4. バラスト水交換に伴う安全性の検討
4.1 安全なバラスト水交換に関するマニュアルの検討
本調査研究の最終目的のひとつは, 安全なバラスト水交換に関するマニュアルを作成することであり, BALLAST WATER MANAGEMENT PLAN (MANUAL) を本分科で纏め, 平成14年度報告書に添付した。
このマニュアルには, バラスト水交換を行なう手順を記述することに加え, バラスト水交換を行なうに際して生じると考えられる船舶の安全上の問題を調査し, その対策をマニュアルの中の情報として船長に供することができる内容とするよう努めた。具体的に対策を講じたのは,
(1)復元性
(2)縦強度
(3)船橋視界
(4)プロペラ没水
(5)浅喫水における船首船底部スラミング
(6)バラスト水タンク内のスロッシング衝撃
である。
その結果, Sequential Methodでバラスト水交換を行った場合, 縦強度, 船橋視界およびプロペラ没水の3要件を同時に満足させることは, 就航している船舶のバラスト水タンクでは達成が基本的には困難であることを実証した。
これを受けて, 縦強度は満足しているが船橋視界とプロペラ完全没水が達成できないことがある場合には, 船橋視界についてはバラスト水交換を錯綜海域では行なわず, さらに, 監視人数を増やして船橋視界の安全性を確保すべきである点と, プロペラの完全没水が達成できない場合は, 主機出力を低下させるべきである旨を既に平成15年度公開したMANUAL中SECTION 11に記述している。
また, 浅喫水においては船首船底部部にスラミングが生じるため, 本報告書3章で述べたように, スラミングが発生しても船体強度上許容し得る範囲のスラミング衝撃圧に押さえるための海象条件を提示できた。この結果は, 同じくMANUAL中SECTION 11に取り入れられている。
なお, バルクキャリアのバラスト兼用ホールドでのスロッシングの発生メカニズムについても, 本報告書3章で調査結果が報告されており, 重大な影響が無いことが示されている。従って, スロッシングについてはMANUALでは一般的な注意を喚起するに留めている。
バラスト水交換をFlow-through Methodで行った場合の注意事項としては, 発生が予想されるバラストタンク内の付加水圧増加を軽減する方法として, Flow-through Method実施中バラスト水タンクのマンホールを開けて付加水圧を開放する方法と, バラストタンクの空気管の合計断面積をバラスト注入管の合計断面積の2倍以上とする方法とを, MANUALに記述している。
このバラストタンクの空気管の合計断面積をバラスト注入管の合計断面積の2倍以上とする方法は, バラスト水交換を行う船舶のシーチェスト, バラストポンプ, バラスト水ライン, バラスト水タンクおよび空気管内のバラスト水流による発生水圧を解析し, バラスト水タンク内に生じる付加水圧をバラスト水タンク設計許容圧力内に押さえるための目安として提案したものである。
本分科会では, バラスト水交換に伴う安全性について検討を行った結果を, バラスト水交換を行う船舶が所持するMANUALの形で取り纏めた。このMANUALに記載されている安全性に関する考慮を行えば, バラスト水交換を安全に行えるものと考えられる。
一方, IMOではバラスト水管理条約の審議が行われ, 2004年3月に国際条約が採択された。この条約の策定に伴って, IMOでは関連の多数のGuidelinesも策定している。それらの中に, General Guidelines for Ballast Water Managementがある。このGuidelinesは, バラスト水交換を実行する際の包括的な指針を含むものであり, 以下の構成となっている。
Part 1 - General Guidelines for Ballast Water Management
Part 2 - Guidelines for the development of Ballast Water Management Plans
Part 3 - Guidelines on Sediment Control in Ship's Ballast Water Tanks and Sediment Removal
Part 4 - Guidelines for Ballast Water Exchange Design and Construction Standards for New Ships
Part 5 - Guidelines for Ballast Water Exchange
Part 6 - Guidelines for Ballast Water Reception Facilities
この内, Part 1にはバラスト水管理条約適用船が所持すべきBALLAST WATER REPORTING FORMが含まれており, また, Part 4には条約発効後条約の適用を受けて建造される船舶の構造についての要件が, Part 5にはバラスト水交換を行う場合の要件が本分科会で検討された船舶の安全に関する要件まで含めて, 包括的に網羅されている。
このGuidelinesは, バラスト水管理条約採択後にIMOにおいて詳細に検討されていく予定である。本Guidelinesの内容は, バラスト水管理条約が発効した場合, 船舶の建造および運航管理に多大な影響を及ぼすものと考えられるため, IMOでのその審議には, 今後も積極的に関わっていくことが必要と考えられる。
本分科会では, これまで国内の意見をまとめて, 本Guidelinesを担当しているCorrespondence GroupのChairmanにコメントとして送付している。
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