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4・10 自動衝突予防援助装置(ARPA)の点検整備要領
(1)適用
 本標準は、平成8年11月19日に改正された船舶設備規程に準拠しているが、平成9年1月1日現在、すでに改正前の船舶設備規程に準拠した自動衝突予防援助装置を装備している船舶の整備の場合には、【 】内に読み替え、アンダーラインの部分は適用しないものとする。
 自動衝突予防援助装置には、一体型と別体型のものとがあるが、別体型の場合は以下の(a)から(d)項までによって、接続されている航海用レーダーと同様の表示が行えることを確認し、一体型の場合には、あらかじめ4・9効力試験までによって航海用レーダーの全機能について確認しておくこと。また、これらの船舶設備規程による技術的条件については1・2・2項に述べてあるので参照されたい。
(2)整備の方法
 自動衝突予防援助装置の整備は、これを備え付けている船舶の定期検査又は中間検査の時期に行い、次の事項について確認し、4・10・3の整備記録を作成する。
(3)外観点検
(a)構成品の点検
 表示器の構成品及び予備品、操作説明書並びに保守のための資料が完全な状態で揃っているかを点検する。
(b)表示等の点検
 自動衝突予防援助装置の
(1)名称、型式、型式承認番号、製造年月、製造番号、製造者名、検定印又は証印
(2)操舵室に装備する機器にあっては磁気コンパスに対する最小安全距離の表示が適切なものであり、かつ、見やすい箇所になされ、かすれて見えにくくなっていないかを点検する。
(c)ジャイロコンパス及び船速距離計との接続状態に異常がないことを確認すること。
イ. ジャイロコンパスからの方位信号を適当な方法によって毎分2回転以上の速さで回転させ、左右の回転とも遅れがなく円滑に追従することを確認する。
ロ. ジャイロコンパスの方位信号を、0度から360度まで15度おきに変化させ、レピーターコンパスの指示値と、そのときの自動衝突予防援助装置上の表示とを比較する。1度以内の分解能で表示できることを確認する。
ハ. 船速距離計からの信号を0ノットから25ノットまで2.5ノットおきに変化させ、そのときの自動衝突予防援助装置の速力表示が0.1ノットの分解能で表示できることを確認する。
ニ. 海上運転中に、それぞれの表示が適正な精度で、異常がないことを確認する。
(d)設置場所が適切で操作に支障がないことを確認すること。
4・10・1 自動衝突予防援助装置の効力試験
(1)電源部
 主電源及び代替電源から受電可能であり、電源の切替えが素早くできること及び電源電圧が規定値以内であることを確認すること。
(2)レーダー機能
(a)各レンジについて、固定及び可変電子距離環、船首輝線、電子カーソル、レーダーエコー並びに相対及び真方位が、接続された航海用レーダーと同様に表示され、かつ、相対及び真方位精度、距離精度が確保されていることを確認すること。
イ. 接続しているレーダー(親レーダー)と同等の映像が表示されることを確認する。
ロ. レンジスケールの切替えが円滑に行えること及び切替え後直ちに映像が安定することを確認する。
ハ. 固定マーカが操作説明書どおりに表示されることを確認する。
ニ. 可変マーカを作動させ、これを固定マーカと重ね合せたとき、その指示値が固定マーカで示されいている距離と一致していることを確認する。
ホ. 電子カーソルを備え付けている場合には、これが操作説明書どおりに表示されることを確認する。
ヘ. 3海里、6海里及び12海里の距離レンジを有していることを確認する。
ト. ノースアップ、ヘッドアップ、コースアップのそれぞれの機能に異常がないことを確認する。
(1)数回これらの切替えを行い、親レーダーと同様に円滑に切替えの行なえることを確認する。
(2)各モードに切替えたとき、映像が直ちに安定することを確認する。
(3)それぞれのモードの映像が親レーダーと同じ方位で、同じ精度で指示されていることを確認する。
(b)オフセンター機能及びレーダー干渉除去機能に異常がないこと。
イ. スイープの中心が移動し、オフセンター機能が正常なことを確認する。
ロ. レーダー干渉除去装置を備えているものでは、レーダー干渉像が除去できることを確認する。
ハ. 真運動装置を備え付けているものにあっては、前節4・9・4の(18)と同様の方法によりその機能及び精度を確認すること。
注:船首方位を45度、135度、225度、315度に置き、そのそれぞれについて船速設定器又は航法装置の船速を低速と高速の適当な値に手動設定し、それぞれについて自船位置がそれに従って正しく移動することを確認する。
(c)無線機器、レーダーその他重要設備に障害を与えていないことを確認すること。
(3)捕捉及び追尾機能
(a)20以上の物標を捕捉でき、かつ、すべてが自動追尾できること。【手動捕捉による場合は10以上の物標を捕捉でき、かつ、すべてが自動追尾できること。】
イ. 他船やブイなどの物標を、ジョイスティック(トラックボール)等を用いて手動で捕捉して追尾させる。捕捉された物標には顕著なシンボルマークが表示され、1分以内にベクトル表示に変わり、追尾が継続されていることを確認する。可能な限り多くの物標によって確認する。
ロ. 自動捕捉の場合には、自動捕捉の範囲を適宜設定し、かつ、変化させ、自動的に各目標が捕捉され、(a)と同様の表示と追尾がなされることを確認する。
(b)自動的に物標を捕捉するものにあっては、手動操作によっても捕捉できることを確認すること。
(c)連続した10回の走査において、5回以上表示される物標を継続して追尾できることを確認すること。
 手動操作により捕捉するものにあっては追尾準備操作完了後、自動的に物標の捕捉を行うものにあっては最初に捕捉範囲に進入又は出現したときから、5走査以内に追尾物標のそれぞれについて明確な識別マーク(追尾中の物標を他の物標と識別できるもの、又は追尾中の物標を選択した場合、他の物標と識別表示)が表示されることを確認すること。
(d)捕捉した物標に対する追尾機能が解除できることを確認すること。
(e)自動的に物標の捕捉を行うものにあっては、捕捉範囲が設定でき、その範囲が表示できることを確認すること。
(f)自動捕捉機能を持つものについては、捕捉制限区域が設定でき、かつ、当該区域においては、物標が捕捉されないことを確認すること。
イ. 捕捉制限区域が、設定できることを確認する。
ロ. 捕捉制限区域にある物標が、自動捕捉の場合には捕捉されないことを確認する。
ハ. この制限区域の外側ですでに追尾されている目標は、これが区域内に入っても追尾が続行されることを確認する。
(4)表示器
(a)距離レンジ、表示方式の切替え後、1回目【4回目】の走査で、航海用レーダーで得られるレーダーエコー及びARPA情報(物標に係る距離、真方位、最接近地点における距離(CPA)、最接近地点に至る時間(TCPA)、真針路、真速力(対水及び対地))が表示されることを確認すること。また、ベクトルを表示させた状態でレンジスケールを変化させ、そのとき各ベクトルが消滅せず、かつ、各ベクトルの長さも距離レンジに応じ正しく変化することを確認する。
(b)使用中の表示方式が明示されることを確認すること。
 ベクトルによる移動予測を行うものにあっては、真ベクトル又は相対ベクトルの方式が明示されていることを確認する。
(c)真針路及び真速力、又は真ベクトルを表示する場合には、対水速力又は対地速力のいずれであるかが表示されていることを確認すること。
イ. 真ベクトルを表示する場合は、対水、対地速力のいずれかが表示されていることを確認する
ロ. 速力の種類が明示されていることを確認する
(d)追尾物標の運動(又は移動)の予測がベクトル又は図形で表示され、その大きさは、時間調整機能付きのものについては、その大きさが時間に比例することを確認すること。
イ. 追尾物標を捕捉完了後、1分以内にそれぞれの物標の移動の概略の予測がベクトル又は図形で表示され、かつ、すべての追尾の状況が同時に数字及び文字で表示されること、並びにこれらの表示が連続的に更新されることを確認する。
(1)本船が定速で直進中に、ブイ等の小物標を自動及び手動で捕捉して追尾させ、ベクトル等が表示されることを確認する。
(2)これらのベクトルが本船の移動に従って、自動的、かつ、連続的に更新されていくことを確認する。
ロ. 追尾物標を捕捉完了後、3分以内にそれぞれの物標の移動の予測がベクトル又は図形で表示されることを確認する。
(1)自船の針路と速力を一定に保持し、この状態において固定物標を捕捉して追尾させる。
(2)自船とこの目標のARPA情報を記録する。
(3)これらのデータから計算によってCPAを算出する。
(4)計算値と先の記録とを比較し、操作説明書どおりの精度であることを確認する。
ハ. 自船のベクトルの長さを計測し、自船の速力に対してこれが適正な長さであることを確認する。
ニ. 真ベクトルと相対ベクトルの切替えを行ったとき、使用中のベクトルの種類が表示され、同時に物標のベクトルの方向が変化することを確認する。
注:追尾物標の移動の予測が図形で表示されるものについては、真ベクトルと相対ベクトルが表示されることを確認する。
ホ. ベクトル長さの時間調整を、最大、最小及びその中間に設置し、それぞれについてそのときのベクトルの長さを計測し、これが時間のスケールに比例して変化することを確認する。
ヘ. ベクトルの長さが一定時間のものではベクトルの長さを計測し、その長さの時間単位が操作説明書どおりであることを確認する。
ト. 静止した目標を対地安定に使うものにあってはその区別があること及び相対ベクトル表示ができることを確認する。
(e)追尾中の物標を他の物標と識別できること。また、追尾中の物標を選択した場合他の物標と識別できることを確認すること。
(f)3海里レンジでは2分、6海里レンジでは4分、12海里レンジでは8分以上【いずれのレンジにおいても8分以上】追尾中の物標に、4以上の等時間ごとの過去の位置が表示されることを確認すること。
イ. 航跡表示のスイッチを操作して、4点以上の等時間間隔の航跡が表示されることを確認する。
ロ. 航跡を表示させた状態でレンジスケールを変化させ、そのときの4点以上の間隔が操作説明書どおりに変化することを確認する。
ハ. 航跡を表示させた状態でベクトルのモードを真と相対に切り替え、このとき4点以上の航跡の方向がそれに従って変化することを確認する。
(g)追尾中の物標を選択した場合、ARPA情報が同時に数字又は文字で表示されること。なお、複数の物標を選択した場合は、それぞれについて、距離と真方位、CPAとTCPA、あるいは真針路と真速力の組合せのいずれかが表示されることを確認すること。
 複数の移動する目標を選定し、
(1)目標までの距離と真方位
(2)CPAとTCPA
(3)目標物の真針路と真速力
の組合せを含む2以上の情報が、数字又は文字で、明りょうに同時に表示されることを確認する
(h)追尾中の物標の移動予測に用いる時間が調整でき、かつ、その時間が数字で表示されることを確認すること。【時間調整ができるものについては、その時間が数字で表示されること】
 ベクトル長さの時間調整を最大、最小及びその中間に設置し、それぞれについて時間の表示が変わることを確認する。
(i)自動衝突予防援助装置から得られる情報(以下「衝突予防情報」という。)とレーダーエコーの輝度はそれぞれ独立に調整でき、かつ、衝突予防情報の表示は、3秒以内に消去【一時消去】することができること。
(j)追尾中の物標が消失した場合に、その消失物標の消失位置が明示されることを確認すること。
(k)追尾中の物標に係るベクトル及びARPA情報の表示の更新が3分以内であることを確認すること。
(l)真方位及び進路方位(ノースアップ及びコースアップ)による表示ができ、かつ、それぞれの機能に異常がないことを確認すること。
(m)ガードリングが設定でき、かつ、その設定範囲が表示されることを確認すること。
イ. 固定ガードリングが設定できるものでは、スイッチ等を操作してガードリングが操作説明書どおりの範囲に設定され、かつ、固定ガードリングを使用中であることの表示がなされることを確認する。
ロ. 可変のものでは、適当な位置にガードリングを設定し、これが操作説明書の範囲で設定でき、かつ、使用中の表示がなされることを確認する。
(n)昼間において直射日光が当たらない状態で衝突予防情報の表示が明確に観察できることを確認すること。
注:直接日光が当たる場合に適当に遮へいを設けてもよいが、普通の明るさの昼間、2人以上の観測者によって明りょうに観察できることを確認する。
(o)操作中に不必要な情報の表示がある場合には、その表示が消去できることを確認すること。
(5)警報機能
 警報装置には、作動試験のための回路があること、及び、次の場合に可視可聴の警報が速やかに発せられることを確認すること。
(a)追尾中の物標が消失した場合、物標が消失した時点から10走査以内に可視可聴の物標消失警報を発し、かつ、その物標の最後の追尾位置が表示面上にマークにより表示されること及びこの警報が、一時的に停止できることを確認すること。
イ. 実際に島の陰等に入って消失するような物標がある場合には、それによるが、適当な消失物標が得られないときには、レーダーの映像のゲインを下げるなどして人工的に消失物標を作って確認する。
ロ. 物標が消失してから警報が発生するまでのスイープの回転数を計測する。
ハ. 消失物標の最後の追尾位置のマークが表示面の正しい位置に現れていることを確認する。
ニ. 可視可聴の警報が一時的に停止できることを確認する。
(b)物標が設定されたガードリングに到達した場合、1分以内に可視可聴の警報を発し、かつ、当該物標が固有のマークで表示されることを確認すること。
イ. 接近する物標に対しガードリングを約10海里付近に設定し、物標がガードリングに到達したときから警報を発するまでの時間及びガードリングに到達した物標の位置のマークを確認する。
ロ. 次にガードリングを2.5海里付近に設定し、同様の確認を行う。
ハ. 複数のガードリングを持っている場合には、そのすべてのガードリングについて同様の確認を行う。
ニ. ガードリングに到達した物標による可聴警報を一時停止したとき、次の接近物標による警報を発することができることを確認する。
(c)CPAを1海里又はこれに近い値及びTCPAを15分又はこれに近い値に設定し、それぞれについて次に掲げる事項を確認すること。
イ. 接近して警報を発した物標のTCPA値が、設定値の±10%以内であること。
ロ. 可聴警報を一時停止しても、次の物標によるTCPA警報を発することが可能であり、かつ、可視警報が保持されたままであること。
(d)CPAを1海里又はこれに近い値及びTCPAを15分以上のできる限り大きな値に設定し、接近して警報を発した物標のCPA値が、設定値の±10%以内であることを確認すること。
注:(c)及び(d)項の確認は、本船が航海中か、若しくは海岸から1海里以上沖に停泊中でないと困難である。接岸中や海岸、防波堤、桟橋等から1海里以内に停泊しているかどうかは、CPAを1海里に設定すると直ちに警報を発することで確認できる。
(e)連動する航海用レーダー、ジャイロコンパス又は船速距離計からの信号が停止したときに可視可聴の警報を発することを確認すること。
イ. 表示器の入力ケーブルを外すなどして確認する。
ロ. 確認後は、各ケーブルを間違いなく確実に元どおりに接続する。
(f)前項(a)、(b)、(c)及び(d)の警報を一時的に停止したときでも他の警報の発生が妨げられないことを確認すること。
(6)その他の機能
(a)連動する航海用レーダー、ジャイロコンパス又は船速距離計からの信号が伝達されていることが表示されていることを確認すること。
(b)模擬操船の機能が適正であり、かつ、模擬操船中であることが明確に表示されること及び模擬操船中であっても物標の捕捉及び追尾が中断されないこと並びに随時表示が中止できることを確認すること。
 確認に当たっては、操作説明書の指示に従うこと。
(c)自動機能試験装置の試験プログラム等による機能試験及びシステムの故障に対する警報等の試験を行い、異常がないことを確認すること。
イ. まず、操作説明書等によって事前に十分そのシナリオ等を理解する。
ロ. そのすべての試験項目について試験を行い、異常がないことを確認する。
ハ. 自動的に点検ができ、かつ、点検中の表示があることを確認する。
(d)その他の付加装置について、機能に異常がないことを確認すること。
イ. 機種によって各種のオプションが用意されているが、事前にこれらに関する操作説明書によって、内容をよく理解してから試験を行うようにする。
ロ. 付加装置の動作と本体の機能との関連を試験すると同時に、この付加装置によって本体の機能が損なわれることがないことも、併せて確認する。







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