2・8・3 直流電動機
(1)種類
直流電動機は,その界磁極の励磁方式の違いによって,他励分巻電動機,分巻電動機,直巻電動機及び複巻電動機の4種類があり,図2.124にその基本結線を示す。
図2.124 各種直流電動機の基本結線
(2)特性
直流電動機のトルクは界磁極の磁束量と電機子電流との積に比例して変化し,負荷電流や回転速度に関連した諸特性は電動機の励磁結線方式によってそれぞれ異っている。
各種直流電動機の負荷電流対回転速度特性及び負荷電流対トルク特性を図2.125に示す。
図2.125 直流電動機の特性
(a)他励電動機と分巻電動機
この両電動機は電機子の端子電圧が一定である場合は全く同一特性である(図2.125参照),特に他励電動機の速度は広い範囲にわたって,安定に制御できる特長がある。いま電動機の端子電圧をV〔V〕,電機子電流をIa〔A〕,電機子巻線回路の全抵抗をr〔Ω〕及び毎極の磁束をφ〔wb〕,定数をkとすれば電動機の回転速度n(回転数/分)は次式で表される。
この式からわかるように,負荷電流Iaが増せばV−Ia・rの値が減じ,回転速度は減少するが,その反面電機子反作用によって,分母のφが減ずる作用が働くので回転速度は両者相まって自己調整作用により負荷電流に無関係にほぼ一定の値となる。
なお,電機子反作用が強く影響する場合には,速度特性曲線が右上がりとなって運転が不安定となるおそれがあるため,わずか(直巻度10%以下)の直巻巻線を設けて安定巻線付分巻電動機とする場合もある。
備考:電機子反作用とは電機子巻線に流れる電流によって,そこに起磁力が発生し,この起磁力のため界磁の磁束をゆがめたり,減じたりする作用をいう。
(b)直巻電動機
本電動機では励磁起磁力として主回路電流を用いているため,端子電圧一定の場合には無負荷状態になると逸走してしまう。したがって,この電動機はかなりの摩擦負荷損を有する負荷に限って使用してよく,しかも負荷との連結は決して外れることのない直結接手,歯車などによらなければならない。
(c)複巻電動機
本電動機は分巻電動機と直巻電動機の中間の特性を有し,分巻電動機の始動トルクの小さいのを補償し,一方,直巻電動機の軽負荷時の過速度の危険を排除する。複巻方式は和動複巻(図2.125に示す特性のもの)と差動複巻の2方式があるが,後者は始動トルクが小さく,また,重負荷で速度が上昇するので殆んど使用されない。
(1)始動電流
2・1式から次式が誘導される。
V−Ia・r=nkφ
したがって電機子への電流Iaは,
で示される。2・2式中のnkφは電動機の回転速度に比例して電機子回路内に発生する逆起電力の値に相当し,静止の状態ではn=0であるから
となる。電動機内部の電機子回路の抵抗rは非常に小さいので,全電圧始動すると非常に大きな電流が流れ電動機を焼損する恐れがあるので,始動の際は極く小容量の特殊な電動機を除き,一般には始動抵抗器を電機子回路に挿入し,突入電流を制限する。次式2・3は始動抵抗Reを加えた場合の始動電流を示す。
(2)始動法
電源電圧が一定の場合,直流電動機の始動には始動抵抗を挿入するが,式2・3にて示すように,回転速度が上昇するにしたがって電機子逆起電力nkφが大きくなるので,電機子電流Iaは低下を来たすが,始動抵抗を一度に短絡して回路から取去ると,次の瞬間に過大電流が流れるので,適当な段数で階段的に始動抵抗を短絡する方法が行われる。この始動抵抗の挿入と階段的短絡の動作を手動で行う装置を手動始動器,継電器の助けにより自動的に行う装置を自動始動器という。
自動始動器は始動抵抗器の階段的短絡の動作の元になる信号の与え方又は信号のとり方によって相違し,次の方式に分けられる。
(a)限時形自動始動器
タイムリレー(限時継電器)により予め定められた時間ごとに順次電磁接触器を投入するもので,一定負荷又は一定時間で始動するのに適し,一般に広く用いられている。
(b)限流形自動始動器
主回路電流によって動作するリレーを設け,始動電流が規定値以下になった時次段の電磁接触器を投入するもので,重負荷又は変動負荷で始動するのに適している。
(c)逆起電力形自動始動器
電動機が加速するにつれて,その逆起電力が増加するので,この電圧に応動するリレーを介して電磁接触器を順次投入していくもので,装置が簡単なのでよく用いられる。
図2.126は逆起電力形自動始動器の簡略結線を示すもので,電動機が加速して逆起電力が上昇するに従って加速接触器1A,2A,3Aのコイル1,2,3が順次作動して始動抵抗を段階的に短絡する。
図2.126 逆起電力形自動始動器の簡略結線
(3)速度制御法
式2・3から
なる関係式が導かれるが,電機子回路の内部抵抗rは小さいので,これを無視すると
となる。ところで(V-Ia・Re)は電機子両極間に与えられる電圧に相当するので,式2・4は回転速度が電機子端子電圧に比例し,界磁束の大きさに逆比例して変化することを意味している。このような電動機速度に関連する理論に基づいて,利用される速度制御の方法は,次の3種類に大別される。
(a)抵抗制御
電機子回路に直列に外部抵抗を挿入して,抵抗による電圧降下を起させ,電機子端子にかかる電圧を変化させることによって速度制御する方法である。この方法は長時間運転する機械では抵抗器による損失が大きくなるので,連続的に長時間にわたり制御運転される機械には向いていないが,短時間の運転で済む甲板機械等には,次に述べる(b)項の界磁制御と適宜組合せて使用される。
(b)界磁制御
界磁磁束を変えて回転速度を制御する方法で,分巻電動機や複巻電動機で,界磁電流を加減して行われる。電機子端子にかかる電圧が一定の場合,回転速度を低下させるには界磁電流を増加させねばならなぬが,通常の機械では界磁コイルの電流許容量と磁気飽和現象によって,界磁束の増大には自ら限度があるので,一般には幅広い速度制御は行われない。
(c)電圧制御(図2.127)
電機子端子にかかる電圧を変えて回転速度を調節する方法で,電圧調節可能な電源としては,電動発電機かサイリスタ整流装置の何れかが用いられる。前者の電動発電機による方法はワードレオナード方式といい,旧来から高性能の速度制御を要請される荷役機械や甲板機械類の駆動用に採用されていた。後者のサイリスタ整流装置による方法は静止レオナード方式又はサイリスタレオナード方式と呼ばれ,前者の回転機による方法よりもさらに高性能,高効率の運転が得られるほか,損耗部分が少なくなる等有利な点が多い。
図2.127 ワードレオナード方式の基本結線
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