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第4分科会
食物アレルギー除去食などの特別食
助言者 鈴木 五男(東邦大学医学部小児科助教授)
提案者 喜連川慈雨子(大阪市・諏訪保育園園長)
司会者 西山 梢(守口市・守口中央保育園園長)
 
レクチャー
食物アレルギー除去食などの特別食
鈴木 五男(東邦大学医学部小児科助教授)
プロフィール
1974年 東邦大学医学部卒
1974年 同大第一小児科入局
1976年 埼玉医大小児科助手
1985年 埼玉県立寄居こども病院診療部長
埼玉医大非常勤講師
1990年 東邦大学第第二小児科講師
1995年 同大第二小児科助教授
現在に至る
 
専門
日本アレルギー学会専門・指導医・日本小児科学会専門医
学会関連
日本アレルギー学会評議委員
日本小児アレルギー学会評議委員
日本小児科学会評議委員
日本小児保健学会評議委員、同編集委員
厚生労働省関係
 厚生科学研究事業「アレルギー疾患および新規天然薬物の開発に関する研究」の主任研究員
 
1. 食物アレルギーの現状
 食物は人間を含め全ての動物にとって生存の基礎となる。食物は生体の全ての構成成分を構成し、また成長、活動に必要なエネルギー源となり、代謝、免疫防御機構を円滑に作動させるなど、日常生活で不可決なものである。しかし、食物アレルギーはこのメカニズムに大きく影響しうる。アレルギー疾患は国民的病気であり、小児に限らず、全ての年齢に認められる。その中で小児の食物アレルギーは10%前後あるといわれている。
その多くは皮膚症状、消化器症状を主に、呼吸器症状、神経症状、時にはアナフィラキシー・ショックを呈し、生命にかかわることが知られている。症状の多くは食して数時間以内に出ることが多いが、時に数日で出現することもある。主な原因は年齢で異なるが、乳幼児期は卵、牛乳、小麦、米、大豆、ピーナッツなどが多く、年が長ずるに従い穀類、魚類、甲殻類、そばなどに増加する。
 アレルギー疾患の治療の基本は抗原の除去であり、食物アレルギーの治療の基本は食物制限である。発育・発達過程にある小児において食物制限は発育・発達に影響するのみならず、患者家族に精神的・心理的影響を生ずる可能性があり、十分なフォローが必要である。
 
2. 食物アレルギーの課題と今後
 食物アレルギーでは診断、治療などで多くの混乱が存在する。それは食物アレルギーの診断、治療などに対する考え方や方法が未だ十分に浸透されておらず、一方医師や施設によってその方法が異なることもあり、必ずしも一定でないことが混乱の一因となっている。従って、患者及び家族、さらには患者の生活に関わる職種の人々に食物アレルギーに対する正しい知識を伝えることや関連する人々に食品の成分や性質などの情報が提供されること、さらに患者や関連者が必要に応じ低抗原食品を自ら選択・供与できる環境整備などが重要課題である。
 一方アレルギー疾患のメカニズムも次第に解明され、診断や治療法も一段と進歩している。食物アレルギーの症状の発現に併せた医薬品の開発、また抗原となる食品の代用食品の開発、抗原性を低下させた、あるいは抗原性を変性させた食品などの開発などが盛んに研究されている。さらに乳酸菌の抗アレルギー作用を利用したプレバイオディスク、プロバイオディスクに関する研究の促進、経口免疫寛容の誘導、TCRアンタゴニストに臨床応用の開発が検討されている。
 
食物アレルギーって何?
東邦大学大橋病院第2小児科
鈴木五男
 
アレルギーのメカニズム
どのように体は反応していくか
 
 
アレルギーで起こる主な病気
・気管支端息
・アトピー性皮膚炎
・アレルギー性鼻炎
・アレルギー性結膜炎
・花粉症
・食物アレルギー
・薬物アレルギー
 
食物アレルギー
 
食物アレルギーの歴史
*紀元前30世記の中国「妊婦は魚類、特にえび、鶏肉、馬肉を食べると皮膚に潰瘍が出来るので、これらの摂取を禁ずる」との布告の記録
 
*紀元前3世紀にヒポクラテスが「頭痛病みにはミルクを飲ますな」との教えの記録
 
*紀元前1世紀にLucretiusは「One man's food might be another's poison」と象肉や卵アレルギーを示唆。
 
食物アレルギーの頻度
−平成7年度厚生省アレルギー事業−
  小児
8,288
成人
10,937
食物アレルギーあり
(食物療法実施者)
10.2%
(3.4)
11.1%
(1.9)
食物アレルギーなし 81.2 84.2
不明 8.5 4.7
 
食物アレルギーの原因抗原
  小児 成人
鶏卵 52.2% 16.5%
牛乳 19.6 6.7
大豆 14.5 1.0
こめ 2.1 0.5
その他 41.4 75.3
 
食物アレルギーの主な抗原
・厚生省食物アレルギー対策研究班平成11年度報告より
 
卵、牛乳、小麦、そば、ピーナッツ、エビ、大豆、チーズ、キウイ、ヨーグルト、イクラ、牛肉、カニ、豚肉、サバ、鶏肉、イカ、サケ、米、モモ、チョコ、その他(多い順)
 
症例1. 3歳男児
 患者は6ヶ月頃よリ、アトピー性皮膚炎があり抗アレルギー薬の服用をしていた。
 3歳2ヶ月の時、母親と自宅の食堂でお好み焼きを作って食べていたとき、突然、咳き込み喘鳴、呼吸困難を認めたため、受診。
 なお、お好み焼きの材料は半年前にあけたものであった。
 特異IgE抗体で小麦は陰性であった。
 
症例2. 4歳の男児
 患者は乳児期よりアトピー性皮膚炎にて卵白除去を行っていたが2歳8ヶ月で除去解除したあと、症状は安定していた。4歳の時、幼稚園ででたカレーを食べたあと、蕁麻疹と意識が朦朧としたため、緊急入院。
 数種の特異lgE抗体の検査の結果?
 
答えは?
 
食物アレルギーの主な症状
・全身性症状:アナフィラキシー
・消化器症状:嘔吐、腹痛、下痢など
・皮膚症状:蕁麻疹、湿疹、血管運動性浮腫、紅班、かゆみなど
・呼吸器症状:鼻水、咳、喘鳴、呼吸困難など
・神経症状:頭痛、いらいら感、痙攣など
・その他、結膜炎、膀胱炎、貧血、ミルク嫌いなど
 
なぜ食物アレルギーは起こるのか
 
腸管粘膜防御機構
粘膜表面
1.非特異的バリア
1)物理化学的機構:酸、蠕動運動
2)生物反応機構:粘液、消化酵素、リゾチーム、ラクトフェリン
2. 特異的バリア
1)体液性:分泌型IgA、(IgM、IgG)
2)細胞性:マクロファージ
組織内
1. 非特異的バリア
1)体液性:蛋白
2)細胞性:NK細胞、好中球
2. 特異的バリア
1)体液性:IgG
2)細胞性:リンパ球(GALT)、マクロファージ
 
食物アレルギーの特性
・食物抗原:食物中の特定蛋白質抗原
一般に熱、酸、蛋白分解酵素に強い
・例 卵:オボムコイド
牛乳:β−ラクトグロブリン
ピーナッツ:AraH1、AraH2
・分子量10.000-100,000Daが多い
・抗原決定の架橋が可能な構造
・IgE抗体を誘導しやすい
 
なぜ蛋白が腸管を通過するか?
1 解剖学的:未熟、乳児期
2 胃腸炎、下痢
3 消化酵素不足
4 分泌型IgA欠損症
5 蠕動運動阻害
6 吸収細胞構造の破壊
栄養不良、アルコール、
β−hydroxy脂肪酸、高浸透圧
7 deconjugated胆汁酸塩
 
経口免疫寛容
・経口的に投与された抗原に対し、全身的に抗原特異的な免疫学的不応答が誘導される。
・食物アレルギーはこの経口免疫不応答の異常と捉える。
・免疫寛容には抗原の性状、投与量、投与経路などが重要な要因となる。
・TGF-βなど抑制サイトカインの存在
 
牛乳アレルギーの子供はほかの動物の乳なら大丈夫か
サイクル食による対応の考え
 
交差反応性とは
・アミノ酸配列が70%以上一致する必要がある。
 
・30%前後以下では交差性は少ない。
 
・立体構造や疎水性など種々に影響。
 
・その他
 
主な食品の交差抗原性
・魚類(サケ):50%メカジキ、シタビラメ(タラの蛋白GadC-1ほぼすべての魚と交差反応)
・甲殼類(エビ):75%カニ、ロブスター
・小麦:20%大麦、ライ麦
・牛乳:牛肉(10%)、やぎの乳(92%)、馬の乳(4%)
・メロン:92%スイカ、バナナ、アボガド
(Cicherer:1997)
 
食物アレルギーの具体策を考えるには
 
離乳食への配慮はどのように考えるか
離乳食は早くしないほうがよいが、遅くする必要はない
 
食生活の改善
1)和食が中心
2)脂肪と砂糖の取りすぎに注意
3)ミネラル、ビタミンの多い大根の葉、ほうれん草、ごぼう、豆類、ごま、ちりめんじゃこ、ひじき、小魚、煮干、昆布など
4)三十品目以上、時間をかけ噛む
 
脂肪酸とアレルギー
・n-6:皮膚細胞の形態や保持作用
例:リノール醸→γリノレン酸→アラキドン酸
マーガリン、月見草油、鳥肉、マヨネーズ、豆類、穀類
・n-3:抗炎症作用、免疫抑制作用、抗酸化作用
例:αリノレン酸→EPA→DHA
シソ油、エゴマ油、魚介類、
 
n-6/n-3=3以下







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