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事業(プロジェクト)関係者名簿
( )内が本事業における役割等
 
(1)事業団体
NPO法人創業支援推進機構
紺野 大介 創業支援推進機構 理事長
(事業責任者)
篠田 大三郎 創業支援推進機構 理事
(事業担当理事)
秋本 英樹 創業支援推進機構 事務局長
(事業管理責任者)
 
(2)事業推進メンバー
運営委員会(基本方針の策定、進捗管理および評価)
ワーキンググループ(コンテンツ作成、実証実験等具体的な活動)
CAMPメンバー(異業種の企業研究者のコミュニティ(添付資料参照))
 
大西 楢平 日本電気(株)基礎研究所 主席研究員
(運営委員長、ワーキンググループ、CAMPメンバー)
伊藤 聡 (株)東芝研究開発センター 新機能材料・デバイスラボラトリー 研究主幹
 (ワーキンググループ・リーダー、CAMPメンバー)
福本 敦勇 (株)豊田中央研究所 第41研究領域 主任研究員
 (運営委員、ワーキンググループ、CAMPメンバー)
田浦 昌純 三菱重工業(株)技術本部 先進技術研究センター 主席研究員
(運営委員、ワーキンググループ、CAMPメンバー)
陸川 弘 FDK(株)技術開発統括部 統括部長代理
(運営委員、ワーキンググループ、CAMPメンバー)
加藤 彰彦 FDK(株)技術開発統括部 CAE開発課 研究主任
(運営委員代理、ワーキンググループ、CAMPメンバー)
善甫 康成 住友化学工業(株)筑波研究所 主席研究員
(運営委員、ワーキンググループ、CAMPメンバー)
大谷 泰昭 (株)富士総合研究所 科学技術グループ グループ長
 (運営委員、ワーキンググループ、CAMPメンバー)
小高 秀文 旭硝子(株)中央研究所 数理科学解析グループ 主席研究員
(ワーキンググループ、CAMPメンバー)
 
(3)業務委託先
齊藤 隆之 (株)アンクル 代表取締役
 (プラットフォーム開発および運用、運営委員会オブザーバー、CAMPメンバー)
 
(4)大学研究委託先
塚田 捷 東京大学大学院理学系研究科 教授
里子 允敏 日本大学文理学部 教授
 
 
1.1 プロジェクト趣旨
 水は地球上にあまねく存在する最も重要な構成物質であり、また我々の生活環境に密接に関連したものであるが、その性質と働きは極めて多様であり、未解明の部分が多い。21世紀の環境適応型社会における科学・技術・産業において、身近で普遍的な「水」に対する深い理解が求められることから、「人間の視点からみた等身大の新しい科学」を創生することが必須の要件である。それにはマクロな視点と同時に、分子レベルのミクロな視点との関わりもふくめた総合的かつ学際的な取り組みが重要である。多種多様な水に関する情報を、「生活環境物質」としての水の性質に関する「知見」として統合し、それを有効に活用する場が求められる。とくに昨今のIT技術の目覚しい発展により、共通の議論と研究の場を構築することができるようになっていることから、既存の枠組みにとらわれないさまざまな分野での専門性を有した研究者・技術者の人的ネットワークの構築により、新しいタイプの研究コミュニティの自律的な形成を促し、水科学にかかわる総合的な知見情報を活用できる仕組みを構築することが本プロジェクトの趣旨である。
 
 NPO法人創業支援推進機構(ETT)は以上のような趣旨に基づいて2002年5月10日(金)に第1回「水」科学ワークショップを、多摩大学、(財)日本財団と共に多摩大学ルネッサンスセンターにおいて開催した。ワークショップでの討論は、広い範囲での展望を得ることを目的として
(1)原子スケールでの水の振る舞いを田中秀樹教授(岡山大学)
(2)生活環境における複雑系の科学としての水という視点から牛木秀治教授(東京農工大学)
(3)地圏の水について石戸恒雄研究室長(産業技術総合研究所)
にそれぞれ講演依頼した。その内容を受けて運営委員とくに企業内研究者(CAMPグループ:日本電気、ソニー、東芝、FDK、豊田中央研究所、住友化学、三菱重工業、富士総研、旭硝子などで構成される計算科学研究コンソーシアム)が主体となってパネルディスカッションを行った。内容は「生活環境の現場における水の果たしている役割」とそれに対する「多層的、多面的な問題を解決するためのアプローチ」についてであった。前者からは産業界における実用化研究への問題点の提示、後者からは問題解決のためのコミュニティのあり方の討論がなされた。「水」科学研究とその実用化には新しい形の研究コミュニティ形成の必要性が強く認識された。
 
 この経緯をふまえ、生活環境物質としての水の科学的知見の体系化を実現するための総合的な仕組みつくりを目的として、産学連携による水に関連した研究の知見の集積・活用・創生の自律発展型のスパイラルを生み出すITプラットフォームの構築を行う。このプラットフォームを活用する研究者・学習者・教育者の水科学研究コミュニティの形成を図り、新しい産業創成、ならびに水科学の視点から科学教育と学習の新しい仕組みをつくることにより知識産業社会への貢献を目的とする。
 これらの目的を実現するための2003年度事業目標は以下のとおりである。
(1)水科学知見を共有するためのITプラットフォームのプロトタイプを完成させる。
(2)大学等での研究成果としての数値、画像、動画像のデータベースをプラットフォーム上で共有すること。
(3)大学等で開発された水科学関連のソフトウエアをプラットフォーム上で連携させ、民間企業を含む研究者・技術者と学習者、教育者が利用できる環境を構築する。身近な水の諸問題には水の分子レベルでの挙動の科学的知見が重要であるので、このプラットフォーム上で産学連携の共同研究を推進する体制を整備する。
(4)知の共有から生み出される新しい知見を活かす方法としてのネットワークコミュニティを育成する。
 
 
 前章で述べた水科学分野でのコミュニティ形成を目指して、本年度は以下のような方針をとった。第一は、昨今の情報インフラの進展を十分に踏まえて、水科学に関する総合的な知見を利活用できるITベースのプラットフォームのプロトタイプを実際に構築すること、第二は枠組みとして構築したこのプラットフォームに産業界および大学での研究成果や情報を載せ知見として共有化することによってコミュニティ形成の核とすること、さらに第三は“共通言語”としてのシミュレーションソフトウエアをプラットフォーム上で稼動させることで単なる計算リソースとしてのネットワークコンピューティングを質的に超えた仕組みを構築し、その意義を確認することである。以上のようなネットワーク上でのプラットフォームをベースとするVO(Virtual Organization)的活動を通してコミュニティ形成が進められることを実際に示すとともに、広く一般への公開の場としてシンポジウムを企画・開催した。現在、このような試みに関係するものとして、国主導のいくつかの事業が行われている。そこではグリッドコンピューティング技術をベースとしたVO活動支援が謳われているが、どれも技術的には大変高度であるだけでなく、ハイエンドのネットワークリソースやコンピュータリソースを想定ないし要求している。これは技術の先導役としての意味はあり、トップダウン式の開発としては重要であるが、本プロジェクトの趣旨を実現するためにより適切なボトムアップ式の方向をわれわれの活動は目指した。
 
 2003年度実施の事業内容は以下の通りである。
(1)水科学知見を共有するためのITプラットフォームのプロトタイプのオープンユーステストを2003年9月末に開始する。
(2)2003年11月末にプロトタイプによる実証実験を開始する。
(3)大学等から生み出される研究成果としての数値、画像、動画像のデータをプラットフォーム上のデータベースで共有するための共同研究を開始する。
(4)民間企業、大学等でこれらのプラットフォーム上のデータを活用した研究、学習の諸活動を行い、その成果を共有する(2003年12月開始)
(5)大学等で開発された水科学関連のソフトウエアをプラットフォーム上で連結させ、民間企業を含む研究者と学習者、教育者が共有できるソフトウエア環境を整備する。
(6)以上の活動を通して、知の共有から生み出される新しい知見を活かす方法としてのネットワークコミュニティが主体となってワークショップを開催し、その成果をまとめる(2004年3月)。
 
 水科学に関する知見は産業界から大学・公的研究機関さらには在野研究家にいたるまで非常に広く存在する。そのため、業種を超えた産業界の連携や産学共同体制が必須である。これを実現するために次のような体制をとった。NPO法人創業支援推進機構を事業推進責任者、ならびにCAMPグループに参加する企業研究者をコアとして、本事業における基本方針の策定、進捗管理ならびに評価を行う運営委員会、知見情報を融合化することによってコミュニティ形成の実験を具体的に進めるワーキンググループを設置した。インターネットベースのプラットフォームの開発と運用を企業間にまたがって行うことは難しいので、IT系企業である(株)アンクルに開発業務委託することで行う。このプラットフォームに水科学に関する知見を蓄積していくのが今回のプロジェクトでは中心的な課題である。公的機関として計算材料科学における多くの研究業績を挙げられている東京大学大学院理学研究科塚田教授と日本大学文理学部里子教授に研究委託をお願いし、大学における研究成果のプラットフォームへの登録およびアカデミックな研究環境におけるプラットフォームシステムの活用、そしてナノスケールでの水(クラスター)の知見に関する総合的コンサルテーションを担当していただく。一般ユーザーへのサービス提供やコミュニティ形成の試行として、(社)企業研究会が主催する勉強会であるCAMMフォーラム(コンピュータによる材料開発・物質設計を考える会)物理分科会有志の協力を得た。体制を図示すれば図2-1のようになる。
 
図2-1: 体制図
 
 以上の体制によって具体的に行うべき最初の方向性は、一見非常に多彩な特性を示す水の統一的理解と水にかかわる既存知見の集約である。前者の水の不思議な挙動は水の微視的構造に起因している。水の微視的構造はいわゆるクラスター構造になっているが、これにはいろいろなものが存在する。固体相の水(氷)に関しても11乃至12の異なる相構造が知られていることからも、クラスター構造の多彩さは予想できる。これをシミュレーションによって調べるには一回計算(あるいは一点計算)ができればよいのではなく、同じソフトウエアによるさまざまなクラスター構造に対する計算が必要であり、このような計算を多数行うことによって水クラスターに関するデータベースが構築できる。このような計算は地球シミュレータのような超高性能計算機を用いてももちろん計算はできるが、数十原子系程度であれば昨今のPCを用いて計算を行うことが可能である。とくに最近のPCは計算センターの計算機と違って、遊休時間がかなりあり、かつ計算機としての処理能力は10年前のスーパーコンピュータに匹敵する。遊休計算機の有効活用、言い換えれば適切なジョブ制御によって分散処理を行わせる仕組みは、負荷分散の観点からはLSF(Load Sharing Facility)のような仕組みは存在するが、インターネット上での広域分散処理に適したジョブスケジューラーは存在しなかった。また、インターネット上でのジョブスケジューラーはセキュリティーとの兼ね合いという問題もあり、この点を考慮した新たなジョブ制御システムを開発した。
 本システムの技術的詳細は次章で述べるが、本システムはhttpプロトコルをベースとしたものであり、参加する機関が基本的には計算サーバーを提供して、その能力をシェアしあう仕組みである。本システムではジョブの登録は参加者の手元の計算機からジョブ登録サーバーに登録を行い、計算サーバーはジョブ登録サーバーにジョブが登録されているかを問い合わせ、登録されていればダウンロードして実行する仕組みになっている。この場合、計算サーバーの提供とジョブの登録とは別であるが、このような仕組みを通して目指しているのは単なる計算のスループット向上だけではく、研究開発コミュニティの形成と健全な成長である。このために、ライセンス問題が生じないようなソフトウエアを共通的に使用することで、コミュニティ内の“共通言語”が形成され、これによってコミュニティが自律的に成長することを目指している。
 水にかかわる情報は明らかな誤りや似非科学から精密科学までさまざまなレベルのものがインターネット上に存在する。この中から必要な情報を探索することは、昨今の情報氾濫の中では重要なことであり、そのためのツールとしていろいろな検索エンジンがある。グーグル(Google)はその検索性能の高さで知られている。しかし、インターネット上の情報を使いこなす上でもっとも有用な仕組みはブックマークである。それはブックマークには各人のそれまでの検索体験の蓄積結果があるからである。この点に着目して、コミュニティ育成をブックマークの共有化によって行う仕組みを開発した。これはコミュニティのメンバーがその後も参照するであろうというサイトを登録し、さらに登録サイトに関してコンテンツをアーカイブするものである。これによって特定分野の検索が容易になるばかりでなく、共通の問題意識の醸成や問題に対するアプローチの共通や多様化を支援し、コミュニティ構築に寄与することが期待できる。







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