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6. まとめ
 米国では2000年8月に海洋法(公法106-256)を成立させ、大統領に包括的な長期的な海洋及び沿岸国家政策を策定、実施することを義務付けた。同法に基づき、16名の委員からなる海洋政策審議会を設立し、海洋及び沿岸活動を調査し、統一性のある国家海洋政策についての所見と提言を詳細にまとめた報告書を提出することとなっている。
 
 審議会において取り扱う課題は以下のとおり。
○海洋・沿岸活動に関連する人的資源、船舶、衛星等の施設及び技術の評価。
○連邦政府の海洋・沿岸活動の見直し。
○過去の海洋・沿岸活動に関する規制の改正すべてを見直し、不整合、矛盾を解消。
○米国海洋・沿岸資源の需給見直し。
○海洋・沿岸活動における連邦、州、自治体、民間部門の関係見直し。
○海洋・沿岸生産物及び技術開発の機会見直し。
○海洋・沿岸活動の有効性と統合を高めるための連邦及び州の活動の見直し。
○海洋・沿岸資源の管理、保護、利用改善のための米国法の改正提案。
○連邦政府機関の間の海洋政策調整の有効性と妥当性見直し。
 
 海洋法に明記された手続きに従って、16名の委員が選出された。各委員の海洋問題に関する経歴は海軍、資源管理分野、学術調査分野、民間部門と多岐にわたっている。
 
 審議会は2001年9月に活動を開始し、2003年4月までに10回の公聴会を含む15回の公開会議を開催した。特に公聴会においては、海洋問題の直接の利害関係者(ステークホルダー)からの情報を聴取して、海洋の利用と管理について国家が直面している問題の収集に努めた。
 
 審議会は、海洋政策問題を分析するにあたり、ガバナンス、投資と実行、研究・教育・オペレーション及び海洋管理(スチュワードシップ)の4つの分科会を設けた。分科会は地域公聴会の結果を最大限に活用し、審議会が検討するべき主要な問題点を特定するための役割を果たすものと位置づけられ、各分科会のメンバーは最終報告書に取り上げるべき課題を抽出することが求められた。
 
 さらに審議会が、現在入手できる最高の科学的知見に基づいて報告書を作成することができるよう科学諮問パネルも設けられた。このパネルにも審議会の分科会組織にあわせて4つの分科会が設けられた。
 
 2002年7月、審議会は「国家海洋政策に向けて:海洋政策トピックスと関連事項」という文書を発表し、作業の範囲として1 海洋生物資源、2 汚染・水質、3 ガバナンス、4 沿岸域管理、5 非生物資源、6 研究・探査・監視、7 教育、8 技術・海洋オペレーション、9 投資と連邦政府組織の9つの課題を設定し、検討することとなった。
 
 審議会はこの後、最終報告書策定のため、2001年から2002年にかけて開催した公聴会の結果をとりまとめたうえで、2002年11月、2003年1月及び2003年4月に開催された会議の討議用資料として政策オプションという文書を作成している。
 
 本報告書では、海洋政策審議会設立の経緯、組織、運営形態等の説明を行うとともに、2003年6月に公表された、2001年から2002年の公聴会における発言をとりまとめた2つの文書をもとに、上記の9つの課題のうち、必要に応じてさらに小項目に分類したうえで、独自に整理を行い、最終報告書に取り込まれる可能性が高いと考えられる主要テーマを抽出し、各テーマに対する公聴会での発言を要約した。
 
 テーマ別では、生物海洋資源とガバナンスの2分野に発言が集中していることがわかる。生物海洋資源問題については経済的側面を重視する立場と、環境保護を重視する立場の発言が対立し、この2つの立場の均衡を図るような新たな枠組みの提言がなかった。発言の多くは現在の問題点を明確にし、連邦の政策と州政府の政策の調整を行うような組織の必要性を指摘している。
 
 生物の多様性については、生物の多様性の保全、持続可能な利用、遺伝の配分、漁業資源管理については現行の漁業管理政策の指針を定めたマグナソン・スチーブンス法の効用を強調する意見と現状は不十分で新たな法規制を行うべきとの意見があった。
 
 一般に対する教育について、海洋教育が重要であるにもかかわらず、現在小・中・高校レベルにおいてはより広い分野の科学教育の中に埋もれてしまうことに対する懸念が示された。
 
 調査・研究・観測については、現在実施されている調査、研究の多くが限定された目標について実施されているが、これらを協調・統合して継続的かつ包括的に実施することで、より広い科学的疑問の解決に資するべきとの意見が多くあげられた。
 
 連邦政府組織については、生態系の保護を所管とする組織を求める発言が多く出たが、そのありかたについては、一括して担当する省の設置、大統領府のリーダーシップによる省際委員会の設置等、さまざまな意見が出ている。
 
 公聴会の結果、分科会での審議を踏まえて、2002年11月から2003年4月にかけて、審議会の提言を取りまとめるための公開討議が実施された。この場においては、各議題について事務局が準備した討議用素材に基づき、議論が行われた。本調査では審議会報告書の目次草案に基づき、討議内容を整理した。ここでは議論を以下の8つの分野に整理している。
 
1 概要
2 今後の国家海洋政策の枠組み
3 水系の管理と利用
4 海洋資源管理(生物資源、非生物資源)
5 研究、開発
6 教育
7 米国の国際的役割
8 今後の国内における海洋政策
 
 現在、政府は議会に対し、海洋法条約批准の検討を要請しており、2003年10月には上院外交委員会において2度にわたり公聴会が開催された。
 海洋法条約に加盟した場合には、米国の海洋政策に大きな変化をもたらすことが予想されるため、本審議会もその動向を見極めたうえで必要な変更を加え、最終報告書を政府及び議会に提出するものと思われる。おそらく、このために2003年秋に公表されるはずであった最終報告書の草案が2004年1月末現在公表されていない。
 
付録
報告書草案目次
(2003年6月26日現在)
 
第I章:わが国の海洋:国家的資産
A. 概観
B. 海洋の現状
1. 海洋資産/価値
2. 海洋の区域(図解入りの管轄区域の説明を含む)
3. 現状
4. 傾向と予測
C. 国家海洋政策の目標
D. 指標
E. 望ましい将来の要素
 
第II章:包括的かつ協調的アプローチ
A. 概観:生態系を基にした一元化された海洋の計画と管理
B. 行政府のリーダーシップ:国家海洋政策の枠組み
1. 大統領補佐官
2. 大統領府内に海洋政策局を設置
3. 国家海洋協議会(連邦政府機関)
4. 海洋政策に関する大統領諮問委員会(非連邦政府機関)
5. その他の組織的要素
C. 立法府のリーダーシップ:実施法の制定
D. 州/地域/地方自治体のリーダーシップ:新しいガバナンスの概念
E. 提言のまとめ
 
第III章:沿岸・沿海に住む私たち
A. 概観
B. 総合的管理アプローチ
1. 連邦政府の役割
2. 州政府の役割
3. 地方自治体の役割
4. 水系管理アプローチ
5. 国家海洋協議会及び地方海洋協議会との関係
C. 管理にあたっての具体的な問題点
1. 開発の計画と管理
2. 沿岸海域の保護(点源及び面源汚染管理を含む)
3. 沿岸生息域の保護
4. 人命と財産の天災からの保護
5. 海岸線と堆積物の管理
6. 沿岸における観光とレクリエーション
7. 全国的水系監視システム
a. 既存の水系監視プログラム
i 環境保護庁(EPA)プログラム
ii 米国地質調査局(USGS)プログラム
iii 海洋大気局(NOAA)プログラム
iv その他のプログラム
b. 諸機関共同の監視イニシアティブ
i 政府間タスクフォース
ii 米国水質監視協議会20
iii CENR21イニシアティブ
iv EPA-USDA22行動計画
c. 全国的監視イニシアティブの枠組み
i 包括的、協調的適用を確実にするために
ii リード・コディネーターの任命
iii 連邦政府における主監督機関の任命
iv 地域ごとの柔軟性
v 一貫性があり、共有できる技術的手順の開発
vi データの時間的及び空間的統合
vii 抽出したサンプルが典型的なものであることを確実にする
viii ベスト・マネージメント・プラクティスの監視
ix データの有益な情報への転換
x データへのアクセスの改善
xi 既存の監視システムの拡充
 
D. 海上貿易と海運
1. 海上貿易とその重要性
2. 海運システム
a. 港湾
b. 船舶
c. 航行支援
d. 船舶造修
e. 港湾、航路、水路
3. 米国のMTS23の需要予測
a. 国内海上貿易
4. 将来の需要を満たすための米国のMTS整備
5. データ取得と長期的予測の改善
6. 港湾計画及び認可プロセスの改善
7. 国家貨物政策の策定と実施
8. 包括的港湾管理計画
a. 港湾開発と浚渫
i 沿岸管理の一環としての港湾開発
ii 計画・承認プロセスの合理化
b. 包括的港湾計画アプローチの支援
i 調査・研究と監視
ii 専門的技術とリソースの分配
c. 財源の問題と代替策
E. 提言のまとめ
 

20National Water Quality Monitoring Council
21Committee on Environment and Natural Resources Research
22United States Department of Agriculture(米国農務省)
23Maritime Transportation System(水上輸送システム)







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