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(2)−1 キンダー南館保育園の実践―地域活動―
 キンダー南館保育園は従来から地域の中での子育ての中心的役割を担ってきましたが、より深く幅広く、地域の育児支援を実践するために、平成11年の「少子化対策」や「子育てしやすい環境づくり」の国の方針等から、家庭保育をしている地域の未就園児を対象に、又その保護者を対象に年に数回活動を実施しています。初年度は、地域への情報提供や私達職員の準備不足の面もありましたが、今日においては地域にも浸透し、毎回喜んで参加してくださるリピーターの方も増えてきています。
 それでは当園で実施しています地域活動の内容について紹介します(これらの活動はすべて無料で行っています)。
 
1)キンダー南館保育園実践内容
《講演会》
 保育園の保護者ならびに地域の方々を対象に、教育や医療の現場からそれぞれに講師を招いて講演会を開催しています。
その1
 最近では、皮膚科医師から「子どものアレルギーについて」というテーマで、アトピーや食べ物によるアレルギーの事や、普段の生活で心掛けたいワンポイントケアについて具体的なお話をいただきました。アトピーやアレルギーを持っている子どもの親はもちろん、特に症状のない子どもの親も現代の生活習慣や食生活を改めて考えさせられました。
その2
 県の健康推進室の歯科の先生にお願いして、「親子でのスキンシップを楽しみながらの歯磨き」「心を大切にする歯磨き」などのテーマから、歯の重要性についてスライドを使いながらわかりやすく話していただきました。
その3
 教育の現場からは、学区内の元校長先生から、若年層の事件の多い現代、「親の子への関わり」「親としての役割」等深く考えさせられる話をしていただきました。
講演会を実施して
 なかなかじっくりと時間をとって専門の先生方のお話を聞く機会のない地域の参加した親にとっては、自分の生活や育児について振り返ったり、これでよかったという確信を得たり、これからの方向性を見出す機会ができたようです。講演会中は地域の子ども達は保育園児と楽しく遊びながら過ごし、親子共々有意義なことと思いました。講演会は土曜日に行っているため、未就園児の親はもちろん、幼稚園に通園させている親の参加もあります。
 また、地域の民生委員の方や将来保育の現場で働きたいという学生も加わり、広範囲の参加者があることも特徴の一つです。
《同年齢の保育園の子どもたちと共に遊びを楽しむ》
 この活動は、未就園児の親子を対象に、同年齢同士の生活の実態を知るということで、同じクラスの中で一緒におやつを食べたり、遊んだり行動を共にしながら色々なことを学びます。又おやつは栄養士と調理師による手作りのもので、事前にアレルギーがないか確認し、誰もが安全にそしておいしく食べられるおやつを提供しています。各クラスの主な活動を挙げてみます。自己紹介、歌や手遊び等少しずつクラスになじんでいけるようにしていきながら活動に入ります。活動内容としては、ままごとや小麦粉粘土、製作、遊戯室でのサーキット遊び等、年齢に合わせたものにしています。子ども同士が遊ぶだけでなく、同じ年齢の子どもを持つ親同士知り合ったり悩みを話し合ったり、保育士に育児相談したりと、親にとってもリフレッシュになるようです。その為か、園で実施している地域活動内容の中では一番の人気があり、1回目の実施日でも40組近くの参加がありました。参加する子どもの年齢層は、0歳児、1歳児が多く、4、5ヶ月児の申し込みも少なくありません。初めての子育ての不安解消や、これから保育園や幼稚園等の入園を考えるにあたって、小さいうちから集団に入っての遊びを経験させたい、普段同じ年齢のお友達がどんな遊びをしているのか毎日の遊びのヒントにしたいと思って参加される方が多いようです。
 子どもによっては保育園に興味を持ち、じっとしていられずあちこち動き回る子もいますが、無理にクラスに入れるのではなく、その子どもが楽しく活動できるように臨機応変に対応しています。そうすることによって親も安心し、また次の時も参加してくださり、子ども自身も回を重ねるたびに落ち着いて活動してくれるようになります。
《行事への参加・お店屋さんごっこ》
 保育園児の4、5歳児が売り手となり、地域の方々はお客さんになります。お弁当屋さん、お菓子屋さん、お面等のおもちゃ屋さんなど様々な手作りのお店、魚釣りやあてくじなどのゲームコーナー、レストラン、喫茶コーナーがあり、受付で子供銀行のお金を渡し、親子で買い物を楽しみます。参加者の年齢層としては、1、2歳児が多く、毎年15名から20名の方々が参加してくれます。園の4、5歳児の威勢のいい掛け声に初めは驚いていますが、誘導係の子ども達が優しく声をかけ案内してくれるので、地域の子ども達も安心して袋いっぱい買い物を楽しんでいます。
《行事への参加・クリスマスコンサート》
 当地山形市にも音楽堂が完成したことで、当園でも3年前から大ホールでのクリスマスコンサートを開催し、2歳児から5歳児までの園児が、歌や演奏を保護者や地域の方々の前で発表しています。保育園の子ども達の発表を見聞きすることによって、年齢ごとの子ども達の成長の様子を実際に感じていただいています。又より多くの方々にも、保育園の様子を理解頂くため、地域の方々を昨年度から招待しています。広く一般からの方々からのお客さんはまだ少ないのですが、情報提供やPRの工夫をして、これからたくさんの参加者を募り、いろんな方々にキンダーの子ども達を見ていただきたいと思っています。
 
2)子どもたちや保護者の反応
[0歳児]
 話し相手や相談相手を持ちにくい環境の中、母親が子どもと向き合い一人で育児に励んでいる人が多く、いつも高い出席率を示します。参加した子ども達は、毎日母親と二人の遊びが多いので、同じ月齢の園児たちに出会い、丁度友達を意識し始めた月齢児は、同じ玩具を分け合って関わって遊ぶ子ども、マイペースにひとり遊びを楽しんでいる子どもなど様々な姿ですが、安全な保育環境なので部屋中動き回って生き生きと楽しく遊んでいます。母親たちも、その様子を見ただけで喜び、心が和んでくるようです。又絵本の読み聞かせの場面では、「絵本はいつごろからどう与えるといいのですか」とか、子ども達の遊んでいる様子を見て、「あの子もそうだね」「もう少し大きくなると、ああなるんですね」と保育園児の様子を見ながら自分の子どもの成長過程に重ね合わせ安心感を得て、納得している様子がみられます。園児の行動や園児にかかわる保育士の姿などからも、何かを得てくれたような手ごたえを感じています。参加した親からは、色々と育児の相談も多く、「離乳食をあまり食べずに気になる」「夜泣きをするようになったのですが、よい対策法はありませんか」「歩けるようになり、靴が大好きで外に出たがり、家に入りたがらず暴れてしまう」などの質問がたくさんでて、日頃母親たちが育児に奮闘している事が云わってきます。一つ一つの質問に丁寧に応答し、励まし子育てが楽しくなるように話を進めています。同じ月齢の子どもを持つ母親同士の何気ない会話も、リフレッシュにつながり、またきっと明日からの育児に少しでも自信と楽しさが持てるのではないかと思います。「楽しかったです」「元気づけられました」「ぜひまた参加させてください」と喜びの声が多く聞かれ、私たち保育士も、参加者の声に活動等を実施する喜びや保育士としてのやりがいを感じます。
[1歳児]
 母親と一緒に部屋の入り口まで来ると、部屋で楽しく遊んでいる子ども達を見て、ぱぁっと明るい表情になるものの、母親からなかなか離れられない子、又すぐ母親から離れ、子ども同士遊び始めたりする子など様々ですが、保育園児が加わり保育園のリードのもと、ごっこ遊びが展開し、楽しく集団遊びが形成されています。その他保育園児とのかかわりのなかで自分の子どもが楽しくしている様子に喜びを感じながらも、集団生活している園児と比較し、できるだけ自分の子どもも少しでも多くの経験をさせてやりたいという思いがあり、いろんな行事に参加していきたいという積極的な意見が多いこの頃です。参加した母親からは、「毎日子どもが一人で遊んでいるのを傍で見ているときの方が多かったが、一緒に遊ぶと子どもも喜ぶ」「私も楽しかった」「これから一緒に遊び楽しんでいきたい」と明日からの育児に期待をもってくれた様子に私達もうれしく思いました。子どもは親の愛を受け育っていくことが基本的に大切なことですが、やはり子どもはより多くの人達の援助を受けながらいろいろの考えや実践のなかではぐくまれて発達し成長することからしても、子育て支援は子育てする親を援助するだけでなく、子どもの発達を援助するという考えも大きな意味をもつと思いました。
[2歳児]
 好評を得ている地域交流、友達との遊びの中で培う時期の2歳児にとって「遊び」「遊べる友」「遊べる場所」はとても大きな存在です。とても嬉しそうにクラスに入ってきます。見る物すべてが新鮮で「なーに?」「これは?」とすぐに溶け込み、ままごとで遊び始めます。「どうぞ」「ありがとう」と2歳児ならではの言葉のやり取りをしながらすっかり遊びに夢中、それを見守り安心したのか参加者の一人の母親が話し始めました。家庭環境は母子家庭で、母親の実家の協力を得ながら二種類の仕事を夜10時過ぎまで就労し子どもを育てているということです。母親としては普通の時間帯で生活をしたいという思いはあるのですが、生活のためどうにもならない実情で、子どもと接する時間が少なく、子どもの成長を大変心配し日々悩んでいるとのことでありました。話していくうちに、少しずつ顔の表情が和らいで行くのがよく分かりました。また他の参加者からは、3月生まれで隣の家の4月生まれの子どもとは1年近く月齢が違うのが分かりながらも、公園へ行っても何か出来ない事があると、ついイライラしてくるといいます。今回も参加するか悩んだが、話を聞いてもらいたいという思いで地域交流に参加したそうです。保育園が担う地域子育て支援とは、こうした「今」日々精一杯、子どもと向き合っている母親(子育て)、祖父母(孫育て)、の悩んでいる事をすぐにでも言える場所であり、受ける人でもあること。「先生と話せた事で、楽になれた」「また、子どもを連れて来ていいですか?」と少し肩の荷を軽くして笑顔で言ってくれました。私たちが出来る事それは、家庭の中で頑張っている方々の「心」を支える事であると痛感しました。
[3歳児]
 祖母と一緒に来園していた女児。多分、日中は祖母と共に生活しているのでしょう。早速に平均台、跳び箱、マット、巧技台を組み合わせたものを大変嬉しそうに遊びはじめました。しかし、集団生活の経験のない女児は、日頃は自分ひとりなので何でも思い通りになる環境にあることから、他児を押す、順番を待てずに入ったりとルールなどは無視する行動が多くありました。その姿に在園児は驚きを隠せませんでした。そこへ祖母が来て順番が守れない事、また家庭においても自分の話を聞かなくなった事、仕事が忙しい両親に代わっての孫育ての大変な事を話し始めました。こういう機会があると子ども自身も勉強になるということが理解できたという話がありました。保育士も、参加した女児の祖母に、同年齢と遊ぶ事の大切さを伝えたり、キンダー南館保育園の一時保育で時々、保育園生活ができる事の情報提供をしました。







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