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2. 知的財産権を最大限に保護する工夫
 新しいアイディアが発明された時、その発明に関連して発生する権利が当事者によって主張され、しかるべき方法で保護されるため、またその発見・発明が十分に開発されるため、様々な手法が存在する。
 
2-1. 守秘性の確立と保持
 知的財産権を最大限に保護するに当たり、最も重要なのは新しい作品の創造に繋がる可能性を持つ全ての活動が守秘義務の枠組み内でのみ行われるよう徹底することであろう。
 
2-1-1. 秘密保持契約
 当事者がプロジェクトに着手すると同時に各当事者に秘密保持合意への署名を要求し、プロジェクト関連事項全てについて秘密保持を確実とするべきである。
 これは特許・意匠権を申請する際に極めて重大である。なぜなら主題がすでに公開され、先行技術により予想が可能とされる物に対して、特許・意匠権は付与されないからである。一方、プロジェクト期間中に生じた書類が秘密保持の合意により守られていたならば当プロジェクト間に生まれた発明は先行技術の一部として見なされず、特許・意匠権の対象となりうる。
 
2-1-2. プロジェクト内での分野別アクセス制限
 プロジェクトに関する情報の開示対象は可能な限りその情報を知ることが不可欠である人のみに限定されるべきである。同時に全ての秘密情報には極秘保持の印を付けるべきである。ただし裁判所は守秘義務を真に秘密な情報に限って強制することが多い。従って見境なく多くの書類に極秘印を付けた場合、その価値を軽減する結果を招きかねない。
 建造プロセスで利用される製法や工程が新規であり保護に値する場合、その作業が行われる区域は他の区域から隔離されるべきである。入り口には、守秘義務の注意書きが明記されるべきであり、入り口に注意書きがあることで同地域内で見る物は秘密であることが意識される。
 
2-1-3. 開発の記録と資料化
 全ての従業員と受託業者は、可能な限りにおいて、作業内容を逐次的に記録すべきである。これらの記録は発明や意匠が、いつ、誰により、どの時点で行われたのかを示す貴重な証拠となる。
 
2-1-4. 従業員と下請負契約者、受託業者の教育
 守秘義務を尊重する職場環境の育成は、知的財産権を確立するための最も大切な側面であろう。プロジェクトに関わる全ての従業員と受託企業は、秘密保持の義務を理解するよう教育されるべきであり、プロジェクトの開始時、及びプロジェクト終了時に確認される必要がある。可能であるなら現場で作成された全ての資材はその場に残されるべきである。受託業者やコンサルタントが資材や資料を現場から移動しなければならない場合、資材がどこに移されたのかの記録が残るようにその旨を文書化すべきである。これら資材は必要でなくなった時点で、受託企業、コンサルタントにより破棄されるか、または元の場所に返却されるべきである。
 
2-2. コピーライト、データベース権、無登録意匠権の設立及び保持
 秘密情報の場合と同様、作品がコピーライト、データベース権、無登録意匠権による保護対象として認められるにあたり形式的手続きは必要でないが、これらの権利を主張する手法は存在する。
 
2-2-1. 商業上重要な資材と原作者の特定
 コピーライト、データベース権、無登録意匠権は、知的財産権の行使の有無にかかわらず、資材が創造された時点でその中に内在する。従って最も大切なステップはどの資材に商業的価値があるのか見極め、そうすることで作品に付与された権利を主張し保護する努力をプロジェクト遂行にあたって商業的価値の高いものに集中して注ぐことが出来るようにすることであろう。
 資料の重要性を判断する場合、同プロジェクトに採用された作品と考慮の結果不採用となった作品の双方を念頭に置かねばならない。アイディアを模写しようとする競合企業は、不採用になった作品を取り上げようとする可能性もあるからである。しかし不採用となった作品についてもなんらかの権利を保有しておけば、競合企業が破棄案を採用することを防ぐことが可能となる。
 商業上重要な作品が特定されたら、その作品の第一権利者の身元を確認するためにその作者、創造者、または設計者を特定する必要がある。
 作品の完成にあたり創造者に対し同作品に作成日と署名を入れるよう依頼するべきである。これは無登録意匠権の保護に関して特に重要なことである。なぜなら意匠が設計資料として登録されるか、または設計に基づいて物品が製造されない限り、無登録意匠権は存在しないからである。
 関係当事者がその作品を保有しない場合、所有権の適正な移譲を保証する意味で、該当作品に関する権利の譲渡を明示した契約書を締結する必要が生じる。
 
2-2-2. 適正な表示
 各報告書、データベース、デザインスケッチには、世間一般に対しそれが所有権を有する(秘密性がある)ことを警告し告知するための適切な表示を伴うべきである。この表示は網羅的である必要はなく、以下のように簡潔なものでも良い。
 ”©2003[所有者の名前]All rights reserved.”
 これにより同作品は2003年に創造されたコピーライト作品であり、所有権者が所有していることが確認される(意匠権、データベース権には「©」マークに相当するものはないものの、「All rights reserved」の文字を添えることでこれらも対象となる)。同作品にその他の知的財産権が付与されている場合でも、全ての権利を保有していることが明記されていることで、これらの権利を侵害することは出来なくなる。これは最小範囲の保護であり、権利者の意向次第では作品に他の明示警告や断り書きを付け加え、権利の範囲を拡大することも可能である。またこれら表示は、例えば違反者が権利の存在を知って違反行為に及んだ場合にのみ、損害賠償を受けることのできるような場合に法的保護の強化にも繋がる。
 
2-3. 特許の申請、その他の登録
 設計または建造の過程で新たな図案や発明がなされた場合、造船所は直ちに弁理士を任命しその発明の記録手続きを開始し、申請手続きの準備をはじめるべきである。この段階で重要なのは全ての関連当事者が新発明を第三者に開示しないよう注意を払うことであり、新発明に関する細密情報の開示を必要最小限の者に限ることである。
 
2-3-1. 弁理士の役目
 弁理士は、先行技術を検索し、その発明が真に新しいものであるかどうか、またそれが特許、意匠権として登録可能であるか策定する。
 その発見が新規であると考えられる場合、弁理士はその発明・意匠の新しい特徴を記録し、優先日を確立するため特許権、意匠権を申請する。これにより優先日以降に同じ特徴を主張する申請は無効となる。
 優先日が定められたら特許権、意匠権が付与されるよう全ての証拠が整っていることを確認した上で弁理士は申請プロセスの遂行に従事する。
 
2-3-2. 登録権利の管理
 上記に説明したコピーライトや無登録方式の諸権利と同様、登録方式の諸権利の保護対象となる物品には該当権利と登録番号が表示されていなければならない。これはその物品の権利が保護されていることを世間一般に警告し、また世間一般がその物品にどの種の権利が付与されているのか確認する参考となる。
 
2-3-3. 更新
 一般に、登録方式の諸権利は一定期間有効であり、その後は更新費の支払がない場合、失効となる。通常、更新費の支払いには猶予期間が設けられており(その場合は遅延損害金を請求される)、その猶予期間を過ぎても支払いされなければ権利は失効する。
 従って、登録方式の諸権利の所有者は、該当権利を管理し、登録当局との窓口となる担当者を任命するべきである。弁理士が有料でこうしたサービスを提供しているはずである。
 
2-4. 権利の行使
 知的財産権は行使されない場合、その内在価値を失わざるを得ない。第三者が自らの知的財産権を侵す活動をしているのにその活動を止めなかった場合、権利者は自らの行為によりその侵害活動に同意した、または黙示許容によりその権利を付与したという法律的主張が成立しうる。
 従って、第三者が権利を侵害していないかどうかを権利者は常に市場活動、関連市場を検討し続ける必要がある。こうした作業の一部は弁理士に委託することも出来る。弁理士は関連登録所へ登録される申請を常に監視しているので、第三者が侵害的権利を申請した場合、直ちに確認することができる。
 第三者が所有権者の権利を侵害していることが発覚した場合、黙示許容の主張が成立しないよう直ちに侵害者の行為に対し警告措置を取らねばならない。しばしば権利者が取りうる最も効果的で迅速な行動は、知的財産権の不当な使用を禁じるために裁判所へ勧告を申請することである。しかし所有権者が処置を取るのが遅れた場合、この改善措置が認められるまで遅れが生じることになる。
 
2-5. 契約による保護
 秘密保持の合意の重要性については先に論じた。守秘義務がいかなる条件のもと適用されるのか、秘密情報をめぐって、当事者が秘密情報を開示し、使用するうえでどのような権利を保有するかについては明らかなはずだ。
 同様に新製品を開発するにあたり、複数の当事者が共同で設計、建造を行う場合、既存の知的財産権の共有に関して、また共同作業の結果完成した製品に関する所有権に関しても、その基盤となる条件について共同作業開始時から合意に達していることが不可欠である。完成製品は共同所有である場合もあるが、各当事者の貢献分野がはっきりしている場合、所有権は分担されることがある。あるいは一当事者が他の当事者をしかるべく方法で補填し、それと引き換えに所有権を確保する場合もある。
 各当事者が将来、該当製品をどの様に使用できるのか明記しておくことも必須である。ある製品の権利が一当事者から他当事者へ譲渡されたが、譲渡元の当事者が将来的にその製品を使用する必要がある場合(その製品の維持が目的であるかないかにかかわらず)、ライセンスがその当事者へ供与されなければならない。さらにその製品に基づく改良品、派生的製品の所有権についても検討されなければならない。
 造船過程で交わされた全ての契約は、知的財産権を注意深く配賦しなければならない。場合によっては必要とされる関連ライセンスを別個に扱うべきである。完成製品及びその製品の将来的な使用に関する権利の割当が行われていない場合、当事者達は黙示許容に基づいてお互いの関係を管理していると見做される可能性がある。これらは曖昧であり、とりわけ係争が生じた場合、またその技術の価値が高く評価された場合、あるいは将来新たな応用使途が見いだされた場合その不確実性はさらに増加する。
 
2-5-1. 守秘義務を明記した企業間契約書
 取引先や顧客との契約上で「守秘義務」に関して特に明記した覚書の具体的な一例を下記に紹介する。
 







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