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3. 中国造船・修繕業界の動向
3-1 船価
 本調査に関連した欧州舶用企業の中国市場戦略に関するアンケート調査結果によれば、大部分の企業が、中国が世界で最も安い造船国であると答えている。(詳細は添付資料参照)また、公式データでも、2002年度の中国の新造船受注価格は欧州に比べて20%以上安いとの結果が出ている。(「Lloyds Ship Manager」2003年4月号)ドイツ政府が、自国造船所に対し、新商船建造価格の20%までの融資を供与するという政策を採ったにもかかわらず、このような結果が出ていることは興味深い。
 
3-2 品質と生産性への懸念
 一方、多くの船主、船社が中国で建造された船舶の品質のばらつきへの懸念を表明している。この業界一般論に加え、本調査でインタビューした船主も、中国造船所での建造工程には通常よりも厳しい監督が必要であると答えている。また、中国造船所の生産性は日本、韓国に比較して低く、設計期間を除いた24,000重量トン級ハンディサイズの建造に14ヶ月を要する。さらに、新造船引渡しが予定よりも2〜3ヶ月遅れる場合もあるという。
 
 しかし、本調査でインタビューした船主の多くは、中国での新建造船に満足しており・近年中国の造船所が船主や船級協会の要望に応え、建造工程の品質改善に尽力していることがわかる。
 
実例1: 塗装技術
 中国造船業で近年大きく品質が改善した分野に塗装技術がある。船体の塗装は、燃費改善とサービス期間の短縮に寄与する、船主にとって重要な考慮事項である。中国の造船所は塗装の重要性に注目し、広州広船国際股[] 有限公司(Guangzhou Shipyard International)等では近代的な屋内塗装設備を有している。
 
3-3 根強い偏見
 インタビューした船主の中には、確固とした根拠もなく中国造船所に偏見を持っているように見受けられることもあった。例外的に事実に基づいた意見としては、自船数隻の大規模な修繕を中国の造船所に依頼したある欧州船主が、その低品質を批判する例があった。
 
 総体的に見て、未だ根強い偏見を持つ欧州船主は、近年大幅に改善した中国造船業の現状に精通していないという印象を受けた。中国造船所の実力と自信を示す証拠としては、最近、中国の主要造船所が1隻のみの建造受注に消極的、または断る場合もあることが挙げられる。このような強気のビジネス戦略は、数年前まではなかった現象である。
 
3-4 船主の立場
 船主がある造船所に新造船を発注するにあたっては、様々な要因が考慮される。
 
 例えば、欧州の中小船主が融資を受けて新造船を発注する場合には、欧州の造船所、特に東欧の造船所を選ぶ場合が多い。これらの造船所は中国の造船所よりも建造費は高いが、現場監督の必要が少なく、資金的にも人的にも余裕のない中小船主にとっては都合がよい。
 
 他方、融資による資金調達の必要のない大手船主は、バランスシートの赤字を最小限に止めようとするため、船価の安い中国造船所への新造船発注は魅力的なオプションである。中小船主と違い、大手船主は、自社オペレーションに支障をきたすことなく、中国の造船所に現場監督を数名派遣し、業務の詳細を監督することができるからである。
 
3-5 修繕受注と鉄鋼価格
 インタビューした大手船社の中には、多くの鉄鋼を要する修繕の場合のみ、中国の造船所を利用すると答えた船社がいくつかあった。中国の鉄鋼価格は1kg当たり0.80米ドルで、英国の3.00ドルに比べて極めて安価である。
 
 しかし、中国の新造船受注の急激な増加と同時に、経済成長に伴う道路建設、鉄道敷設を含めた国内インフラ整備のための鉄鋼需要増加も見込まれており、中国の鉄鋼価格が今後も低水準に留まる可能性は低い。
 
 また、中国政府は世界貿易機構(WTO)規制を利用し、輸入鉄鋼への関税率引上げを決定した。この措置により、中国では僅か3ヶ月間で鋼板価格が100ドルも高騰するという事態となっている。
 
 前述のハンディサイズ船の建造には、10,000トン前後の鋼材が必要であり、鉄鋼価格インフレ発生以前の価格で鋼材を確保せずに船価を決定した造船所にとっては100万ドルの損失である。
 
 また、中国の造船所は起工までのリードタイムが長いことでも知られている。鉄鋼価格の動きを懸念した造船所が、ますますプロジェクトの価格決定を先延ばしにする傾向があるため、中国の造船所を敬遠する船主も出始めている。
 
3-6 需要への柔軟な対応
 中国の造船所は、ライバル国の造船所に比べて需要の急激な増加にも対応する建造能力があるともいわれている。ある香港船主は、2003年年頭に滬東中華造船(集団)公司(Hudong-Zhonghua Shipyard)にアフラマックス1隻の建造を発注した。同船主は、これまで日本の造船所のみに新造船を発注していたが、受注残に対応しきれない日本の造船所の管理体制に嫌気がさし、今回初めて中国の造船所への発注に踏み切ったという。
 
 日本の造船所の柔軟性のなさも指摘されている。ある船主は、日本の造船所は、船主がその有効性を指摘した場合でさえ、初期設計に変更を加えることを渋る、または全く対応できないことがあると批判している。対照的に、中国の造船所は欧州、日本、韓国の造船所よりも、規格や規制に縛られることがない。船主にとっては、新造船をカスタムメイドできることが、中国造船所の利点となっている。顧客ニーズに柔軟に対応することにより、中国の造船所にとっては、(1)船主の注文により、新たな技術を吸収できる、(2)船主の提案するパッケージは、通常造船所のオリジナル案よりも価格面、品質面で優れている、(3)今後の設計水準の向上につながる、等のポジティブな面がある。
 
3-7 自国造船所の弱点を認識
 中国の造船所は、設計面等における自らの弱点を十分認識しており、欧州の有力設計コンサルタントを積極的に起用している。このような明らかな改善努力により、中国の造船所は欧州船主からの新造船受注に成功しているといえよう。
 
実例2: ジョイント・ベンチャー
設計に関するジョイント・ベンチャーの例としては、欧州の有力船舶設計コンサルタント FartygskonstruktionerAB(FKAB、スウェーデン)と福建省船舶工業公司(Fujian Shipbuilding Cooperation)、及び12の中国造船所・組織の共同研究機関である大連造船技術研究所(DASTEC:Dalian Shipbuilding Technology Research Centre Company)が2001年に開始した合弁事業Dalian FKAB Marine Engineering Co Ltd(DF-Marine)がある。これは中国の造船所が安全規制強化に対応する次世代ケミカル・タンカーの設計をめざして組織したものである。このジョイント・ベンチャー結成により、スウェーデン船主がプロダクト・タンカー2隻及びアスファルト・タンカー2隻の建造を、上海愛徳華造船有限公司(Shanghai Edward Shipyard)に直ちに発注するという成功を導いた。
 
4. 中国舶用工業の現状
4-1 概況
 2002年度の中国市場への海外からの造船を含めた舶用関連産業の全輸入総額は、170億ドル程度(中国国家統計局の発表による)と見積もられている。
 
 欧州舶用機器メーカーが中国市場で勢力を伸ばしているという仮説は、本調査の結果からも証明された。さらに、欧州メーカーの舶用低速エンジンが、鋳型、Aフレーム、ベッド・プレートを含め大連と上海でライセンス製造される等、欧州舶用機器メーカーが長期的な中国戦略を持っていることがわかる。
 
 しかし、現時点では多くの舶用機器及び部品は、欧州からの輸入に頼っている。その例としては、舶用ボイラー、ターボチャージャー、ガバナ装置、燃料弁、航海機器等が挙げられる。4ストローク・エンジンも完全輸入である。
 
 外国部品が強い理由は、中国製のパーツは中国外では手に入らないことが多く、海外船主はアフターサービスが容易な外国製品を好むからである。オリジナル部品のメーカーによる迅速で効果的なアフターサービスにより、修繕頻度とコストが大幅に削減できるため、信頼性の部品調達は船主にとって大きなポイントである。
 
4-2 円高に乗じた欧州舶用企業の中国進出
 近年の円高の影響で日本製舶用機器の価格が上昇し、中国の造船所は元来使用していた日本製の荷役機械から、他の選択肢を探すことを余儀なくされた。世界で最も歴史の長い舶用クレーン・メーカーのひとつであるスウェーデン MacGregor Group はこの好機を逃さず、南京に工場を開設、ハッチ・カバーとクレーン部門を統合したドライ・カーゴ部門を新設した。同社は中国事業本部を上海に置いている。
 
4-3 品質の向上
 中国造船・舶用業界は全セクター上げての品質向上への努力を続けている。中国のコンテナ企業 China International Marineがスウェーデン All Set Tracking 社の協力を得て、ISO(国際標準化機関)標準に準拠する舶用コンテナのデザイン設計を行っていることが、その一例である。
 
 本調査でインタビューした欧州船主の多くが、中国の造船・舶用技術の急激な進歩を認識している。欧州の舶用企業は極東地域でのジョイント・ベンチャー設立に積極的であるが、一方、現地コンタクトや市場知識の欠如が障害となっていることもある。







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