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7. 事業計画の代替案
 現在活動中の船舶の種類は下記の4分野に分類する事ができる。
・伝統的なバージシステム
・外洋航行バージシステム
・在来船
・RO-RO船
 
 それぞれのシステムを次に説明する。
 
(1)伝統的なバージシステム
 伝統的なバージシステムは、沿岸海運に於いてこれまで重要な役割を果たしてきており、タイの国内貨物輸送において今後も非常に重要な役割を果たし続けるであろう。同国の内陸水路は、特定のルートにおいては陸上輸送の重要な代替手段である。伝統的なバージシステムは初期投資及び維持費が少なくて済み、特に東部の沿岸航路のように、悪天候の場合でも安全な投錨地が確保できる場所では、短距離の海上輸送用として、今後も使用され続けるであろう。
 しかし前章で述べたように、伝統的なバージシステムにはいくつかの制約がある。バージは特に外洋では非常に速力が低下し、荒天時の外洋航行は不可能である。また大部分のバージは、高品質の貨物の取扱いができるように設計されていない。
 これらの要因をまとめると、今後伝統的なバージシステムは拡大して行く沿岸輸送の中で、現在の形態のままで重要な役割を担うことは非常に困難と思われる。バージの将来の役割は、主に内陸水路と短距離の沿岸航路において、時間的な制約のないバラ積貨物の輸送に制限されることとなろう。
 
(2)外洋航行バージシステム
 伝統的なバージを荒天時に運航することは危険であるものの、世界には荒海の中を安全に航行できるよう設計されたバージシステムが数多くあることが知られている。これらのバージはコンテナとバラ積貨物の両方の輸送に使われ、アントワープ/ロッテルダム間のシャトルサービスから北米と南米を結ぶ大陸間航路まで様々なルートを運航している。
 これらのシステムは数多くの点で伝統的なバージ運航とは異なっている。最も重要な点は曳船の馬力である。外洋航行バージの運航に経験のあるバージ事業者によると、積載荷重3,000〜5,000DWTに対し、2,000〜3,000馬力の曳船が適切である。またバージは、海洋で安定した航行ができ、且つ浸水防止のために乾舷が適切に設計されていなければならない。
 このような高出力によるバージ運航は、沿岸輸送サービス市場を大きく拡大する可能性がある。運航速力の優れたバージは伝統的バージと比較して、輸送時間を大きく短縮することができる。一方、信頼性の高い外洋航行能力が備わることにより、極端に悪い気象条件を除いて、1年中絶え間なくバージを運航させることができるようになる。同時に、人件費があまりかからず比較的建造費が安いため、従来のサービスと比べて費用対効果の優れた代替手段といえる。
 
(3)在来船
 在来型の一般的な貨物船は、全体の総航行時間に対して荷物の積み下ろしに時間がかかるため、短距離の輸送には向いていない。これは特にタイ沿岸海運の大部分のがそうであるように、コンテナ以外の貨物を輸送する場合に端的である。
 従って、タイのように道路輸送が実用的な手段となっている地域では、在来船は一般貨物の輸送手段として利用されることはないと思われる。また、バラ積み貨物では、貨物量が少ない場合は通常、在来船の方がバージより輸送費が高い。
 
(4)RO-RO船
 一般的に、RO-RO船は一般貨物の短距離輸送に適した代替手段である。RO-RO船は荷揚げや荷積みが早いため、少ない隻数で頻繁に輸送を行うことができる。また、コンテナ以外の貨物輸送の場合にもRO-RO船は貨物を道路トレーラーに乗せたまま輸送することができるため、貨物の取扱いが減り、船舶輸送の間に貨物を損傷する可能性を最小限に抑えられるという利点があり、貨物取扱いには非常に有利である。
 
(5)まとめ
 タイにおいて沿岸海運を発展させる最良のアプローチは、他国での導入で既に優位性が証明されている、外洋航行可能な高出力バージシステム及びRO-RO船の2種類のサービスの導入であると思われるが、同国において高出力バージシステムもRO-RO船も現在はほとんど利用されていない。潜在市場の各分野においてこれらが導入された場合の顕著な優位点は以下の通りである。
●高出力バージは、バラ積み貨物あるいはその他の比較的単価の低い大量貨物の輸送に適している。積荷には袋入りのものや単体の貨物もあるが、これらの貨物をまとめてバラ積貨物と呼ぶこととする。
 外洋航行バージのマイナス面としては、港湾において荷積、荷降ろし機材が必要な事で、これにより自ずと航路が制限される。
●RO-RO船は、決められた運送時間または配送時間内に届けることが極めて重要な荷物、高価な小型小包など、一般的な運送業務に適している。これらの貨物はまとめて一般貨物市場と呼ばれる。現在のところタイでは、このタイプの貨物はほぼ全てが道路輸送されている。従って、同国が沿岸輸送においてRO-RO船をうまく導入することができれば、渋滞の緩和や大気汚染、及び道路維持費用の減少等、大きな外的利点がもたらされる可能性が高い。
 
8. 事業費
8-1 全体事業費
 タイ国モーダルシフト振興事業の事業費用は下表に示すとおり。本事業の総事業費は第5章に記述のとおり、タイ会運公社(TMN)が14隻のRO-RO船を調達するものとして積算した。
 
表8-1: 総事業費(計14隻のRO-RO船調達)
費目 外貨
(×1,000円)
内貨
(×1,000バーツ)
計(円)
(×1,000)
1
1)
2)
3)
RO-RO船の調達
1,000DWT×3
2,000DWT×7
4,000DWT×4
\34,905,900
\5,046,900
\16,471,000
\13,388,000
0
0
0
0
\34,905,900
\5,046,900
\16,471,000
\13,388,000
2 物価上昇 \2,512,814 0 \2,512,814
3 予備費(1+2の5%) \1,870,936 0 \1,870,936
4 コンサルタント業務(物価上昇及び予備費を含む) \549,418 35,726 \656,702
5 小計(1+2+3+4) \39,839,068 35,726 \39,946,352
6 付加価値税(5の7%) \0 931,149 \2,796,243
合計(税抜き) \39,839,068 35,726 \39,946,352
合計(税込み) \39,839,068 966,875 \42,742,595
(為替レート:3.00円=1.00バーツ)
 
 合計14隻のRO-RO船を調達する場合、必要な総事業費は427億円にも昇る。この費用は実施機関及び政府金融機関にとって大きな負担を強いるものである。従って、この事業計画では選定された航路に優先順位をつける事により事業の期分けを考慮した。代替案として、この事業の期分け(部分的調達)に必要な事業費は次のとおりである。
 
代替案−I: 7隻のRO-RO船の調達
 
表8-2: 総事業費(計7隻のRO-RO船調達)
費目 外貨
(×1,000円)
内貨
(×1,000バーツ)
計(円)
(×1,000)
1
1)
2)
3)
RO-RO船の調達
1,000DWT×2
2,000DWT×3
4,000DWT×2
\17,117,600
\3,364,600
\7,059,000
\6,694,000
0
0
0
0
\17,117,600
\3,364,600
\7,059,000
\6,694,000
2 物価上昇 \1,232,265 0 \1,232,265
3 予備費(1+2の5%) \917,493 0 \917,493
4 コンサルタント業務(物価上昇及び予備費を含む) \412,063 26,795 \492,527
5 小計(1+2+3+4) \19,679,421 26,795 \19,759,885
6 付加価値税(5の7%) \0 460,603 \1,383,192
合計(税抜き) \19,679,421 26,795 \19,759,885
合計(税込み) \19,679,421 487,398 \21,143,077
(為替レート:3.00円=1.00バーツ)
 
代表案−II: 4隻のRO-RO船の調達
 
表8-3: 総事業費(計4隻のRO-RO船調達)
費目 外貨
(×1,000円)
内貨
(×1,000バーツ)
計(円)
(×1,000)
1
1)
2)
3)
RO-RO船の調達
1,000DWT×1
2,000DWT×2
4,000DWT×1
\9,735,300
\1,682,300
\4,706,000
\3,347,000
0
0
0
0
\9,735,300
\1,682,300
\4,706,000
\3,347,000
2 物価上昇 \700,827 0 \700,827
3 予備費(1+2の5%) \521,806 0 \521,806
4 コンサルタント業務(物価上昇及び予備費を含む) \274,709 17,863 \328,351
5 小計(1+2+3+4) \11,232,642 17,863 \11,286,284
6 付加価値税(5の7%) \0 263,083 \790,039
合計(税抜き) \11,232,642 17,863 \11,286,284
合計(税込み) \11,232,642 280,946 \12,076,323
(為替レート:3.00円=1.00バーツ)
 
8-2 船舶調達費用
 各RO-RO船毎の1隻当たりの建造船価を下表に示す。本船価はRO-RO船が日本で建造されタイに輸送されるものとして積算した。
 
表8-4: 各RO-RO船毎の1隻当たりの建造船価
(単位:千円)
番号 費目 RO-RO船の種類
1,000DWT 2,000DWT 4,000DWT
A 材料費 \308,200 \380,000 \527,100
B 機材費 \732,900 \1,000,000 \1,577,600
C 労務費 \425,900 \696,500 \764,700
D 設計費 \85,900 \105,900 \157,600
E その他直接経費 \35,300 \58,800 \69,400
F 一般管理費 \58,800 \70,600 \197,600
合計 建造船価 (A+B+C+D+E+F) \1,647,000 \2,311,800 \3,294,000
G 輸送費 \23,500 \29,400 \41,200
H 訓練費 \11,800 \11,800 \11,800
総事業費 \1,682,300 \2,353,000 \3,347,000
 
8-3 コンサルタント業務費用
 コンサルタント業務に必要な費用を試算した。業務費用はJBICの調達手順に従ってODA・円借款により支払われるものである。
 
表8-5: コンサルタント業務費用(計14隻のRO-RO船調達)
費目 外貨
(x1,000円)
内貨
(千バーツ)
計(円)
(x1,000)
1 報酬 410,400 17,750 463,703
2 直接経費 86,416 11,400 120,650
3 基本費用(1+2) 496,816 29,150 584,353
4 物価上昇 26,439 4,875 41,078
5 予備費(3+4の5%) 26,163 1,701 31,271
6 小計(3+4+5) 549,418 35,726 656,702
7 付加価値税      
合計 549,418 35,726 656,702
(為替レート:3.00円=1.00バーツ)
 
 代替案−I及び代替案−IIのコンサルタント業務費用についてはそれぞれ、0.75倍、0.5倍を上記費用にかけて計算した。







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