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2.2 模擬火災発生場所
 機関室火災に関する調査結果に基づいて、出火場所を(1)主機ディーゼル機関の排気管高温部近傍、(2)主発電機ディーゼル機関の排気管高温部近傍、(3)ボイラ噴燃装置近傍、(4)燃料油処理装置近傍及び(5)焼却炉噴燃装置近傍の5カ所に特定した。これらの出火場所の中でも、特に(1)から(3)は出火の頻度が比較的高い重要な場所であることから、当該場所では必ず試験を実施することとした。(4)及び(5)の場所については、探知器の位置、通風状態等を考慮して特に必要と認める場合を除き省略可能としたが、ここでいう「特に必要と認める場合」とは例えば次のような状況である。
(a)燃料油清浄機の火災で発生した煙が探知器で感知されることなく、そのまま排気ダクトに吸い込まれると予想される状況
(b)焼却炉のバーナ部近傍における火災で発生した煙が通風ダクトからの気流で流され、明らかに火災探知器が煙を感知しないと予想される状況
 本実施要領では試験場所を5カ所と定めたが、当該場所で実際に火災試験を実施するにあたっては、通風状態を考慮して模擬火災を発生させる位置を決める等、注意が必要である。そこで、個々の試験場所ごとに試験実施上(あるいは設計上)の注意点について説明する。
 
(1)主機ディーゼル機関の排気管高温部近傍
 主機ディーゼル機関で出火場所として想定される高温部は排気マニホルド、T/C、排気管である。図2.2.1のように、大型船においては主機上部のスペースが広く、主機の真上に煙探知器を設置することは困難であるため、通常は右舷及び左舷のデッキで中央寄り(主機寄り)に探知器が設定されている。探知器配置に関する現行の条約(規則)は、局所の火災探知を目的としたものではなく、機関室全般における火災探知を目的として規定面積当たり1個と定められているので、このような配置でも認められる。
 しかし、現実には、排気マニホルドやT/C等の機関中央部で出火した場合、煙はほぼ真上に上り、上部の広いスペースに拡散してしまうため、これを現行の条約で認知されている煙式(あるいは熱式)の探知器で感知することは困難であり、炎式のような他形式の探知器に頼らざるを得ないものと考えられる。火災試験においても同様であり、機関中央部にて模擬火災を発生させたとしても右舷または左舷の探知器が煙を感知することはほとんどない。
 火災試験で探知器の有効性を確認できる場所は、例えばT/C出口側の排気管の近傍である。図2.2.1のようにT/C出口側の排気管は右舷寄りに設置され、また、この周辺には火災探知器が取り付けられているので、探知器が取り付けられているデッキで模擬火災を発生させて試験を実施し、この試験に合格すれば主機ディーゼル機関排気管近傍における試験に合格したものとみなすことができる。
 
(2)主発電機ディーゼル機関の排気管高温部近傍
 主発電機ディーゼル機関は、通常2台または3台の機関を船側方向に並べて配置し、周囲には船側外板やタンク壁があることが多い。火災探知器は機関と機関との間に1個、または機関ごとに1個づつ設置される場合が一般的である。図2.2.2に機関2台、探知器1個のときの配置例を示し、通風ダクトからの気流を考慮した火災試験の方法を紹介する。
 機関が2台の場合、火災試験は機関2台の中間位置のグレーチング上で模擬火災を発生させて行うことが多く、このときの探知器警報の動作状況は、壁面の位置と通風ダクトの配置で決定される。通風ダクトの配置及びそれによる気流分布は一般に図2.2.2のCASE(i)〜(iii)のように分類される。CASE(iv)は、実際にはあり得ないと思われる配置であるが、探知器警報が鳴りにくい状況を説明するための例として示した。
CASE(i)
 機関と機関との間で壁面の方向に向かって通風するケース。機関室中央(すなわち、機関室内全般における気流の出口)をこの図の右下方向とすると、発電機関周辺の気流は全般的には右下方向に向かうと考えられるが、発電機関周辺の局所の気流分布は通風ダクト開口部の数、通風方向、壁との位置関係で決定される。CASE(i)における気流分布は、機関の横では図の右から左に、機関の上部では左から右に向かうと推測され、火災試験で発生した煙は発電機関周辺にこもり易い。
 
図2.2.1 大型船(コンテナ船)主機上部における火災試験
 
 
図2.2.2 主発電機ディーゼル機関周辺における火災試験
(1)適当な治具を用いて、できるだけ機関の上部で模擬火災を発生させ、試験を実施することが望ましい。
(2)機関2台の中央のグレーチング上で模擬火災を発生させ、試験に合格した場合、火災警報が鳴りにくい条件であるので認めることができる。
 
 想定される出火場所は排気管近傍なので、試験場所としては、図の(1)のように、適当な治具を用いてできるだけ機関の上部で試験するのが望ましい。しかし、事前の準備が必要となること、また、安全性の観点から、実際には機関と機関との中間位置のグレーチング上(2)で実施することが多い。(2)の位置は、通風ダクトからの気流を直接受ける場合が多く、また、本来この位置は出火し易い場所ではないので、できれば(1)の位置が望ましいが、(2)の位置で試験に合格した場合には、火災警報が鳴りにくい条件であるので認めることができる。
CASE(ii)
 機関と機関との間で壁面側から開放スペースに向かって通風するケース。通風の方向としては、この図のようにダクト開口部の高さを機関高さ以下として、デッキに平行に通風するか、あるいは、開口部の高さを機関高さ程度またはそれ以上として、開口部に45度程度の角度を設け、右下向きに通風する場合がある。気流分布に関しては、機関と機関との間のスペース(機関高さ以下)においては気流は図の左から右に吹き抜けの状態となるが、機関の直上を含め上部のスペースにおいては逆方向の流れとなる。
 火災試験に関しては、(1)の位置であれば通風ダクトから吹き出す強い気流の影響を受けることがないので火災警報が鳴りやすいが、(2)の位置では煙がそのまま気流に乗って右に流され、探知器が煙を全く感知しない恐れがある。この場合、安全上グレーチング上でしか試験できない場合には、(2)に代えて(3)の位置で試験することも1つの方法であり、いずれにしても(2)または(3)の位置で試験に合格した場合には、火災警報が鳴りにくい条件であるので認めることができる。
CASE(iii)
 主機と同様に、通風ダクトから機関T/Cの空気吸込口に向かって直接空気を送り込むケース。この場合、周辺の気流分布は予測できないものがあるが、火災試験及び実際の火災発生のときには、火源の発熱による上昇気流により、煙は全般的に試験火災の上方に向かって拡散しながら立ち上ると考えられる。
CASE(iv)
 通風が不適切であるため火災探知が困難となる例を示す。極端な例であるが、図のように機関の上部スペースにおいて気流が壁から開放側に向かって吹き抜けるように通風ダクトを配置した場合、機関の排気管近傍で火災が発生すると、煙はその気流に乗って吹き抜けることになるので、煙をピンポイントで捉えない限り火災探知は困難である。
 これは、通風ダクト配置に関する設計不良の例であり、たとえ火災試験に合格しても、それはたまたま合格したにすぎず、通風ダクトの配置を見直すべきものと考えられる。
 
(3)ボイラ噴燃装置近傍
 ボイラ噴燃装置周辺の気流は船ごとに異なるが、大まかに分類するならば、通風ダクトから吹き出す気流を直接噴燃装置(バーナ)に向けるか、向けないかによって探知器配置に関する方針が大きく異なると考えられる。
 出火場所としてはバーナを想定しているので、火災試験は、模擬火災をできるだけバーナに近い位置で発生させて実施することになる。バーナに通風ダクトからの強い気流が直接向かってない場合は、探知器をバーナの直上に設置することで、比較的容易に煙を感知できると考えられるが、強い気流が直接向かっている場合は、煙の流動方向を予測しながら探知器を設置する必要がある(図2.2.3参照)。この場合、予備試験にて通風状態を再現し、試行錯誤で探知器配置を決定しておくことが妥当な方法と考えられる。
 
(4)燃料油処理装置近傍
 大型船においては、燃料油清浄機等の燃料油処理装置は独立した区画である清浄機室の中に格納される。室内には通常3〜6台程度の清浄機が分散して配置され、また、清浄機室には専用の排気ファン(排気ダクト)が装備されている。火災探知器も分散して配置され、通常2〜3個程度が設置されている。
 
図2.2.3 ボイラ噴燃装置近傍における火災試験
 
 
図2.2.4 燃料油処理装置近傍における火災試験
模擬火災発生場所は、燃料油清浄機の近く((1)または(2))とすること。
 
 清浄機室には燃料油清浄機、加熱器、ポンプ、燃料供給ユニット等の各種燃料関連装置が格納されているが、この室内での出火は燃料油清浄機の自損事故による可能性が高いものと考え、清浄機の近くで火災試験を実施すればよい(図2.2.4参照)。
 
(5)焼却炉噴燃装置近傍
 ボイラ噴燃装置近傍と同様。
 
2.4 探知時間
 試験火災で使用する燃焼物の種類によらず、着火から煙の成長までにはある程度の時間が必要と考えられることから、探知時間を「視認により煙又は火炎が成長したと認められたとき」から測定することとした。
 模擬火災の発生に失敗した場合、すなわち、着火後、試験の途中で火炎又は煙が発生しなくなった場合には、周辺の煙を排出させた後、再度試験を実施すること。
 
3 その他
 
3.1 不合格の場合の措置
 所定時間以内に探知できなかったとしても、試験中に煙の流れを追跡することが可能で、その追跡結果に基づいて探知器の増設・移設を行った場合、その探知器に関する再試験は省略できることとした。ここでは煙が気流に乗って流され、探知器と異なる方向に逸れてしまった状況を想定している。この場合は煙の流動方向を確認するだけで比較的容易に探知器を増設・移設することが可能であり、再試験を実施しなくとも変更後の煙探知状況の改善は十分予測されるものと考えられる。
 煙が試験場所周辺にこもり、比較的長い時間経過して煙濃度が徐々に上昇するような状況で所定時間以内に探知できなかった場合には、探知器の増設・移設場所の確定が困難であることから、変更後も再試験が必要である。再試験は原則として海上運転で実施することとするが、前1.2より、主機T/Cから十分離れた場所であれば、停泊時等に通風状態を再現して再試験を行っても差し支えない。
 
3.2 効力試験の省略
 個々の探知器本体の種類や型式が変更となった場合には効力試験を必ず実施することとするが、取付台座の変更や取付位置の僅かな変更(水平方向及び上下方向:最大50cmとする)の場合には試験を省略できる。
 
参考文献
1)社団法人 日本造船研究協会 第73基準研究部会「防火に関する調査研究」(平成13年度報告書)、平成14年3月
2)社団法人 日本造船研究協会 RR-S401「機関区域の火災探知性能向上に関する調査研究」(平成14年度報告書)、平成15年3月







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