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豊後二見浦 森田正孝 作
 
表紙絵(竹田岡城趾・豊後二見浦)及び挿絵
森田正孝 作 日展会友、日洋会委員、熊本県美術協会会員、熊本県美術家連盟委員
 
―バリアフリーを通じて町や社会を見つめなおす―
 
国土交通省 総合政策局 交通消費者行政課長
後藤靖子
 
 
 「『みんな』の中にはいろんな『みんな』がいます。一人一人が心のバリアをとりのぞき環境のバリアをみつめなおして、手伝いましょうかと気軽に声をかけられる雰囲気を私たちから作っていきたい」
 石垣島の小学5年生米盛さんの発言に、11月14日、代々木の国立オリンピック記念青少年総合センターのホールは期せずして大きな拍手につつまれました。
 この日、全国でバリアフリーに取り組んでいる、交通機関や自治体の職員、まちづくりに取り組んでいる市民、NPO、小中学生、など様々な方たちが集い、それぞれの取り組みを報告し、知恵と元気を共有する「交通バリアフリー推進の集い」が開催されました。取り組みの中からバリアフリー大賞も選定され、エレベーターの設置にあたって地上の用地確保が困難ななか、民家の一階に地下鉄の出入り口を設けるなど土地所有者の協力をえてエレベーター設置の工夫をしている営団地下鉄や、地元の商店街や子供たちと共同で地域のバリアフリー推進を図っている市民団体などが表彰されました。また、昨年大賞をうけた「さいたま新都心のバリアフリーまちづくりボランティア」のかたがマネジメントの重要性について語り、あるいは「バリアフリーのまちづくり」を掲げてこの10年で宿泊客が66%アップした(66%になったのではないですよ)高山市の方が「リーダーの意識改革が必要」など、にぎやかに意見交換がなされました。
 交通機関を中心としたバリアフリーは、2000年に交通バリアフリー法が制定され、2010年にターミナルの段差を100%解消すること、鉄道車両・バス・旅客船等のバリアフリー化の数値目標が定められ、現在、交通事業者や自治体を中心に様々な取り組みがすすんでいます。またターミナルを中心とした地域のバリアフリー化を推進するための基本構想の策定も自治体間で広がっています。
 こういった施設整備の取り組みはもちろんですが、一方で、すべての人が障害の有無や年齢などにかかわりなく、自立して生き生きと暮らしていける社会を築きあげるためには、私たち一人一人が、助け合いの気持ちを持ち、そしてそのことを特別のことではなく当然のことと考えることができるようになることが不可欠だと思います。
 冒頭の発言は、国土交通省が全国で開催している、車椅子や視覚障害の疑似体験と介護の方法などを学ぶ「バリアフリー教室」に参加した、小学生の発表の一場面です。「体験してみてはじめてその大変さがよくわかり、これからは、町の中て困っている人がいたら手助けをしたいと思います」との発言に、あたりまえといえばそれまでですが、いやな話の多い昨今、これからの社会を担う子供たちがバリアフリーに向き合ってくれることをとてもうれしく、また、こういうことの積み重ねが、これからの日本の将来を明るいものに築き上げていく基礎になるのではと、暖かい気持ちにあふれる瞬間でした。今後も、各地の学校や教育委員会のかたがたと連携して総合学習の一環などでバリアフリーに取り組む動きを広げて行きたいと思っております。
 
 
 今、多くの地域の住民が、町を自らの問題として向き合い始めています。その町に住むことの幸せとは何かを考えると、地域や社会をありのままに見つめ、自らの問題と感じ、何とかよくしたいと行動し、少しずつ成果をあげ、仲間を得て、その中で自らの存在価値も見出すことができる、そのプロセス抜きには語れないように思います。
 バリアフリーの問題も、地域・社会に住むことに喜びを感じることができるかどうかの一つの重要な切り口だと思います。逆にいえば、バリアフリーの切り口で地域や社会を考え直すことで、交通や福祉のみならず、教育や、中心市街地活性化、観光をはじめとして地域が抱える様々な問題を解決していく手立てとなりうるように感じています。
 
 
 私は現在、交通関連のバリアフリーを担当しておりますが、この直前に、海上保安庁で国際危機管理官として2年間勤務いたしました。工作船事件等がおき、日本の海をとりまく状況がけっして安泰ではないということが大きくクローズアップされた時期でもありましたが、海上保安庁のもつ使命感の高さや、その一方でなんともいえないおおらかな気風にすっかり魅せられた2年間でもありました。このおおらかさは、やはり、世界に開かれた海の男女のもつ特性ではないかと思っております。
 この、ものにこだわらないおおらかなやさしさは、海に囲まれて世界に開かれた九州という地域にも当てはまると私はかねてから思っております。それは、古代から大陸などとの間で自由に行き来をしていた、地域の持っているDNAのなせるわざかもしれません。
 九州アイランドが、年齢や性別、障害の有無などにかかわりなく、すべての人の違いを認めあい、そして、助けあう社会、それぞれがいきいきと自立して暮らせる社会を目指してほしいと思います。そのことが、他の地域・国からの人を暖かく迎えることとなり、地域全体の魅力を輝かせることにつながると思うのです。そして、これからの九州が、様々な面で日本をリードするような地域になることを心より期待しております。







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