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2)海上におけるオイルフェンス+錨の把駐力
 オイルフェンス+錨をセットした海上における把駐力実験は、東京湾、第二海堡北側海面の底質が砂地で水深が13mの海面を使用した。
(1)実験資機材
オイルフェンス:B型固形式オイルフェンス
錨:ダンホース型25kg
錨鎖: 19mm、2m
爪の角度40度、60度
錨ロープ:クレモナ 22mm
(2)実験方法
イ 実験当日の潮流速は、最大0.8m/sが得られると予想され、この流速に対して25kgダンホース型錨が固定保持し得るオイルフェンスの長さは約60mとなるので最大流速時には、全ての錨は走錨し、錨が保持し得るオイルフェンスの長さと潮流速との関係を把握する。
ロ 実験海域の底質は砂であり、爪の角度60度のダンホース錨の最大把駐力が得られる錨索の長さは水深に対して4倍となる。
ハ 錨の爪の角度が把駐力にどのように影響するかを比較するために同型錨で爪の角度を40度に変えた錨もあわせて使用する。
ニ 実験予定海域にあらかぜを投錨させ、あらかぜを基点として風潮流の合成方向に対し、90度方向にオイルフェンスの開口比0.6となる固定錨位置に標識ブイを投入し、ブイ位置を目標にオイルフェンス係止錨を投入し所定長のオイルフェンスを展張した。
ホ オイルフェンス長さ 60,80,100(m) 各2本 目標用20m
ヘ 開口比 0.6
ト 錨索長さ 水深に対して4倍
 オイルフェンス+錨の把駐力実験の模式図を図II-8.28に示す。
 
図II-8.28 オイルフェンス+錨の把駐力実験の模式図
 
(3)オイルフェンス+錨の把駐力実験結果
 オイルフェンス+錨の把駐力実験の実施海面は、潮流速を0.8m/sであると予測し、この流速に対してオイルフェンスが流されない限界のオイルフェンスの開口比、オイルフェンスの長さ及び錨の主要目等を実状に踏まえて錨の把駐力海上実験結果及び水槽実験結果に基づいて設定した。
 本実験の設定に当たっての主要点は、次のとおりである。
イ オイルフェンスの長さは、錨の把駐力から推定すると流速0.8m/sで通常の海面では約60mで錨が走錨する。
ロ 錨の索長は、25kgダンホース型錨では海底土質が砂の場合に最大の把駐力が期待できる状態を爪の角度が60度の場合、水深の約4倍である。
ハ 錨の走錨状況を比較できるように、ダンホース型錨で爪の角度を60度と40度との2種類を使用する。
 
 しかしながら、海上実験当日における実験場所の潮流速は、予想を下回り最大0.4m/sであったので、すべてのオイルフェンスが完全に係留され、非常に残念ではあったが錨の走錨を観測し得なかった。
 そこで、オイルフェンスの前面(潮流と重ね合わせる)に作業船を航走させて航走波を作用させた結果、オイルフェンスが大きく変形したと同時に錨の走錨を観測することができた。
 
 以上がオイルフェンス+錨の海上実験結果で、潮流速が予想を下回ったために錨の走錨を観測できなかったことは、非常に残念ではあるが、実海面にオイルフェンスを展張し、オイルフェンスの長さが100mのものが流速0.4m/sまでは完全に係留できたこと、オイルフェンスの展張作業の経験を得たこと及び作業船の航走波ではあるが流れと波が重ね合わさって作用すると錨が走錨を起こしたことなど今回の海上実験を行い貴重な資料が得られた。
 これらの成果から推測すると、錨の把駐力海上実験及び水槽実験で得られた成果は、大略信頼し得る資料であるといえると同時にそれらの実験は実際のオイルフェンスを用いているので実海面で充分適用できる資料であるといえる。
 そこで、水槽実験において得られた成果に基づいて一様潮流中においてオイルフェンスに働く潮流力についてオイルフェンスの開口比毎に相似則が成り立つものとし、流速及びオイルフェンスの長さを系統的に変化させて平水中における潮流力列びに波浪と潮流とが重ね合わさった場合の潮流力を推算した例を表II-8.3に、推算結果を図II-8.29に示す。
 
表II-8.3 流速−オイルフェンス長さ−開口比と潮流力の関係(推定値)
 
 
図II-8.29 オイルフェンス展張時の張力
 
 この図から、オイルフェンスの開口比に関係なくオイルフェンスの開口幅(オイルフェンスの長さに開口比を掛けた値)に対して流速が変化しても一次直線で潮流力が求められることがわかる。
 
 補足:波浪と潮流とが重ね合わさった場合は、平均潮流力を図に示しているので、この値に図II-8.18から求められる変動量の半分を平均潮流力に加えて最大の潮流力とするとより安全にオイルフェンスを係留することができる。
 
例:底質砂にダンホース型25kg(チェーンなし、爪の角度60度)を使用し、オイルフェンスを係止する場合、錨索は水深の約4倍が必要であり、錨1個の把駐力は30kgとなる。
 両端を同錨で係止すると30kg×2個=60kg。図II-8.29から平水中0.3m/sの流速において係止できるオイルフェンスの展張幅は57m約60mである。また、平水中0.2m/sの流速においては、展張幅は74mまで係止することができる。
 
(4)まとめ
 錨の把駐力海上実験において錨の把駐力、水槽実験においてオイルフェンスに働く潮流力そして、これらの成果を総合的に検証したオイルフェンス+錨の海上実験を実施し、多岐にわたって貴重な基礎資料が得られた。
 以下、多岐にわたる実験で得られた成果を要約する。
 
1)錨の把駐力海上実験
 錨の把駐力海上実験で得られた錨の把駐力の結果からは大略次の事項が今回の実験範囲から得られた。
(1)錨の索長
 通常使用している錨は、メーカー毎に爪の開き角度が異なるとともに錨の型式も種々雑多である。
 そこで、今回の実験範囲から錨の最大の把駐力が期待できる場合の錨索の引っ張り角度と錨の爪の開き角度との関係を海底土質に対して示すと概略次のようになる。ただし、チェーンなしの場合である。
 
錨の型式 海底土質
25kgダンホース型 0.25 0.17
15kgダンホース型 - 0.3
ストック型 0.20 0.26
四叉型 約0.15 約0.15
 
 この値から各型式の錨を用いる場合、錨の爪の角度に対する錨の索長を水深(D)の倍率で示すと次のとおりである。
 







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