【深刻なプラスチックごみ】
ところで、実際の海岸にはどのようなごみが流れ着いているのだろうか。
2001(平成13)年の世界調査では(1)たばこのフィルター(2)食品などの袋(3)ふた、キャップ(4)プラスチック製ボトルの順。日本の2002(平成14)年データを見ると(1)たばこのフィルター(2)プラスチック破片(3)発泡スチロールとなっている。
研修ではクリーンアップ全国事務局の小島あずさ代表が海岸ごみの現状と影響、特にプラスチックの影響について話した。
小島代表によると、風化して微小に砕けたプラスチックは植物プランクトンと同じように海中を浮遊し、微生物の体内に蓄積されるものもあるという。そうした微小プラスチックが食物連鎖を通して、より大型の魚類や人間を含むほ乳類に蓄積された場合、どのような影響がでるのだろうか。科学的には未解明の領域だが、私は食物連鎖を通した有機水銀の蓄積、という水俣病の悲劇を思い出さずにはいられなかった。
こうした観念的な話とは別に、参加者の目を引いたのは、太平洋全体からごみが流れ着く「ごみベルト地帯」と呼ばれるミッドウェイ環礁で、餓死したアホウドリのひなから出てきたというプラスチック製品の数々だった。
桜島のレインボービーチで、「全国クリーンアップ事務局」メンバーの説明を受ける参加者。九州のほか広島県などから約50人が参加した。
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「海守クリーンアップキャプテン研修」で海岸ごみの現状について話す「全国クリーンアップ事務局」のメンバー。
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ブラシ、ライター、ゴルフボール、うき・・・。これらのごみは親鳥がえさと間違えてひなに与え、ひなはえさを食べられなくなってしまうという。研修参加者は海の環境に関心のある人ばかりとあって、実際に並べられたこれらのごみを手にとり、汚染の深刻さを実感しているようだった。
【活発な鹿児島の活動】
全国の中でも運動を熱心に推進しているのが、今回の会場となった鹿児島県だ。
同県では海洋スポーツ愛好者や漁業関係者を中心に1999(平成11)年「クリーンアップかごしま事務局」を開設。市民グループや学校単位で行うクリーンアップに海上保安庁や県、市町村なども協力し、2002(平成14)年は26会場、1637人が参加している。
研修では、同県での運動の中心人物の一人である鹿児島大学水産学部の藤枝繁助教授が講演。藤枝助教授は1998(平成10)年、同県沿岸に中国・台湾製の生活ごみが大量に漂着したことを機に、流出源を調査したこと、特にプラスチックライターの分析を紹介。「日本を含め、アジアの経済発展で海に流出するごみが増えている」などと話し「鹿児島の海をきれいにすれば、世界の海がきれいになる」と訴えた。
また藤枝助教授は、漂着ごみの中に目立つ発泡スチロールの破片に着目。養殖いけすの発泡スチロール製フロートが発生源のひとつとみてフロート生産者や養殖業者と話し合い、使用済フロートのリサイクルに乗り出したことなど、状況の改善に向けた取り組みも報告した。
【熊本でも実施】
筆者の住む熊本県牛深市は県内最大の漁港を抱え、人口約1万8000人。本県ではほとんどの港湾が有明海という内海に面しているが、牛深港は東シナ海に面しており、江戸時代から全国と交易を結んだ歴史がある。当地で毎年4月に催される「ハイヤ祭り」で市民が踊る「ハイヤ節」は熱狂的な南国のリズムで知られるが、北前船の交易ルートで東北に伝わり、新潟の佐渡おけさや青森の津軽節のルーツになったという。
そうした地理的な条件もあり、当地の海岸を歩くと中国、韓国などから流れ着いたプラスチックごみなどをよく拾う。しかし海岸に漂着するごみの量は増加しており、毎年夏の海水浴シーズン前には、市民が総出で海水浴場のごみ清掃を行う様子がみられる。
「ごみベルト地帯」と呼ばれるミッドウェイ環礁で、餓死したアホウドリのひなの体内から出てきたプラスチック製品など。親鳥はエサと間違えてひなに与え、ひなはえさを食べられなくなってしまうという。
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「クリーンアップ」と同様のごみ調査も、地元の海上保安署と海洋少年団が合同で毎年6月の環境月間に実施していたが、海岸ごみの問題を広く市民で考える機運には至っていなかった。
そこで研修から約1カ月後の10月26日、牛深海洋少年団の子どもたちと牛深海上保安署、牛深ロータリークラブなど約45人に集まってもらい、当地の茂串(もぐし)海岸でクリーンアップ調査を実施。約300キロ、4026個のごみを回収した。最も多かったごみは発泡スチロール。プラスチックごみの多さなども参加者に理解してもらえたようだ。
◇ ◇
「おい、海に遊びに行こう」。
熊本市内の本社から今年春、当地の支局に転勤して初めての夏。幼稚園から帰った6歳と5歳の坊主を連れて出かけた海岸は、どこからとなく流れ着いたごみでいっぱいの砂浜だった・・・。
そんな体験から海岸のごみ問題を真剣に考えていた折、ちょうど会員登録したばかりの「海守」事務局から「クリーンアップキャプテン養成研修」の案内をいただいた。取材者としてごみ問題を取り上げるだけでなく、身近な海岸をきれいにする方法を学んで実践してみよう―。
実際に研修に参加し、当地牛深で調査を実施した感想は、拾っても拾っても次から次へと流れてくるごみに「どうすればいいのか・・・」と途方にくれたのが素直な印象だ。
地元の人たちも「拾ってもどんどん流れ着くし、放っておけばまた流れていく」とあきらめ顔。だが菓子の袋やペットボトル、空き缶など流れ着くごみをじっくり見ると、その発生源が私たちの日常生活にあることがよくわかる。
転勤で赴任しただけの私だが、牛深の海は息子らにとって「ふるさとの海」になるし、私もこの海を愛したい。
そのためにできることは何か。まず海岸を歩いてみよう。そして落ちているごみを拾ってきれいにしよう。しかし最も大事なことは、便利さや使い捨てに慣れきった私たちの生活そのものを、じっくり見つめなおすことではないだろうか。
「クリーンアップ」を学び、実際にやってみてそう思った。
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