刊行によせて
当財団では、我が国の造船関係事業の振興に資するために、日本財団から競艇公益資金による助成を受けて、「造船関連海外情報収集及び海外業務協力事業」を実施しております。その一環としてジェトロ船舶関係海外事務所を拠点として海外の海事関係の情報収集を実施し、収集した情報の有効活用を図るため各種調査報告書を作成しております。
本書は、(社)日本舶用工業会及び日本貿易振興会が共同で運営しているジェトロ・上海・センター舶用機械部のご協力を得て実施した「中国造船業の概況(2002年)」の調査結果をとりまとめたものです。
関係各位に有効にご活用いただければ幸いです。
2003年6月
財団法人シップ・アンド・オーシャン財団
はじめに
本報告書(「中国造船業の概況2002年」)は、中国の造船業を理解するための資料として中国造船業の2002年の概況及び2003年の事業計画、主要造船企業の概略、中国の造船学科のある大学等をまとめたものです。これまでにまとめた以下の報告書とあわせご利用いただければ幸いです。なお、主要造船企業の概要、中国の造船学科のある大学は上海市政府上海図書館付属情報科学技術研究所の調査結果をまとめたものです。
中国造船業の概況 (2001年3月)
中国造船業の概況 2001年 (2002年8月)
中国造船業の概況(北京・華南) (2002年3月)
中国造船業の概況(中国漁船の現状及び検査) (2002年3月)
中国造船業の概況(華北) (2003年3月)
中国の造船・舶用工業政策に関する調査 (2003年3月)
WTO加盟後の中国造船・舶用工業に関する調査 (2003年3月)
JETRO上海センター
船舶機械部 秋田・劉
(1)全体
中国船舶工業行業協会によると2002年の中国の民用船舶の建造状況の速報値は次の通り(表1.1)。2002年の建造量の70%が輸出船。8年連続で世界第3位の建造量となったと報じられている。CSSC・CSICの国有企業集団以外の伸びが目立つ他、省別では、江蘇省がトップ(表1.2)。
2002年の特徴は、次の3つ。
(1)ハイテク・高付加価値船の増加(VLCC、5,400TEUコンテナ船、15万トンFPSO等)
(2)多様な所有形態の造船企業の発展(南通中遠川崎船舶工程有限公司、江蘇新世紀造船股 有限公司等)
(3)建造量の大幅な増加。初めて400万DWTを突破。
表1.1 中国造船業の概況(2002年)
|
受注量(対前年増) |
竣工量(対前年増) |
手持工事量(対前年増) |
全体 |
674万DWT(15.1%) |
461万DWT(18.2%) |
1,362万DWT(9.0%) |
CSSC |
246万DWT(23%) |
117.5万DWT(-43%) |
461万DWT(21.3%) |
CSIC |
122万DWT(-12.3%) |
122.1万DWT(31.3%) |
373万DWT(-4.4%) |
その他 |
306万DWT(24%) |
221.4万DWT(141%) |
528万DWT(10.0%) |
|
注)100G/T以上の鋼製船舶を対象。手持工事量は2002年末。 |
出所: |
「中国船舶報」(1月31日付)等をもとにJETRO上海舶用機械部で作成 |
表1.2 地方造船省の建造量(2002年)
省名 |
建造量 |
対前年増 |
江蘇省 |
137.79万DWT |
- |
山東省 |
20万DWT |
48.1% |
福建省 |
12.7万DWT |
267% |
浙江省 |
25万DWT |
443% |
|
注)100G/T以上の鋼製船舶を対象。 |
出所: |
「中国船舶報」(1月31日付)等 |
(2)船舶融資
2003年の中国輸出入銀行業務会議での報告によると、2002年の中国輸出入銀行の輸出船に対する融資は93.62億元(約1,400億円)、143万DWT、うちサプライヤーズ・クレジットは90.94億元(約1,350億円)、バイヤーズ・クレジットは2.68億元(3,236万ドル)。
サプライヤーズ・クレジット対象船舶の契約金額は18.7億ドル、舶用設備を加えた合計額は19.3億米ドルと「中国船舶報」が報じた。
2002年11月16日から18日に上海でCSSC(中国船舶工業公司)の幹部会議が開催された。
CSSCの陳小津総経理は、11月14日に閉幕した中国共産党第16回大会の決定を報告するとともに、CSSCとして、2005年にCSSCを世界の"BEST5"、2010年に世界の"BEST3"、更に、中国共産党成立100周年にあたる2021年には、CSSCを世界の"BEST1"の造船企業集団に発展させると発表した。
CSSCは現在、世界の造船企業のベスト5に入るべく努力しているが、世界第1位の造船集団になるためには、舶用工業を大幅に発展させる必要がある等課題も多い。発表の概要は次の通り。
(1)今後20年は飛躍的発展の時期
中国は7年連続で、日本・韓国に次ぐ世界第3位の造船国になっているが、世界第1位の造船国になるため、21世紀初めの20年間は飛躍的に発展しなければならない。
国内外の船舶需要が増加し、海洋経済が大きく発展している現在は、飛躍的発展のチャンスである。世界の造船業の構造調整の進展により、造船の中心は東アジアに移りつつあり、低コスト、優秀な労働力等のメリットのある中国の造船工業が加速度的に発展する条件が整ったといえる。
問題もある。海外市場を分析すると、建造能力過剰により船価は低迷しており、CSSCの総合力も高くない。現在の中国は、まだまだ、世界一流の造船国ではなく、CSSCも世界の一流造船企業集団とはいえない。
(2)5大造船基地の建設
CSSCの発展のために、国内の中核造船所の移転、再編により5大造船・修埋基地を建設し、中国造船業の国際競争力を高める。
5大造船基地は、江南造船(集団)有限責任公司、 東中華造船(集団)有限公司、上海外高橋造船有限公司、広州地区の造船企業を基礎に設立される広州造船公司、上海船廠と澄西船廠を基礎にした新企業の5つである。
この5大基地を今後重点的に発展させ、それぞれが特徴を持ち、合理的な分業・補完を行いつつ競争する枠組みを形成する。
外高橋造船基地は、20世紀における最も大規模で、最も先進的な造船所であり、年間生産能力l05万DWTを有する。今後、第2期工事に入るが、大型船、超大型船舶及び海洋工学の面で優位をめざす。
江南造船(集団)有限責任公司の長興島基地は、21世紀において最も規模が大きく、先進的な設備の近代的船舶組立工場となる。
上海船廠は、澄西船廠との統合を実現し、崇明島基地の第1期工事として新ドックと岸壁の建設を近々に完成させた後、第2期工事に入る。この基地は、中国最大の船舶修繕能力を有することになる。
東中華造船(集団)有限公司は、最も先進的な技術を必要とする大型コンテナ船、最新鋭の貨物船等ハイテク船の建造で世界的な競争力を持つ基地となる。
次の5ヶ年計画(第11次5ケ年計画)で、上海外高橋と上海船廠は第2期工事に入る。2010年までに、5大造船基地の建造能力は倍になり、2021年には4倍となる。
(3)海外戦略の推進
資金調達の面では、外部資金及び海外資金を多く導入し、投資主体を多様化する。
また、海外に跨る大規模な投資、生産、販売、研究開発を実現し、多国籍経営を拡大させ、多国籍造船企業集団となるよう力を入れる。
同時に、技術革新・経営革新を大幅に進め、超豪華客船、超大型コンテナ船、海洋プラットフォーム等の研究開発を進め、キーとなる高付加価値の船舶技術を身につけ、有名ブランドつくりを加速させ、客船、貨物船の建造技術で世界のトップレベルとなる。
その他、艦船の競争力を全面的に向上させ、国防設備の近代化に大きな貢献をするとともに、不動産、民間金融業務等経営の多角化を進める。
(4)上海経済との融合
中国の10大軍工集団の中でCSSCは唯一、北京ではなく上海に登録された企業集団である。CSSCの中核企業の大部分は上海にあり、上海にある企業の生産総量と売上高はCSSC全体の70%〜80%を占める。CSSC傘下の上場株式企業をみても広州広船国際以外の江南重工と 東重機は、どちらも上海にある。
CSSCは中央政府直属の超大型企業集団として、地方経済とともに発展していく必要がある。上海経済の急速な発展は、CSSCの経営多元化におけるビジネスチャンスでもある。
CSSCは、今後8年の間に、上海船廠のあった浦東地域に高級オフィスビル、高級マンションを建設する予定である。
(1)2002年の概況
CSICは、中国初のVLCCを引渡した他、5,618TEUコンテナ船、15.9万トン油槽船、7,000トンの多目的船を建造。ハンブルグの海事展で大量の一括契約を行った他、中国国内船主から11万トンのタンカー、5.73万トンのバルカー、17万トンのFPSO等を受注した。
舶用低速機関の生産もCSIC成立以来最大となった他、大中型プロペラ、操舵機、揚錨器、モーター、バルブ等が伸びた。非船舶部門でも、蓄電池、タバコ機械、物流システム、港湾機械、鉄道車両、ギヤ等により生産額が17%、受注額が23%前年比で伸びた。
表1.3 CSICの概況(2002年 速報値)
項目 |
実績 |
前年増 |
工業総生産額 |
176億元(約2,640億円) |
20% |
売上高 |
115.3億元(約1,730億円) |
12% |
受注金額 |
176億元(約2,640億円) |
20% |
受注量 |
81隻/122万DWT |
-%/-12.3% |
竣工量 |
69隻/122万DWT |
-%/31.2% |
手持工事量(12月末) |
113隻/379万DWT |
-%/-2.8% |
修繕実績 |
496隻/996万DWT |
-% |
修繕額 |
7,758万元(約11.6億円) |
5% |
ディーゼル生産量 |
341台/42万kW |
4.6%/13.5% |
|
(2)長期事業計画
2003年1月16日〜18日、中国船舶重工集団公司第4回工作会議が北京で開催された。
李長印総経理が「第16回共産党大会の精神を実行し、船舶工業を振興し、民を裕福にし、発展を図り、全力で国際的に一流の船舶集団を創る」として業務報告を行い、今後20年に「ホップ・ステップ、ジャンプの倍・倍・倍で(中国語で「三歩走、翻三番」)、国際的に一流の船舶集団を創る」との目標を示した。主な内容は次のとおり。
(今後の発展目標)
(1)2005年までに重要なプロジェクトを完成し、建造能力400万DWT、建造量300万DWTを達成する。非船舶製品にも力を入れ、企業規模を2000年の2倍とし5億元(約75億円)の利益を実現する。(ホップ)
(2)2010年までに重要な武器装備の研究を進め先進国との差を縮め、建造能力600万DWT、建造量500万DWTを達成する。非船舶製品のブランド化を図り、企業規模を2000年の4倍とし10億元(約150億円)の利益を実現する。(ステップ)
(3)2020年までに中国海軍の武器装備の需要を基本的に満足する生産体系を作り、建造能力900万DWT、建造量800万DWTを達成する。非船舶製品の比率を50%程度とする。企業規模を2000年の8倍とし20億元(約300億円)の利益を実現し、中国で最強最大、国際的に一流の船舶集団となる。(ジャンプ)
・中国海軍への最大の設備供給者となることを戦略目標とし、軍事品を優先的に発展させる。
・民用船舶を強化し、中国造船業のリーダーとなる。渤海を重点地区とし、「第10次5ヶ年計画」の2001年から2005年の間に大連造船重工、大連新船重工、渤船重工の建造能力をそれぞれ、150万DWT、180万DWT、60万DWTとし、「第11次5ヶ年計画」の2006年から2010年の間に以下を実現する。
(1)青島海西湾造修船基地を建造能力220万DWTとする。
(2)民用船舶設計・研究開発センターを組織し新船系の開発等を強化する。
(3)海外の有名舶用設備メーカーとの提携を探り、大連・武漢・重慶を船舶設備の基地とする。
(4)中船重工貿易公司は積極的に海外進出し、海外に営業ネットワークと製品研究開発機構を設ける。
・日韓に倣い非船舶製品、軍事品、民用船舶の3つを柱とする。非船舶部門では、蓄電池、港湾機械、水力発電設備、油田設備等に力を入れる。
・発展のために以下を推し進める。
(1)意識改革
(2)集団公司財務公司、科学技術投資公司、軍事品工事技術センター、民用船舶研究開発設計センター、貿易公司等5つの会社の設立等の構造調整
(3)海外への積極的進出、海外からの技術導入
(4)造船のIT化、クリーン化
(5)共産党思想の啓蒙と企業文化の樹立
(2002年の概況)
CSICの2002年の概況としては、全体として引続き好調に発展し、鍵となる軍事技術をブレークスルーするとともに民用船舶では、VLCCの引渡し等138万DWTを竣工、生産量は前年比20%増の226億元(約3,400億円)、受注額も前年比20%増の176億元(約2,500億円)、2002年末の手持工事量は300億円(約4,500億内)、400万DWTに達した。
(2003年の目標)
2003年の目標は、生産量260億元(約3,900億円、前年比15%増)、工業増加値48億元(約720億円、前年比12%増)、受注合計金額200億元(約3,000億円)、船舶受注量200万DWT、建造量150万DWT。16万人の従業員が一体となって実現をめざす。
|