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(4)実海域実験での基礎データの収集
 一方、アメリカでは実海域での基礎データの収集を行っている。JacksonらのグループはNO.10の論文において、長さ50cmのコアサンプルを採取し、室内において400kHzの音波を走波して1cmごとに音速及び減衰定数を測定し、かつ2cm毎に間隙率と粒径分布を測定した。またコアサンプル採取地点の海底下10、20、30cmにハイドロフォンを設置し、海底面から38及び58kHzの音波を発信して、音速と減衰定数を計測している。室内と海底で計測したこれらの結果の平均値は、非常に近い値となっている。またダイバーによって海底面のステレオ写真を撮影し、凹凸をcmのスケールで把握している。図47は、室内において測定したコアサンプルの物性データの垂直プロファィルである。これらを平均したものを表4に示す。表中の音速比は1500m/sとの比を表したものである。本論文では、これらのグランドトルスデータをモデルに当てはめた例を紹介している。
 
図47. 水深25mの海底から取得した柱状サンプルの物性データの垂直プロファイル
 
表4. 図47の柱状サンプルの物性データの平均値
Site Grain Size
(φ)
Compressional
Velocity Ratio
Compressional
Attenuation
(dB/m/kHz)
Shear
Velocity
(m/s)
Porosity
(%)
Density
Ratio
Key West 6.5 1.020 0.321 50.8 56.4 1.72
 
図48. 観測データとモデル
 
(a)物性データの平均値を採用
 
(b)海底から深さ6cm地点の物性データの平均値を採用
 
 観測データとモデルとの比較結果を図48に示す。全ての物性データの平均値を使用して観測データと比較したものが図48(a)であるが、モデルとの一致は見られない。ここで図44に示す音速及び減衰定数に着目すると、6cm付近を変位点として、それ以深はほぼ一定となる。間隙率は、同じく6cm以上がほとんど水であることが分かる。そこで海底から6cm潜った地点のパラメータのみでモデル化したのが図48(b)であり、モデルとのマッチングが見られる。この論文からも明らかのように、モデルとのマッチングには、堆積物の物性データが必要不可欠である。
 またJacksonらのグループは最近、Biotモデルを用いて実海域でのモデルヘの当てはめを行っており、NO.11の論文において紹介している。海底堆積物は、多孔性粒子の集合体すなわち骨格部分と、その間隙を満たしている海水すなわち間隙水から成り立っている。Biotモデルは、表5に示すように用いるパラメータが多く、間隙流体に関するパラメータ、粒子に関するパラメータ、骨格に関するパラメータの3つで構成されている。
 間隙流体に関するパラメータには、海水の密度、体積弾性率、粘性係数が含まれる。粒子に関するパラメータは、海底堆積物の粒子の密度、体積弾性率である。骨格部分のパラメータには、堆積物の間隙率、透水係数、間隙寸法パラメータ、構造因子などで表される。Biotモデルと観測データとの比較を図49に示す。各グラフ内の二本の実線は、これらのパラメータの±5%の値で計算されたモデルの範囲を示しており、エラーバーは観測データのバラツキを示している。本論文では周波数が高くなるほど、モデルとの相関が見られると結論づけている。







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