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(2)観測結果
 現地観測項目は、1)フロート、HGPSフロート、染料(シーマーカー)を用いた流況把握実験と、ADCP、Wave Hunter、 DL-2を用いた固定点での流れ計測、2)赤外線ビデオカメラ・デジタルビデオカメラによる流況・水温観測、3)Wave Hunter94、 Wave HunterΣ、DL-2を用いた波高定点観測、4)3Dスキャナーを用いた瞬間的な岸沖水面形状計測および水面形状の平面分布計測、5)トランシット・3-Dスキャナー(3次元レザー地形測量器)・DGPSを用いた地形測量および小型GPSによる干潮時および満潮時の汀線測量などであった。また、波高計においては、水温の連続記録も得た。以下にそれぞれの計測項目についてのデータ解析結果について述べる。
 
1)染料観測
 染料観測は、ヘリコプターによる上空探査を行った平成15年6月5日(木)に、青島上空をヘリコプターが通過する時にまず予備的に行った。この時は、波が比較的高く陸上班が離岸流そのものの直近まで近づくことが難しかったこと、陸上班と上空(機上)班の交信に携帯電話を使用したために交信が必ずしもうまくいかず、離岸流そのものよりも沿岸流やfeeder current(直近で離岸流に水塊を供給する流れ)を染料実験でとらえることになった。低高度を保持したヘリコプターから浅水域に染料を直接投入する方が、確実に染料を離岸流内に投下できるものと考えられるが、ヘリコプター設置型のシーマーカーでそのようなことが可能かは、今後の検討課題といえる。また、現地観測時には、観測地の斜め背後に位置する青島パームビーチホテル屋上(図2.3.12参照)に、デジタルビデオカメラと赤外線カメラを設置し、染料の移動(移流・拡散)状況を記録した。染料は、青島で波が遮蔽されがちな海水浴場側の海浜側と、計測器を配置した比較的波が高い北部海浜(サーフィン用海域)側で投入した。染料実験の結果、海水浴場側の青島南部海岸では、サーファーにより沖合に投下してもらった染料が沖合に流出することなく、沿岸流により移動しながら最終的には砕波に伴う向岸流と波乗りで砂浜上に打ち上げられた(図2.3.14参照)。一方、北部海岸では図2.3.15に示すように、2箇所で染料が沖合いに移流・拡散し沖合の沿岸砂州を越えたあたりで、北方向に向きを変えて移動し続けた。離岸流に乗り沖合いに流出した漂流物が最終的に北側、あるいは南側に漂流するかどうかについては、地元サーファーの経験によれば、風向きに依存しているとの情報があった。救難・捜索という観点からは、今後、この点についても定量的に明らかにする必要があると考えられる。
 
図2.3.14 海水浴場側の染料の移流・拡散状況
 
図2.3.15 計測箇所での染料の移流・拡散
 
2)ビデオカメラ・赤外線カメラによる流況観測
 観測期間中、観測地に隣接した青島パームビーチホテル7階の部屋に設置したデジタルビデオカメラを用いて流況の録画を行った。録画画像から、離岸流域では波の波峰線が一様でないこと、また、非常に小さな漣(さざなみ)状の水面の擾乱が現れやすいこと、ゴミなどが離岸流域に集積しやすいことなどが分かった。この様な情報は、離岸流を目視でどのように探査できるかの参考資料となる。
 本研究では、上空探査や各種計測機器を使用して離岸流探査を行っているわけであるが、一般的には現地海岸を歩きながら何も計測機器を持たない状況で離岸流を探す手法を必要としているわけであり、この様な状況での目安になる知見が、ビデオ録画された画像を見直すことで得られた。この知見については、後述する。
 また、現地観測に当たり、赤外線画像(イメージ)が離岸流探査に有効ではないかとの推測があった。そこで、染料実験時に熱赤外画像の取得を第十管区海上保安本部海洋情報部所有の赤外線カメラを使用して計測を行った。現状では、観測期間の短さもあり定量的な論議は次年度以降に譲ることにするが、写真2.3.16に示すように、各種流況観測で推定された離岸流域と赤外画像イメージの低水温部分とがかなり一致していることが分かる。顕著な離岸流が赤外画像(イメージ)で認識できるようになれば、海岸工学・海洋工学の専門家でなく一般の実務化レベルでも、離岸流域の判読・推定が可能になるため、この技術を今後改良・発展させる必要性が高いと思われる。
 
図2.3.16 離岸流域の熱赤外画像と可視画像
 
3)海象観測(波浪と離岸流)
 今回の観測では計測機器が離岸流域内に適切に設置できたこともあり、明瞭な離岸流の記録が得られた。今回、特に代表的な計測記録について図2.3.17と図2.3.18に示す。
 図より、青線で示す平均流速記録を見ると、離岸流が12時間程度の周期性を示して発達していることが分かる。本観測では最大で0.8m/s程度の離岸流速が発生していることも分かる。また、観測地点での入射波高は、観測地点が干潮帯にあるために、砕波波高が局所水深により制限され、潮汐変動に対応した変化となっていることが分かる。さらに図中の緑線で示す水温変動を見れば、離岸流発達時に、水温の低下傾向がある。この水温との因果関係については、夏季だけでなく冬季においても観測を行い確認する必要があるが、少なくとも水難事故が多発する夏季においては、水温が低下するという現象が普遍性を持てば、ヘリコプターなどの航空機を用いた上空からの赤外線(熱)探査が有望なことを示す。
 空間的な平均水位の分布は、セットアップを規定する砕波水深(波高)の空間的分布を制御する。観測地点が干潮帯にあるために、砕波水深が潮位に強く依存する結果となる。そこで、離岸流と平均水位(潮位)の時間変動の関連性を検討するために、図2.3.19と図2.3.20に、夫々離岸流域と向岸流域に設置された波高・流速計から得られた時系列データを示す。図中、平均水位(潮位)の記録は、比較のために0.1倍にしてある。図より、干潮時側で平均流速が最大で0.8m/s程度まで増加していることが分かる。また、流向は、0°と360°がN方向、90°がE方向、180°がS方向、270°がW方向である。離岸流域に置かれた計測器の記録(図中赤線で流向1)では、特に干潮時付近でN向き側に流向が収束することが分かる。一方、向岸流を狙い設置した計測器の記録(図中緑線:流向2)では、対像的に干潮時近辺で流向が180°近傍にあることが分かる。なお、図中混在流と書いた記録は、元々離岸流をねらい設置した計測器の記録であるが、流向から見ると、離岸流(0°付近)の時間帯や、離岸流に水塊を供給するfeeder current(135°付近)の特性を示す時間帯などが混在していた。
 本観測箇所では、少なくとも満潮時には離岸流が発達しなかった。この離岸流発生の有無を説明できる詳細な物理機構は、現段階では必ずしも明確にできなかった。しかし、干満差のある海域で離岸流探査を行う場合には、干潮時側に探査作業を行うほうが離岸流を効率的に探せることを意味する。加えて、浅海域の海底地形自体は最干潮時が判別しやすいことも事実である。
 
図2.3.17 
WaveHunterΣによる平均流速、水温、波高、平均水位の時系列データ(波高計1)
 
図2.3.18 
WaveHunterΣによる平均流速、水温、波高、平均水位の時系列データ
(波高計2)
 
図2.3.19 
DL-2により得られた平均流速と平均水位
(気象庁データ)の比較
 
図2.3.20 
DL-2により得られた平均流の流向と平均水位
(気象庁データ)の比較







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