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図4-4 南関東工業地域計画
 
 昭和37(1962)年に自民党により提案。行徳浦安600万坪、船橋市川2500万坪、津田沼100万坪、稲毛200万坪、千葉五井350万坪、木更津400万坪、富津200万坪。都市機能の分担と、総合都市の形成。コンビナート工業基地の整備が目的。木更津周辺は全面的に埋立が計画された。
 
図4-5 京葉工業地帯造成計画
 
 昭和37(1962)年に小川栄一郎より提案。木更津以南富津岬を中心として7,000haを埋立て、工業用地を造成。完全整備の工業用地と住宅用地を造成予定。木更津の盤洲干潟前面が埋立の計画対象に。一方、君津はこの計画では対象から除外されているが、後に埋立られた。
 
参考文献:
千葉県企業庁『京葉工業地帯の歩み』
 
(2)漁港の拡張
 1980年代にまず整備された漁港が、泊地や防波堤をそれぞれ拡張している。そのための防波堤の延伸や埋立が行われている。漁船の規模の拡大や隻数の増加により、より大きな漁港が必要とされたと考えられる。これらの海域の改変は、個々が環境アセスメントの対象規模にならない、設計計画論に環境影響が内在されていない、個々の事業としての完結性が重視される、という理由で、沿岸や海岸の全体性をみた統合的計画になっていない点が特徴である。
(3)海苔養殖施設の変化
 木更津港湾の整備により盤洲干潟南部と富津の埋立地の間に湾状の海域が形成され、海苔養殖施設が展開していった。海苔養殖は、河口干潟で発達した産業であるが、埋立により元の良好な漁場が失われた結果、産業形態に変化が生じた。河口環境を必要とするアサクサノリから、沖合でも浮き流し法により海域で安定的に量産できるスサビノリへと品種転換した。この傾向は、全国的なものであるが、木更津でもそれが生じた。
 干潟ではなく沖合の水深が深い海域での海苔養殖の発達は、1980年代以降の東京湾では富津でも伸びがみられる。
 
4-3 ステークホルダーの意識
(1)水産関係
 木更津は、海苔養殖の先進地である。江戸時代には産業化し、明治時代にさらに本格化した日本の内湾での海洋産業である。海苔養殖の特徴は、古来からの内湾漁業が野生生物資源に依存していた狩猟採集的な利用であったのに対し、農業的な利用に転じた点である。海域を利用した農業ともいえる海苔産業では、従事者のメンタリティも異なると考えられる。すなわち、計画生産、季節的な大量の従事者の雇用、流通システムの開拓など、漁業の産業化に至った社会システムが作られたといえる。
 また、養殖施設の設置のために、海底面への明確な所有権の設定が行われた点も重要である。後に、羽田空港の建設から明確になった東京湾での漁業補償問題では、海面の所有権の問題として、多摩川河口域の干潟の海苔養殖場の"土地利用の転用"が問題になったのである。
 この海苔養殖の開拓者・開発者は基本的には農業も営んでいる半農半漁集落の住民であったと考えられる。このような「磯つき村」は、純漁村とは異なる自然資源の管理と経営方針をもってきた。東京湾では、羽田や行徳がこれに相当する。
 その後、国内有数の海苔産業エリアとして開拓された東京湾の中央から湾奥部にかけての干潟の埋立てと、陸地への転用に関する意思決定に関して、地域性からみる場合には、木更津のように江戸時代からの歴史ももち、現在も、海苔養殖も産業的に成功し、潮干狩りなどの都市型漁業も営む地域としての特徴がある。
(2)海岸管理関係
 木更津沿岸の海岸管理は図に示すように、河川局海岸、漁港海岸、港湾海岸が混在している点が特徴的である。その北部には、江戸時代からの干拓地前面が埋立地になったため農地海岸も続いている。このように行政的にも分断管理されている場合に、土砂管理、背後地との関係性における管理や計画のあり方も注目される。
 前述したように、空中写真の時系列的な判読では、海岸の背後地の湿地の農地利用、市街地化などが、自然システムの分断や喪失としては課題であろう。
 海岸の防災と保全の観点からは、盤洲干潟にみられるように海岸護岸の前面に干潟が残されている点も重要である。護岸としては直立護岸でパラペット使用であるが、緩傾斜堤による線的埋立の工法より自然保護上はベターである可能性がある。
 また、海域からの油汚染のリスクにも注目すべきであろう。実際、東京湾の大型船が航行する航路に面しており、ダイアモンドグレース号の事故などが起きている。
 
5. まとめ
 本事業では地域主導型沿岸域管理モデルの検証地域として、前述のような理由から千葉県木更津市のエリアを選定し、ケーススタディの実施に向けて当該地域の基礎調査を行った。その結果、従来の沿岸域管理において合意形成に到達しない大きな原因として考えられるものに、議論に参加する各利害関係者同士の目的意識の共有と、当該エリアについての情報提供の場が欠如している点が推測された。
 そこで次年度実施計画の主たる目的は、木更津エリアの沿岸に関わる各利害関係者同士の情報共有と、当エリアでの沿岸管理の必要性についての意識の醸成を図ることとした。そのための手段として、まずは各セクターの現状と課題を互いに理解するとともに意見交換が出来る場作りを、以下の計画に沿って実施する。
(1)地域を対象にしたワークショップの開催
 沿岸域モデルの議論に参加する地域の利害関係者の情報の共有と、問題意識の醸成を図るための場としてワークショップを数回開催する。
(2)地域主導による沿岸域モデル手法の検討
 ワークショップ参加者との意見交換等を通じ、ローカルエリアにおける沿岸域問題に関するボトムアップでの合意形成手法の可能性を検討する。
(3)とりまとめ
 本事業で得られた知見を、地域主導型沿岸域モデルのケーススタディとして広く提言を行う。
 
以上







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