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保育界(平成15年9月号)

 事業名 保育活動の推進
 団体名 日本保育協会 注目度注目度5


保育時評
ありがとうT君
八田真知子
 私が、T君と出会ったのは三歳になったばかりの春でした。
 T君には自閉的傾向があり、呼ばれても振り向かない、視線が合わない、多動、言葉が出ない、こだわりが強い、パニックを起こすなどなど・・・当初は、そうした姿に困惑したり、自問自答したりの毎日でした。
 「何とかしなければ、という気負いは禁物。あるがままの姿を受容する気持ちが大切。」と理屈では分かっていても実際には目の前の姿に捕われてしまい、「どうして・・・なぜ・・・」と、つい自分サイドで一方的にT君を見ていたことに、ハッと気付いたのでした。T君のあのこだわりも激しいパニック状態も「もっと僕のことを見て!わかって!」というT君からの心の叫び、サインだったのではないだろうか・・・と。これまで私は、子ども達との信頼関係を何よりも大切にしてきたはずなのに・・・と。T君に申し訳ない気持ちと自責の念がこみ上げてきました。「そうだ、焦らずじっくりと付き合って行こう。さあ、いつでもおいで!」と心の扉をいっぱいに開いてみると、今までと違ったT君の姿が見えるようになり、不思議とT君からのアプローチが始まったのです。
 T君は現在四歳。嬉しい時は全身で喜びを表し、こぼれるような笑顔を見せ、機嫌の良い時にはお得意の歌を辺り構わず大声で歌い、そして鼻汁やよだれもおかまいなしにとびついて思い切りほおずりをしてくる・・・そんなT君がたまらなくかわいく、思わず抱きしめた時に「T君ありがとう!」と、これらの全てが宝物のように思えました。当園の信条である「愛と誠と和をもって・・・」の言葉に込められた思いを、逆にT君から教えられたようで、T君、そして協力的な周囲のみなさんに、感謝の気持ちでいっぱいになりました。
 今度は、もう一段成長したT君を楽しみに、さらに世界を広げ、自然や生き物を仲立ちとした関わりの中で、心輝かせるT君と出会えたら・・・と、あれこれ思いが膨らんでいく今日この頃です。
 子ども達の限りない可能性を信じ次代を担う子どもたちに対して、今自分にできることは何かと常に考えながら情熱をもって保育に当たっていきたいと思います。
(小松市・こばと保育園主任保育士)
 
 
 
次世代育成支援施策のあり方に関する研究会報告書を読む
柏女霊峰
はじめに
 平成十五年四月二一日に第一回が開催された厚生労働省少子化対策推進本部事務局設置の次世代育成支援施策のあり方に関する研究会が、報告書「社会連帯による次世代育成支援に向けて」を八月七日に提出した。この研究会設置の背景は、以下の二点に集約される。
(1)少子化への更なる対応が求められていること、平成十六年度における育児休業制度、配偶者特別控除制度の廃止に伴う児童手当制度の見直しとともに年金制度改革においても次世代育成支援の視点が焦点の一つとなるなかにあって、子育て支援の財源のあり方について整理する必要が生じていること、特に、緊急課題として保育所運営費負担金等子育て支援サービス財源の一般財源化等に関する論議が高まっていること。
(2)規制改革、地方分権等の論議の高まり、保育所入所児童の急増と地域における子育て家庭の孤立化など保育に偏った子育て支援施策の矛盾が生じてきているなかにあって、保育をはじめとする子育て支援施策全体のあり方について、幼保の一元化やいわゆる総合施設の機能を含めた将来像を提示することが必要とされること。
 この二点に対応していくためには、子育て支援サービスの内容、サービスの利用方法、サービス財源の三事項を一体として検討していくことが必要であり、本研究会が設置されたのである。研究会は計五回開催され、第四回には保育関係者からのヒアリングも行われた。報告書の概要については厚生労働省の概要版や報告書本体をご参照いただくこととし、ここでは、報告書を流れる基本認識、報告のポイント、今後の展開等について、筆者の個人的意見も含めて提示することとしたい。
 
1、報告書の性格〜論議の喚起
 報告書の「はじめに」にみられるとおり、報告書は「次世代育成支援施策について制度横断的に、しかも財源のあり方を含めた総合的な検討」を行ったものである。しかしながら、報告書に盛り込まれた改革の実現に向けた具体策、手順などについては、今後の検討に委ねている。
 つまり、本報告書は、保育を含む現行のシステム、それに対して総合規制改革会議等から提起されている保育所運営費負担金の一般財源化や幼保一元化といったシステム改革案に対し、とりあえず第三の方向性を対案として示したものであるといえる。したがって、「おわりに」に記述されているとおり、報告書はいわば次世代育成支援施策のあり方について国民的な論議を提起するものであり、そうした論議を経て、「21世紀にふさわしい次世代育成支援施策が実現されること」を期待するものであるということがいえるだろう。
 
2、問題認識
 次世代育成支援施策に対する報告書の問題認識を私なりに整理すると、以下のとおりである。
(1)子育ちや子育てが厳しい状況に置かれつつあること。
(2)そのことも影響して少子化の進行に歯止めがかからないこと。
(3)社会保障制度における世代間の公平に歪みが指摘され、若い世代の理解を得ることが必要であること。
(4)にもかかわらず、子育て支援サービスは「福祉サービス」としての保育に偏り過ぎ、また、社会保障給付における子育ち・子育ての割合も相対的に低いこと。
(5)さらに、地域子育て支援、母子保健、育児休業、保育、児童手当といった各種子育て支援制度とその財源、実施主体等が分断化され過ぎており、総合的な対策が取りにくいこと。
(6)その結果、現状では、次世代育成支援について、強化を基本に総合的に取り組むことが困難であること。
 
3、対策の基本的視点
 こうした問題認識から、報告書は「次世代育成支援施策を高齢者関係施策と並ぶ国の基本政策として位置づける」ことを提唱し、「子どもを生み育てることを社会がもっと評価」することを求めている。そのうえで、高齢者における介護保険制度創設と同様、「社会連帯による子どもと子育て家庭の育成・自立支援」を基本理念とする新たな「次世代育成支援システム」を構築する必要性を提起したのである。
 これにより、従来の「福祉」としてのサービスを「すべての子育て家庭」を対象とした次世代育成支援施策に転換してその一般化・普遍化を図り、また、財源も含めて地域性、総合性を確保し、さらに地域の共助を推進することを基盤とし、併せて特別な配慮を必要とする家庭に対するソーシャルワーク機能を確保することを基本方向とすることを求めたのである。
 
4、サービス内容と拡充の視点
 そのうえで、次世代育成支援施策の各種サービスについては、(1)地域子育て支援、(2)保育、(3)経済的支援、(4)他の関連施策に整理して、それぞれ検討の方向を提示している。特に、地域子育て支援については、専業主婦家庭に育児困難が顕在化している状況を踏まえ、保育に比べて取り組みの遅れている、つどいの広場などの地域子育て支援サービスを大幅に拡充していくことを求めている。そして、前述したように、保育を含めた地域子育て支援サービスを一体として推進していくために、地域で総合的な支援ができるような財政上の仕組みが必要と提案しているのである。
 
5、社会連帯による次世代育成支援と保育
(1)新しい保育システムの提案
 保育については、報告書にいう「新たな次世代育成支援システム」を前提として、その一環として、保育所利用者の普遍化、介護等周辺分野における改革の動向を踏まえ、「市町村が自らあるいは委託という形態で行う現行の仕組みを見直し、子の育ちに関する市町村の責任・役割をきちんと確保しつつ、保護者と保育所が直接向き合うような関係を基本とする仕組みを検討する」ことを提案している。
 また、現行システムの見直しに当たっては、市町村が引き続き負うべき責任・役割として保育の供給体制の整備やその質の向上を図るとともに、保育所利用の必要性や優先度の判断などに関する新たな仕組み(要保育認定)を導入し、その実施に当たることが必要としている。そのうえで、いわゆるバウチャー制の一種と考えられる「諸外国で導入されたような自由価格制の下で追加的な差額負担が家計に生じる仕組みをわが国に導入すること」や保育所運営費負担金の一般財源化については慎重に考えるべきとしている。
(2)新しい提案の基本的考え方
 このような提案は、以下に述べるような考え方に基づいている。まず、保育の一般化、普遍化が今後ますます進行し、保育需要の更なる増加が見込まれるなか、現在、パターナリズムの色彩を色濃くもつ「福祉」としての保育サービスの普遍化・一般化(バウチャー製論議を含む)と、いわゆる費用抑制としての保育所運営費負担金の一般財源化が論議されている。そうした状況のなかにあって、この報告書は、これらに対する対案として、独自の保育サービスの位置づけと財源確保策を提示したものととらえられる。
 すなわち、現行の市町村委託方式に代えて、市町村の公的責任を(1)基盤整備と(2)要保育認定という新たな形で再編成し、そのうえで、利用者と保育所とが相対で契約するという仕組みをめざすこととしたのである。市町村の責任・役割を確保しつつ、保護者と保育所とが当事者意識を共有して「共に育てる」仕組みの創設である。
 そのうえで、公的責任を財政責任のみに矮小化する危険性があり、しかもいくつかのデメリットも指摘されているいわゆるバウチャー制の導入については慎重であるべきとしたのである。また、保育所運営費負担金のいわゆる一般財源化についても、地方公共団体の財政力によって取り組みに格差が生じるおそれがあること、特に過疎地域においてその影響が深刻なため慎重に考えるべきとし、保育所利用の新たな仕組みとセットで後述する新たな財源確保策を提示したと整理できる。
(3)新しい保育所像の検討
 この方式によると、保育所は、現行の仕組みと比較して保育所運営や財務面での自由度が高まるというメリットがある一方で、子育ての専門機関として、単に保護者のニーズに迎合するのではなく、保育の申込みをしない家庭等に対する保育ソーシャルワークやケース・マネジメントも含めて保護者への積極的な働きかけを進めていくことが必要とされてくることとなる。
 その意味では、この報告書は、保育所を、現行のいわゆる保育に欠ける乳幼児の保育を要保育認定という仕組みで担保しつつも、その対象範囲をすべての子どもと子育て家庭に広げることを意図したものであるといえるだろう。したがって、今後、特に社会福祉法人立保育所にあっては、市町村と連携し、ソーシャルワーク機能を組み込んだ新しい保育所像を模索していくことが求められてくることとなるであろう。
 なお、具体的な仕組みについては前述したとおり今後の検討課題とされており、すでに提案されている総合施設のあり方などとも関連して、今後論議が深められていくものと思われる。保育関係者にあっても、この報告書を契機として、地域子育て支援を含めた総合的な拠点施設としての新しい保育所像が論議されることを期待したい。
 
6、新たな費用負担の在り方
 最後に、保育を含む次世代育成支援施策の財源については、「その充実を図る観点から、子の有無や年齢を問わず国民皆が費用を分かち合う仕組みとすること」、すなわち、社会連帯の理念に基づいて「共助」の視点から、すべての国民が分担していくことを基本とする仕組みを提案している。そして、その方法としては、既存の社会保険制度を活用し、高齢者関係の給付を一部子育て分野に充当するなどの給付構造の見直しによって行うことを視野に入れている。
 また、特にゼロ歳児保育については、育児休業制度との整合性を図り、その拡充を図る観点から、企業等の負担の導入を検討すべきと述べている。そのうえで、新たな財源の例示として、現役世代・高齢者、企業・団体、国・都道府県・市町村がそれぞれの役割に応じた拠出、負担を行う方式、すなわち、「国全体で資金をプールし、これを次世代育成支援交付金といった形で児童数や事業量に応じて市町村に交付し、併せて都道府県が公費負担するなど」の方法を提案している。
 こうした方法により次世代育成支援における国や社会全体の責任を明確化し、しかも、高齢者関係施策として創設された介護保険制度との整合性を図ることによって、社会保障における給付構造のバランス確保にも配慮できることとすることが目論まれている。さらに、次世代育成支援を「すべての国民が分担していくことを基本とする」社会連帯の理念に基づいた仕組みとすることにより、分断化され、孤立化しつつある地域社会や社会全体を、新しい「つながりとぬくもりと信頼」に基づいた社会に再生させることをめざしているといえるのである。
 
おわりに
 今回の報告書の理念は、報告書の表題である「社会連帯による次世代育成支援に向けて」に凝縮される。それは、「孤立から共生へ」、「分断からつながりへ」という現代社会のありようの転換をめざすものでもある。
 二〇世紀、私たちは効率と進歩を求めてひた走りに走ってきた。その結果、豊かで便利な社会になったが、その陰で捨て去られてきたものも大きい。例えば、地域社会の互助が崩壊し、そのことが、子育て分野においては、少子化や子ども虐待の増加や少年による凶悪犯罪の増加として顕現しているのである。
 子どもを生まない、育てないこの国、子育ち・子育て、いのちを育むことを社会的に評価することのないこの国のありように対し、今回の提案は、新しい次世代育成支援の考え方を提示しつつ、この国のありようの転換を図るためのいわば対案として提示されたものである。
 本誌の読者である保育関係者におかれては、子育ち・子育ての代弁者として、この国の子育ち・子育て支援はどのようにあるべきかという大局的見地から、この対案を十分に論議していかれることを心から願っている。
(淑徳大学社会学部教授・日本子ども家庭総合研究所子ども家庭政策研究担当部長)
 
写真:小松市・こばと保育園
 







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