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――子ども総研から――
文献情報(18)
日本子ども家庭総合研究所
 「教育心理学研究」第五十一巻第一号、二〇〇三年三月、九十六〜一〇四頁、「愛着と気質が母子分離に及ぼす影響―二、三歳児集団の継続的観察による検討―」尾崎康子(日立家庭教育センター)
 二、三歳児の母子分離の実態を明らかにし、愛着と気質がどのように母子分離を規定しているかを明らかにするため、週一回の親子教室に参加している一〇一人の二、三歳児が母親から離れて仲間集団に参加する経過を一年間観察し、母子分離の状況と子どもの愛着安定性および気質的特徴との関連を検討した。
 一年間を二か月ごとの五期(慣らし保育および夏休み各一か月を除く)に分け、各期における母子分離評定の平均値の推移から、母子分離の状況を四パターンに分類した。すなわち、(1)過分離型:一年を通して母子分離していた子ども(二九人、二八・七%)、(2)徐々分離型:最初は母子分離できなかったが次第に母子分離できるようになった子ども(二六人、二五・七%)、(3)一定分離型:母子分離ができたりできなかったりと一年間一貫した傾向がなかった子ども(各期の平均値は結果的に一定)(二九人、二八・七%)、(4)不分離型:一年間を通して母子分離が困難であった子ども(十七人、十六・八%)、の四パターンである。(1)〜(4)の母子分離型に男女差はみられなかった。
 入所後六か月時に測定された愛着安定性得点について、母子分離型による比較を行った結果、過分離型および不分離型の子どもは徐々分離型よりも、また過分離型の子どもは一定分離型の子どもよりも愛着安定性が低いことが示された。
 また、子どもの気質的特徴について母子分離型による比較を行った結果、「新奇場面の反応(しり込み)」において、徐々分離型の子どもは過分離型の子どもよりも、また不分離型の子どもは他のいずれの型の子どもよりも新奇場面にしり込みすることが示された。また「不順応性」においても、不分離型の子どもは徐々分離型および一定分離型の子どもよりも慣れるのに時間がかかることが示された。
 母子分離の様相が相反する過分離型と不分離型の子どもは、共に愛着安定性は低かったが、過分離型の子どもは新奇場面にしり込みしないのに対して、不分離型の子どもは新奇場面にしり込みし、順応性も低かった。このように、愛着安定性が低い子どもでも、子どもの気質により母子分離の状況が異なることが示された。一方、新奇場面にしり込みしても、愛着が安定していた徐々分離型の子どもは、次第に母子分離しており、二、三歳児が仲間集団に参加する際の母子分離は、愛着安定性と気質が相互に関係して特徴づけられることが示唆された。
 
 「発達心理学研究」第十四巻第一号、二〇〇三年四月、七七〜八九頁、「虐待を受けた子どもに対する環境療法:児童自立支援施設における非行傾向のある小学生に対する治療教育」大迫秀樹(福岡県立筑後いずみ園)
 児童自立支援施設の児童自立支援専門員である著者が、過去五年間にわたる児童処遇における臨床実践から、環境療法のあり方についてまとめた研究である。虐待を受けた子どもに対する治療的アプローチとして、環境療法が有効であることが示され、その対応の重要性と留意点について具体的に考察されている。
 虐待は子どもの心身の発達に深刻な影響を及ぼすものであり、虐待を受けた子どもに対しては、迅速な対応と適切なケアが必要である。特に、虐待を受けた子どもが多く入所する乳児院や児童養護施設、児童自立支援施設等の児童福祉施設、あるいは入院生活を送っている病院においては、具体的なケアの内容や方法の解明が急務である。虐待を受けた子どもに対する心理学的な援助モデルとしては、トラウマそのものを扱う心理療法的試み(プレイセラピー等)である回復的接近と、生活環境すべてを治療的に活用するという考え方に基づいた働きかけである修正的接近という二種類のアプローチが提唱されており、本論文のテーマである環境療法は後者にあたる。虐待を受けた子どもたちのパニック行動や暴力行為などの問題行動は、カウンセリングルームよりも日常の生活場面において生じやすいこと、マターナルデプリベーションを体験してきた子どもに対しては、個人心理療法のみでは治療効果が十分に期待できないことから、環境療法の必要性が指摘されている。
 著者は、信頼できる大人が常にそばにいるという生活環境下において、子どもが安全感、安心感、サポート感を得ながら安定した生活を送ることができるように配慮し、非虐待的・非拒否的な環境の確立と愛着の再形成に向けた援助を行うことを基本に、環境療法を実践している。治療的環境としてはまず、小舎制による小集団処遇が非常に重要であるという。具体的には、七〜八人程度の小集団に対して、通常二人程度の職員が対応することが望ましいと述べられており、児童福祉法における最低基準の改善も求めている。また、起床・食事・入浴・就寝といった日課の活用を図ること、自由時間の活用、問題行動への対応等について、小学生に対する実践が具体的に述べられている。さらに、親子関係の再統合や家庭復帰を視野に入れた親への援助や地域(特に出身校)との関係調整についても触れられている。そこでは、児童相談所をはじめとする関係機関との連携の重要性が指摘されている。また、虐待を受けた子どもの処遇における様々な困難に際して、子どもが見せる虐待的な人間関係の再現傾向に巻き込まれることなく、冷静な対応を可能にするためには、ケアワーカーの専門性を高めること、ケアワーカー同士および児童相談所等との連携をとってメンタルヘルスを維持することが必要であるとされている。
 虐待を受けた子どものケアにおいて、児童福祉施設の果たす役割は大きい。小学生という年齢における対応は、遅くとも思春期に入る前までには援助を行っていくことが必要であることからも非常に重要である。今後の研究のさらなる発展が期待される。
(安治陽子)
 
 公衆衛生情報第三三巻五号(二〇〇三年五月)、十九〜二一頁、緊急インタビュー「SARSは死のウイルスではない」、岡部伸彦(国立感染症情報センター)
 SARSの感染の広がりに伴い実施された緊急インタビューの内容である。インタビューは四月十七日であった。その後更新された情報も含まれるので、ここでは、基礎的な知識と、効果的な拡大防止策に関する部分を紹介する。
 SARSとは、Severe Acute Respiratory Syndrome: 重症急性呼吸器症候群二〇〇二年から非定型性肺炎という形で、中国に現れ、香港・ベトナムで多発、その後、カナダ・ドイツなどでも多発したため、WHOは世界的な公衆衛生上の問題として警報を出した。潜伏期は通常二〜七日、典型的な症状は三八度以上の高熱、悪寒、筋肉痛、息切れでインフルエンザ様と変わらない。痰のでない乾いた咳が大きな特徴である。検査所見として一番の決め手は、胸部X線撮影で影が出ることなので、疑われる場合は直ちに胸部X線撮影をする必要がある。
 感染経路は接触感染、飛沫感染、空気感染の三つへの注意が基本的に必要で、具体的には、危険性の高い患者の血液や吐物、汚物などの扱いを慎重に行う、つまりマスクや手袋などの装着、手洗いといった標準予防策をしっかりとし、その上で最も可能性の高い飛沫感染対策を行う。医療機関でははしかや結核、みずぼうそうに対処できる知識と体制があれば、かなりの感染拡大が予防できる。
 SARSを機に感染症予防対策を再考してほしい。
 交通や物の輸送がグローバル化するなかでは、SARSに限らず新たな感染症が入ってくる可能性はゼロとは言い切れない。一方、国内でははしかで年間八○人の人が死亡していると推定され、予防接種を始め日頃からの基本的な感染症対策が重要である。現実は必ずしも万全とは言えず、医療機関や保健所の問題だけではなく、感染症の存在を正しく認識しなくなった地域住民にも問題がある。幅広い感染症対策の議論を進めるべきである。
 
 すこやか 第二八号(二〇〇三年四月)二一〜二六頁、大阪保育所保健連絡協議会、「紫外線について」、南海ブロック研究発表(貝塚市、岸和田市、和泉市、泉南市、岬町、高石市、狭山市、堺市、忠岡町)
 オゾン層の破壊で有害紫外線が増え、免疫の低下や発ガン作用など指摘される中、保育所としてはどのような紫外線の害を予防する対策に取り組んでいるのか、アンケート調査が実施された。
対象 大阪府の南海ブロック九二か所の保育所の保健職に配布し、回収率は一〇〇%であった。
結果 (重複回答あり)
 帽子の利用は、「園の帽子(通年同じもの)」四四%、「夏のみ自宅から持参」三五%、「夏のみ園の帽子」十七%、などであった。日よけの道具としては、よしず六〇%、パラソル六五%、日よけシート四一%など。半数以上が、遊ぶ時間を配慮している。
 サンスクリーン剤の使用を認めているのは四五%であった。医師の指示があれば実施するところもあった。塗り直しの依頼へは二三%が応じていた。
 紫外線対策実施期間は「七〜九月」が五一%。「四〜九月」が二三%であった。啓発活動は七七%が保健便りを利用していた。
 考察として、四月ごろ紫外線が強くなる時期に対策をおこなっている園、紫外線の強い時間帯の外遊びを避けている園が少ない。成長発達の保障をすべき保育園で全て制限することは難しいが、保健職・保育士・保護者・子どもの意識改革が大切としている。また、保育所に限らず、小学校や家庭においても継続した対策が必要であることが指摘されている。
(齋藤幸子)
 チャイルド・ヘルス 第十五巻一号(二〇〇二年)六一〜六五頁 保育園における耐性菌感染症−肺炎球菌・インフルエンザ菌について―大石智洋(新潟大学大学院医歯学総合研究科内部環境医学小児科学分野)
 「保育園に入ると子どもの病気はつきもの、仕方のないこと」といわれているが、子どもを預けながら働く親にとって、子どもの病気ほどつらいものはない。集団生活をする以上、ある程度の感染は仕方がないかもしれないが、そのリスクはできるだけ避けたいものである。また、近年は子どもの風邪に対して抗生物質が多く使われ、その耐性菌の問題が指摘されている。本稿では保育園内に耐性菌が蔓延しているという報告から、子どもの肺炎や中耳炎の原因となる代表菌として、インフルエンザ菌と肺炎球菌の耐性菌について調査し、保育園での現状と対策について述べている。保育関係者には是非、知っておいてもらいたい内容である。
 調査は東京都内の保育園において、園児十八人と保育士六人に対し、毎月の健診時に上咽頭の細菌培養を六か月間行った。結果、肺炎球菌は八二〜九四%、インフルエンザ菌は五五〜一〇〇%の子どもから検出され、うち耐性菌の占める割合は、肺炎球菌が九〇〜一〇〇%ヘインフルエンザ菌は五〇〜八○%で、保育園ではこれらの菌が蔓延している可能性が考えられた。また菌の抗生物質に対する効き方を分類したところ、肺炎球菌は十二タイプ、インフルエンザ菌は四タイプにわかれ、月毎に各タイプの割合は変化し、一人の子どもが同じタイプの菌を持っている期間は一〜二か月で、短い期間でタイプが変化していた。
 これには、菌に対する抵抗力が弱く、菌が侵入すると容易に増えやすいこと、抗体をつくる力が十分でないことが考えられる。しかし、菌をもっていたからといって必ずしも悪さをするものではない。今回の調査でもほぼ全員が保菌していたが、実際にこれらの菌が原因と思われる気管支炎や中耳炎をおこしたのは二八%のみである。保育園児は保育園に通っていない子どもに比べ、感染症の発生が高いことは事実であるが、保菌していたからといって慌てることはなく、対策の必要がでてくるのは、園内で感染症が流行したとき、つまり集団発生したときである。
 これに対する具体的対策として著者は保育園内に感染症対策係のような人をおき、感染症にかかったと思われる子どもを把握することが大切であると述べている。そして情報を確実に集約させ、もし短期間で複数の子どもにそれらの感染症が発生したら、嘱託医にしらせ早期に対応できるようにすることで流行を最小限におさえられるのである。アメリカにおいては保育園における感染症対策基準やワクチンの普及が進められているが、日本では各園に任され、衛生管理も十分ではない。保育関係者が感染症に対する正しい知識をもち、早期に感染症発生を察知し、伝播を防ぐための適切な対処が必要であり、今後考えていってもらいたい問題である。
 
 小児科診療 第六三巻五号(二〇〇〇年)七四九〜七五四頁 保育園・幼稚園の感染症対策―登園基準について―米国での状況 森内浩幸(長崎大学医学部小児科)
 保育園・幼稚園における感染症対策としての登園基準は、わが国においても定められているが、結局はかかりつけ医の判断にゆだねられている場合が多く、曖昧で現場に混乱を生じさせているのが現状である。米国においては、小児の感染症対策は子どもの健康問題としてだけでなく、成人勤務者への感染、さらには地域社会への流行を引き起こす可能性を秘めている点で非常に重要視され、ガイドラインが定められている。本稿では、米国における感染症対策の方針を解説しており、米国の基準をそのまま日本の状況にあてはめることは妥当ではないが、病態生理に基づいた合理的判断を下すうえで十分参考になる文献である。
 米国のchild care settingにおける感染症のコントロールに必要なことは、明確なガイドラインを作成し、書面でさし示すこと、および感染症の伝播や予防法について、職員にしっかりと教育指導を行うことである。さらに具体的には(1)衛生的な取り扱いの徹底(とくに手洗い、オムツの扱い、血液体液の付着したものの扱いについて)、(2)おむつをはめる年齢層と年長児を分けて世話する、(3)子どもと職員の双方に適切な予防接種を行う、(4)感染源となるおそれのある子どもの登園を控えさせる、(5)流行がおこった際に適切な処置を行う、ということである。また感染症の子どもに対する登園基準については、病因がはっきりしているものに関しては、具体的に感染症の強い期間を示し、登園時期が定められている。しかし、嘔吐・下痢・発疹などの症候については医師の判断を仰ぐ形になっており、無理のないことであるがまだまだ暖昧である。さらに、登園をしても差し支えない患者や症候についても示されており、たとえば微熱では四か月未満では腋下で三七・七℃、四か月以上では腋下または口腔で三八・三℃未満となら登園可能となっており、日本の三七・五度以上だと預からない、お迎えという現場での暗黙の基準の根拠を考えさせられた。
 感染症のコントロールには、日頃からの予防対策の徹底が不可欠であり、あらかじめ文書でルチーンを定め遵守していくことが大切である。予防接種率が低いこともあわせ、わが国の状況は、まだまだ改善の余地があり、感染症学的に理にかなった登園基準を定める必要があろう。
 
 小児科診療 第六三巻五号(二〇〇〇年)七三九〜七四三頁 保育園・幼稚園での感染症対策―登園基準について―保育園・幼稚園での実状 小川實(大阪小児科医会、小川クリニック)
 学校保健法による流行性疾患罹患時の通学許可基準と同様に保育園・幼稚園においても登園基準が作成、現場への指導が行われてきた。しかし、現実にはさまざまな要因から十分に登園基準が守られていない実態が指摘されている。本稿ではその実状を述べるとともに、感染症対策を確立するうえでの園医の役割などについて解説している。登園基準に対する現場の認識は十分でなく、その対応にも混乱が見られているのが現状であり、保育関係者には是非正しい理解と保護者への対応を望みたい。
 保育所においてほとんどの母親は就業しており、保育時間は年々延長傾向にある。このような中、登園基準は母親にとっては厳しいものであり、解熱すれば登園させる傾向があるのが現状である。また多くの園では、登園再開はかかりつけ医の許可を条件としているが、かかりつけ医は複数の医師であり、小児科医でない場合も多く同じ疾患でも医師間で登園許可に違いが生じることもある。そこで問題の解決を園医に求める場合もあるが、園医の活動性は低く、多くの園で園医制度は機能していない。また、アンケートによると園医の職務として九九・一%が健診をあげているが、疾患流行時の対応を挙げた施設は二九%のみであった。このことから嘱託医は定期健診に出務するのみで、最も専門職が介入すべき対応が嘱託医によって満足に行われていない事実がうきぼりになった。
 保育士にとっての感染症対策は、感染症疾患が疑われる園児の発見と登園停止処置に尽きるが、軽度の発熱や発疹で保護者への連絡をすることで保護者とのトラブルも生じやすい。また回復期の登園許可も重要であるが、保護者や保育者間での適切な理解や教育効果は得られていないのが現状といえる。このため、筆者はまず「園医のかかりつけ医」「保育所嘱託医および幼稚園医」の小児科医が自らの質の向上に専心することの緊急性を指摘している。
 親は大丈夫と思っても保育園で登園を断られたり、保育士の判断と親の判断のズレは信頼関係にかかわる問題でもある。保育園としては感染を広めないための責任もあるが、その判断が適切なのか、現場では混乱が生じている。このため園医や専門職が適切に介入、教育していく必要があろう。
(門脇睦美)
 
写真:兵庫県・枚田みのり保育園







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