6・3・1・3 海上の遠距離におけるレーダー電波伝搬方程式
前述のように, 海面が地球表面に沿って湾曲していることを考慮しなければならないような遠距離の伝搬の場合は, 図6・6のように, 海面上の反射点における水平線を引いて考え, レーダー・アンテナ及び物標の高さのうち, その水平線より上の部分をそれぞれAs及びAeとする。そして, (6・5)式のHs, Heの代りにAs, Aeを入れれば, (6・6)式が成り立つ。
図6・6 海上遠距離伝搬図
ただし, As=Hs-(R2×Hs2)/{2×Re×(Hs+He)2}
Ae=He-(R2×He2)/{2×Re×(Hs+He)2}
である。このAs, Aeは, 付録2に示すような略算によっている。
以上のレーダー電波伝搬方程式は, 物標がレーダーリフレクタのような点物標で, 海面上のある高さに掲げられている場合は実測値と計算値が非常によく合致することが確かめられた。
物標が船のような場合は, 種々の値のレーダー反射断面積を持った点物標が海面上にそれぞれの高さに分布している複合体として計算すれば, わりあいに実測値と合うことも分かっている。この計算は複雑であるので, 船の総トン数に応じた等価的なレーダー反射断面積σと, 有効高Heを与えて点物標とみなして計算することが考えられる。
図6・7は船の総トン数対レーダー反射断面積σ(m2)のグラフであり,
図6・8は船の総トン数対有効高He(m)のグラフである。
図6・7 船の総トン数対σ(m2)
図6・8 船の総トン数対He(m)
これらの推定曲線は, トン数の分かった船の反射強度を追跡測定して, R4に反比例する曲線部のレベルからσを計算し, 反射強度が急激に下がる曲線部分との変曲点の距離からHeを計算して, その船のσとHeとして両対数グラフ上にプロットすることによっている。そしてこのグラフ上にトン数の異なる多くの船について測定した値をプロットして, 最小自乗法によって得られた曲線に最も近くて判りやすい曲線から得られたものである。
附図1 経路差(R2-R1)の説明図
附図1より, R12=(Hs-He)2+R2, R22=(Hs+He)2+R2が得られる。
こゝで, R>>(Hs+He)>(Hs-He) であるから,
R1≒R+{(Hs-He)2/(2×R)} 及び
R2≒R+{(Hs+He)2/(2×R)} と置くことができるので,
経路差R2-R1は次のようになる。
R2-R1≒{(Hs+He)2-(Hs-He)2}/(2×R)≒2×Hs×He/R
従って, 位相差βは次の式で与えられる。
β=(R2-R1)×2×π/λ≒(4×π×Hs×He)/(λ×R)
こゝで, Er=ρ×E0×e-jα
ただし, α=φ+βであり, ρは海面での反射係数, φは反射点での位相移動, βは経路の差による位相差である。
これより, Et=E0+Er=E0+ρ×E0×e-jα が与えられる。
こゝで, Et=F×E0と表すとすれば,
F=Et/E0=|1+ρ×e-jα|=1+ρ2+2×ρ×cosα
であり, 海面において完全反射するとすれば, ρ≒1であって
F=2+2×cosα となる。
また φ=180°=π であるとすれば, F=2+2×cos(π+β)となり, 三角関数の公式から F=2×sin(β/2) を得る。
これに上のβの値を入れると,
F=2×sin{2×π×Hs×He/(λ×R)} となる。
これは電圧の比であるから, 電力の比はこの2乗であって,
F2=4×sin2{(2×π×Hs×He/(λ×R)} を得る。
これが(6・4)式に入っているのである。
付録2 (6・6)式のAs及びAeの証明
第6・6図より, {Re+(Hs-As)}2=Re2+R12 であって,
Re2+2×(Hs-As)×Re+(Hs-As)2=Re2+R12 となる。
Reは地球の電波的等価半径であって, 6371229.3m×4/3で与えられ,
(Hs-As)2はこれに比べて非常に小さいので無視すれば,
Re2+2×(Hs-As)×Re=Re2+R12 となる。
これを整理して 2×(Hs-As)×Re=R12 を得る。
一方 R1≒R×{Hs/(Hs+He)}, R2≒R×{He/(Hs+He)} であったから,
これを代入すれば,
2×(Hs-As)×Re=R2×{Hs/(Hs+He)}2 となり,
As=Hs-(R2×Hs2)/{2×Re×(Hs+He)2} を得る。
同様にして,
Ae=He-(R2×He2)/{2×Re×(Hs+He)2} が得られるのである。
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