細かく気を使いながらの操船に感心した後、赤石さんにお聞きしました。
○きれいなところですね。
◎きれいでしょ。絵になるでしょ。ここ(南九十九島)は、どこをとっても絵になるんです。だから毎日見飽きることがないんです。
赤石茂美船長
赤石茂美船長
○どうして、船員になろうと思ったんですか。
◎中学3年生のとき、将来自分が何になりたいのかわからなかったんです。友達は、何になりたいかわからないから、とりあえず偏差値のいい高校へいくって言って勉強してました。でも、私はそれは絶対いやだったんです。そんな時、学校で国立大島商船高等専門学校のポスターをみて、「これだ!」と思いました。小さい頃から海が好きだったし、「これしかない」って思いました。私の中学では商船高専に行ったのは私が初めてで、先生方はびっくりしたみたい。
○商船高専の授業は厳しいときいていますが。
◎これだと思って入った学校なので、実験とか実習とか苦にならなかったですね。でも、入学時には40名(女子は3名)いたのが卒業する時には約20名になってました。いろいろあるんですよ、入ったけど、やっぱり船にはあってなかったとかね。
九十九島
○卒業して始めはハウステンボスに入ったんですね。
◎そうです。カナルクルーザー(運河船)を操船してました。
よく次は大型船(の操船)ですねっていわれるけど、私はこの仕事が好き。卒業してハウステンボスに入ったのも、人と触れ合うことができるからです。大型船もいろいろあるし、乗れるんだけれど、私は遊覧船がいい。
お客さんといろいろお話ししたり、お客さんのリクエストで、一緒に記念撮影をすることもあるんです。呼び止められて、「自分の父親も船にのっていたんですよ。あなたの操船するのをみていて、懐かしく思い出しました。」とかね、「どこからいらっしゃいました。今日はどこをみましたか。」なんて、いろいろいっぱいお話をします。それが楽しいんです。
○落ち込むことはありますか。
◎いやなことって別にないんです。もちろん、失敗したり、むずかしい事とかあるんですけれど、「これはいつか役にたつぞ、これを乗り越えたら新しいことが拓けるかもしれない」と思うので、落ち込むことはあまりないんです。
私は、男社会があってもいいと思うんです。相撲社会のように、土俵に女性はあがれないとか、そういう社会があってもいい。
船の世界は男社会だといわれるけれど、私は、「ちょっとお邪魔します」っていう感じでいます。もちろん仕事をする上で、体力とか、体格とかの違いはあるから、それはもうどうしようもないので、そんな時は「すみません、手を貸してください」ってお願いします。
でも、それだけのことです。「私は私」って思うから、特別構えることなんてないです。
パールクィーン
海が好きで、人が好きで、選んだのがこの世界。当然のようにこの仕事に就いた。だから、別に気負うこともなく、ごく自然体でいられるんですね。
「このお仕事は天職ですか。」と聞いたら、「だといいんですけれど」と照れくさそうに笑っていました。大きな目がいきいきと動き、輝く、陽光のまぶしい九十九島によくあった女性でした。
パールクィーンはバリアフリーに配慮して、乗降タラップの段差がない、エレベーターで3階まであがれる、身障者用トイレ、点字ブロックを整備しているなど、乗る人すべてに優しい心配りをしている船でもあります。
パールクィーン
当日は小学生のグループが乗船し、船内を元気に探索していたため、先輩の船長さんが「デッキを走らないで下さい」とアナウンス。また、キャビンにいると船体のバランスが肌で感じ取れるものらしく、赤石さんは「今日は上(3階)にたくさんいますね。」とつぶやいていました。
船内では案内放送もしていますが、九十九島の島のこと、自然のこと等を教えてくださる九十九島ボランティアガイドさんが乗船していて、観光客の皆さんに説明してくれます。
いろいろな人が一体となって、九十九島を訪れるお客様をお迎えしているあたたかい職場でした。
(取材 池本朋子)
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