(3)解析及び考察
ここでは、観測結果の1)で述べたうち、(1)潜堤開口部の離岸方向流れ、(2)静穏時に突如発生する離岸方向流れ(7月3日0時)及び(3)汀線の凸部から発生した離岸流についてその成因について考察する。
1)開口部で発生する離岸方向流れについて
潜堤開口部での沖向き流れは、昨年度の実測でも観測されている。今年度の観測期間における入射波の波高はほぼ同じであるのに対し、波向は昨年度と異なり、若干西向きに振れている。海浜流の数値計算によりこの波向の差異が開口部の流れに及ぼす影響を検討した。結果を図2.2.14(波向NNWに対応)および図2.2.15(波向NNWに対応)に示す。
いずれの波向の場合も、西側潜堤背後では西向きの海浜流が、東側潜堤背後では束向きの海浜流が発生し、それらがぶつかる潜堤開口部から沖に向かって流出する。しかし西側潜堤背後で発生する東向きの流れは、波向NNEの場合の方が強く、東西潜堤背後で発生する西向きおよび東向きの沿岸方向流れのアンバランスが大きい。その結果、東よりの波が入射する場合のほうが開口部で発生する沖向き流れは小さい。
いずれにせよ、入射波高が1mを超える場合に顕著となる開口部からの沖向き流れは、従来の海浜流計算手法で十分な精度で予測することができることがわかる。
図2.2.14 波向NNEの場合の海浜流(Hs=1.0m、Ts=6.0s)
図2.2.15 波向NNW場合の海浜流(Hs=1.0m、Ts=6.0s)
2)静穏時に突如発生する離岸方向流れ(7月3日0時)
前出図2.2.10に示す、突如発生する流れの発生について考察する。図2.2.16は、流速測定点と同じ地点で同時刻に圧力センサーによって測定された水圧変動から推定した水位変動の時系列(5h-raw)と周期20s以上(周波数0.05Hz以下)の長周期変動を示す。水位は、若干グルーピングを形成しているような変動を示すが、突如流れが発生する1440sから1660sにかけては、特異な変動を示さず、波高もほぼ20〜30cmの値である。しかし、長周期成分は1200s付近から徐々に低下し、1440sおよび1560s付近で、数cm低下が生じている。
図2.2.16 流速測定点での水位変動
流速測定点の周辺での水位変動あるいは波高も、図2.2.16に示す時系列とほぼ同じ大きさで、顕著な変動は示していない。図2.2.17は、波高測定点(No.5)とその東西方向に10m離れた測点(No.3: 西側およびNo.7: 東側)での水位変動のスペクトルを示したものである。
図2.2.17 流速測定点周辺での水位変動スペクトル
図より明らかなように、測点3および5で計測された水位変動は、すべての周波数帯で同じ変動を示し、測点7での水位変動もF<0.01Hzの低周期側を除き、同様の変動特性を示す。
図2.2.18は、低周期側で見られた差異の原因を検討するため、上記3つの時系列から高周期変動を取り除いた変動(周期20s以上、周波数0.05Hz以下)を比較したものである。
ただし、すべて平均は0の時系列として示した。
図2.2.18 流速測定点周辺での水位変動の長周期成分
図2.2.18より、離岸方向の流れが発生し始める時間1200s以降は、測点No.5での水位が相対的に低下し始め、その状態が1800sまで継続する。この時間はちょうど沖向き流れが発生している時間と対応する。流れが発生することによって水位の低下が生じたのか、水位低下が生じたから流れが発生したのかは判断できない。また、後者の場合、なぜ水位低下が生ずるのかということについても、さらに検討を加える必要があるが、少なくともこのような突発的な流れの発生を議論するためには、平面的な広がりを持った各種水理量の計測が必要である。なお、この時の波浪の来襲方向と方向分散性を示すために、長周期変動成分をカットしたN-SおよびE-W方向の流速の相関を図2.2.19に示す。図2.2.19より、方向集中が高い卓越波向を有する波が来襲していたことがわかる。
図2.2.19 流速測定点での波浪方向分散
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