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4. 審議会の作業の分析
4-1. 海洋法決議
 審議会はまず、国連海洋法条約の批准を米国に求める決議文を採択した。採択された決議文は次の通りである。「米国海洋政策審議会は全会一致でアメリカ合衆国に対して、即座に国連海洋法条約への加盟を提言する。米国が海洋及び沿岸活動において指導的役割を維持するならば、早期に批准することは非常に重要である。重要な国益にかかわる問題であり、米国は迅速に加盟することによってのみ、近く始まる条約に基づく活動に全面的に参加することができるのである。」(2001年11月14日)
 
 これまでの米国の海洋法条約への取組状況は以下のとおりである。
 
 1994年10月7日、クリントン大統領は1980年国連海洋法条約及び国連条約パートXIの実施に関する1994年の協定を上院に送った。条約・協定パッケージは上院外交委員会に付託された。1994年11月16日に国連海洋法条約は、米国未加盟のまま発効した。1994年の協定は1996年7月28日にこれも米国未加盟のまま発効した。
 
 米国は1998年11月16日まで、国際海底機構に暫定的に加盟していた。条約及び協定批准の時間を与えるための暫定加盟期限は1998年11月16日に切れたが、上院から条約に関する提言も批准の同意もなかったため、大統領は条約・協定を国内で実施されることができなかった。1998年11月16日以降、米国は同機構のオブザーバー国となっている。
 
 1982年の国連海洋法の大部分についてレーガン大統領を初めとする米国の歴代政権は、世界の海洋の競合利用に関する包括的法的枠組みを作るという米国の関心事項を満たすものであるとして支持している。議会調査局(CRS)による議会への報告によれば、米国を初めとするいくつかの先進国はパートXIと付属書III、IVがいくつかの点で国益に反すると判断し、条約への署名、批准を行わないことを決定した。受入れがたい点のなかには、国際海底機構評議会(ISA)と総会の意思決定プロセスが、米国または西側先進国の関心に比例した権限を与えないこと、米国の明白な承認なしで条約修正案が発効することを認める「見直し会議」条項、民間技術の国際間の強制移転に関連した規定、自由市場の考え方と矛盾する経済原理を組み込むことにより、深海海底鉱物資源の将来の開発を促進するよりは抑止すると考えられる条項、将来の深海海底鉱物資源に対するアクセスの保証の欠如がある。クリントン行政府は、1994年の協定と付属書が深海海底問題についての条約における問題点を是正したと論じている。
 
 CRS報告書によれば、条約/協定パッケージは上院審議において直面する問題には次のものが挙げられる。
○協定により条約の深海海底鉱物資源開発に関して反対派が問題としている条項は「改められた」か?
○条約で定められた紛争解決プロセスと米国の紛争解決手続き宣言に上院は納得するだろうか?
○米国の批准により現行米国法への影響はなにか?
○実施法によりどのような変更が必要か?
○条約/協定が定める「人類共有財産」の概念を米国が受入れることにより、どのような先例ができることになるか?
○1994年の協定で使用された条件付適用手順は、米国の協定プロセスの先例としてプラスであるかマイナスであるか?
○国際海底機構評議会の決定により米国政府はどのような責任を負うか?
○議会が何らかの役割を果たす必要があるか?
○ISAと米国のISAへの参加費用を議会が認めるための法的根拠は?
 
 2001年11月27日、国連経済社会評議会米国代表のSichan Siv大使は国連総会で次のように発言した。「米国は長年の間国連海洋法条約を海洋の伝統的な利用に関する国際法を規則化したものとして受入れてきた。米国は条約はもちろん、条約の深海改定鉱物資源開発についてのパートXIの欠点を是正した1994年協定の協議において重要な役割を果たしてきた。条約の規則は米国の国家安全保障、経済、環境の利益となるため、ジョージ・W・ブッシュ政権は米国の条約批准を支持することをお伝えしたい。」
 
 2002年4月8日、国連会議における発言で、Mary Beth West米国大使は、「加盟国となるために米国上院と協力する意思である」として、米国の条約批准を行政府が支持していることを繰り返した。
 
 海洋・国際環境・科学問題担当国務次官補John F. Turnerは、2003年10月21日に上院外交委員会に対する証言で、同じ点を繰り返した。「本政権は米国が条約に、今すぐにでも加盟すべき重要な根拠があると結論した」と同次官補は証言している。「長年、米国は条約非加盟国として自国の海洋利権を主張しようとしてきた。この方法で相当な成功を収めてきたが、加盟国になることによりさらにこの努力は効果を高めるであろう。1994年の協定により修正された条約は、条約非加盟であるよりは加盟した方がわが国の海洋利権を確実に、また政治的、経済的な不利益をこうむらずに追求、確保するための受入れ可能なまた容認できる国際的枠組みとなっている。」
 
 2003年10月に上院外交委員会により2回にわたり条約についての公聴会が開催された。これは1994年以来初めて開かれた条約に関する公式会議である。
 
 2003年12月23日現在で、145カ国(143の独立国、クック諸島、EU)が1982年条約に加盟している。同時に、117カ国(クック諸島を含む)が1994年協定に加盟している。(クック諸島はニュージーランドの自治領であり独立国ではない)。以前に国際海底機構の条件つき加盟国であった4ケ国:ベラルーシュ、スイス、アラブ首長国連邦、米国は、他の44カ国とともにオブザーバー国のステータスである。
 
4-2. 構成要素文書
 審議会は2002年4月に構成要素文書を作成し、「適切な国家海洋政策に必要不可欠」と審議会が考える広範な要素の概要をまとめた。さらに同文書は審議会の作業のコンテクスト(背景)を明らかにすることを意図している。
 
 「議会と大統領はなぜ包括的国家海洋政策が必要であるかを明言している」と「構成要素文書」には記述されている。「国家海洋政策がどのようなものであるか、そしてどのようにして実現させるかをはっきりさせるのが審議会の役目である。」
 
 この声明で、審議会は自らの役割を明白に宣言している。その役割とは、大統領と議会に具体的な提言を提供することであり、大統領と議会がそれを実行に移すのである。言い換えれば、審議会は従うべき指針または手引きを提供することを意図しているのである。
 
 「構成要素文書」はまた、審議会が政府だけを対象にしているのではないことを明らかにしている。「審議会は整合性のある米国海洋・沿岸政策は、公益部門、民間部門の両方を導くものであり、スチュワードシップ(管理責任)の倫理を促進すべきであると確信している。」しかしながら、海洋法により審議会の権限は連邦、州、地方自治体の政策及びプログラムに限定されている。審議会が検討を行ううえで、民間部門の利害にも触れることにはなるが、どの程度審議会が民間部門に特定の行動を促すことができるかというと、それには限界がある。
 
 審議会の提言の目標は、「海洋・沿岸資源の責任ある開発と適切な保全のバランスをとり、大気や川等の状態との相互作用を明白に認識する」ことである。
 
 加えて、審議会は以下の構成要素がしっかりとした国家海洋政策の開発に必要不可欠であると考えている。
 
○海洋・沿岸資源の管理において、連邦、州、地方自治体のすべてのレベルの政府、民間部門、一般国民、住人が果たすべき適切な役割を定義する一元化された包括的枠組み。
○壊れやすく、かけがえのない沿岸・海洋区域の環境を破壊しない方法で継続できる海洋資源の利用。
○米国の沿岸・海洋資源の豊かさと大気と海洋の間の関係に対する意識を高め、海洋利用に固有の潜在的な便益(benefit)と費用(cost)を特定し、海洋スチュワード(管理責任者)としての政府、国民及び住民の役割を説明するための国民教育。
○持続可能で有益な海洋資源利用と海洋資源保護の改良のために利用される海洋領域についての技術的知識。(海洋と大気の間の相互作用、海洋の特質、ダイナミクス、生態系等)
○適応性のある海洋資源管理を行うための継続的な監視。
○米国沿岸、港湾、水路における天災、人災から国民を守る公共安全・保安。
○レクリエーション及び教育目的はもちろんのことインスピレーションや回復のために国民が海洋環境を享受し、海洋環境から恩恵を受けるための豊かな機会。(天然のアメニティー、美、歴史的文化的資源)
○海洋・沿岸ガバナンス、スチュワードシップ(管理責任)、教育、科学、探査に関して、専門知識を開発し、諸外国と専門知識を交換することによる地球的海洋問題に対する米国のコミットメント。
○米国及び世界のための公益部門、民間部門による海洋ベースの通商、海洋テクノロジー開発、資源保護と利用、環境回復、レクリエーション、海洋知識の拡大への投資。
○国家海洋政策のすべての要素が実施されるように監督し、関心が持続するようにするための有効な管理システム。
 
4-3. 問題とオプションの定義
 2002年7月に発表された「国家海洋政策に向けて:海洋政策トピックスと関連事項」で審議会は作業の範囲を定義し、検討することになる課題の詳細を明らかにした。この時点で審議会は少なくとも9回の公聴会を開催し、多くの情報や意見の提供を受けていた。「国家海洋政策に向けて」は、この情報や意見から一連の大まかな議題を特定し、問題点を議題ごとに分類している。同文書では関心のある分野を定義し、数々の質問事項を挙げたが、それに対する答えや意見は提供していない。審議会を弁護すれば、回答や意見を述べることはこの文書の目的でも趣意でもなく、その代わり、審議会が議題の範囲をどのように捉えているかを示し、その決定についてステークホルダー(利害関係者)のコミュニティからフィードバックを集めることを意図したものである。
 
 9つの議題が特定された。
 
議題1: 海洋生物資源
議題2: 汚染・水質
議題3: ガバナンス
議題4: 沿岸域管理
議題5: 非生物海洋資源
議題6: 研究・探査・監視
議題7: 教育
議題8: 技術・海洋オペレーション
議題9: 投資と連邦政府組織
 
 2002年11月の「目次草案」ではこれらの問題についての審議会の考えが明らかになってくる。この文書は審議会で検討、議論されるために提出されている一連の声明、結論、提言を反映している。所見は分科会における議論、公聴会で受け取った意見や情報を基本として、スタッフが作成した。同所見は審議会に提出され、2002年11月のワシントンD.C.会議で議論された。
 
 その後の2003年の会議では、検討議題を明確化するために各種政策オプションについての議論が行われ、アジェンダに組み込まれていった。2003年6月に最終報告書の第一次「目次草案」として公表された。
 
4-4. 公聴会の結果
 今回の海洋政策審議会において特筆すべき事項は、1年近くにわたる実態調査期間中に公聴会を地方の9箇所で開催したことである。開催場所も海洋と関係の深い地域を全米から選び、これにより委員がワシントンの海洋政策関係者の意見だけでなく、利害関係者から直接に意見を聴取する機会を得たことになる。
 
 審議会は公聴会の場を通じて数多くの証言を受けたうえで、検討していくべき課題を選び出し、その後2002年11月から2003年4月にかけて開催された公開審議の場で、提言作成に向けて政策オプションのとりまとめ審議を実施した。
 
 本調査においては、審議会が取り組む可能性が高いと思われるテーマを選び、このテーマに対してどのように指摘がなされているかについて整理を行った。具体的には、各発表者が取り上げた課題を議題別に整理したものと、発言者の提言の内容を簡潔にまとめリスト化したものとの2種類のデータベースを作成した。このデータベースの作成にあたっては、海洋政策審議会が発表した「政策トピック別証言」及び「発表者別証言要約」の2つの文書に、会議に参加して入手した記録等を加えることにより、審議会が重点をおいたと思われる事項を抽出しやすいようにした。
 
 課題の整理方法については審議会から出された「政策トピック別証言ハイライト」を活用した。同文書が用いている整理の方法、即ち、「国家海洋政策に向けて」で策定した9つの大きな議題に大別したうえで、さらに小項目ごとに分類を行う形式とした。
 
 例えば、「水産養殖」に関する発言は「生物海洋資源」の課題の中の1項目として整理した。
 
1)発言数に基づく課題整理
 次表はトピック別にコメント数をまとめたものである。
 
2)トピック分野別の主要な議論
 本セクションにおいては、議題ごとに審議会に提示された議論を要約する。審議会が注目したと思われる課題については小項目について整理したが、発言数は多いものの、審議会としては検討課題としての優先度が低いとみなしたような項目については、大きな議題単位で整理を行った。







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