3・9 マイクロ波伝送回路
3・9・1 マイクロ波伝送回路の特長
第1章(1・3節)でマイクロ波は光に近い性質をもっているとしたが、もともとは電波なので、波動としての性質も併せてもっているわけである。回路にマイクロ波を通すと、周波数が高いために、例えば抵抗素子のリード線のインダクタンスや巻線間のキャパシティを無視できなくなり、これらの抵抗やコイルなどを、それぞれの純粋の素子と考えられなくなってくる。そのため、マイクロ波にはそれに応じた新しい素子が使用されるようになる。
レーダーにおけるマイクロ波伝送回路は、その空中線部分と空中線から受信機までの給電部分及び送受信機の高周波部分に使われているが、その回路は同軸管(同軸ケーブルとも称する。)と導波管とが中心となっている。
ある間隔を置いて並べた2本の導線に電圧を供給すると、その電圧が直流か、あるいは交流であっても周波数が低い場合には、その2本の導線の抵抗だけが流れる電流に影響するが、周波数が高くなってマイクロ波の領域に入ると、導線自身のインダクタンスや導線間のキャパシタンスが影響をするようになる。それらは平行線路の全般に分布して存在する形となるので、分布定数回路と呼ばれる。これに対して、コイル、コンデンサー、抵抗等を組み立てて作る回路は、それぞれの部分にそれらの定数が集まっていると考えればよいので、集中定数回路と呼ばれる。
分布定数回路では、回路の構造が変わったりすると、その点でインピーダンスが変化をして不整合を生じ、そのような回路に電流を流すと不整合部分で反射波ができて、回路の伝送効率が悪くなったりするので注意が必要である。
同軸管はSバンド(波長10cm)のレーダーに使用されており、その構造は図3・23に示すように中心の導体の回りを同軸になるように外部の導体で覆い、その両者の間は空間とするか、あるいは絶縁体が充てんしてある。中空の場合にも、中心の導体を外部導体の中心位置に保持するため、適当な間隔をおいて何らかの支持の絶縁体が入れてある。
図3・23 同軸線路の構造
図3・24 同軸管内の電磁界の分布
同軸管では、図3・24の(a)に示すように中心導体と外部導体との間にマイクロ波を給電する。こうすると電波は同軸管の外に漏れることなく(マイクロ波は、表皮効果といって、導体の表面付近を流れ、中にはほとんど侵入しない)伝搬をするが、そのようすは図3・24の(b)と(c)に示すとおりである。すなわち、電波はその波長をλとすると、その両導体の間の電圧分布は、図3・24の(b)に示すように、長さ方向に変化をしながら伝わっていき、また、両導体とその間隔の電界の模様は、図3・24の(c)の上図のとおりとなる。この場合、導体上の電位はその周波数に応じて変化をするが、電位が変化するということは導体の中の電荷が移動していることであり、導体に電流が流れることになる。こうして電流が流れると、その電流によって中心導体の周囲には磁界が発生する。
一般に、電波(電磁波)はその電界と磁界が直交して伝搬する。同軸管内でのその関係は図3・25に示すとおりである。このため、同軸管内ではその磁界は図3・24の(c)図の下図に示すように同軸となる。このような電磁波の伝わり方は電界、磁界とも伝搬方向に対する成分をもっていない。そこでこのような電磁波を電磁気的横波(Transverse Electro-magnetic Wave)といい、その英語名を略してTEM波と呼んでいる。
そのため、同軸ケーブルの中では電磁波はTEMモードで伝搬をするという。
次に述べる導波管の場合とは異なり、同軸ケーブルの中は直流を含めてどんな周波数の電波でも伝えることができるが、周波数が高くなるに従って中に充てんする絶縁体による損失が次第に大きくなる。この絶縁体には高周波特性のようポリスチレン等が使用されるが、それでも電波の波長が3,000MHzを超えると損失が大きくなって、伝送線路としては不適当になるので、Xバンド(3cm)のレーダー用には使用されず、次に述べる導波管が用いられるようになる。
図3・25 電磁界の伝搬
|