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第1分科会
気になる親とのかかわり方
−虐待予備軍と思われる保護者への支援−
助言者 羽柴継之助(熊谷児童相談所所長)
提案者 森田 倫代(横浜市・きらら保育園園長)
司会者 後藤 陽子(深谷市・深谷西保育園園長)
 
気になる親とのかかわり方
−虐待予備軍と思われる保護者への支援−
羽柴継之助(熊谷児童相談所所長)
 
プロフィール
 
昭和43年3月 日本社会事業大学児童福祉学科卒業
昭和43年4月 埼玉県中央児童相談所児童福祉司として勤務、以後昭和62年まで川越、浦和、熊谷、中央の児童相談所で児童福祉司、相談課長など相談の現場で働く
昭和63年4月 埼玉県生活福祉部児童福祉課で児童福祉行政
平成2年4月 県立養護施設いわつき次長
平成4年4月 生活福祉部主任社会福祉施設監査員
平成6年4月 生活福祉部児童福祉課課長補佐
平成9年4月 埼玉県中央児童相談所副所長
平成12年4月 児童自立支援施設県立埼玉学園長
平成15年4月 熊谷児童相談所長
 
埼玉県社会福祉士会理事として活躍している。
 
1 気になる親とは
 保育所で様々なトラブルを起こしたり、親子関係に不安を感ずる親
・人間関係が取りにくい
・保育園のルールが守れない
・拒否的だったり、無関心だったりする親子関係
・自信がなく、不安が強い親
 
 児童虐待のリスクが高い親といえる。
 気になるのは、私たちの価値観と少し違うところを感じるからでは
 
2 こうした親子をどのように理解するか
 周りとの価値観が違うことから様々なトラブルや人間関係の葛藤を起こし苦しんできたと思う。
 こうした価値観を生む背景には、様々な問題があるのでは、
・家庭的な問題
・親自身の問題
・子どもの問題
 
 こうした問題が解決できないとストレスフルになり、意欲をなくしたり、他人を責めたり、適切な対応がとれなくなり、それがまたストレスを募らせる悪循環に陥る。
 これは当然親子関係にも影響され、心から子どもを愛せないとか、子どもがいることが負担であると言った気持ちになる。
 私たちがこうした親子をサポートするには信頼関係を築き、その信頼関係のなかで親子が自ら問題解決をする様々な援助を行うことになる。それには、こうした親子の価値観を理解し、受け入れ、そして人間関係をどのように作るのか、が大きな課題となる。
 
3 こうした親子にどのような対応を心がけるか
 こうした親子の価値観を理解し、援助をするうえでの基本的な態度
(エンパワーメントの援助を目指して)
(1)話をしっかり聴く
(2)相手の主体性を重んじる
(3)一人一人の個別の相談として対する。
(4)秘密を守る
(5)健康な部分を見つけ確認をしていく。
(6)失敗をしても責めず、励ましていこう
(7)自分で対応できないときは、他機関や専門家に
(8)保育所という場で相談を受けていることを忘れずに
 
4 保育所で相談することのメリット
・子どもの養育の専門家集団としてのメリット
・個別の援助だけでなく、グループでの援助も可能
・様々なサービスが提供できる。
・地域のなかで相談ができる。
 
* 気をつけること
・集団故に相談の秘密が守られにくい
・保育の専門の価値観に偏らないように
 
気になる親とのかかわり方
−虐待予備軍と思われる保護者への支援−
森田 倫代(横浜市・きらら保育園園長)
 
 虐待防止法ができ、通報が義務化された。家庭内の密室で行われる行為であるので疑いを感じても確信が持ちにくい。確信できない場合でも、おかしいと感じたときはたとえそれが間違いであったとしても通報することが義務付けられた。
 虐待を受ける子どもはなかなか他人にそのことをしゃべろうとしない。子どもは親をかばうと言われることもある。虐待を受けている時、子どもは自分が悪いことをしたから虐待されていると感じているのだろう。どうして他の人に訴えないのかと思うが、一番身近にいる大人に虐待されているのだから、他の大人も同じように考えていると思っているのかもしれない。また、子どもにとっては虐待する親であっても一番大切な人であり、絶対的な存在である。他の人にそのことを知られたくないとの思いもあるのだろう。
 しかし、保育園は生活と密着していて色々な様子を感じることができる。保護者にとっても子どもにとっても相談相手になりえる場所である。この専門家ではない身近な存在というのが気軽である。気になってこちらから話しかけることもあるし、相談をしてくることもある。この人は自分の話を聞いてくれると思えれば何度も相談に来る。しかし、自分を否定されるところだと思えば2度と話そうとしなくなるだろう。親身になって何度も話を聞くことが大切であると感じる。相談を受けることによってすぐに解決することはほとんどない。話しているうちにどうしたらよいのか、今と変えることでできることを保護者のことばの中からいっしょに探していく。そして、必要と思えば児童相談所、病院、保健センターの保健師等と相談することを勧める事もある。児童相談所に行ったが相手にされなかったという保護者にはこちらから児童相談所にもう一度、事情をお話して面接をお願いすることもあった。そのようなことを重ねるうちに何かが変わっていく。少しでも子どもが幸せになること、保護者の気持ちが楽になり安定することを願って話している。
 また、担任に子どもが訴えることもある。保護者に傷の原因を尋ねてもけんかをした、転んだなどとの返答が来る。そのような時は担任だけではなく主任、園長も話す機会を多く持ち、その中で受け入れてもらえそうなことから提案する。具体的に今日帰ったらすぐできること。子どもが駄々をこねて困ったときの声のかけ方などを示しながら、保護者の気持ちを探っていく。保護者の虐待は、その保護者自体が精神的に追い詰められていることが多い。特に配偶者との関係は影響が大きいと感じる。
 虐待が認められると、まず、子どもを保護者から離すことが第一になる。保育園でも区の保健師からの相談で一時保育に預かることがある。軽い育児不安なら子どもと離れる時間ができただけで解決することもある。しかし、保護者自身が問題を持っていることが多く、精神的なケアが必要なことも多い。児童相談所、保健所、病院といくつかの方法があるが時間がとてもかかるし、どの機関も混んでいる。今後、個別な相談、治療だけではなくグループワークのようなものがあり、多くの機会に参加ができる場所や長期にわたり見守り援助していく人が必要だと感じる。







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