(2)海上実験
海上実験は水槽実験結果から、潮流速、流向及び風力、風向の合成流を推定して流出油の流下方向を定め、第一次オイルフェンスを水槽実験で得られた最適誘導展張角度に200mを展張した。
この展張形状に沿って流下する擬似油(軟式野球ボール、プラスチック製ゴルフボール)の誘導流下状況を観測した。この誘導された擬似油の回収は、第二次オイルフェンス(200m)を第一次オイルフェンスの下流側に待受展張して擬似油を捕捉して集油ネットで回収する方法とした。
海上実験における第一次及び第二次オイルフェンス等の展張配置図を図II-8.10に示す。
なお、第一次及び第二次展張オイルフェンスの固定法は、図II-8.11に示すオイルフェンス係止概略図のとおりとした。
海上実験の成果は以下のとおりである。
図II-8.10 一次オイルフェンス及び二次オイルフェンス等の展張配置図
図II-8.11 オイルフェンス係止概略図
1)オイルフェンスの展張について
潮流及び風の合成方向に対して、所定の角度オイルフェンスを直線状に展張することは極めて困難である。
本実験においても、固定錨の走錨のための展張のくり返し、そのための時間経過による潮流の方位変化のため、所期の計画どおりの展張ができなかった。計画に近い展張を行なうためには次の点に留意する必要がある。
(1)オイルフェンスの展張方法
誘導展張を行なう場合には、一端の固定錨を投入したら、展張する方向にオイルフェンスを繰り出し、たるみを取りながら展張する方法をとる必要がある。この様な展示法をとったとしてもJ字型に変型することは避けられないので、J字型に展張された場合に誘導効率(流下距離に対する誘導幅)を上げるためには一連のオイルフェンスの長さを作業上適当な長さとし、漏洩現象の生じる範囲を二次、三次とカバーして行く必要がある。
今回の海上実験において展張した二次フェンスは誘導の目的で展張したものでなく、漏油した油を捕促する受け皿としての使用目的で展張した。
(2)固定錨等の選択
海上実験に使用した錨は、表II-8.1のとおり、アルミ製ダンホース錨であり、オイルフェンスの展張固定に一般的に使用されているが、前述のとおり走錨する場合が多く、展張作業にかなりの時間を費やした。
また、錨索は20mmのナイロンロープを水深の3倍の長さとした。
さらに、走錨が懸念されたため、錨鎖に25kgの重錘を固定し、把駐力の増加をはかったが走錨する結果となった。
オイルフェンスを錨等により一定場所に固定展張することは、オイルフェンス展張の基本的な使用形態であり、しかもダンホース錨は一般的にオイルフェンス展張用として活用されており、1ノット前後の流れの抵抗に抗しきれず走錨することは、改めてオイルフェンスの使用法の基本的事項から検討する必要がある。
このため、今後錨の種類、錨索の長さ、オイルフェンスの結合する錨の数が水深、底質等とどのように関連するた等について、基本的事項を検討する必要がある。
表II-8.1 使用錨の要目
項目 |
要目 |
材質 |
アルミ |
重量 |
15.2kg |
常用把駐力 |
2,720kg |
全長×全巾 |
134cm×96cm |
チェーン |
16m/m 2.7m |
把駐角度 |
30度 |
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2)誘導法における重ね展張の効果
水槽実験及び海上実験において使用したオイルフェンスは固形型であり、膨脹型のような剛性のないものであるため、風潮流の影響を受けて大きくJ型に変型し、結果として、油の誘導幅を減少させることとなる。
このため、今回の水槽実験で追加実験を行なった2重展張を併用することにより、固形型オイルフェンスに剛性を与え、油のくぐり抜けを減少することが可能である。
水槽実験の結果では、展張角度30度で重ね展張した場合0.9m/sでオイルフェンスの長さに対し11mの有効長さが得られ、単独展張の場合0.5m/sで15m、0.7m/sで5mの有効長さが得られ、重ね展張は、単独展張に比較して、保油能力は大幅に増加している。
海上実験においては、重ね展張法の実験を行なわなかったが大きくJ字型に変型する部分に重ね展張を行なえば、オイルフェンスの変形は少なくなり、誘導幅の増加が見込まれる。
今後実際の事故時あるいは訓練時等を利用し、誘導法さらに重ね展張法について資料を収集し、オイルフェンスの使用法を確立させることとする。
4 オイルフェンスの使用法3)(錨によるオイルフェンスの固定法)
―昭和55年―日本財団
オイルフェンスの展張形状、固定に使用する各種錨について、気象・海象条件に即した使用法を水槽実験(シップ・アンド・オーシャン財団、筑波研究所)及び海上実験(横須賀沖)で調査研究を実施した。
(1)調査研究項目
1)展張したオイルフェンスを固定するための錨について、錨の種類、錨索の長さ、底質等によって変化する錨の把駐力を調査する。(海上実験)
2)B型オイルフェンスを展張した際、風・潮流等の外的要因により受ける力を調査する。(水槽実験)
3) 1)項及び2)項の結果から、B型オイルフェンスを展張し固定する錨の使用数、錨索長を決定する。(海上実験)
(2)水槽実験
オイルフェンスの長さ、開口比(オイルフェンス長さと展張幅の比)、曳航速度(海上では潮流の速度)を変化させてオイルフェンスにかかる張力を調整しオイルフェンスを係止する資料を得る。
1)実験方法
(1)角水槽(80m×45m×2.6m)の水面直上に、計測台車供試体拘束支持棒を利用して約43mの長さにワイヤーロープを計測台車に沿って張り、オイルフェンスの一端をワイヤーロープに固定し、他端を所定の開口比になるようにワイヤーロープに固定した滑車を介して、計測台車上の張力計に接続し、曳航によって生ずるオイルフェンスの抵抗張力を測定した。
(2)オイルフェンス長さ(m) 20,40,60
(3)開口比 0.4,0.6,0.8
(4)曳航速度(m/s) 0.2,0.3,0.4,0.5
(5)水面条件 平水、波浪(波長10m,波高0.3m)
2)実験資材 オイルフェンス B種 固型円筒式 60m
3)測定機器 張力計 ロードセル
4)水槽実験結果
(1)平水中における曳航実験(B型オイルフェンスの抵抗力について)
一般に物体を水平に浮かべて曳航しようとすると、ある力を加えなければならない。この力を抗力とする。
物体の抗力は、通常物体を曳航しようとする方向の投影面積に比例し、曳航速度の2乗に比例する。
そこで、オイルフェンスを平水中において曳航した場合に得られた力について一般に用いられている抗力係数を次式により求めた。
ここで、
CT: 抗力係数
RT: オイルフェンスの片側で曳航時に計測した力(kg)
ρ:水の密度(kg・sec2/m4)
LP=L×CP オイルフェンスの投影長さ(m)
L: オイルフェンスの長さ(m)
CP: オイルフェンスの開口比(LP/L)
D: オイルフェンスの喫水(m)
V: 曳航速度(m/s)
である。
このようにして求めた抗力係数を速度に対して図示したものを図II-8.12に示す。
これらの図からわかるように、それぞれの開口比に対して曳航速度が4種類しか変化していないので高精度の抗力係数の特性を知ることは、多少困難である。
そこで、通常、平板を曳航した場合の抗力係数は2.0であるので、オイルフェンスの場合も極めて遅く曳航した場合には、平板と同じ抗力係数になると仮定して、各開口比に対して曳航速度の変化した場合の抗力係数の特性曲線を示した。
その結果、オイルフェンスの長さ及び開口比が変化した場合の曳航速度に対する抗力係数の特性曲線が求められた。
そして、オイルフェンスの捲れ始めと、完全に捲れ上がる曳航速度を大略把握するために、図中に破線で示した。
これらの仮定に基づいて、オイルフェンスの抗力係数の特長を調べると大略次のとおりである。
イ オイルフェンスの抗力係数は、長さ及び開口比に関係なく、2.0から曳航速度が高くなるに伴い抗力係数が徐々に減少し、ある速度から一定勾配で急激に減少し、そして、最終的には大略0.4に落ち着く傾向を示す。
ロ オイルフェンスの捲れ上がりによる抗力係数の急激な減少は、曳航速度が0.1 m/s増加すると抗力係数が約0.8減少する。
ハ 図II-8.12の図中に示した破線をオイルフェンスの捲れ始め及び完全に捲れ上がった過程を概略的に示しているとすると、オイルフェンスの長さに関係なく開口比によって捲れ始めの曳航速度(V1)と完全に捲れ上がる曳航速度(V2)が大略求められる。
表II-8.2に開口比とV1及びV2の関係を示す。
表II-8.2 開口比とV1及びV2の関係
開口比 |
V1(m/s) |
V2(m/s) |
0.4 |
0.08 |
0.26 |
0.6 |
0.1175 |
0.30 |
0.8 |
0.155 |
0.32 |
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これらの値から、開口比が大きくなるに伴い、オイルフェンスの捲れ始めの曳航速度と完全に捲れ上がる曳航速度が高くなることがわかる。
以上の成果からオイルフェンスの平水中における抗力係数を大略推算することが可能であるといえるが、多少でも推算精度の向上を計るために、オイルフェンスの長さによる抗力係数の傾向を図II-8.12の実験値を用いて示すと図II-8.13となる。
これらの図から、開口比が0.4及び0.6ではオイルフェンスの長さによる影響はほとんどないといえるが、開口比が0.8になるとオイルフェンスの長さが20mと40mとで抗力係数が変わることがわかる。
引用文献
3)「海上防災の調査研究」、オイルフェンスの使用法に関する調査研究III(オイルフェンスの錨による固定法)
海上災害防止センター、調55-1、昭和56年3月
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