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生態系の安定性
 
生息空間
●藻場・干潟面積/海岸線延長●
 
図2.1.7 大村湾沿岸の藻場・干潟面積(上段)と海岸線の変化
 
干潟と藻場の面積ha(1978-1993年)
 
人工海岸の比率(1993年)(%)
 
I-5)有害物質
 国立環境研究所環境情報センターでとりまとめられている公共用水域水質測定の健康項目について、1990年以降の測定結果を調べた。その結果、大村湾内の調査地点(18地点)のすべてにおいてこれまで基準値を越えた例はなかった。また、最近5年間に奇形等異常個体の出現や有害物質による個体数減少に関する報告例はない。したがって、この項目に関する診断は「健康」とした。
 
I-6)底層水の溶存酸素濃度
 大村湾では、長崎県衛生公害研究所によって公共用水質測定が1970年代後半から毎月1回継続されているが、底層水の溶存酸素については中央中と中央南の2点だけしか調査されておらず、このデータからはガイドラインで基準とされている貧酸素比率を評価することができない。この点は、特定の海湾を除けば全国の海湾に共通する問題と考えられる。しかしながら、大村湾では長崎県総合水産試験場により夏秋季(6−10月)に底層水の溶存酸素の調査が行われていることから、このデータをもとに貧酸素比率などの検討を行った。図2.1.8にその結果を示す。上段は、貧酸素の基準を3ml/1として、それ以下の測点数の比率(これを貧酸素比率とする)の経年変化を示したものであり、ほとんどの年に診断基準となっている50%を越える貧酸素比率を示していることが分かる。また、下段は、底層水溶存酸素濃度の各年の最大値、平均値、最小値の変化を示したものであるが、次第に濃度のレベルが低下してきていることが分かる。したがって、この項目についての診断結果は「不健康」とした。
 
生態系の安定性
 
生息環境
●底層水の溶存酸素濃度(貧酸素比率)●
 
図2.1.8 大村湾の底層水(海底上1m)の溶存酸素濃度の経年的な変化
上段:貧酸素比率、下段:溶存酸素濃度
 
 
(II)物質循環の円滑さを示す項目
II-1)滞留時間と負荷に関する指標
 大村湾における海水交換の大きさや淡水の滞留時間については、まだ情報や知見がかならずしも十分に得られていないので、ここでは大まかな目安として、「平成4年度海域富栄養化状況把握調査報告書」(環境庁、1993)に記載されている大村湾の淡水平均滞留時間(3.0月)を用いることにする。大村湾の容積を4.9Km3とし、1996年度の推定値にもとづいてCODの負荷量を4.9トン/日、T-NとT-Pの負荷量をそれぞれ3.0トン/日、0.38トン/日とすれば、ガイドラインに基準として用いられている「負荷滞留濃度」は、COD: 0.09mg/l、T-N: 0.06mg/l、T-P: 0.01mg/lとなり、いずれについても基準値(COD: 0.2mg/l、T-N: 0.2mg/l、T-P: 0.02mg/l)以下である。図2.1.9にCODについての検討結果を示す。大村湾は地形的に閉鎖性が強く海水交換は小さいものの、流入負荷がそれほど多くないため、いわゆる「低負荷・滞留型」の海湾の一つといえる。したがって、この項目の診断結果は「健康」とした。
 
物質循環の円滑さ
 
流入負荷と海水交換
●負荷滞留濃度●
 
図2.1.9 大村湾における負荷滞留濃度の推定(CODの例)
 
II-2)潮位振幅の推移
 大村湾の沿岸では、潮位の継続的な測定データが得られていないので、ここでは近隣の佐世保における潮位データをもとに、大村の平均潮位と潮位改正数を用いて、大村湾の潮位振幅の推移を求めた。図2.1.10は、ガイドラインにしたがって大潮期の平均潮差の経年変化を示したものである。潮位振幅には長期的な減少傾向が認められるが、基準となっている10年間の潮位振幅の減少幅はおよそ0.5cmときわめて小さく、基準(5cm)以下である。したがって、この項目についての診断結果は「健康」とした。ただし、潮位振幅の絶対値は場所によって異なることから、絶対値5cmを診断の基準とする点については、検討が必要かもしれない。
 
物質循環の円滑さ
 
流入負荷と海水交換
●潮位振幅●
 
大潮差の経年変動(大村湾)
 
図2.1.10 大村湾沿岸の潮位振幅の経年的な変化(佐世保の潮位から推定)
 
II-3)透明度
 長崎県衛生公害研究所で継続されている公共用水域水質測定の結果をもとに、大村湾の透明度(全点の平均値)の経年変化を図2.1.11上段に示した。経年的に大きな変化はないが、最近の数年間は若干低下する傾向が見られることが分かる。ガイドラインの基準にしたがって、最近10年間の平均値(5.1m)と最近3年間の平均値(4.6m)を比較すると、両者の差は0.5mの低下となり、基準となっている±0.2m以下よりも大きい。したがって、この基準にしたがえば、「不健康」と診断される。しかしながら、図2.1.11に示されている透明度の変動幅から見て、±0.2mという基準は数年間の平均値を用いるとしてもあまりに厳しすぎるかもしれない。大村湾の場合、最近の透明度低下の原因は懸念されるところであり、精密診断に進むこと自体は妥当な判断といえよう。
 
II-4)プランクトンの異常発生
 水産庁九州漁業調整事務所で集計されている大村湾の赤潮発生件数の経年的な推移を図2.1.11下段に示す。1982年以降、発生件数は5件未満で推移していたが、最近は件数が若干増加しており、赤潮発生につながる潜在的な環境要因が改善されていないことを示唆している。赤潮の主な原因生物は、プロロセントラムとギムノディニウムであり、その傾向は1970年代から大きくは変化していない。ガイドラインの基準は、「赤潮が発生していないこと」となっているので、この項目については「不健康」との診断が妥当である。







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