法を規定した。11月24日には漁業組合準則を管内に布達した。翌20年には、3月31日北海道水産税則公布水産物の現品税を廃止し、金納に替え、水産税の徴収を円滑にするために5月2日水産物営業人組合規則公布し、21年には全道の漁場実測に着手し、これまで許可されていた漁場の実態像の把握に勤めることとし、従来から堪えない漁場間の紛争の調停に役立てようとした。この漁場実測が完了するのは明治35年のことである。明治22年には全道の水産予察調査に着手し、明治25年「北海道水産予察調査報告書」として刊行した。
 
表2 鰊漁獲高の推移(明治3年〜昭和30年)
 
 
表3 留萌郡水産物収獲統計より鰊生産物統計(明治5年〜大正6年)
単位(石)
年号 鰊絞粕 鯑絞粕 胴鰊 笹目 白子 外割鰊 背割鰊 塩鰊 身欠鰊 塩鯑 鰊油
M5 30,038.28 53.34 949.70     60.03     512.96      
M6 27,429.80   825.01     64.19     545.12      
M7 33,937.35   1,084.96     67.67     595.38      
M8 27,465.62   1,142.61     71.42     672.02      
M9 32,527.82   1,088.26     120.30     644.90      
M10 32,160.37   802.63     97.54     449.08      
M11 24,525.52   700.04     97.38     376.47      
M12 37,662.40   756.90     130.83     418.79      
M13 36,950.41   815.19     178.15     422.67      
M14 38,775.67 162.73 704.51     150.25     376.11      
                         
M23 69,905.00   1,622.00 604.00 580.00 298.00     970.00 841.00   1,289.00
M24 73,437.00   1,889.00 345.00 323.00 240.00     1,098.00 243.00   1,534.00
M25 44,358.00   2,405.00 411.00 310.00 230.00     1,410.00 292.00   966.00
M26 58,353.00   2,980.00 527.00 417.00 648.00     1,761.00 403.00   1,216.00
M27 56,192.00   3,505.00 79.00 481.00 211.00     2,065.00     752.00
M28                   592.00    
M29 24,905.00 1,429.00 2,595.00 539.00 480.00   437.00   1,527.00 208.00   335.00
M30 62,471.00 298.00 2,950.00 1,093.00 737.00 23.00 448.00   2,129.00 250.00   305.00
M31 23,500.00 25.00 1,385.00 470.00 550.00   280.00   1,650.00 170.00   505.00
M32 33,830.00 150.00 3,409.00 300.00 245.00 100.00     1,955.00 52.00   1,652.00
M33 51,677.00   2,656.00 571.00 565.00 32.00 10.00 130.00 2,741.00 456.00   1,348.00
M34 53,500.00 20.00 2,800.00 220.00 25.00 275.00 20.00 150.00 1,513.00 30.00   900.00
M35 67,300.00 60.00 3,448.00 91.00 47.00 32.00 32.00 240.00 1,947.00 47.00   1,028.00
M36 46,754.00 30.00 2,408.00 290.00 168.00 16.00 16.00 120.00 1,186.00 36.00   1,020.00
M37 30,808.00   2,680.00 336.00 180.00     150.00 556.00 222.00   1,244.00
M38 26,101.00 89.00 1,870.00 605.00 403.00 25.00 25.00 130.00 888.00 417.00   1,244.00
M39 24,284.00   3,400.00 697.00 444.00 20.00 20.00   1,622.00 608.00   1,101.00
M40 20,334.00 35.00 2,362.00 293.00 249.00 25.00 25.00 80.00 852.00 464.00 20.00 573.00
M41 17,960.00   2,501.00 443.00 284.00 150.00 150.00 90.00 946.00 480.00 20.00 1,302.00
M42 20,528.00   1,728.65 464.50 149.80 5.00     887.00 263.23 20.00 1,197.00
M43 9,292.50   1,167.00 261.00 129.00       955.00 449.00   1,295.75
M44 15,458.00   1,322.00 161.00 141.75 47.50 47.50   1,105.90 30.60   591.00
M45 28,486.80   488.80 563.65 313.70 20.00 20.00   1,371.80 330.20   982.00
T2 30,595.50   1,934.75 564.00 257.25 60.00 60.00   1,555.00 335.25   1,461.25
T3 26,100.00   2,054.00 647.00 370.00 30.00 30.00   1,139.50 509.25   1,018.88
T4 27,605.50   3,166.20 817.70 550.25 21.25 21.25   1,745.15 710.65   1,346.75
T5 26,393.80 156.00 3,940.60 947.10 565.20 20.00 20.00   2,070.10 597.00 17.50 1,459.20
T6 3,277.20   1,152.58 337.80 280.20 3.00 3.00 7.50 615.10 33.50 6.25 183.00
*明治5年〜14年「開拓使事業報告」23年〜26年「北海道勧業年報5〜8」27年〜「同年報9〜13、15〜19」「同拓殖年報19」「同統計書18〜29」により作成。







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