2・8・5 可逆運転サイリスタレオナード装置の結線方式
可逆運転を要する直流電動機の速度制御用としてサイリスタレオナード方式が採用される場合,その装置には種々の主回路結線方式があるので,その電動機に要請される運転性能や逆転の迅速さ及び経済性などを考慮し,最も適した結線方式のものを選ぶことが望ましい。可逆運転用のサイリスタレオナード装置の主回路結線方式として代表的な基本形を次に示す。
(1)十字結線方式
サイリスタ整流器は正転用と逆転用にそれぞれ一組,都合二組を備え,それぞれは変圧器2次側の別々の巻線に接続される。電動機の逆転操縦の際,電機子電流が正方向から負方向に円滑に変換できるようにするため,逆転用サイリスタを正転用サイリスタとほぼ等しい平均直流電圧でインバータ運転2・7・2(2)(c-iii)項参照)の状態に保たれる。この場合サイリスタ整流器の直流電圧が互いに平均値で同じでも瞬時値では時々刻々相違することによって両サイリスタ間に脈動する直流電流が循環して流れるので,サイリスタは常に導通状態にあり速応動作のできる状態に保ち得るが,循環電流が大き過ぎると有害なので,これを抑制するために直流リアクトルが回路中に挿入される。この循環電流は常時一定範囲(定格値の10〜20%)にするか,負荷電流の増大にしたがって減少するように正転,逆転用両サイリスタ整流器位相制御角が自動制御される。
図2.128 十字結線方式の基本接続図
この方式は電動機の逆転時に電気的な回生制動を行うと共に迅速かつ,円滑なる速度移行を要する装置に適しているが,循環電流分だけ装置の電流容量を増すほかその調整装置を要するために,他の方式に比し高価となるので,可逆式圧延機などのように高度の逆転速度制御を要するものに採用が限られている。図2.128は本方式の基本接続を示す。
(2)逆並列結線方式
図2.129 逆並列結線方式(循環電流なし)の基本接続図
本結線方式では,十字結線の場合と同じく循環電流を流す制御を行なうことも可能であるが,一般には循環電流を流さない制御法で使用される。この場合循環電流制限用の直流リアクトルは不要であるが,脈動電圧(リップル)抑制用の直流リアクが通常電機子回路に挿入される。サイリスタは正転用と逆転用の両方を有するが,一方が動作中は他方は動作を休止していて非導通の状態で待機している。電動機逆転への移行時で電流極性が変る際に,サイリスタの動作切換えに1/100秒以内のむだ時間(遅れ時間)を生ずる程度に制御することができるので,逆転時の運転に対し,かなりな速応特性を要求されるウインチやクレーン等の荷役機械には実用上適切なものとして認められている。図2.129は本方式の基本接続を示す。
(3)主回路切換え方式
主回路電流供給用のサイリスタ整流器を一組だけを備える方式で,逆転に際しては電流が零になる時点で主回路の極性を図2.130に示すように切換える。極性切換えには開閉器の形式や容量により1/10〜5/10秒を要するので,速応性を要する装置には本方式は適していないが,緩やかな逆転動作を行うものには,経済的な点からその適用が考慮される。
図2.130 主回路切換方式の基本接続図
(4)界磁切換え方式
図2.131 界磁切換方式の基本接続図
本方式では(3)項の主回路切換えの代りに,電動機の励磁の極性を転換する方式で並列結線方式に比し経済的であるが,界磁回路が大きなインダクタンスをもっているために電流の変化が妨げられ,界磁極性の切換えに2/10〜6/10秒程度の時間を必要とするので,主回路切換え方式と同じく速応性を要する装置には適当でない。
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