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(2)室内実験の例
 一方、音波を用いて底質を推定する試みとして、NO.12〜NO.15の論文において、室内における地道な基礎データの収集を行っている。海底堆積物内を伝搬する音波の伝搬速度及びその減衰定数は、海底地層探査などを音響的に行う場合に必要となる基本的な定数であり、音響管による基礎データの収集が古くから行われている。1967年のNO.12の論文では、泥、粘土の粒径の異なる複数のサンプルを用いて、音波による堆積物の音速と減衰定数を求めている。
 
図45. 音響管による音速と減衰定数の測定
 
図46. 音響管による実験結果
(a)音速 (b)減衰定数
 
(a)Sound speed
(b) Attenuation constant
 
 NO.13の論文で紹介されている実験では、図45に示すように音響管内に堆積物を入れ、音響管上端に設置した音源よりトーンバースト波20波を走波している。周波数は6.6kHzから11kHzまでの周波数帯である。堆積物内を透過する音波を2m離れて設置したハイドロフォンによって、2ヶ所で測定し、音速と減衰定数を求めるものである。また室内実験で収録したデータをモデルに当てはめる試みも行われている。海底堆積物中の音速と減衰定数を表す理論としては、フランスの物理学者Biot(ビオ)によって提唱された多孔性飽和媒質中の音波伝搬理論をStollらが、海底堆積物中に伝搬する音波に応用したBiot-Stollモデルがある。観測値及びモデルにより計算された理論値を図46に示す。図より音響管による観測値とモデルとの相関が見られる。
 このような人口的な環境の中で収集したデータと実海域で得られたデータとは、必ずしも一致しない。この実験では、砂を音響管の中に入れる際に管内を水で満たしてから、ゆっくりと時間をかけて投入し、状態を安定させるため振動を加えた後、砂を音響管になじませるため、約1時間放置した後に測定しているが、実際の海底堆積物の組成、粒径分布、間隙率、密度といった状態を人口的に造りだすことは極めて難しい。
 
(3)堆積物コアを用いた例
 海底から取得したコアサンプルの音響パラメータを直接測定する試みは、NO.16で紹介されている。本論文では、実海域で得られた海底堆積物のコアサンプルを用いて、海底堆積物中を伝搬する音波の音速と減衰定数を測定している。コアサンプルを用いることで、より実際の堆積状態に近い環境で測定することができる。ただし、この揚合においても室内と海底では、水温、水深などが異なる。本論文では、サンプル採取地点の水深、水温、塩分濃度から音速値を算出し、室内実験で得られた音速値との差を見積もっており、海底の音速は室内実験で求めた値に比べて97m/s速い結果となっている。







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