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6・4 IEC 61097-7規格(音響用)概要
 GMDSS(全世界海難救助システム)に関する規格のパート7として、船舶VHF無線電話の送受信機について、操作及び要求性能、機器の試験の方法と所要試験結果についての規格がまとめられている。IEC 60945規格(次項参照)と本規格の要求性能と異なる場合は本規格を優先する。
 ここでは、本規格に定義されている主な項目とその内容の概略を表6・13に掲げる。なお項目番号は原文に一致している。
 
表6・13 IEC61097-7規格(音響用)に定義されている項目等の一覧
項目 内容
3. VHF無線機に要求される性能
3.1 はじめに 3章の内容
3.2 一般的な性能 チャンネル数、送受信周波数の分離、呼び出しのカテゴリー等の要件
3.3 要求される性能 ●最低限必要とされる機器の構成
●制御器が複数の場合の取り決めなど
●動作の状態など表示するべき内容や表示方法など
●送受話器の音量や出力の切替方法など
●チャンネルや送受信の切替時間
●アンテナ端子の状態によらず機器に影響を与えない安全性
●受信機が使用するチャンネル番号と周波数など
●ウォーミングアップ時間
●ディジタル選択呼出し(DSC: Digital Selective Calling)設備など
●外部機器とのインターフェースなど
●複数待ち受けの場合の優先チャンネルと追加チャンネルのスキャニング方法など
3.4 周辺に求められる環境と電磁環境の両立性
(EMC: Electro Magnetic Compatibility)
IEC60945を参照のこと
4. 要求される技術特性
4.1 一般的な特性 ●チャンネル間の周波数の差など
●二重あるいは半二重システムの場合やDSCを使用している場合の機器の機能など
4.2 エミッション(放射)のクラスと変調特性 ●送信のクラス
●必要とされる帯域幅など
4.3 送信器 ●周波数許容誤差
●送信出力の範囲など
●周波数の偏差の限度
●音声周波数の上限など
●スプリアス発生の限度など
4.4 受信器 ●受信機の最大感度
●近接チャンネルの選択性
●スプリアスに対する応答を拒否する特性など
●変調による減衰の限度
●スプリアス発射の限度
●複数待ち受け機能のスキャニング特性とチャンネル表示など
4.5 DSC機器 ●DSC機器の構成
5. 試験の方法と要求される結果
5.1 試験の条件 ●通常の試験、過酷な条件の試験
●試験に使用する電源
●過酷な温度条件における試験の手順
●動作の確認
●環境試験
●不特定の状態における試験
5.2 計測の一般的な条件 ●受信機に入力される試験信号
●受信機スケルチ機能
●通常試験の変調
●模擬アンテナ
●送信機に入力される試験信号
●送信器の出力
●二重方式のフィルタを装備した機器の試験
●試験するチャンネル
●不確定な計測値など
5.3 一般的な要件 ●スイッチ切替時間など
5.4 送信器 ●周波数の誤差
●搬送波の出力
●周波数の偏差
●変調器の限界特性
●マイクも含めた変調器の感度
●音声周波数の応答
●音声周波数の高調波ひずみのエミッション
●隣接するチャンネルの影響
●アンテナに伝えられる伝導スプリアスのエミッション
●送信器の変調による誤差
●周波数の瞬間的な変化における送信器の応答など
5.5 受信器 ●高調波によるひずみとカタログ値における音声周波数の出力
●音声周波数の特性
●使用可能な最大感度
●チャンネル相互の周波数分離
●隣接チャンネルの選択性
●スプリアスに対する応答を拒否する特性
●不必要な信号があっても、必要な変調信号を受信する受信機の能力
●不要な信号による音声出力の変化やS/N比の劣化(ブロッキング)
●アンテナに伝えられる伝導スプリアスのエミッション
●受信機のリミッタの増幅特性
●高周波による雑音および電源のスプリアスで生じる雑音のレベル
●スケルチの機能
●スケルチのヒステリシス
●複数待ち受けのスキャニング特性など
5.6 二重方式の動作 ●音響のフィードバック
●送信時の受信機の感度の減少と受信の状態
●スプリアスに対する応答を拒否する特性など
5.7 DSCの動作 ITU-RおよびIEC61097-3を参照のこと
5.8 電磁環境両立性 ●伝導スプリアスのエミッション
●放射スプリアスのエミッション
●電磁環境へのイミュニティ(耐性)など
詳細はIEC60945を参照のこと
 
6・5 IEC 60945規格概要
 航海及び無線連絡装置と設備に関して、その試験方法および所要試験結果をまとめた規格である。本来は電波航海標識に対して、一般的に要求される性能の規格であった。しかしGMDSSの導入によって、将来、無線装置はこれまでのように特別な無線室内ではなく、航海用装置と同様に船橋に配置されるものと予測し、本規格の適用範囲も拡大された。現在の適用範囲は、船橋上とその周辺に設置された、EMCにかかわる装置を対象としている。
 本規格の性能要求事項は、定められた性能より劣ることがない場合、新しい技術の使用を妨げるものではない。
 ここでは、1996年に改定された本規格の第3版に定義されている主な項目とその内容の概略を表6・14に掲げる。項目9〜11のみ、表の形式を変更して、細かい項目の内容を示している。なお項目番号は原文に一致している。
 実際に船橋に設置される場合には、これらの規格に適合した機器であっても、機器間の干渉や、束にされた電源ケーブルおよび入出力信号ケーブルを通しての影響が考えられる。個々の機器は規格に合格していても、狭い船内にひしめき合って設置されるような状況では、複合的な原因で性能が劣化するおそれがある。
 機器の設置工事に携わる現場技術者の方々には、機器を密接して設置せざるを得ない状況でも、ケーブルを束ねる際や、グランド線を取り付ける際には、EMC(電磁環境両立性:Electro Magnetic Compatibility)の問題と対策を考えながら設置し、安全性の向上に寄与していただきたい。
 
表6・14 IEC 60945規格に定義されている項目等の一覧
項目と概略 内容
4. 最小限要求される性能

右記に示す各項目において、対象となる機器に対して最低限要求される性能の定義
4.1 一般
4.2 操作
4.3 電源
4.4 環境条件に対する耐久性と抵抗力
4.5 妨害―電磁環境両立性
4.6 妨害―騒音
4.7 妨害―コンパスの安全距離
4.8 安全対策
4.9 維持管理
4.10 装置用マニュアル
4.11 マーキングと識別
5. 試験の方法と要求される結果

技術試験および動作確認における要求事項、試験時の温度条件と電源の条件、試験報告書の要件など
5.1 一般的な条件
5.2 試験の条件
5.3 試験の結果
6. 動作確認

右記に示す各項目において、対象となる機器の動作について確認すべき内容など
6.1 一般的な条件
6.2 制御機能の設計
6.3 制御器の使用
6.4 識別
6.5 照明
6.6 損害と安全
6.7 ユニット間の接続
6.8 ディジタル表示盤
6.9 表示装置
6.10 ソフトウエア
7. 電源―試験の方法と要求される性能

電源の故障や高(低)すぎる電圧、変動する電圧などに対する機器の性能試験の方法と要求される性能
7.1 極限の電源
7.2 過度の条件
7.3 電源の短期的変動
7.4 電源の故障
8. 環境条件に対する耐久性と抵抗力−試験の方法と要求される性能

右記に示す各項目において、対象となる機器に対する試験の方法と限界値など
8.1 一般
8.3 湿潤熱
8.4 低音
8.5 熱衝撃
8.6 落下試験
8.7 振動
8.8 降雨
8.9 浸水
8.10 日射
8.11 耐油性
8.12 腐食
9. 不要な電磁放射−試験の方法と要求される性能
9.1 全般  
9.2 伝導によるエミッション(放射) 機器の電源ポートを伝わって、船内の電源系統に影響を与える性質のエミッションの計測と限界値
9.3 放射によるエミッション 船内の他の機器(ラジオや無線機など)を妨害する性質のエミッション(アンテナからの放射は除く)の計測と限界値)
10. 電磁環境に対するイミュニティ(耐性)−試験の方法と要求される性能
10.1 全般  
10.2 低周波の伝導による妨害に対するイミュニティ 交流電源が妨害された場合などの耐性
10.3 無線周波数の伝導による妨害に対するイミュニティ 電源の切替、機関の天下、音響測深機及び船内の無線送信機から発せられる妨害などに対する電力線、信号線および制御線の耐性
10.4 無線周波数の放射に対するイミュニティ 無線機が機器に接近した場合などの耐性
10.5 交流電源、信号線および制御配線における急速過度現象に対するイミュニティ 接点で火花が生じるようなスイッチ切替などによって生じる低エネルギーの急速過渡現象に対する耐性
10.6 交流電力線でのサージに対するイミュニティ 交流電源のサイリスタによるスイッチ切替などによって生じる高エネルギーの低速過渡現象に対する耐性
10.7 電源の短期変動に対するイミュニティ 負荷が大きく変動することによる電源の変化などに対する耐性
10.8 電源故障に対するイミュニティ 電源の切替やブレーカの作動によって船内電源が短時間停止した場合などの耐性
10.9 静電気の放電に対するイミュニティ カーペットや作業服によって静電気が帯電した使用者から機器に放電された場合などの耐性
11. 特別な目的のための試験
11.1 可聴音と信号 機器から発せられる音が、通信および音声による警報を妨げないことを確認するための試験方法と要求される結果
11.2 コンパス安全距離 機器が船内の基準コンパスや操舵コンパスに影響しないことを確認するための試験方法と要求される結果
12. 安全対策

使用者に対する安全を確認するための試験方法と要求される試験結果
12.1 危険電圧への立ち入り事故防止
12.2 電磁無線周波数の放射
12.3 視覚表示装置からのエミッション
12.4 X線放射
13. 維持管理 対象となる機器は4.9項との適合性をチェックされる。
14. 装置用マニュアル 対象となる機器は4.10項との適合性をチェックされる。
15. マーキングと識別 対象となる機器は4.11項との適合性をチェックされる。







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