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10.2.3 電気機器の装備
 電気機器は, FRPの水密隔壁, 暴露甲板に直接取付けることを避け, 木製ライナーをを介して取付ける。機器の取付ボルト, 小ねじ類は, SUS製が望ましい。
 
図10.8 スイッチのFRPへの取付要領
 
10.3.1 接地の目的
 FRP船における機器などの接地は, 鋼船と異なり, 船体が不良導体であるため, 人体に対する危険防止や火災防止などを目的とするだけではなく, 電気的ノイズ(以下「ノイズ」という。)の防止や静電気の防止の目的もある。FRP船の接地の目的をまとめると, 次のようになる。
(1)災害防止策としての接地
(イ)人体に対する危険防止
(ロ)火災や爆発事故の防止
(ハ)落雷による危険防止
(ニ)静電気対策
(2)ノイズ対策としての接地
(イ)誘導ノイズ障害の防止
(ロ)輻射ノイズ障害の防止
(3)無線機器における接地
(1)人体に対する危険防止
 電気機器やケーブルが接地されていないと, 絶縁破壊や漏えいなどによって, 非導電金属部(正常な使用状態では電圧のかからない金属部)の電位が上昇し, それに人が触れると感電する。このため, 各船級規則などでは安全電圧を超える電気機器の非導電金属部やケーブルの金属被覆の接地を要求している。
 感電しても人体に障害を与えないといわれる安全電圧は, 人体抵抗と人体の許容安全電流によって決まるもので, 94年IEC 92-101で次のように定められている。
(1)直流・・・導体間又は導体とアース間が50V以下
(2)交流・・・導体間又は導体とアース間が50V(実効値)以下
(2)火災や爆発事故の防止
 電気機器やケーブルが接地されていないと, 非導電金属部の電位が上昇し, 近隣の構造物や人体との間でスパークが生じ火災, あるいは引火性ガスの爆発などを引起こす。これを防止する目的で, やはり非導電金属部の接地が行われる。
(3)落雷による危険防止
 FRP船の船体は不良導体であるため, 落雷によって電子機器などが障害を受けるばかりでなく, 人身事故に至るような重大な事故が起きることもある。
 したがって, 次のような避雷措置を施す必要がある。なお, 詳細については船舶電気装備工事ハンドブック(工事編)の付録「避雷設備」を参照のこと。
(a)電子機器のアンテナ系の避雷措置
 アンテナ系を, 切換えなどによって接地できる構造とする。
 また, アンテナ系に使用する電子機器の箱体は確実に接地する。
(b)避雷針
 避雷針は船体の最も高い位置に備え, できる限り船体が避雷針を含む鉛直線と60度をなす円錐内に入るようにする。金属製マストについては, 避雷針を備えるか避雷用の接地を施す。
(c)その他
 甲板や甲板室の頂部などに突出する金属製のものは必ず接地する。
(4)静電気対策
 FRP船は, 船体が不良導体であるため, 摩擦帯電が生じやすい。船体の一部や構造物のなかに, 電気的に独立した金属があると, 摩擦帯電により生じた他物体の電荷がこの金属に蓄積され, 電位を高めることになる。しかもこの蓄積された電荷の放電が一気に生じ, そのエネルギーも大である。したがって, これによる電子機器への誘導障害も大きく, また放電が人体を通して生じた場合には, 人体に有害な電撃を与える。更に, この放電路に着火性のガスが存在すると(例えぱ燃料タンクの中や近傍で放電した場合), これへの点火源となって, 火災や爆発などの災害を生ずることがある。したがって, 金属構造物は, 絶縁状態に置かれないように接地する必要がある。
(5)誘導ノイズ障害の防止
 電子機器などへの誘導ノイズには, 静電結合ノイズと電磁誘導ノイズがある。前者は, 機器の入出力信号ケーブルと周囲の電気回路との静電容量結合によって, その信号ケーブルに発生するノイズである。後者は, 機器の入出力信号ケーブルが周囲の電気回路によって生じる磁束の変化により, その信号ケーブルに発生するノイズである。
 これらの誘導ノイズ障害の防止に対しては, 信号ケーブルの遮蔽と接地が重要である。
(6)輻射ノイズ障害の防止
 輻射ノイズ障害は, ノイズが電磁波として空中伝搬して電子機器などに障害を与えるもので, 無線機器からの発射電波, 高調波成分を含んだ大電流回路(サイリスタ利用回路など)などからの漏えい電磁波, 直流機のブラシや静電気のスパークなどによる電磁波が空中伝搬してくるものである。
 FRP船は船体そのものに遮蔽効果がないため, 電子機器自体あるいはその設置場所全体を遮蔽し, 接地する必要がある。特に無線機器の場合には, 機器の接地線も空中線の一部として作用して, 電波の伝導や輻射をするので注意を要する。
(7)無線機器における接地
 FRP船の無線機器は, 長い接地線によって船底部の外板に設けられた接地銅板に導びかれ海水に接地している。このため, 接地線は, 空中線として働き, 電波の発射や受信に障害を生ずる。したがって, この接地線には銅帯を用いるなどインピーダンスをできるだけ小さくする必要がある。
 
 上述したように船舶, 特にFRP船における電気, 電子機器の接地は重要である。このため, 各国の国家規則や船級協会規則では, 接地に関する諸要求を定めている。次に各規則類における共通の項目について述べる。
(1)電気機器の接地
 人が触れるおそれのある非導電金属部の接地が要求されている。固定機器の場合には接地線により, 移動機器の場合にはキャブタイヤコードによって接地する。規則によっては接地線のサイズを規定しているものもある。
(2)ケーブルの接地
 ケーブルの金属被覆を接地することが要求されている。また, 金属被覆の電気的な連続性を要求している規則もある。
(3)一般金属部の接地
 特にFRP船に関連した規則では, 静電気や電磁誘導等によって帯電するおそれのある金属製の構造物などの接地を要求している。
 また, 金属製の燃料油タンクや燃料管及びFRP製の燃料タンクの金属付着品などの接続と接地を要求している。
(4)避雷針
 非導電材製のマストのマストトップには避雷針を装備することを要求し, 避雷導体のサイズや抵抗値についても規定している。
 
 接地を効果的にさせるためFRP船では, 図10.9のように特別の接地銅板と接地線を設ける。無線機器用と一般用とは, 分離して設置したほうがよい。
 
図10.9
 
(1)災害防止策としての設置
 人体に対する危険防止のため金属, 機器及びケーブルの接地, 並びに避雷のための接地銅板と接地線の布設は次のように行う。
(a)接地銅板
 接地銅板は水線下に設ける。大きさは0.2m2以上(例えば定尺銅板(1200mm×365mm)の1/2以上)とし, 厚さは0.5mm以上とする。
(b)主接地線
(1)主接地線には, すずめっき軟銅線又は平角銅線を使用し, その大きさは断面積50mm2以上であることが望ましい。
(2)主に,船体の上下方向になるべく直線的に布設し,下端は接地銅板に接続する。
(3)甲板や隔壁を貫通する場合には, 貫通ボルト(同一断面積以上のもの)を取付け, 銅管端子又は圧着端子を使用してこれに接続する。
(c)支接地線
(1)支接地線にはすずめっき軟銅線又は平角銅線を使用し, その大きさは主接地線の約1/2の断面積とする。
(2)支接地線は, 電気機器の装備されている区画を対象として, 主に船首尾方向になるべく直線的に布設し, 主接地線に接続する。
(3)大形金属構造物, 例えば大形補機, 燃料油タンク, 燃料油管, 清水タンク, 梯子, クレーン, 金属製リギンなども支接地線で有効に接地をする。
 なお, 無線機器が装備されている場合は, 手すり, サッシ, ワイヤロープのような細長い金属物には, 送信電波によって誘導電圧が発生することがあるので, これらの金属構造物はできるだけ空中線から離し, 長さも短くすることが望ましい。誘導電圧が人体に電撃を与えるおそれのある場合には, 絶縁物で金属を被覆するか, 支接地線で主接地線に接続する。
(d)避雷用の接地線
(1)避雷用の接地線には75mm2以上のすずめっき軟銅線又は平角銅線を使用して, できるだけ直線的に布設し, 鋭角に曲げないようにする。
(2)接地銅板(一般用又は無線機器用接地銅板の近い方)に極力接触抵抗のないように確実に接続する。ただし, 接続ははんだだけで行ってはならない。
(3)マストの頂上から接地銅板までの間の抵抗は0.02Ω以下であること。
(4)落雷対策の接地に関する詳細については, 付録の「避雷設備」を参照のこと。
(2)ノイズ対策としての接地
 ノイズ対策としての接地は, 他の接地とは異なり, 単純に低抵抗で接地すればよいというものではなく, ノイズの発生を減少させ, 除去するように施工する必要がある。
(a)接地銅板
 ノイズ対策としての接地銅板は特に設けず, 10.3.3(1)(a)の接地銅板を共用する。
(b)主接地線
 原則として10.3.3(1)(b)の主接地線を共用する。ただし, 接地する機器に特に低インピーダンスの接地が要求される場合には, 銅帯を用いて別に布設してもよい。
(c)支接地線
(1)支接地線には錫めっき軟銅線又は平角銅線を使用し, その大きさは主接地線の約1/2の断面積とする。ただし, 低インピーダンスの接地を要求される場合には, 主接地線と同断面積の銅帯を使用する。
(2)支接地線は, ノイズ対策の必要な機器が装備されている区画内に, できるだけ水平方向, 直線的に, かつ, できるだけ最短距離に布設し, 主接地線に接続する。ただし, ノイズ除去のための接地が必要でない場合には10.3.3(1)(c)の支接地線を共用してもよい。
(3)無線機器用の接地線とはできるだけ離して布設する。
(d)各機器と接地線との接続
(1)ノイズ対策の必要な機器などと接地線とは, 幅30mm以上の銅帯で接続する。
(2)特に強いノイズを発生する機器の接地は, 他の機器の接地線とは別に接地線を設けて, 接地銅板のところで接続するようにする。
(3)複数の機器で構成される装置において一点接地を行う場合には, 各構成機器間の接地接続には絶縁電線を使用する。 (図10.10参照)
 
図10.10 ノイズ対策を要する様器の接地
 
(3)無線機器における接地
 無線機器(送信機, 受信機, 航海用無線機器, 計測機器など)の接地線には高周波電流が流れる場合があるので, 接地線も空中線と同様に考えなければならない。
 したがって, 無線周波帯における有効な接地を行うためには, 接地線のインピーダンスを極力小さくしなければならない。
(a)接地銅板
 接地銅板は水線下に設ける。大きさは0.2m2以上(例えば定尺銅板(1200mm×365mm)の1/2以上)とし, 厚さは0.5mm以上とする。
(b)主接地線
(1)主接地線には, 厚さ0.5mm以上の銅帯を使用するが, 銅帯幅などについては無線機メーカーと相談すること。
(2)機器の装備されている区画内に, できるだけ直線的に, かつ, 最短距離で布設し, 下端は接地銅板に確実に接続する。
(3)甲板や隔壁を貫通する場合は, 貫通ボルトを使用せず, 銅帯を連続させたほうがよい。
(c)支接地線
(1)支接地線には銅帯を使用し, 大きさは主接地線の1/2の幅とする。
(2)機器の設置されている区画内に布設し, 主接地線に確実に接続する。
 ただし, 27MHz帯以上の無線機器のみを装備している場合には10.3.3(1)の接地でもよい。
(d)各機器と主接地線や支接地線との接続方法
(1)送信機(送受信機を含む, 以下同じ)の主接地線は, 無線機器用の接地銅板から最短距離で送信機に接続する。この主接地線には他の機器を接続してはならない。送信機(空中線切換器を除く)と他の機器は図10.11のように接続する。
 
図10.11 送信機と他の機器の接地例
(注)※印の各機器と支接地線とを接続する機器接地線には, 幅が30mm以上の銅帯を用いることが望ましい。
 
(2)無線機器に使用する空中線切換器には避雷の目的もあるので, 接地線には銅帯を使用し, その断面積は75mm2以上とし, 主接地線に確実に接続する。主接地線の断面積が75mm2以上ない場合は, 直接接地銅板に接続する。







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