日本財団 図書館


―子ども総研から―
文献情報(16)
日本子ども家庭総合研究所
 「小児保健研究」第六二巻第一号 二〇〇三年一月 五十〜五六「コンピュータ・ゲームが子どもの行動に及ぼす影響」浦島充佳(東京慈恵会医科大学小児科学講座、臨床研究開発室)、鈴木邦明(すずき小児科)
 
 今日の子どもたちは、年少の頃から外遊びや友だちと遊ぶ時間よりも家の中でテレビやビデオを観たり、コンピュータ・ゲームで遊んだりする時間が増えていると言われている。
 つまり、子どもたちは発達初期から、視聴覚メディアの強い影響を受けていると言うことができる。しかし、視聴覚メディアの発達に及ぼす影響性についての研究は、未だ数が少なく、解明が待たれる問題と言える。
 本研究は、小学生がコンピュータ・ゲームで遊ぶことにより、行動に何らかの影響を及ぼすかどうかを検討することを目的に行われた研究であり、コンピュータ・ゲームの影響性の検討につながる視点と思われるので、ここに紹介したい。
 対象は、小学一年生(六歳)〜六年生(十二歳)、四〇一人である。
 方法は、小学生の親(ほとんどが母親)に対するアンケート調査である。
 調査内容は、家族構成、妊娠中の母親の生活環境、子どもを取り巻く環境(きょうだい数、きょうだい順位、祖父母との同居)、子どもの生活習慣、塾などの習い事、ゲームに費やす時間、親の教育方針、親と子どもと一緒に費やす時間、子どもの行動(集中力がない、動作が素早い、イライラしていることが多い、無口なことが多い、大声をあげてどなることが多いなど十九項目を二件法で回答)などである。
 結果は、八〇%以上の子どもがコンピュータ・ゲームを所持していたが、多くの子どもは、予想されたよりも少なく、自由時間の二〇%以下しかゲームに費やしていなかった。一方、自由時間のほとんどをゲームに費やす子どもは全体の二・七%であった。年齢や性別を多変量解析にて補正した上でも、ゲームで遊ぶ時間が平均よりも長い小学生はイライラする頻度が平均以下の二倍に増えることが判った(オッズ比=二・〇九:九五%信頼区間:一・二二〜三・六〇)。
 結論としては、小学生がイライラする要因としては、年齢が大きな要素(年齢が高いほうがイライラしている)であったが、これらを補正しても、ゲームに費やす時間が長くなるにつれてイライラすることが明らかにされた。
 本研究は、親に対するアンケート調査であるため、現実のものと親の認識のズレを考慮する必要がある。
 今後の課題として、自由時間に占めるゲーム時間の割合ではなく(自由時間が各児異なるため)、実際にゲームをする時間やゲームの内容と子どもの行動との関係など、さらなる詳細な研究が待たれるところである。
 
「小児の精神と神経」第四二巻第四号二〇〇二年十二月 二八三〜二九一「家族外性的虐待を受けた低年齢児の症状とその経過」奥山眞紀子(国立成育医療センターこころの診療部)
 
 今日の大きな社会問題の一つである児童虐待の研究の増加する中で、性的虐待に関する研究も行われるようになってきているが、まだ少ないのが実情である。
 しかし、本研究でも指摘されているように、日本においても低年齢の子どもへの性虐待は、予想以上に多いと言われ、しかも家族内虐待に比べて、家族外虐待が非常に多く、子どもたちに大きな心理的なトラウマを与えていることが指摘されている(「子どもの家族の心と健康」一九九九)。
 本研究は、性虐待の被害を受けた子どものうち、家族外の被害を受け、家族が子どもを支えられる機能を有していた七例について、その症状の経緯、家族に打ち明けることの影響、治療の経過等を詳しく検証し、そのような家族と本人に対する支援のあり方を検討することを目的に行ったものである。性的虐待に関する有用な知見を提示しているものと思われるので紹介したい。
 対象は、三歳から八歳までの女児七名である。虐待に関する状況は、一例が見知らぬ人からの虐待で、虐待が明らかになるまでに二日であったが、他は親戚を含む近しい人からの複数回の虐待であり、虐待が明らかになるまで数ケ月から三年以上かかっている。開示しなかった一人及び三歳児を除き、いずれも性器を触られるもしくは性器に異物を挿入されるという体験を開示した。
 結果は、以下のとおりである。
(1)虐待が明らかになる前には、軽度の性的言動や軽い身体化症状があるのみだったが、虐待が明らかになった後、分離不安、不登園・不登校、易興奮性・不眠などの顕著な精神症状が出現した。
(2)性的言動は虐待が明確化した後も継続したが、身体化症状は体験の言語化により消失する傾向があった。
(3)症状を総合すると年齢的特徴をもった外傷後のストレス反応と考えることが妥当であった。
(4)治療は、親ガイダンス中心に、子どもへの説明や治療が行われ、意義があることとかんがえられた。
(5)家族の適切な対応で、ほとんどの例では四ケ月程度で症状が改善していた。
(6)学校での対応の問題が症状の悪化や遷延化につながることがあった(例えば被害による症状が認識されず、わがままと捉えられる、被害を受けた通学時の変更が認められないなど)
 以上の結果をふまえ、このような性的虐待に対しては、(1)社会的認識を高め予防の重要性、(2)被虐待児が開示前に出していたサインに気づくことの重要性、(3)虐待発見時の親の適切な対応が非常に重要であること(望ましい対応を九点あげている)、(4)保育や教育の場での理解や支援の重要性を指摘している。さらに今後の課題として、対応方法の確立と長期予後の検討の必要性があげられている。
 
「保育と保健」第九巻第一号 二〇〇三年一月 一四〜二一「保育室の清潔と感染予防」春日文子(国立医薬品食品衛生研究所食品衛生管理部、併任:国立感染症研究所感染症情報センター)宮崎晴久、斉藤麻美、村松ミツ子、中原理善、小林昌子、貞永明彦、波多野義純、河原章、坂本卓雄、中村実、金児克忠、牧島満利子、佐野暁男、片山三重子、皆川武人(杉並区杉並保健所)、角田光淳(関東学院大学)、森田師郎(杉並区環境清掃部)
 
 最近、保育園での感染症の集団発生がしばしばニュースになり、園内の衛生管理が感染症対策として十分かどうか、あるいは逆に衛生管理が子どもを虚弱にしているのではないかと不安に揺れ動いているということが耳にされる。
 本研究は、保育環境や保育内容のどのポイントでどのように気をつければ感染症が防げるか、有効で実行可能な対策を実際に保育園で実施した調査による科学的な検証に基づき報告しているものである。
 方法は、保育園における室内、屋外環境の微生物調査である。
 具体的には、保育士の手指、乳児室や幼児室のテーブル、おもちゃ、タオル類、室内手洗いの蛇口、床、昆虫などの飼育箱、トイレや寝具、園庭のペット飼育小屋や遊具などに固形培地を押し付ける方法で、一〇cm2(一部二五cm2)当たりの細菌数と真菌(カビ)数の測定を行った。なお、砂場の虫卵検査も行っている。
 調査の結果は、夏冬共通して一般生菌数が多かった対象物は、「手洗いのコック」「テーブル」「おもちゃ」「お手拭(顔拭き)」などであった。また保育士が扱うものとして「トイレや室内の手洗いコック」「おむつ入れのふた」「使用後のお手拭、ふきん、雑巾」にも細菌汚染がみられた。なお、細菌の中でも気をつけなければならない「大腸菌」が「おもちゃ」や「乳児室のテーブル」そして夏には「おむつ交換台」から検出された。これは、保育士の手を介して感染を広げる可能性があることを示す例と指摘されている。また、クーラーやヒーターのルーバーからは頻繁に大腸菌や多数の真菌が検出された。風の吹き出し口の汚染は保育室全体に撒き散らされることになるため、十分な清掃の必要性が指摘されている。真菌は、室内外のペット周辺からも多数検出された。
 以上のように微生物検査を行うことによって、保育室の床や壁は丁寧に清掃され、トイレや寝具の管理も清潔になされていても、乳児室内の微生物汚染状況や昆虫を含む動物の飼育環境の汚れ、用便汚物から保育士を介した感染の可能性など目に見えなかった問題が浮かび上がった。
 本報告では、これらの目に見えない衛生管理のポイントについてのチェック項目例が示されている。
 今後の課題として、管理の手順やマニュアルの整備、およびそれを実現できる保育体制全体の整備の必要性が指摘されている。
 
「保育と保健」第九巻第一号 二〇〇三年一月 二二〜二九「保育園児の生活リズムと排泄について」北九州市保育士会「感性と生活習慣に関する研究会」、河渕洋美(一枝保育所)
 
 まず、本研究を行った研究会は、保育園に通う子どもたちに、朝から眠そうな子ども、散歩に出ると座り込む子ども、集中時間が短い子どもがみられ、日々の生活リズムの乱れが危惧されることから会が発足されたという経緯が述べられている。
 一方、平成十二年九月に日本小児保健協会が行った「乳児健康度調査」の結果においても、昭和五十五年、平成二年、平成十二年の比較によって幼児の生活時間が年々夜型化していることが明らかにされている。
 子どもの心身の健康にとって、日常の規則正しい生活習慣が大切であることは明らかなことであるが、最近の子どもの生活リズムの乱れが心身の健康にどのような影響をおよぼしているのかについて調べた研究は未だ数少ないと思われる。
 そのような中で本研究は、生活リズムと排泄との関係について考察をしたものであり、生活リズムと健康との関連性を示す一つの具体的なデータを提供してくれている。
 研究方法は、アンケート調査(第一〜三回調査)である。対象は、北九州市内の保育園に在籍している三、四、五歳児の中から無作為抽出された一〇五〇人の保育園児の保護者および保育士九一八人である。
 調査内容は、子どもの睡眠時間、排便時間と排便の頻度、おむつはずれの時期などである。
 結果としては、次のとおりである。就寝時間は、九時前に寝る子どもは一〇%に満たず、多くの子どもが十時以降であった。遅くなる理由としては、大人の都合や「子どもが眠くないとき、又は遊びたいとき」など毎日が非日常的になってきている様子がうかがえた。就寝時間と排便の関係については、就寝時間が九時以前の子どもたちは、「朝起きてすぐ出る」「朝食後に出る」の比率が高いが、夜更かしするグループは、朝目覚めてすぐに排便する子どもは大変少なく、決まった時間にする子どもの半数近くは夕食後であった。なお、十一時以降に就寝するグループでは、「いつ排便しているかわからない」「保育園でしているかもしれないが、子どもが言わないのでわからない」の回答率が高く、保護者の生活リズム形成に対する関心の薄さが推察されている。また、就寝時間が遅くなるにつれ、おむつはずれの時期が確実に遅くなるという結果も示されている。
 以上の結果から、生活リズムを崩してしまった子どもたちが、少しでも早くリズムを取り戻せるような働きかけが大切であることが示唆されている。また、そのためには保護者との連携など保育の場でできる支援のあり方の検討も必要とされているといえよう。
(安藤朗子)
 
光岡攝子(島根医科大学医学部看護学科)・堀井理司・大村典子・笠柄みどり・鈴木雅裕・小山睦美 「幼児用疲労症状調査」からみた幼児の疲労と日常生活との関連 小児保健研究第六二巻第一号 八一〜八七、二〇〇三
 
 「幼児用疲労症状調査」を用いて、幼児の疲労の実態を把握し、疲労と日常生活状況との関連を探ることを目的として、研究を行った。
 対象は、青森県、島根県、山口県の幼稚園児計五五七人と、研究への理解・承諾の得られた保護者に回答を求めた。回収数は四七六人(回収率八五・五%)で、そのうちの有効回答四六八人を分析対象とした。「幼児用疲労症状調査」は、一般的・身体的疲労状況(「朝からあくびがでている」「眠そうにしている」など)、精神的疲労症状(「落ち着かない」「遊びに集中できないなど」)、局在する違和感(「『頭が痛い』『おなかが痛い』とよくいう」など)など一〇項目からなり、保護者が子どもの日頃のようすから評価するようになっている。各項目につき、「全くない」を一点、「よくある」を五点として得点化した。調査は平成十二年六月に行われた。
 結果は、まず、自覚的疲労症状について得点が高かったのは、「じっとしていられない」「眠そうにしている」「落ち着かない」であった。「幼児用疲労症状調査」一〇項目への回答を変量として因子分析を行ったところ、第一因子「一般的・身体的症状(眠気とだるさ)」、第二因子「精神的症状(注意集中の困難さ)」、第三因子「局所的身体症状」が抽出された。
 疲労得点の高低と日常生活状況との関連をみると、朝食摂取の有無、偏食の有無、食欲、食事量、寝起きのよさ、就寝時刻、遊びへの集中、テレビ視聴時間、夜更かし、登園時のようす、活気、くせの有無、心配事の有無との間に、有意な関連が認められた。
 これらの結果から、子どもの疲労度を軽減させていくためには、食事や睡眠等、健康的な生活習慣を形成することの必要性が認識された。
(庄司順一)
 
 
 
パパとママとあき(32)
「最近の楽しみ」
石川賢司
 
イラスト・松村 隆
 
 あきが幼稚園に通うようになってから一か月以上が経った。
 あきが起床する時間はいつも早いのだが、最初の頃は、朝の出かける準備で我が家はいつも大騒ぎだった。送迎バスの時間に間に合うように急がせても、窓の外をぼーっと見ながらのんびり食事をしたり、ちょつと目を離すと制服を着ないでおもちゃで遊んでいたり・・・、といったマイペースぶり。また、制服を自分で着させると、シャツがズボンに入っていなかったり、シャツを着る前にベストを着てしまったりして、妻をいつもイライラさせていたのだが、最近ようやく、わりと余裕をもって準備が完了するようになった。
 そんな朝の数十分間が、ふだん、私があきと顔を合わせる貴重な時間である。お互いに出かける準備をする合間に、幼稚園でどんな様子で過ごしてるのか、を知りたくて、「昨日は幼稚園で何をしたの?」とか「昨日の給食は何だったの?」などといつも聞いてみるのだが、「・・・分かんない・・・。」といた返事が多い。妻によれば、そうした話は、幼稚園から帰ってきて、その日のうちに話してしまうようで、翌日にはもう忘れているのでは、とのこと。少なくとも父親に冷たくしているわけではないだろうが、楽しんでいる様子をいろいろ聞きたいと思っているのに、なかなか期待どおりの返事が来ないのである。
 ということで、あきが幼稚園で何をしているのかは、妻から教えてもらって知ることが多い。話によれば、紙芝居を見たり、歌にあわせておゆうぎをしたり、園庭の砂場などで洗濯に苦労するくらい泥だらけになって遊んでしているらしい。最近では、かけ声を出しながら左右にくるくる回ったり、両手をあわせて頭の上に伸ばしたりする「たけのこ体操」なるものをしたり、ディズニーの歌である「イッツ・ア・スモール・ワールド」にあわせておゆうぎをしたりしているようだ。
 こういう情報をもとに、週末、あきに歌やおゆうぎををリクエストすると、照れて嫌がることもあるが、あきらめずにお願いすると、時々やって見せてくれる。「たけのこ体操」は、ドタバタしたものではあったが、見ていて楽しかったし、園の歌を歌ってくれた時は、音程はずれているが、最後まではきはきと歌ってくれて、とても感激した。週末のゆっくりできる時間に、このようなけなげな姿を見るのがとても楽しく、こちらが何だか元気づけられるような思いもするのである。
 
事務局から
▽今月号は、五月二七日に日本武道館で開催する「こどもを守る総決起大会」の諸準備と同時進行で作業をしている。大会参加者は、およそ八千人であり、来月号で概要をお知らせできると思う。大会に先だち、日本保育協会が総力をあげて活動してきたが、その一つに国会議員から「こどもを守るための保育の推進運動」に賛同し、署名をいただいた。その数はすでに一五〇名を超えている。各方面への働きかけは大会後も継続される。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION