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2. 一次検査と関連調査の結果
 
2.1 大村湾の一次検査
2.1.1 基本情報の整理
(1)地理的条件
 調査対象とした大村湾は長崎県中央部に位置し、表面積320Km2、平均水深14.8m、容積約49億m3で、佐世保湾を介して狭い針尾瀬戸と早岐瀬戸だけで外海と通じている閉鎖性の強い湾である(閉鎖度指標54.29)。大村湾は、断層陥没によって形成されたといわれており、湾内の水深は全体的に浅く、湾口の最大水深は54mであるが湾内の大部分は15-18mの起伏の少ない海盆状の海底で占められている(図2.1.1)。また地質的には、大村湾は西側の結晶片岩で構成される隆起準平原である西彼杵半島、東側の多良岳火山の山麓および南側の長崎火山岩類からなる火山性山地に囲まれており、そのように火山岩が海岸に迫っているため、深く入り込んだ小湾を海岸に多数持つリアス式海岸の性状を示している。
 
図2.1.1 大村湾の概況
 
●面積:320km2
●平均水深:14.8m(最大54m)
●容積:49×108m3
●潮位幅:0.5〜0.9m
●河川からの流入量:1.6×106m3/day
(51の小さな河川が流入)
●河川の流域面積:378Km2
●湾口(針尾瀬戸)
幅:200m
水深:40m
潮流:最大9ノット
●湾岸の人口(2000年現在):570,000人
●栄養負荷量(1996年現在)
COD:4,919kg/日
T-N:3,044kg/日
T-P:376kg/日
 
(2)気象条件
 1993〜2002年の長崎空港観測所における観測データにもとづき整理を行った。平均気温は各年で大きな違いはなく、8月に最も高く、1月または2月に最も低くなる。夏(6-8月)の降水量は全国平均よりも多い。風向頻度を見ると、一年を通じて南東の風の頻度が高いが、冬は北から北西の風の頻度が増加する。
 
(3)社会的条件
 流入負荷の状況:大村湾には24水系、51河川が流入し、その全流入水量は日平均でおよそ160万m3と推定されている。大村湾に流入する負荷量(1996年)は、COD4,919Kg/日、T-N3,044Kg/日、T-P376Kg/日である。経年的には1980年頃をピークに若干減少傾向を示しているが大きな変化はない。発生源の50〜60%は生活系の負荷で占められている。流域区分別に集計すれば大村市を合む流域の割合が大きく、全体のおよそ半分を占めている。
 土地利用状況:大村湾流域では、山林が45%を占め最も多く、農耕地が20%、市街地は12%を占めている。農耕地の中では果樹園(みかん生産地)の割合が高いのが特徴的である。
 排水処理場整備状況:大村湾流域市町の人口は57万人で、長崎県の総人口175万人の32.6%を占めている。大村湾流域の生活排水処理率と下水道普及率は、ともに年々増加しており、全国レベルとほぼ同等である。
 図2.1.2には、公共用水域水質測定結果にもとづいて、大村湾内のCODの経年的な推移を示す。水質基準(2mg/l)をこえる状況が続いていることが分かる。
 
図2.1.2 大村湾における表層のCODの経年的な変化
 
(4)歴史的条件
 大村湾流域の土地利用状況は、1991年度と2001年度でほとんど変化していない。また、海域利用の変遷の一例として養殖施設数の推移を見ると、真珠とかき類の養殖施設数の総数は年々減少しているが、かき類の延縄式については増加傾向にある。
 
(5)管理的条件
 大村湾の流域は、大村市、波佐見町、川棚町、東彼杵町、多良見町、長与町、時津町、琴海町、西彼町のほぼ全域と、長崎市、佐世保市、諫早市の一部の4市8町で構成されている。
 
2.1.2 一次検査
(I)生態系の安定性を示す項目
I-1)分類群ごとの漁獲割合の推移
 図2.1.3には農林水産統計年報にもとづいて整理した大村湾における漁獲量(分類群別)の経年的な推移(1980〜2000年)を、また図2.1.4には、漁獲割合の最も大きな浮魚類についてその割合の経年変化を示した。ガイドラインにしたがって、浮魚の漁獲割合について最近10年間と最近3年間の平均値を比較すると、それぞれ39%と40%であり大きな変化はない。したがって、この項目に関する診断結果は「健康」ということになる。しかしながら、漁獲量の変化の様子を見ると分かるように、大村湾の浮魚の漁獲量は1980年代後半から急に減少しており、その後は低迷を続けている。漁獲割合は大きくないが、底魚と海藻類についても同様の減少傾向が認められる。漁獲割合の減少の程度は、1980年代前半と比較しても基準としている20%を越えるほどではないが、こうした兆候は、大村湾の状態が1980年代前半に比べて大幅に悪化している可能性があることを示唆しており、その意味で判定は「要注意」とした。
 
生態系の安定性
 
生物組成
●生態分類群ごとの漁獲割合●
 
 
図2.1.4 大村湾における浮魚類の漁獲比率の経年変化
 
I-2)生物の出現状況
 大村湾岸の環境基質を、磯場、砂浜、干潟、人工護岸の4つに区分し、2003年2月にガイドラインの生物チェックシートを用いて、生物の生息状況をそれぞれ調べた。調査の状況を図 2.1.5に、調査結果(例)を図 2.1.6に示す。調査を実施したのが比較的生物相の乏しい冬季であったため、ガイドラインのチェックシートに記載されている生物はすべてが出現したわけではなかったが、一般的に西日本の海岸で見られる生物の約8割が確認され、診断結果は「健康」と判定された。
 なお、専門家以外が判定するには基準となっている生物やその種類数などに問題があるかもしれないので、今後実際に運用する中で生物チェックシートの内容を見直していく必要がある。
 
I-3)藻場・干潟面積の推移
 環境省の自然環境基礎調査の結果にもとづき、1978年と1993年の藻場・干潟面積(ha)を図 2.1.7上段に示した。干潟については若干の減少が認められるが、藻場については変化がなく、いずれにしても基準となっている「20%以上の減少」は認められない。したがって、この項目の診断結果は「健康」とした。なお、最近の情報によれば、大村湾内のアマモ場の面積は増加傾向にあるといわれている。
 
I-4)海岸線延長の推移
 環境省の自然環境基礎調査の結果にもとづき、1993年時点での人工海岸の比率を図2.1.7下段に示した。人工海岸の占める割合は22%となっており、ガイドラインの基準(20%)に照らし合わせると「不健康」という診断が得られる。ただし、基準ぎりぎりの数値であり、さきに述べた海岸生物の出現状況などからはそれほど人工化が進んでいるという印象はないことを考えあわせると、基準値が多少厳しすぎる可能性もある。







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