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Session 5-1
海洋安全保障に関する提案(Proposals on Ocean Security)
海上保安大学校名誉教授(呉大学教授)・廣瀬肇
 
1. はじめに
 本ダイアローグは、SLOC(Sea Lines of Communication)の安全保障、それは本来、securityの問題のみならず、safetyの問題を含むものであるが、北東アジア(極東)に位置する日本から、南アジアの西端に位置するインドまでの海上において、SLOCの安全を確保し守るための基本的姿勢を検討し考察することである。日本−インド(日印)両国の連絡はマラッカ海峡で地理的に分けられている。マラッカの通峡の問題は、しかし、シンガポール、マレーシアと密接に関連し、問題は複雑であり、それ自体一の研究課題であるが、それは別に多くの研究や実際の法的、条約的枠組みも存在することから、本稿では、これには触れず、日印間の海上安全保障について考察するものとしたい。
 日本の石油ルートは、中東を発し、直ちにインド洋を通過する。インド洋における海上安全は、南アジアの大国インドの力によるところが大である。インド洋におけるSEA POWERの拮抗、交錯については勉強不足ではあるが、Emerging Power by STEPHEN .P. Cohenによれば日印の貿易量は年々増加の傾向にあり、日本はインドの第一位の貿易相手国であり、インドの対外貿易の5.3%を占めているという(因みに首位のアメリカは14.54%である)。そうだとすると、それだけでも、SLOCの安全確保は日印両国にとって極めて重要な問題である。1945年以降、インドは、対中国、ミャンマー、チベット、バングラディシュ等との問題に対応してきたように思われるが、インドにとっての現実の脅威は海からやって来たものも多くあったのではないかと思われる。SEA POWERとしてのインドが海に次第に目を向け、海の重要性を認めているのもむべなるかなと思われる。因みに、私が船旗(flag)について研究したとき、最も参考にしたのは、インドのNagendra Singh氏のMaritime Flag and International Law(1977)であったことを思い出している。インドは海洋国家でもあったのだ。
 
 INDIANN COAST GUARDと題する文献によれば、インドコーストガード(以下ICGと略)は1976年にインド海域法(The Maritime Zones of India Act/passed on 25 Aug 1976)が制定され、生物資源、非生物資源に対する排他的権利を主張するところとなり、1977年にはコーストガード(CG)の創設の決定がなされ、1978年9月19日に、議会でのCG法(Coast Guard act 1978)が制定されたことにより、ICGはインドの独立した武装機関となったとされる。そのモットーは「我々は守る(WE PROTECT)」である。因みに、日本の海上保安庁(以下JCGと略)は「正義仁愛(HUMANITY AND JUSTICE)」、アメリカCGは「ALWAYAS READY」、マレーシアは「Guard ・Protect ・Safe」である。CGの組織は、そのモットーを見ても、性格が分かるといわなければならない。ICGが創設された背景の説明によれば、ICGはインドの管轄水域内での国益(national interests)を護るために創設されたのであり、ICG法第14条に任務と所掌事務が規定されているが、説明として、ICGの責務は明確で独特であり、海上発展のシナリオの将来を示すものだとする。それらは柔軟に考えるべきものだが、同時にその範囲内に限界を画している、と述べている。その所掌事務は、洋上施設と人工島の安全と防護、遭難時の救護を含む漁民の保護、海洋環境の保護、海洋汚染の防除、税関及びその他の密輸取締り当局に対する援助、法令の励行、海上における人命財産の保護、捜索救難である。これらは、正に我が国の海上保安庁法と殆ど同じ内容を規定しているものと言ってよい。インド洋はインドのSEA POWERによって秩序の維持がなされている。
 いずれにせよ、日印間のSLOCの確保は、死活問題に結びつく(取り分け日本のオイルルートの南アジア部分の安全保障が関係する)。地理的状況を見るだけでも、インド洋からマラッカ迄と、マラッカから日本まで、2つに別れるレーンについて、プリミティブに役割分担を考えようとするのは自然であろう。このようなインドとの協力関係の構築は、他の諸国、北東アジアや東南アジア諸国、オーストラリアなどとの協力関係を蔑ろにするものではなく、後に述べるところであるが、インドから日本までのSLOCの海上安全保障システムの歯車の、しかし重要な歯車の一つとして、それぞれが重要であり、日印間に位置する諸国の海上保安関連機関(CG)と協働することが必要であること勿論である。平和的(平時の)枠組みの中での協力が是非必要であり欠かせないものであるという認識が重要である。
 
2. 海上保安分野における日本とインドとの交流について
 ここ数年の間に、日本とインドとの海上保安分野における交流は急激に深まりつつある。2002年海上保安レポートには、「グローバル化する業務ニーズに対応するために」という章の中で、「インド地域海上保安機関との連携・協力関係の構築」として、「これまで海上保安庁は、主にアジア・太平洋地域の海上保安機関との連携・協力関係の構築に力を入れてきました。しかし、海賊事件等の海上犯罪は、中東からの海上輸送ルートを擁するインド洋においても頻発しており同海域の安全確保も我が国にとって重要な問題になっています。このような認識の下、海上保安庁は、平成13(2001年)年11月東京において、インド洋地域(バングラディシュ、インド、パキスタン及びスリランカ)海上保安機関実務者会合を開催し、同地域の海上保安機関との協力関係を発展させ、アジア・太平洋地域からインド洋地域に及ぶ海域の安全と秩序の維持を目指していきます。」と記述している。このように、インドとの交流のきっかけは海賊問題であったことは事実である。取り分けICGがアロンドラ・レインボウ(ALONDRA RAINBOW)を拿捕したことが大きく作用したものと思われる。アロンドラ・レインボウ事件とは、1999年10月22日にインドネシアのスマトラ島の港を出港した同船は、出港後すぐに海賊に襲撃された。11月9日、乗組員は全員タイの漁船に救助された。そして11月14日、ICGは、インド南方沖、ゴア西方約270マイルの海上において、同船らしき船舶を発見。ICGは、巡視船により停船命令そして威嚇射撃を実施し、その後、同船を拿捕し、容疑者15名全員を逮捕し、ムンバイに入港したというものであった。7762総トンの同船は、当初アルミインゴットを約7000トン積んでおり、パナマ船籍ではあるが日本の便宜置籍船で、運航者は日本の会社であり、船長と機関長は日本人、他の15名はフィリピン人であった。積荷の一部はマニラで発見されている。同船の船名は「MEGA・RAMA」に変えられていた。2000年2月25日、インドのムンバイ地方裁判所により、海賊達に対して、懲役7年の実刑判決がなされたと報告されている。この事件を契機に、JCGは、海賊問題に対し、2000年4月の海賊対策国際会議の開催をはじめとして、関係各国の機関との連携強化を図るようになっていったのである。
 JCGは、「アジア海賊対策チャレンジ2000(詳細は後述)」に基づき関係各国との相互協力と連携の今日を実施することとなったが、インドとの関係はそれよりふるく、次の様であった。
1987年巡視船「ちくぜん」がマドラス(チェンナイ)ICGを親善訪問
1989年航路標識測定船「つしま」がマドラスICGを親善訪問
1999年10月アロンドラ・レインボウ事件
2000年4月東京で開催された海賊会議にICGシルバ長官が出席、荒井JCG長官を表敬訪問
2000年11月巡視船「しきしま」がチェンナイを訪問、ICGと海賊対策連携訓練を実施した。また同時期に訪印した荒井JCG長官がICG長官と会談し、両機関の定期的な交流の実施について合意した。
 このとき、シルバICG長官から、「海軍間の訓練ではなく、Friendship for Safer Ocean(この訓練のモットー)のための協力である。そのためには今後、捜索救難や油防除の分野での訓練を検討していくことも可能ではないか。」と発言があり、さらに、「軍の場合は国境でお互いを敵視して睨み合うが、沿岸警備対の場合はターゲットが共通であり協力が可能である。」とも発言している。そして、「両機関で毎年1回の訓練を継続していくことは大切である。海賊に対し明確なメッセイジを送ることができるし、両国、両国民間の多くの分野での協力に繋がっていく。海賊はわれわれの行動を見ている。」と締め括った。
 2001年5月ICG巡視船「サングラム(Sangram)」が訪日し、JCGの観閲式に参加するとともに、第十管区海上保安本部(鹿児島)との合同訓練を実施。また、同時期に訪日したICGのSingh長官がJCGの観閲式に参列。縄野JCG長官と会談するとともに鹿児島での訓練を視察。JCG長官から「海賊等の形態については変化があると思うが連絡を密にして協力していきたい。」旨の発言があり、ICG長官から「今後とも協力関係を強化し、協力していきたい。人命財産の確保を大切に交流したい。」と発言。そして、日本においては油防除の問題に限らず海上自衛隊と協力しているが、インドにおいて海軍とICGとの協力について具体的に教えてほしいとの質問に対し、「海軍もICGも同じ海で活動している。海軍がやっていることをICGがやることはないが、施設等について共同で使えるところは使うということ。コミュニケーションが大事であるが、教育機関が同じなのでコミュニケーションはやりやすいということ。有事の共同訓練は行っている。」ということ等が説明された。
 2002年11月巡視船「やしま」がチェンナイを訪問、ICGと捜索救難訓練を実施
 2003年9月インド巡視船「サングラム」が訪日し、第五管区海上保安本部の巡視船艇と、海難救助訓練や海賊対策訓練などの連携訓練を実施(サングラムは一般公開もおこなった)。同時期にスレッシュ・メッタICG長官がJCG長官と会談、国土交通大臣を表敬。第五管区での訓練を視察するとともに、JCG警備救難監とともに海上保安大学校を視察した。我が国の国土交通大臣は、挨拶のなかで、「安全且つ秩序ある海の利用を維持するため、日本とインドの海上保安機関が連携していくことは重要であり、連携訓練、長官同士の会談が定期的に行われ、日印両国海上保安機関の協力が一層強固なものとなっていることを心強く思う。」と発言している。
 この訓練は最新のものであるので、海上保安新聞の記事を紹介しておきたい。
 
 五本部とインド沿岸警備隊(ICG)との海難救助・海賊対策連携訓練が9月18日午前、神戸沖の大阪湾で行われた。五管本部から巡視船「せっつ」(神戸)、「しまんと」(高地)など巡視船艇8隻と「せっつ」搭載ヘリなど2機、ICGから巡視船「サングラム」と搭載ヘリが参加した。航行中の客船が海賊に襲われて放火され、乗員・乗客の2人が避難の際に海中に転落、海賊は船で逃走したとの想定。訓練は「サングラム」が遭難通信を受信、ICGから五管本部に火災発生と海賊情報を通報する情報伝達から始まった。
 両国巡視船間の連絡体制を確立、捜索海域を設定して両国巡視船艇と搭載ヘリが合同捜索。海賊に放火された客船(「しまんと」)を「かいりゅう」と「サングラム」が放水消火し、海中転落した2人を「サングラム」「せっつ」の搭載ヘリが吊り上げ救助した。
 海賊対策訓練では、海賊が乗って逃走する容疑船(「なだかぜ」)を、「むろづき」「こまかぜ」「きくかぜ」が追跡。「サングラム」搭載ヘリが風圧規制して容疑船は減速したが、海賊がヘリに向け自動小銃を発砲したため、「むろづき」が正当防衛射撃。停船した容疑船を「こまかぜ」「きくかぜ」が挾撃、接舷し、特警隊が移乗して海賊2人を制圧した。訓練の状況は八尾基地のヘリが撮影し、衛星映像伝送システムで本庁や五管本部に伝送した。訓練終了後、総合指揮官の五管本部長が、「訓練は言葉の壁もなく、両機関の熟達した技量の下、成功裏に終了した」と講評。また観閲した警救監が、「日本関係船舶の海賊事件で、ICGが海賊を検挙したことから両機関の連携協力が始まった。訓練は両機関が培ってきた技能を十分に発揮できた。東南アジア諸国を含めた多国間の連携協力を進展させていきたい」と述べると、ICGのスレッシュ・メッタ長官も「訓練は航海の安全を守るのに有効だ。来年はインド沖での合同訓練を計画している。多くの国が参加しての合同訓練にしたい。」と海賊対策での連携協力に意欲を見せた。
 
3. 日本を軸とする海賊対策
 それでは先ず、日本から見た海賊対策の流れについて概観しておきたい。それは、取りも直さず、JCGによるアセアン諸国等との協力・交流・援助・よき関係の構築の軌跡でもあると思われる。
(1)海賊対策国際会議準備会合(シンガポール)
 1999年10月に発生したアロンドラレインボーのシージャック事件を契機として、国際海運業界にとって深刻な問題となっている海賊問題を討議する機運が高まり、同年11月のアセアンサミットにおける小渕首相(当時)の提唱により、アジア各国の海上警備機関の代表者が一堂に会し、情報交換、各国の取締強化、相互協力、連携について話し合うため、2000年4月末にJCG等が中心となり、「海賊対策国際会議」を東京で開催することが計画されたが、これに先立つ3月7日から9日の間、シンガポールにおいて準備会合が開催された。準備会合は、日本財団の支援を受け、JCGが主催、ASEANと東アジアからカンボジャ、中華人民共和国、香港、インド、インドネシア、韓国、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、ベトナム、日本など13ケ国・地域から主に海上警備機関の代表が出席した。
 本会合では、先ず主催者であるJCGが「最近の海賊問題はシンジゲートが絡んでいると考えられるケースが多く、海賊事件を撲滅するためには国際的な海上警備機関等の連携強化が必要」等と趣旨を説明した後、財政支援を行った日本財団の寺島常務が「東南アジア地域における各国の協力関係が、今後の海賊対策の成否を握る鍵となる」と強調した。3日間にわたる会合では、各国の海賊及び武装強盗並びに海賊対応についてのカントリーレポートの発表、各国間の情報交換、取締りの強化と相互連携協力、定期的な専門家会合の開催等各国海上警備機関の協力関係構築に関する検討が行われた。
 また、海賊事件に対する取締りの強化が必要であるとの見解を共有し、各国関係機関が相互に直ちに実施可能な連携・協力を行うこととし、「海賊・海上武装強盗対策情報連絡窓口リスト」を作成した。
 
(2)海賊対策国際会議(東京)
 2000年4月28日・29日、海賊対策国際会議が東京で開催された。本会合では、シンガポール(3月7日から9日)での準備会合において検討された対策が最終化され、「東京アピール」、「アジア海賊チャレンジ2000」、「モデルアクションプラン」が、一連の会議の成果として参加16ケ国・地域によって採択された。「アジア海賊チャレンジ2000」では、JCGから、海賊に係る情報交換のための窓口の設定、取締り、捜索救助等に際しての国際的な連携・協力、人材育成としての海上保安大学校等への留学生受入、海上犯罪取締に関する各種セミナーの開催、巡視船の相互訪問及び合同訓練、専門家会合の継続的な開催、資器材等の整備への支援等各種支援策の検討がなされた。また、本会合により、船舶の航行と乗組員の安全を確保するため、アジアの各国が力を合わせて、犯罪の抑止のために官民一体となって取組むことについての合意が形成された。
 
(3)海賊対策調査ミッションの派遣
 2000年4月に東京で開催した海賊対策国際会議で採択された「アジア海賊対策チャレンジ2000」に基づく連携・協力体制の推進及び各種支援策の具体化へ向けた協議を目的として、JCGは「海賊対策調査ミッション」を東南アジア各国へ派遣した。同ミッションは、2000年9月16日から26日の日程で、フィリピン・マレーシア、シンガポール、及びインドネシアを訪問したもので、JCGはアジアにおける海賊問題への積極的な取組姿勢を明らかにするとともに、関係国とのさらなる連携・協力の強化を目指していくこととしたものである。
 
(4)海賊対策合同訓練
 2000年11月、JCGは、2000年4月に東京で開催した海賊対策国際会議で採択された「アジア海賊対策チャレンジ2000」に基づいて、ICG、マレーシア海上警察それぞれとの海賊取締連携共同訓練を実施した。JCGは、流出油防除訓練、救難訓練の分野では、フィリピン、インドネシア、韓国などの国々との共同訓練を実施した実績はあるが、海上警備、海賊対策の分野における外国との共同訓練はこれが初めてであった。初の警備特殊事案対応訓練であったが、ほぼ完璧に訓練を遂行した。JCGは、今後とも各機関職員の意思疎通、連携意識の醸成、海賊対策への積極的姿勢等を図るため、定期的に巡視船航空機の派遣を実施している。これまでに、インド、インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイにおける海上警備機関との合同訓練を実施してきた。結果の概要は次の通りである。
(4)-1. ICG
 2000年11月、インド・デリーにおいて、ICGとJCGの長官級会合を実施したほか、チェンナイ沖で、双方の巡視船による海賊取締連携訓練を実施した。ICGとJCGとの合同訓練には、日本からは巡視船「しきしま」とヘリ2機が参加し、インド側は警備船艇2隻とヘリ1機が参加した。訓練では、ベンガル湾を航行している日本の商船が、海賊に襲撃されシージャックされたことを想定し、容疑船舶の追跡、犯人グループの補足と乗員の救出を目指した作戦を実施した。この訓練のポイントは、情報の輻輳を避け、正確な情報伝達を行い、両国の巡視船が足並みを揃えた行動をとることにあり、JCGになじみの薄い海域における初めての警備特殊事案対応訓練ながらも、ほぼ完璧に訓練を遂行した。
 この共同訓練に際し、ICGとJCGの各長官間において会合が持たれ、アジア地域の海の安全を守るための連携・協力を今後も積極的に進めていくことで合意された(詳細は前出)。
(4)-2. マレーシア海上警察
 JCGとのチェンナイ沖における合同訓練の後、「しきしま」は、マレーシア・ポートケラン港に寄港し、同港沖でマレーシア海上警察と初めての大規模な海賊取締連携訓練を実施した。マレーシア海上警察からは巡視船4隻航空機2機、対テロ特殊部隊(SMART)、人員約200名が参加し、両機関巡視船、航空機間の通信設定、ヘリから相互巡視船への降下、特殊部隊による海賊の制圧等極めて順調に進められた。この共同訓練は、クアラルンプールで開催された海賊対策専門家会合に合わせて実施されたもので、同会合に出席した東南アジア各国の海上保安機関職員を始め、マレーシア政府高官や報道関係者等多くの見学者が見守る中で実施された。JCGにとっては、インドに続き2回目の海外における警備特殊事案対応共同訓練として、両国巡視船による綿密な無線のやりとり、追跡、補足訓練、完全武装したマレーシア特殊警備隊員による行動などを実施した。
(4)-3. フィリピン沿岸警備隊(PCG)
 2001年10月31日、マニラ港沖合海域においてJCGヘリ搭載型巡視船「みずほ」及び搭載ヘリ2機、PCG巡視船艇3隻及びヘリ1機による連携訓練を実施した。訓練は、日本関係船舶が海賊被害に遭遇したとの想定の下、両機関の協力・連携により被害者の捜索救助、海賊船の追跡・補足、取締官の乗船までの措置を行うものであった。フィリピンでは、過去にシージャックされた「ALONDRA RAINBOW」の積荷が発見されたこと、「INABUKWA」が発見されたこともあり、海賊対策への意識は高く、実践的、積極的な訓練となった。
(4)-4. タイ海上警察、港湾局2001年12月12日、ヘリ搭載巡視船「りゅうきゅう」をタイへ派遣し、タイ海上警察、港湾局とともに海賊対策連携訓練を実施した。訓練はレムチャバン港沖にて、タイ海上警察巡視船3隻・王立タイ警察航空隊航空機1機、タイ港湾局巡視船2隻、日本は「りゅうきゅう」と搭載ヘリ、搭載警救艇、被害想定船としてチャーターされた貨物船1隻の合計船艇8隻航空機2機で実施された。訓練内容は、タイ沿岸の公海上を航行中の貨物船「HARIN」が海賊に襲撃されたとの想定で、被襲撃通報をタイ海上警察エマージェンシーセンターが受信、同センターがタイ関係機関及びJCGに情報を伝達、その後JCGが巡視船「りゅうきゅう」を派遣し、海上警察及び港湾局と連携し被襲撃船及び救命艇から計6名を救助するまでの諸作業を実施する、であった。訓練は、3機関の船艇に訓練調整官を互いに派遣のうえに実施したこと等から、初めての連携訓練であったにもかかわらず、スムースに進行し無事終了した。このような連携訓練について、タイ側の海賊対策への関心は高く、これまでに日本が講じてきた海賊対策への積極姿勢を高く評価するとともに、タイ側も海賊対策に積極的に対応していくことを改めて確認した。
(4)-5. 海上保安大学校への留学生受入れ
 JCGは、2000年4月の「アジア海賊対策チャレンジ2000」に基づいて、JCG幹部職員養成のための教育機関である海上保安大学校に、東南アジア沿岸各国の海上保安関係機関職員を留学生として受け入れることにした。これは、留学生に対して海上保安業務に関する高度の専門知識・技能を教授することにより、東南アジア沿岸各国における海上保安体制の充実強化を図ることを目的とし、2001年4月から開始されている。
 ところで、これに加えて、JCGがPCGと連携して行っているプロジェクトについて若干触れておきたい。PCGは1998年に海軍から独立して運輸通信省に移管され、フィリピンにおける海上治安の維持に当たっている。しかしながら、基本的な研修教育カリキュラムの欠如、教育訓練資器材の不足といった状況の中で、救難、防災、航行安全、警備等に的確に対応できる人材の育成が困難な状況にあった。このためJCGは、国際協力事業団(JICA)のプロジェクト方式技術協力による「フィリピン海上保安人材育成プロジェクト」に協力することとし、2002年7月にJCGの職員3名を長期専門家としてPCGに派遣し、プロジェクトを開始している。これらの職員は、現地の訓練センターを拠点に、「教育訓練」「海洋環境保全・油流出防除」「海難救助・航行安全」「法令励行」といった各分野において、訓練コースの充実、カリキュラム開発、教育訓練資器材整備、講師陣の強化を図るなどの技術協力を行っている。このプロジェクトの一環として、2002年9月にPCG職員4名をJCGに受け入れ研修を実施し、また、2003年1月及び2月には、海難救助技術に関する技術指導や教育訓練等に関するセミナーを実施するため、JCG専門家を短期専門家としてフィリピンに派遣している。
 2003年2月12日13日に行われた教育訓練セミナーは、「JICA-PCG SEMINAR on International Trend on Maritime Law Enforcement System and International Trend on Maritime Navigation Safety System」として実施され、私は、「SEMINAR on Transition of the World Situation Personnel Education and Training」という講演を行う機会を与えられた。また、2003年7月9日10日とマレーシア・ペナン島で行われた、「マレーシア政府主催・海上保安セミナー(Seminar on Japan Coast Guard)」においても、私は、「Fundamental Law and Regulation of the Coast Guard, Regarding its Missions and Responsibilities」という講演を行うことができた。本稿も両セミナーの草稿の一部を下敷きにしている。







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