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児童福祉法改正法案について
厚生労働省に申し入れを行いました
(平成16年2月4日)
(財)全国里親会 会長 渥美節夫
 
「児童福祉法の一部を改正する法律案」のうち、里親に関するものは、
1. 「里親」の定義の法定化
2. 受託中の児童に対する里親の監護、教育及び懲戒に関する権限の法律化
3. 里親委託児童の満20才に達するまでの養育期間延長の法律化
 なお「保護受託者」制度は、時代にそぐわないものとして廃止
 以上の3点は、全国里親会の20数年に亘っての要望の成果が達成されることとなったものです。里親各位の今日までのご協力に対し、厚く御礼を申し上げます。
 
 ところが一方、同じく児童福祉法案の内容について、里親制度に関係して極めて重大な問題点のあることが明白になってきました。その重大性に鑑みまして、当会は、2月4日緊急な対応を図ることの必要性を感じ、厚生労働省に対して次の3項目について申し入れを行いました。
 厚生労働省からは、雇用均等・児童家庭局山田家庭福祉課長及び同課担当者が出席し、当会からは、渥美会長・広瀬副会長(北海道地区)竹内理事(東海北陸地区)、杉浦常務理事が出席しました。
 
1. 児童養育体制の逆行的傾向に反対
 施設対象児童の年齢要件の幅の拡大は児童家庭養育優先の原則に逆らう
 今回の「児童福祉法改正案」では、「ケアの連続性に配慮し、児童福祉施設の年齢要件を見直す」として、乳児院(現行)2才未満→(改正案)小学校就学前
児童養護施設(現行)1才未満は対象外→(改正案)1才未満も対象
としています。この内容は児童養育の原則としての家庭養育優先と正面から反対の立場をとるもので、原理的に言っても、「児童の権利に関する条約」(1994年日本政府批准)第20条に照らしても明白に逆行するものであります。世界的に見ても、英国の児童収容施設への10才未満の児童の措置停止、米国を始め世界各国においての乳児院の廃止が実施されています。
 一人一人の児童のケースにおいて、特例中の特例として、限定的に運用されるのであれば納得もいくところですが、これらの施設への年齢要件の幅の拡大が、児童を施設に長く措置し、家庭を知らない子どもを増やすことになることには断固反対し、限定的な運用のみに適用されるよう、何らかの方策を講じるよう要望します。
 
2. 専門里親制度についての疑問
 被虐待児対象里親に限定することは疑問、養育の難易性に対応すべきこと
 2002年里親制度に関する2つの厚生労働省令の公布施行により「専門里親」制度が発足したことは正に画期的な里親制度の革新として高く評価されました。
 しかし、当会はその表現について是正を要請してきました。その根拠としては第1に養育の難易性に関するものであり、第2に「被虐待児」と明確に規定する表現についての非適用性についてであります。
(1)児童はその精神的・情緒的・身体的等の障害状況に対応して養育技術・トリートメント・サポートチームの活動内容に濃淡各様の対応が要請されその運用如何により養育効果が左右されるものであります。世界の他の国においては、対象児童に対するケアの難易度をおおむね3段階に分類して、養育技術の内容と対価の算定を分類して実施しております。
 早急に我が国でも対象児童の範囲の検討と対価の算定の適正化を図る必要があります。
(2)我が国の「専門里親制度」はその対象を明確に「被虐待児」と限定しています。児童を「被虐待児」と明瞭に示したことは結果的には里親里子双方に明示されることになり、両者に対する心理的インパクトを与えることとなります。さらには親権者である実親がその児童を「被虐待児」として取り扱われることに合意するかと考慮するとき、その無神経さを批判されても一言もないことになるのではないか、大きな疑問を生じ、この表現は是非とも避けることが必要とされましょう。これらの心理的社会的影響がせっかくの専門里親制度の円滑な発展を阻害するものと思われるのであります。
 
3. 児童福祉関係者についてその専門性学術性を中央地方官庁を通じ尊重すること
 現実の児童福祉行政は、中央、地方を通じ統制ある監督の下、いわば官僚的適用が行われています。このことは民間の活動的な抑制意向を醸成しているという実体を否めません。しかもこの行政統制担当者が極めて短期間で転職させられ、またそのリーダーが専門性学問性を具備したものとされる場合が数少なく、一般職としての指導者であるという実情は、児童ケアの継続性計画性の確保の点からいって問題があります。児童福祉行政の責任者はソーシャルワーカーを中心母体として多方面からのチームサポートを受けながら運営されることが望ましいのではないでしょうか。地方首長の大いなる政治的手腕に期待したいと考えます。
 眼前に迫る少子化世界に対応するためにも私どもが協力して前進することが必要と考えます。
 
情報・お知らせコーナー
「宇都宮里親傷害致死事件が問いかけるもの」シンポジウム開く 全国へ呼びかけ 東京
 
 平成15年12月23日、神楽坂エミールで「宇都宮事件が問いかけるもの―宇都宮事件の判決を受けて里親制度のあり方を考える―」と題したシンポジウムが開催されました。60名もの参加者あり、熱心な議論を交わしました。
 主催の「宇都宮事件を考える会(以下「考える会」)」は、東京周辺の里親と関係者・支援者で構成された団体です。
 基調報告「宇都宮里親傷害致死事件の経過報告」では、宇都宮事件の裁判を全て傍聴した、考える会事務局長の竹中氏が事件の発端から、裁判の様子、判決文、控訴までの流れなどを説明しました。
 続いて、「控訴審弁護団報告」を字都宮事件控訴審の東京弁護団の平湯真人弁護士が、控訴審の意義や今後の方向性について話されました。
 次いで、海外事例報告「里子死亡事件の教訓・英日比較:丸投げ「里親委託」からの脱出を!!」と題して、津崎京都府立大学教授が講演をしました。
 休憩の後、パネルディスカッションが始まりました。
 子どもの虐待防止センターの岡崎さんは、「養育里親さんが子どものことで悩んでいた。児童相談所に相談したら?と言うと、子ども自身が、施設に戻されるから絶対に言わないで欲しい。と答えた。話を聞くと、子どもはPTSD症状であったが、里親はPTSDを知らなかった。自分の育て方が悪いと悩んでいた。児相職員は、話をカウンセリング的に聞く技術がない。児相に相談すると、すぐ措置解除を言われる。措置解除で子どもを施設に帰したとき、子どもだけでなく里親も深く傷ついている。FCGという里親同士の悩みを話し合う場を設けている。」などと話されました。元愛知県児童相談所児童福祉司の矢満田篤二さんは、里親家庭だけでなく、実親家庭の愛着障害と虐待事件の関連について話してくださいました。また、「赤ちゃん返り」「里親だめし」の実例をビデオにより説明され、また児相職員が知識を持たずに里親委託を行っているのが実態である。10年以上経験を積まないと里親のケアは出来ないと話されました。
 東京都養育家庭連絡会の若狭佐和子さんは、「実子の時には簡単な一言が、里子にはなかなか伝わらない。ついつい怒ってしまう。これが里子養育の難しさかなと思う。同じようなことで里親は悩んでいる。いままで人に相談することはなかったが、これではいけないと思ってFCGにも参加している。子どもの問題など、どこに相談すればいいのか知識が必要だと思う。」
 平湯弁護士は、児童福祉法における里親の位置づけについて話されました。「今日の集まりを弁護団として弁護方針を考える材料にしたい。宇都宮事件の判決では、望んで里親になった以上、実親以上に高いレベルを要求し、覚悟しているはずだと述べている。子育ての大変さは、実親以上に大変なんだと、どう裁判官に判らせていくか。証人候補なども考えている」などと話されました。
 
 最後に事務局より、「宇都宮事件の公判に関する要望署名」の提案を行い、承認されました。是非、多くの方の署名を集めたいと考えています。
 宇都宮事件を考える会では、裁判の支援費用として50万円を目標にカンパを募っています。ご支援下さる方は、以下の口座にお振り込みください。また、署名も募っています。ご協力をお願い致します。
 
署名送付先 宇都宮事件を考える会 〒162-0823 東京都新宿区神楽河岸1-1
東京ボランティア・市民活動センター メールボックスNo.84
カンパ振込先 みずほ銀行 上池上出張所 口座番号1653549 宇都宮事件を考える会
 
詳しくは「宇都宮事件を考える会HP」http://foster-parent.hp.infoseek.co.jp/utsunomiya/をご覧下さい。
 
里親制度のCM
〜厚生労働省〜
 
厚生労働省提供のテレビCMが10月から流されています。
東京有楽町駅前の大スクリーンでも放映されました。
テレビCMは2月まで放映されます
 
お手元に届きましたか?
「2003資料でみる新しい里親制度」
〜独立行政法人福祉医療機構 全国里親会編〜
 
 
里親の歩み
新しい里親制度の概要
里親・里子の状況
子どもの相談などの状況
里親制度に関する省令など
課題と提言
里親・里子に関する案内
 
 里親制度に関する資料を集めました。
 制度について知りたいことや疑問に感じたことなどのお役に立てれば幸いです。
 
訂正とお詫び
*「2003資料で見る新しい里親制度」に誤りがありました。
P142(2)各都道府県・指定都市里親会事務局
神奈川県里親会
 (誤)F 28-6192→(正)F 84-2970
 お詫び申し上げますとともに、ここに訂正いたします。
 
編集後記
▼今回は、第四十九回全国里親大会の報告を中心に、二十ページの増量で、ボリュームアップしてお送りしました。
▼児童虐待のニュースが後をたたない昨今ですが、児童虐待防止法・児童福祉法が改正されることにより、児童虐待で辛い思いをしている子どもが一人でも少なくなることを祈ります。
▼同時に、虐待された子ども達に、温かい家庭を提供するべき里親の私たちも、一つ違えば、虐待への道をたどってしまう可能性のあることを、肝に銘じておかなければなりません。
▼養育に疲れたなあ、少し休みたいなあ、そんな時、手を差し伸べたら、答えてくれる人や場所があることが大切です。
▼がんばりすぎなくても良い環境を普段からつくっておくことが必要なのでしょうね。
▼里親だよりを今後ともよろしくお願い申し上げます。(若狭)







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