日本財団 図書館


ケース・スタディ3: Hamworthy-KSE
企業概要及び事業分野
 英国Hamworthy Marineは、1962年にエンジニアリング・運輸コングロマリットPowell Duffrynに買収され、同社の100%子会社となった。Hamworthy Marineの主要事業は空気圧縮機製造であったが、1992年のデンマークSvanehojの買収により、カーゴ・ポンプを製品ラインに加えた。1995年にHamworthyはPowell Duffrynグループ内の独立企業となり、1998年にはKavaerner Ships Equipmentを買収し、社名をHamworthy-KSEに変更した。
 
 現在、Hamworthy-KSEの主要事業分野は、(1)空気圧縮機、(2)主機室ポンプ、(3)カーゴ・ポンプ、(4)汚水処理装置、(5)ハイ・リフト・ラダー、(6)真空トイレである。1995年7月には、同社30年来最大の発明であるV-Line空気圧縮機を発表、市場で大きな成功を収めている。
 
 1999年の企業再編に伴い、Hamworthy-KSEはカーゴ・ポンプ、主機室、バラスト及び消火ポンプ事業をシンガポールに移転した。
 
市場の開拓
 Hamwortby-KSEは、品質に妥協せず、コスト削減と製造工程効率化を実現し、アジア市場における同社製汚水処理装置の売上げは過去5年間で倍増した。
 
 同社工場を英国南部のPoole(サザンプトン近郊)から中国に移転したことが、大きなコスト削減につながった。Poole工場での平均賃金が月2,000ポンドであったことに比べ、中国工場では僅か165ポンドと10分の1以下である。即ち、中国に工場を移転したことにより、人件費は90%以上削減された。
 
対中国戦略
 Hamworthyは、1997年に最初の販売事業所を上海に開設した。これは急速に拡大する中国造船業の動きを睨んだもので、造船所が集中し、海上交通のハブでもある上海に事務所を開設することにより、地元産業への参入を狙った。事務所所長には、求新船廠(Qiuxin shipyard)の元ビジネス担当マネージャーを起用した。
 
 1998年末のKSE買収に伴い、HamworthyはKSEの所有する中国船舶工業集団(Chinese State Shipbuilding Corporation: CSSC)とのジョイント・ベンチャーの権利も取得したが、まもなく売却した。
 
 KSE買収前の1997年には、Hamworthyは上海市の西80kmに位置する蘇州に、最初の汚水処置装置製造工場を開設した。Hamworthyは当初から工場拡大計画を持っており、2001年には100万ポンドを投じ、同じく蘇州に第二工場を建設、総工場面積を一挙に1,000m2から3,000m2に拡大した。同時に大規模な塗装工場を開設、20トン級クレーンも設置した。
 
 今後、第二工場を6,000m2規模に拡大する計画もあると噂されている。同社からの公式コメントはないが、その拡大戦略を見た限り、可能性は高いといえよう。
 
 Hamworthy-KSEの中国現地スタッフは、本社からのシニア・マネージャーによる製造及び品質管理に関する徹底したトレーニングを受けている。また、蘇州工場のシニア・マネジメント・チームは、英国Poole本社から派遣され、製造品質の確保と納期厳守に焦点をあてたマネジメントを行っている。
 
 全製造工程及び検査過程はロイド船級協会の定める基準に準拠し、蘇州工場はISO9002品質基準も取得している。また、Hamworthy-KSEは中国において欧州連合(EU)の舶用機器指令(MED)に準拠する最初の企業である。
 
 蘇州工場で製造される主要製品は、汚水処理装置とイナード・ガス処理装置である。汚水処理設備は小型船舶向けから大型クルーズ船向けまで全機種とり揃えている。同工場が最初に製造した製品は、5,000m3の煙道ガス処理システム、及び三菱重工向けの1日10,000リットルの汚水処理能力を持つST6X型汚水処理装置6機である。
 
 中国での工場開設により、他の極東地域市場への製品デリバリー期間が短縮され、コミュニケーションも改善された。しかし、Hamworthy-KSEは、蘇州工場からの製品は、中国、日本、韓国市場だけではなく、全世界の顧客向けであることを強調している。
 
 Hamworthy-KSEの中国市場における近年の活動概要は以下の通りである。
 
1998年
●中国Geophysical Exploration and Development Corporation of Shengli向けに中国で建造された地質調査船用400cfm級ディーゼル地質圧縮装置2機をBolt Technology Corporationから受注。
●また、スウェーデンNordic Forestが大連造船所で建造中の新造船向け統合汚水回収・管理システムを受注。
 
1999年
●ノルウェーOcean Rigが大連造船所で建造予定のリグ4機のうち、最初の2機向けに汚水処理システムを受注。
 
2000年
●スウェーデンNordic Forest Terminals ABが大連造船所で建造中のRO-ROフェリー6隻向けの汚水処理装置を受注。
●スウェーデンDag Engström Rederi ABが滬東中華造船(集団)公司で建造中のRO-RO船向けにカーゴ・アクセス装置及びSchilling Monovecラダーを受注。スウェーデンRederi AB Gotlandが広州で建造中の新造船2隻向けのカーゴ・アクセス装置を受注。
●スウェーデンTarntankersが上海愛徳華造船有限公司(Shanghai Edward)で建造中の14,000DWT級ケミカル・タンカー、及び米Tropical Shippingのコンテナ船2隻向けにSchillingラダーを受注。
●中国船主Nanjing Oil Transportation Companyが大連で建造中の40,000DWT級プロダクト・タンカー2隻向けにSchillingラダーを受注。中国船主にとっては初めてのSchillingラダー設置となる。
●空気圧縮機への需要が急増。大連で建造中の300,000DWT級タンカー5隻向けにV-Line圧縮機を受注。
 
2001年
●汚水処置装置、圧縮機、ラダー事業とも売上げ好調。中国遠洋運輸(集団)総公司(COSCO)が上海外高橋造船所で建造中の175,000DWT級ケープサイズのバルク・タンカー2隻向けに汚水処理装置を受注。上海外高橋造船所から初の受注。
●2001〜2003年にかけて、19の船主、12の中国造船所から製品受注。発注した船主は、Dockendale、Victoria Steamship、Intership、Graig Shipmanagement、Columbia、Bocksteigel、Tom Worden、Buss、Al Sham Shipping、Pacific Lines、Columbia Ship、Cosbulk、Seven Seas、Nordic Forest、Tärntank、COSCO等。
●2001年度の圧縮機受注は、広州及び大連で新造船建造中のA.P.Moller、Overseas Maritime Corporation等。2001年度のV-Line圧縮機売上げの13%は中国造船所からの受注による。
●中国市場におけるSchilling Marinerラダーの受注も上向き。スウェーデンEktank ABが江南造船廠(Jiangnan Shipyard)で建造中の13,700DWT級ケミカル・タンカー向けに受注。また、Nanjing Oil Transportaionが大連、渤海で建造中の40,000DWT級タンカー4隻向けにも受注。
●その他、Schilling Marinerラダーの受注元は、スウェーデンTärntankの14,000DWT級ケミカル・タンカー2隻、及び米国Tropical Shippingの10,600DWT級コンテナ船2隻(上海愛徳華造船有限公司)。
●Mono VECラダーの受注元は、スウェーデンDag Engström Rederi ABの12、500DWT級RO-RO船(滬東中華造船(集団)公司)、アイスランド船主向け3,500DWT級プロダクト・タンカー(求新船廠)。
 
2002年
●Mayflower Energyが秦皇島のShanhaiguan造船所で建造中のタービン設置船「Mayflower Resolution」向け汚水処理設備を受注。
●イタリアAmoretti Armatori GourpがJiangysu Yangzijiang造船所で建造中の19,000DWT級ケミカル・タンカー、及びシンガポールIMC Shippingが大連で建造中の45,000DWT級タンカー向けに、C2Cエンジン・ルーム・ポンプを受注。
 
 Hamworthy KSEは、2000年にテクニカル・アドバイス、監督、検査を行う新チームを上海に派遣し、Schillingラダー販売を加速していたにもかかわらず、2003年5月には、Schillingラダー及び空気圧縮機ビジネスをドイツの舶用グループHatlapaに売却した。この動きは、2002年8月に発表された同社の4部門売却計画の一環として行われた。同社は、新技術、新製品を投入し、着実に伸びているコア・ビジネス、即ち汚水処理装置、ポンプ及びポンプ・システム、ガス処理装置、に専念する計画である。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION