4-4.ビジネスインキュベーター
4-4-1. ルイジアナ州のFASTプログラムとインキュベーターの成功事例
ルイジアナ州のSBIRアウトリーチ計画にとってFAST(Federal and State Technology)プログラムは不可欠な要素である。ルイジアナ州はRural Outreach及びFASTの助成金プログラムの導入以降、米国のSBIRランキング(助成金額の順位)が47位から36位に上昇した。
(ルイジアナ州SBIRフェーズ0プログラム)
SBA FAST助成金があるため、このプログラムはルイジアナ州に大きな効果をもたらしている。このプログラムは、SBIRフェーズI助成金申請書の作成のために支援を必要としている企業に最大3,000ドル、フェーズII提案の作成には最大5,000ドルの助成金をLBTC(Louisiana Business and Technology Center)( http://www.bus.lsu.edu/lbtc)が支給するというものである。
1999年以降、ルイジアナ州の企業はLBTCから78件のフェーズ0助成金を受け、結果的に55件のフェーズI及びフェーズII助成金獲得によって合計10,684,485ドルの資金がルイジアナ州にもたらされてきた。この投資収益率は43対1であるが、経済波及効果や、実際に連邦調達契約が成立した場合を考えると、実際の収益はさらに大きいといえる。
(大学/研究機関パートナーシップ)
LTTO(Louisiana Technology Transfer Office)
LTTOは、FASTプログラムの資金を利用して、大学と協力し、SBIR/STTRのアウトリーチ計画を増強して、新興中小企業の技術ライセンス取得や事業化を支援してきた。
LTTOは、大学の教授陣が起業に関心を持ち、専門分野の知識や応用研究の事業化を進めるように努めている。LBTCを通じてルイジアナ州の企業が提案した70件のSBIRのうち約53件はルイジアナ大学が研究開発のパートナーとなっている。
(アウトリーチセンター)
LBTCは、FASTプログラムの資金を利用して、ルイジアナ州全体にSBIRアウトリーチセンターを設立した。その結果、各地域の調整を図りながら、より効果的にSBIRプログラムのアウトリーチ活動を実施できるようになった。この計画では、関係者と提携し、関係者にSBIRプログラムのメリットについて教育する。特に参加数が少ないことがわかっている分野に関しては、SBIRプログラムを積極的に宣伝している。設立された5つのアウトリーチセンターは、Manufacturing Partnership of Louisiana(MEPoL)(Lafayette)、Metro Regional Business Incubator(Shreveport)、LSU SBDC(Baton Rouge)、UNO Research Foundation(New Orleans)、そしてルイジアナ州MonroeのSBDCである。
(FASTプログラムの支援を受けた企業の例)
LBTCインキュベーターのテナントであるCAP Technologiesは、2001年に設立され、Cathodic Atmospheric Plasma(CAP)技術の商用開発を行っている。
同社は、2つの連邦研究開発助成金を獲得したが、1つはSBIRプログラムで助成金額は100,000ドル、もう1つは米国国防総省のDefense Strategic Environmental Research and Development Programで助成金額は3年間に575,000ドルである。
CAP Technologiesが開発したプロセスは、金属からミルスケール及びその他の汚染物質を取り除くためにプラズマを用いるもの。このような除去には、主として酸洗い方式が利用されているが、酸洗いプロセスは、使用済みの酸洗い溶液の中和と処分に大量の水を必要とし、環境に悪影響を及ぼす。そのため、真水の使用量を少なくするよう産業界に圧力をかける国が増加しており、水を使用しない本プロセスの市場性は高い。また同じプロセスを使用して、CAPプロセスまたは従来手法で洗浄された金属に、純粋金属、バイメタル、金属合金から成る金属被覆を施すこともできる。
システム図
4-4-2. メイン州のCenter for Environmental Enterprise
Center for Environmental Enterprise( http://www.ceemaine.org/index.html)は、メイン州最古参のビジネスインキュベーターである。同州の企業開発運動のパイオニアであるCEEは、知的財産や事業計画、研究開発活動、早期段階の投資、商品化に関して新興企業を系統的に支援し、新興企業の技術の事業化を促進することによって、メイン州に質の高い雇用を創出することをめざしている。
このセンターでは、以下の3つのシステムが中心となって、技術面、事業面での支援を行っている。
(1)州立大学を通じたシステム
メイン大学 産業協力学部
南メイン大学 応用科学技術スクール及びビジネススクール
メイン大学 法律スクール(知的所有権プログラム)
(2)コミュニティカレッジを通じたシステム
南メインコミュニテイカレッジの教授陣及び生徒
Maine Quality Centerの支援
中小企業の訓練用に特別にカスタマイズされたプログラム
(3)その他の研究施設による支援
メイン Tech Tracker Program
メイン中小ビジネス開発センター Maine Small Business Development Centers
メイン技術研究所 Maine Technology Institute
応用技術開発センターネットワーク Applied Technology Development Center Network
メイン国際貿易センター Maine International Trade Center
メイン商工会議所
メイン生産拡張パートナーシップ Maine Manufacturing Extension Partnership
(支援を受けた企業の例)
Benric Technologiesは、メイン州South PortlandのCenter for Environmental Enterpriseインキュベーターの支援のもとで、船舶のガソリンタンクへの燃料補給時に燃料がこぼれないようにする装置を開発した。2001年、同社は環境技術セクターのMaine Technology Instituteから10,000ドルのシード助成金を獲得した。この資金は、事業計画、市場調査、特許権保護、同社製品の商品化等、様々な分野で同社の事業を支えた。
同社はまた、インキュベーターのネットワークからも恩恵を得た。Benricは、古い船舶で簡単に使用できるようにするために、この製品を改良する必要があったが、その際、University of Maineの機械工学部と提携することにより、設計から30個の部品を取り除き、装置を改造しやすくすることができた。
現在、BenricとUniversity of Maineは、Maine Patent Programの支援を受けて、再設計した装置の共同特許取得作業に取り組んでいる。Benricの製品は、波止場や船舶の所有者を何十年も悩ませてきた環境問題、つまり船舶への燃料補給時の燃料こぼれに、低コストの解決法をもたらすものである。
4-5. TRECC
2001年にシカゴ(イリノイ州)に設立されたTRECC(Technology Research, Education and Commercialization Center)( http://www.trecc.org)という組織を用いたスキームでは、ONR(及び州政府等)の助成の下、イリノイ大学と海軍系列の研究所であるBattle Memorial Instituteの人材(技術、経営)、施設、能力を活用し、そのコーディネートにより、
(1)研究開発の促進(対象は海軍に付加価値をもたらす新技術に関する大学の研究。民間からの受託研究の実施を含む)
(2)訓練(サービスごとに料金を支払う方式の業務専門家養成プログラム)
(3)民間企業が開発した先端技術(Idea)の商業化支援(事業主や中小企業がそれぞれの技術を事業化するのを支援する)
という3つの事業を行っている。このスキームは2001年に稼動を開始し、当初の1年6ケ月で420以上の技術、企業がこのスキームを利用しているというように成果が上がっている。
具体的な商業化支援方策に関してもう少し紹介すると、先ずベンチャー企業が有する技術に関し、
(1)技術的知見及び経営ノウハウを有するボードがその先進性のみならず市場競争力、そして事業化された場合の売り上げ予測等を行い、技術(Idea)の市場性を適正に評価する
(2)評価の高い技術(Idea)については、更に事業化や知的所有権保護に係る助言を行う
(3)米海軍のSBIR(Small Business Innovative Research)助成スキームによる研究開発への助成の実施(但し、TRECCは推薦するのみ)
(4)技術の事業化を促進するためのエンジェル制度(民間の投資家制度)への推薦等を行い、事業化を進めている。このスキームの特徴は、単なる先進性ではなく市場性を含めた技術、経営の専門家による評価と、有望な技術に対するその後の手厚い支援である。もとより米海軍自身が非常に大きな市場であり、且つ支援資金も比較的豊富であるということはあるにせよ、中小企業による製品改善以上の革新的な技術開発を促進するに当たって非常に総合的な対策が採られている。
このTRECCの事業化支援サービスは無料で提供されている。海軍のニーズを満たすことのできる分野としてTRECCがイリノイ州の中小企業に奨励しているのは、航空母艦の摩耗した着陸用デッキをよみがえらせるハイテク塗装、ロボット工学、有害物質管理機器、在庫追跡ソフトウェアシステム等である。
TRECCは、DuPage空港に設立された、連邦資金による4つの技術移転プログラムの1つである。これらの技術移転プログラムは、DuPageカウンティ西端のRoosevelt RoadとFabyan Parkwayに沿った空港所有の約700エーカーの土地に、ハイテク研究パークを建設したいという同カウンティの構想の中核といえる。
この研究パークには、最終的にオフィスビル、研究所、ビジネスインキュベーターの施設が建設される見込みである。この空港には、その他にも、米国航空宇宙局(National Aeronautics and Space Administration)、中小企業庁、環境保護庁(Environmental Protection Agency)の資金によるプログラムが設立されている。これらのプログラムはすべて、オハイオ州Columbusに本拠地を置く大規模な非営利研究開発組織であるBattelle Memorial Instituteが管理している。
TRECCの課題選定フロー
出典:Battelle Memorial Institute |
TRECCクライアントの技術分野別の割合
出典:Battelle Memorial Institute 2003 |
TRECCのクライアントが受けた支援の種類*
出典:Battelle Memorial Institute 2003 |
*注:TRECCのクライアントの51%は複数のサービスを受けている。
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