日本財団 図書館


はじめに
 
 本報告書は、日本財団の平成15年度助成事業として実施した「造船技能開発センター構想調査事業」の成果をとりまとめたものであります。
 我が国の造船業が多年に亘り国際競争力を維持してきた要因の1つに、技術レベルの高い優秀な現場技能者の存在があります。しかし、造船不況期の影響で、業界全体の技能者の年齢構成は大きな偏りが生じています。現場での技術向上の中核を形成していた技能者の高齢化が進行しており、多くの人材が退職により現場を去る時期を迎えつつあります。同時に生産性向上を追求した結果、一人作業化やOJT要員の不足が進み、現場での技能継承が行われにくくなってきており、このままでは、国際競争力を支えてきた柱の1つである、現場での技術レベルの高さが失われるおそれがあります。
 この状況を打開するために、製造現場レベルの技能の継承を円滑に進めるとともに、新技術への対応能力向上を短期的に図ることをねらいとした技能継承機関として、(仮称)造船技能開発センターを業界共同で設立、運営することを構想しました。既に地域対象の事業として、先行して実施されている民間ベースの技能継承・研修事業をベースに、全国の造船事業者を対象とした新たな形の業界共同事業を速やかに立ち上げることをねらいとしたものです。
 造船技能開発センター事業の内容を、民間先行事業のデータなどを用いて現実的レベルで検討し、さらに、事業内容、事業形態による収支状況変化を比較検討し、事業の実現を推進するための資料作りを行いました。事業推進の観点からどのような運営形態、組織形態が実際的か、その場合の資金需要はどの程度となり、その資金負担をどのような配分で分担することが妥当か、といった実際的観点からの検討も行い、作業の結果を評価した上で、現実的な事業スキーム案をとりまとめました。
 本調査研究は、(社)日本造船研究協会 星野二郎会長を委員長とする「造船技能継承・研修のあり方に関する調査委員会」各委員の熱心なご審議とご指導、造船業界関係各位のご協力、並び日本財団のご支援により実施されたものであります。ここに衷心より厚くお礼申し上げます。本調査報告が造船技能者育成の事業化に向けての議論の一助となり、具体的な事業立ち上げに際して有効に活用していただければ幸いであります。
平成16年3月
財団法人シップ・アンド・オーシャン財団
 
造船技能継承・研修のあり方に関する調査委員会
委員名簿
(順不同、敬称略)
 
委員長 星野二郎  社団法人 日本造船研究協会 会長
 
委員  遠藤博 
 〃   内藤林    大阪大学大学院 工学研究科 船舶海洋工学専攻 教授
 〃   中西堯二  独立行政法人 海上技術安全研究所 理事長
 〃   大和裕幸  東京大学 大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻 教授
 〃   津田尚輝  社団法人 日本造船工業会 企画委員長
 〃   (根本久司  前社団法人 日本造船工業会 企画委員長)
 〃   寺西勇    社団法人 日本中小型造船工業会 副会長
 〃   檜垣巧    社団法人 日本中小型造船工業会 労務委員長
 〃   三宅和夫  社団法人 日本造船協力事業者団体連合会 副会長
 〃   丸山研一  国土交通省 海事局 造船課 課長
 〃   (木内大助 前国土交通省 海事局 造船課 課長)
 
造船技能継承・研修のあり方に関する調査委員会分科会
委員名簿
(順不同、敬称略)
 
委員長 遠藤博 
 
委員  大沢直樹  大阪大学大学院 工学研究科 船舶海洋工学専攻 助教授
 〃   湊啓治    株式会社アイメックス 顧問
 〃   田淵一郎  四国ドック株式会社 顧問
 〃   岩本洋    株式会社アイ・エイチ・アイマリンユナイテッド 企画部部長
 〃   真下利一  協同組合石川島播磨協力会 理事長
 〃   大坪新一郎 国土交通省 海事局 造船課 課長補佐
 
事務局 工藤栄介   財団法人シップ・アンド・オーシャン財団 常務理事
 〃   加藤郷       〃   業務部長
 〃   瀬部充一     〃   業務部 調査役
 
1. 調査目的
 わが国が多年に亘り国際競争力を維持してきた大きな要因の一つに、技術レベルの高い優秀な現場の技能員の存在がある。ところが、造船不況の影響を受け、現場の技能員の採用が長期に亘って止まり年齢構成の歪みが生ずると共に、生産性向上を追求した作業環境の変化(1人作業化,OJT要員の不足等)より従来、造船所内でスムーズに行われていた技能の継承等が行われなくなり、日本造船業を支えていた技術基盤の今後が懸念される状況が生じている。特に、中小造船業、造船協力事業者等においては、大手に比べてこの傾向が著しい上に、技能ノウハウのIT化等を行える余裕、技術的能力も不足している。
 一方、現場の技能員の高齢化が進み、このままでは我が国造船業の高い生産性を支えてきた製造現場のレベルでの技能の継承を行う機会が失われてしまう可能性が大きく、造船業の内部からの自壊を生じしかねない。
 本調査では、このような状況を踏まえ、造船業界としての技能継承・研修のあり方に関する議論と調査を行い、適切な技能継承・研修の形態、業界のコンセンサスが得られる支援方策等を見いだすことにより、製造現場レベルでの技能の継承をスムーズに進めると共に新技術への対応能力レベル向上を短期的に図り、今後の持続的な発展を目指す。
 なお、本調査の中では、議論を深め、今後の対応をスムーズに進めるために、適切と思われる具体的な技能継承・研修の形態、支援方策についてモデル(造船技能開発センター等)的に検討を行い、その効果、問題点等を明らかにする。
 
2. 調査項目及びフロー
(1)技能継承等の実態
(1)技能継承・研修を取り巻く環境の整理
 年齢構成、採用動向、将来の生産規模、生産構造等の造船業界における技能継承・研修を取り巻く環境の整理を行う。
(2)技能継承・研修の実態把握
(a)造船業界の実態
 アンケート、ヒアリング等から見た造船業界の技能継承・研修の実態(支援策を含む)を把握するとともに、先行事例(因島等)の実情と、その効果、他業種の動向を明らかにし、業界への敷衍の可能性について検討を行う。
1)アンケート
 調査内容:技能継承・研修の実態把握、意識調査
 調査対象:(社)日本造船工業会会員企業(全社) 18社/200社
     (社)日本中小型造船工業会会員企業 81社/257社
     (社)日本造船協力事業者団体連合会会員所属企業
     (各会員組合所属主要企業) 104社/120社
2)支援策
3)先行事例の分析
(b)他業種等の実態
 類似業種(鉄鋼業、建設業等)及び公的(国、地方自治体)な技能継承・研修の実態(考え方、研修方法、支援策等)把握を行い、造船業界への適用可能性について検討を行う。
 
(2)技能継承・研修のあり方
 (1)の技能継承・研修を取り巻く環境と業界の実情を踏まえ、業界にマッチした技能継承等のあり方、実現のための方向性について検討を行う
(1)技能継承・研修の必要性
(2)業界が必要としている技能継承・研修の形態
(3)具体化を行うための方向性
 
(3)技能継承・研修の具体的な形態
 (2)のあり方を踏まえ、各企業が参加しうる具体的な技能継承・研修の形態についてモデル(業界共同利用の技能開発センター)的に検討を行い、その効果や運営方法、問題点等について明らかにする。
(1)技能継承・研修の具体的な形態
 具体化の実現性が高い技能継承・研修形態(技能開発センター等)について、その具体的なイメージ、その効果、事業化スキームについて詳細に検討を行うとともに、事業の採算性等についての検証を行う。
 なお、事業の採算性の評価に当たっては、将来の変動要因を十分に考慮した事業収支構造を想定する。
(2)具体的な形態に対応する支援策
 (1)を実現化するための支援スキーム、資金助成計画等についての検討を行い、その費用対効果、問題点等について明らかにする。また、支援策の検討に当たっては、社会的な助成に対する考え方に十分に配慮したものとする。
(3)具体的な事業スキームの提言
 上記(1)、(2)の事業収支構造の検討結果、支援スキームを踏まえ、事業化推進に適する事業スキーム案をまとめる。
 
(4)まとめ
 (1)〜(3)の検討結果をとりまとめ、今後10年程度の造船業における技能継承・研修のあり方を提言する。
 
【調査フロー】







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION