2-2 MTSの経済的価値
MTS報告書は、MTSの経済的機能を以下の5つに分類し、その各々につき経済的価値を記している。
(1)貨物及び乗客の国際輸送と対外軍事輸送
(2)貨物及び乗客の国内輸送
(3)水上レクリエーションによる経済的価値創出
(4)その他の海事産業による経済的価値創出
(5)地方経済発展及びそれに伴う雇用増による経済的価値創出
(貨物の国際輸送に占める価値)
国際貨物輸送におけるMTSの役割は、表2-2に良く示されている。MTSは2001年の国際貨物輸送において、重量ベースで77.7%、金額ベースで38.4%の輸出入を分担している。1997年の金額ベースでの分担率は40.2%となっているので、凡そ国際貨物輸送の40%(金額ベース)はMTSが分担していることになる。
参考資料6には、1990年から2001年迄の輸送業全体の輸出入額とGDPとの比が示されているが、GDPはこの間$6兆7,080億から$9兆3,340億へと1.4倍の伸びに留まっているのに対し、経済のグローバル化の進展に伴い、輸出入額がGDPに占める割合は13%から22%へと急増している。このように国際物流がマクロ経済にとって重要度を増す中、MTSは重量ベースで約80%の輸出入を分担し、MTS無しでは米国経済が成立しなくなっている。重量ベースでの国際貿易量について、表2-3は2000年度11億7,300万トンと発表している。表2-3は地域・船種ごとに内訳が示されており次節で更に考察する。
輸出入の殆どを外国籍船に依存し、上記1990年から2001年迄の貿易インバランスが4.7倍に増加した米国のMTSは厳しい収支の現実に見舞われている。表2-4は、1993年から1999年迄の海上国際輸送の収支を示した表である。1999年外国海運会社は、米国の港湾使用料及び貨物取扱いサービス料として$78億を払っているが、貨物輸送料として米国の荷主から$157億を受け取っている。米国側からみれば$60億近い輸入超過である。海運サービスの輸入超過額は1993年の$10億から6倍に増えたことになる。
なお、港湾経済のみを考えれば、1999年外国海運会社から$78億を受け取り、運営費は$20億であったので、差し引き$58億分だけ米国港湾は潤ったことになる。表2-2にあるとおり、国際海運による輸出入全体を1997年と2001年とで比較すると、金額ベースで15%増、重量ベースで12%増となり、何れも年率3-4%の伸びに留まっているが、その中でコンテナ貨物が突出して増加している。これは、近年貨物の荷姿が急速に変化していることを示しており、それによる経済効果も大きいものの2-4節に記す通り課題も発生している。
(貨物の国内輸送に占める価値)
表2-5に示すように、2000年に米国の沿岸水運は2億1,070万トン、内陸水運6億6,170万トン、五大湖水運1億370万トン、合計9億7,610万トンの輸送実績をあげている。前述の国際輸送と合わせ、MTSは2000年に総合計21億4,910万トンの貨物を輸送したことになる。国内沿岸輸送では、中短距離輸送(輸送距離1,000マイル以下)では貨物の70%以上がバージで運ばれているのに対し、長距離輸送(同1,000マイル以上)では同80%以上が自航船で運ばれている。一方内陸水運の輸送は、気象海象条件やコストの関係から殆どバージ輸送に依存している。
USCGの調査は、バージ輸送の経済効果を下記のように要約している。
(1)米国の沿岸及び内陸水路において、バージは石炭の20%を運搬し、その量は国内発電量の10%を賄う量である。また米国の輸出穀物の60%を輸送し、米国農業の競争力の維持に貢献している。さらにニューイングランド地方の家庭用暖房油及びガソリンの大部分を輸送している。
(2)バージ産業は米国最大の自然利用産業である。総延長25,000マイルの水路システムを使用し、米国全輸送費用の2%で15%の貨物を運び、米国経済に年間$50億の貢献をしている。
(3)水上輸送は貨物輸送方法の中で最もコストが低い方法である。これはバージの容量が大きいから(注;通常750総トン程度)であり、典型的内陸バージ1隻で貨車15台分、トレーラー・トラック60台分の貨物の搭載が可能である。
(4)水上輸送は最も環境に優しい輸送方法である。より燃料効率の良い曳船や押船を使用することにより、大気はよりクリーンとなる。(少なくとも温室効果ガスは少ない)
(5)水上輸送は既に混雑している道路や鉄道を避け、都心部を迂回することにより、生活の質の向上に貢献している。
(6)米国のバージ輸送産業は、インターモーダル輸送ネットワークの重要な一部を形成しており、米国の経済、環境、国家安全保障及び生活の質の向上に貢献している。
米国内水上輸送について見てみる。表2-5によれば、バージ輸送との関連が深く、輸送される貨物はドライバルク、液体バルク等のバルク貨物が多い。国内沿岸輸送では、石油(原油及び製精油)が多く、重量及びトン・マイル・ベースの双方で全体の73%を占めている。原材料(Crude Materials)は、森林材、土砂、石材、鉄鉱石その他の鉱石等であるが、重量ベースで6%を占めているにもかかわらずトン・マイル・ベースでは3%に過ぎず、これらの輸送距離が短いことを示している。
次に内陸水運について見てみる。表2-5によれば、全体の53%に相当する3億5,010万トンが石油及び石炭で占められている。農産物は、重量ベースでは12%に過ぎないが、トン・マイル・ベースでは30%に達し長距離を輸送していることを示している。
また、五大湖水運では原材料が圧倒的に多く、重量ベースで76%、トン・マイル・ベースで78%となっている。五大湖の場合、原材料に占める鉄鉱石の比重が非常に大きく、鉄鋼業に依存している構図が伺える。
(従事する労働者への給与に占める価値)
MTSの経済的価値を計る尺度の一つとして、給与支払能力をみてみる。表2-6は1993年から2000年迄の輸送業全体の給与支払実績である。2000年には輸送業全体で$3,139億の給与が支払われたが、これは同年のGDPの3.4%に相当する。水上輸送従事者への給与は、このうちの4.7%、$148億に過ぎず、経済価値としては小さい(労働者一人当たりの賃金では、海運業は全輸送業の平均を超える)。一方、少ない全体給与(人員)で、多量の貨物を捌くということは、MTSの経済効率の良さが示されているともいえる。
(旅客輸送に伴う価値)
国際及び国内輸送には、貨物とともに乗客のもたらす経済効果も大きい。国際輸送ではクルーズ船が、国内輸送ではコミューターフェリー及び観光船等が対象となる。
大型クルーズ船業界による経済効果については、北米17のクルーズ船会社が集まって結成した国際クルーズ船協議会(ICCL)が毎年まとめているが、2002年の経済的効果については以下の通り報告されている。
○直接消費(クルーズ船会社及びクルーズ船の乗客による直接消費は119億ドル)
○雇用への貢献(クルーズ船業界は27万9,112人の米国人を雇用し、被雇用者の給料総額は106億ドル。また、クルーズ船の乗客及び乗員は、交通以外の経費として8億ドル以上を消費し、小売り及び宿泊セクターに1万2,500人以上の雇用を作り上げており、2億7,200万ドルの給料を支払っている。)
○寄港地への貢献(2002年、米国の港湾における乗船数は前年比10.2%増の650万人。乗客2,000人と乗員950人のクルーズ船(5万総トン程度)は、米国の港湾に寄航する毎に約18万ドルの経済効果を生み出す。)
○州経済への貢献(クルーズ船業界関連の消費により経済的利益を受けている上位10州は、フロリダ州、カリフォルニア州、ニューヨーク州、アラスカ州、ワシントン州、テキサス州、イリノイ州、ジョージア州、マサチューセッツ州、ペンシルベニア州。)
一方、コミューターフェリーの場合は、運賃収入もさることながら、地域の交通体系に組み込まれ、道路混雑の緩和等による副次的な経済効果が益々大きくなっている。DOTの資料によれば、2000年のフェリー総数は677隻であり、内訳は、旅客フェリー341隻、RO/ROフェリー326隻、鉄道客車フェリー10隻となっており、年間延べ1億1,300万人以上の乗客、同3,200万台以上の車両が輸送されている。フェリーの種類は、通勤用のコミューターフェリーから長距離サービス用のものまで様々であるが、今後大量輸送機関としてのフェリーボートの長所を生かし、ハイウエー網の一部として組み込まれたクリーンなフェリーボートが増加するものと思われる。
(その他による経済的価値創出)
その他による経済的価値の創出については、極めて多様である。MTSインフラストラクチャー関連の開発は、通常地元経済に大きな投資と波及効果をもたらし、その例は枚挙にいとまがない。例えば、5-2節で紹介するNY/NJ港の貨物内陸配分ネットワーク(PIDN)では、ニュージャージー州知事が、本プロジェクトの実施によりNY/NJ港地区だけで$1億2,500万の経済効果があり、257人の港湾作業員の新規雇用に繋がるとして喜んでいる旨新聞が報じている。
表2-2 価格及び重量ベースの輸送モード別商品貿易分担(1997-2001)
(単位;価格は10億ドル、重量は100万ショートトン=90万7,000トン)
|
Total trade |
Exports |
Imports |
Mode |
1997 |
2001 |
1997 |
2001 |
1997 |
2001 |
VALUE |
Billions of current U.S. dollars |
Water |
626 |
718 |
225 |
199 |
401 |
520 |
Air |
433 |
519 |
220 |
251 |
213 |
267 |
Truck |
323 |
395 |
167 |
192 |
157 |
204 |
Rail |
70 |
93 |
19 |
23 |
51 |
69 |
Pipeline |
14 |
26 |
0.2 |
0.5 |
14 |
26 |
Other, unknown, and miscellaneous |
92 |
121 |
57 |
65 |
35 |
57 |
Total, all modes |
1,557 |
1,873 |
688 |
731 |
870 |
1,142 |
|
Modal shares in percent |
Water |
40.2 |
38.4 |
32.7 |
27.2 |
46.1 |
45.5 |
Air |
27.8 |
27.7 |
32.0 |
34.4 |
24.5 |
23.4 |
Truck |
20.8 |
21.1 |
24.3 |
26.3 |
18.0 |
17.8 |
Rail |
4.5 |
4.9 |
2.7 |
3.2 |
5.9 |
6.1 |
Pipeline |
0.9 |
1.4 |
0.04 |
0.1 |
1.6 |
2.3 |
Other, unknown, and miscellaneous |
5.9 |
6.5 |
8.3 |
8.9 |
4.0 |
5.0 |
Total, all modes |
100.0 |
100.0 |
100.0 |
100.0 |
100.0 |
100.0 |
WEIGHT |
Millions of short tons1 |
Water |
1,144 |
1,276 |
408 |
361 |
736 |
915 |
Air |
6 |
6 |
3 |
3 |
3 |
3 |
Truck |
176 |
180 |
92 |
89 |
85 |
92 |
Rail |
84 |
97 |
22 |
22 |
62 |
75 |
Pipeline |
75 |
79 |
3 |
4 |
72 |
75 |
Other, unknown, and miscellaneous |
76 |
4 |
27 |
2 |
49 |
2 |
Total, all modes |
1,561 |
1,643 |
554 |
481 |
1,007 |
1,162 |
|
Modal shares in percent |
Water |
73.3 |
77.7 |
73.5 |
75.1 |
73.1 |
78.7 |
Air |
0.4 |
0.4 |
0.5 |
0.6 |
0.3 |
0.3 |
Truck |
11.3 |
11.0 |
16.6 |
18.5 |
8.4 |
7.9 |
Rail |
5.4 |
5.9 |
4.0 |
4.6 |
6.2 |
6.5 |
Pipeline |
4.8 |
4.8 |
0.5 |
0.8 |
7.2 |
6.5 |
Other, unknown, and miscellaneous |
4.9 |
0.2 |
4.9 |
0.4 |
4.8 |
0.2 |
Total, all modes |
100.0 |
100.0 |
100.0 |
100.0 |
100.0 |
100.0 |
|
資料提供:DOT
表2-3 米国の国際水上貿易量(2000年)
U.S. Waterborne Foreign Trade 2000 (Thousand metric Tons)*
* |
Breakbulk ships, partial containerships, refrigerated cargo ships, roll-on/roll-off, barge carriers, cruise/passenger, and specialized cargo ships. |
SOURCE: U.S. Department of Transportation, Maritime Administration, Office of Statistical and Economical Analysis, U.S.foreign waterborne transportation statistics data as of July 2002. |
|