MEH試験プロジェクトの各コンポーネント
MEH試験プロジェクトは以下の7つの戦略コンポーネントから構成される。
コンポーネント1 海洋電子ハイウェイ(MEH)を確立して、その技術的機能を航行の安全および海洋環境の保護に役立てる。
コンポーネント2 MEHシステムを通じて海洋環境システム、データフロー、および情報交換サービスを実現する。
コンポーネント3 MEHシステムの持続的管理を担う運用および管理メカニズムを開発する。
コンポーネント4 MEHシステムの財政的、社会経済的利益、および法的問題を評価する。
コンポーネント5 MEHシステムを支援する関連の権利者の認識と参加を喚起する。
コンポーネント6 MEHシステムを持続的に管理することを通じて、海上の安全および海洋環境を保護する国および地域の能力を強化する。
コンポーネント7 移行活動を実施して、MEHの実用システムを開発する。
制度および実施上の枠組み
2004年のMEH試験プロジェクトの開始時に、プロジェクトの実施状況の監視を行なう地域組織として事業運営委員会(PSC)が設立される。PCSは管理ツールを開発するための制度的な枠組みを提供する。管理ツールはMEHシステムを運用、監督、管理し、さらに関係する権利者の間で協力協定を結ぶために継続的な基盤を提供する。
MEH試験プロジェクトの実施に伴い、4つの技術委員会と2つの作業グループが構築される。
− 測量および電子海図(ENCs)に関する技術委員会
− 陸上のインフラおよび施設に関する技術委員会
− 船舶搭載装置に関する技術委員会
− 環境システムおよび情報に関する技術委員会
− MEH実用システムの開発プロジェクトにおける費用分担に関する作業グループ
− 試験プロジェクトの評価に関する作業グループ
地域内にプロジェクト管理室が設立され、プロジェクトをオンサイトで監督、管理する。プロジェクトマネージャーや専門家が常駐することになる。プロジェクト管理室のスタッフはMEHデータセンターに出向の国のスタッフと協力してコンサルタントの仕事を監督するほか、事業運営委員会、技術委員会、および作業グループに対して事務的な機能も提供する。
パートナー
本プロジェクトの主要参加国はインドネシア、マレーシア、シンガポールの沿岸3ヶ国である。沿岸国は事業運営委員会、技術委員会、および作業グループのメンバーであると同時に、試験プロジェクトの実施に際して補助的な出資も行なう。出資には海上安全施設、オフィス、装置などの使用、現地専門家の手配など、資金以外の貢献が含まれる。沿岸各国はそれぞれ国内重点地点および主幹官庁を持っており、該当する権利者とのパートナーシップの下、プロジェクト管理チームと協力して、MEH基金、MEHシステムの管理母体の開発を含め、上述した試験プロジェクトの7コンポーネントの活動を実施する。さらに、同海峡におけるMEHシステムを構築するために、沿岸各国は政策的、制度的、法律的な隔たりを乗り越えるべく議論を行なう。
現在、国際タンカー船主協会(INTERTANKO)と国際水路機関(IHO)が試験プロジェクトのパートナーになっている。INTERTANKOとのパートナーシップによって、MEHシステムの技術評価に必要な数のタンカーが十分確保された。INTERTANKOは海運業界におけるプロジェクトの中心的存在となり、ECDISおよびAISを搭載して、プロジェクトに参加する船舶を識別してくれる。また、INTERTANKOは参加する船舶の状況把握を手助けしてくれる。具体的には、参加する船がプロジェクトの要求条件を満たしていることを保証し、プロジェクト参加中に船上で何らかの制約や問題が生じた場合には通知してくれる。パートナーとして、INTERTANKOは事業運営委員会のメンバーになり、プロジェクトの様々な技術委員会や作業グループのメンバーとしてプロジェクトのレビューや評価、活動の実施に参加する。
もう1つのパートナーであるIHOも事業運営委員会のメンバーとなり、プロジェクトの様々な技術委員会や作業グループのメンバーとしてプロジェクトのレビューや評価、活動の実施に参加する。プロジェクトヘの主な貢献としては、ENCsの開発、精算を通じて技術支援を提供し、ENCベースのエコロジーマップや危険水域マップを開発するほか、地図サービスを提供したり、訓練や専門家の助言などの技術協力の推進などを行なっている。
技術プロバイダーなどの民間パートナー、特にデジタル技術や通信技術関連および環境分野のパートナーが参加して、オンライン、リアルタイムの通信・データ交換分野を含むMEHシステムの様々な製品およびサービスを開発する。
ユーザー国からの支援
MEHプロジェクトのコンセプトについての議論の出発点から、そして特にプロジェクト開発基金ブロックB(Project Development Fund Block B)の活動では、地球環境ファシリティーの提供する基金の下、日本の海上保安庁海洋情報部がMEH試験プロジェクトの準備に貢献した。財団法人シップ・アンド・オーシャン財団および社団法人日本海難防止協会もプロジェクトの準備会議に積極的に参加し、貴重な貢献を提供している。
MEH試験プロジェクトには日本政府も招待され、国際協力事業団(JICA)もMEH試験プロジェクトヘの関心を示し、技術的専門知識の提供を通じて電子海図の開発に貢献した。
韓国の海洋水産省もプロジェクトの準備会議に参加し、MEH試験プロジェクトの運用に好意的姿勢を表明した。
今後の展望
海洋電子ハイウェイ(MEH)のコンセプトは、デジタル技術を航海に応用する目的で1990年代の初頭にカナダで誕生した。開発では特に電子海図およびECDISの開発に重点が置かれた。カナダ版のMEHの中核はECDISと船舶自動識別装置(AIS)の相互接続であった。
マラッカ・シンガポール海峡にMEHを構築する案は1990年代の中期、GEF/UNDP/IMOの「東アジア海域海洋環境管理計画を目的としたパートナーシップの構築」の会合において、海峡におけるパイロットプロジェクトとして初めて検討された。
沿岸3ヶ国と国際海事機関(IMO)はMEHコンセプトの実現の可能性について共同で調査を行ない、地域内および世界銀行との3年の議論を経て、MEH試験プロジェクトが開発され、2004年から実施される運びとなった。
試験プロジェクトの評価が終了したのち、MEH試験プロジェクトの運用を成功させ、MEH実用システムを改良するためには、関係する権利者とのパートナーシップ、およびユーザー国からの協力と支援が極めて重要である。
MEH試験プロジェクトは、国際海峡の航行と環境を管理する未来の航海制御システムの青写真を提供する。
国連海洋法条約(UNCLOS)の第43条の規定では、ユーザー国および海峡を隔てる国は合意に基づいて協力し、対象となる海峡にける航行および安全に必要な支援、または国際航海の支援に関するその他の改善策を構築、保守しなければならない。また同様に、船舶から排出される公害を防止、減少、制御するために協力しなければならない。ただし、MEHシステムの開発ではUNCLOSの想定を越えてさらに、さまざまな権利者とのパートナーシップ協定を通じた参加と協力が要求される。権利者には海運業界、民間セクター、そしてユーザー国における政府機関内の民間セクターが含まれる。なによりも、MEHシステムの設立への沿岸3ヶ国の政府の関与がプロジェクトの成功の基本条件である。すでに挙げた要素に加えて、インドネシア、マレーシア、シンガポール、INTERTANKO、およびIHOが積極的な関与をすでに表明していること、一部のユーザー国の関連セクターから協力と支援を快諾する申し出が得られていることなどを考慮して、IMOは現段階で、計画を実施に移すための準備を行なっている。2003年末、世界銀行による最終的な保証を待って、MEHプロジェクトは2004年には実施に移される予定である。
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