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3・7 機関室電気機器配置図とその説明(漁船の一例)
 図3・16のとおり, ディーゼル主機関が中央に1基あって, その軸から推力軸受, 中間軸, 軸受を介して船尾管で包まれたプロペラ軸に至る。両舷にNo.1及びNo.2のディーゼル機関駆動の三相交流発電機225V60Hz100kVAが配置され, これらの電源の制御, 監視を行う配電盤は前方隔壁付近の中央部にある。そして船内の電気機器に給電される。交流電圧100Vに変圧する変圧器は前方右舷側にある。両舷には種々の補機用電動機が適当に配置され, それらの始動, 停止の始動器及び制御器は右げん及び左げん側の集合始動器盤にまとめて配置されている。通信装置としては電話器及びエンジンテレグラフ, 計測用としては排気ガス温度計等がある。
 この漁船は総トン数300トンの小型船のため, 主機関遠隔制御盤, 機関室警報盤は前方隔壁付近にあるが, 大型船ともなれば, これらの配電盤, 制御盤等は機関制御室を設け, その中において総ての機械類を遠隔及び自動制御を行う。また, これらは操舵室とも連携されている。
 
図3・16 機関室電気機器配置図(漁船の一例)
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 制御とは, 一般にある量を常に一定値に保つようにするか, 又はあらかじめ定めた値にそって変化させる力を, 人為的, 機械的又は電気的に行うことであって, 一般には人為的に行ってきたが, 制御する機器が複雑多岐にわたってくれば, 人為的では間に合わず, 機械的, 電気的又は機械+電気の機能を使用して, 自動的に行うようになった。これを自動制御という。
 自動制御には次の方式があって, 制御の目的に応じて, その何れかを選び又はそれらを併用する。
(1)フィードバック制御系(feed back control system)
 あらかじめ定めた目標値と制御対象(物体・機械等)の制御量とを比較し, その偏差を検出し, その結果を制御量の調節装置にフィードバック〈帰還)させながら調節し, たえず偏差を零にさせる動作を自動的に行わせる制御方式をいう。下図に示すとおり, 常に適正な結果としての制御量(温度, 圧力, 回転角等)を得るために, その原因としての操作量(制御対象を操作するための電磁弁等のアクチュエータ類)を作り出すための各部からの信号の伝達方向と内容が矢印の方向に閉回路になるので, この系を閉回路(閉ループ)制御系とも呼んでいる。
 
図3・17 フィードバック制御系図
 
(i)定値制御 例えば, 発電機の電圧を一定に保ったり, また, 油の温度を一定に保ったりするように, ある量や値を常に一定値に保つ制御方式である。
(ii)追値制御 目標値が時間的に変化するとき, その目標値に合った制御量を追従させる自動制御方式で, 例えば自動操舵装置で船が指定進路より外乱等によって外れるとその角度を検出し, かじを自動的に動かして指定進路にもどす方式等をいう。
(iii)プログラム制御(Program control) 制御量をあらかじめ定められたプログラムに従って変化させる制御装置をいい, 例えば炉中の温度を制御する場合図3・18のように時間とともに温度を制御させる制御方式をいう。
 
図3-18 プログラム制御図
 
(iv)プロセス制御(process control) 制御量即ち温度, 圧力, 流量, PH, 濃度, 粘度等の工業生産工程に適用する量を制御する方式をいう。
(2)シーケンス制御系(sequence control system)
 制御装置にフィードバックしないで自動制御系で, あらかじめ定めた順序に従って制御の段階を逐次進めていく方式をいい, 別の名称を開回路自動制御系という。制御の段階において(1)制御動作が完了した後, 次の動作に(2)動作後一定時間経過後次の動作に(3)制御結果に応じて次の動作を選定する, 等の経過があって, 動作の移行するには種々の組合わせを考慮して定めることができる。主機関の自動制御にも用いられる。
 機器の運転, 停止, 速度制御等を機側にて操作しないで, 遠隔の所で, 押しボタン又は操作ハンドル等の一動作で行うようにしたものである。したがって, 複雑な動作機構から成り立っている機器にあっては, 前記の自動制御方式のいずれかが組み入れてある。また, その動作を監視するために計器, 動作表示, 警報盤など組み入れた監視盤を必要とする。
 船舶の主機関その他の機器を遠隔及び自動制御する場合には, 高度の重要性があるため, 機関制御室として一室を設け, 上記のみならず通信装置, 非常警報装置等を含めてある。これについての詳細は“JMS9804日本船舶標準協会規格の機関制御室の計画標準”を参照のこと。
 ディーゼル主機関の操縦方法には, 前後進切替, 始動停止, 増減速の三つの基本操作がある。この操作を機関から離れた制御室又は操舵室等から行うことを遠隔操縦といい, (1)機械式(リンクロッド方式)(2)電気+油圧式(3)電気+空気式(4)全電気式の4種類の方式がある。
 一般に, 電気+空気式遠隔操縦装置とは, 機関の操作ハンドルを, 圧縮空気を動力とする空気シリンダ, エアモータ等によって駆動し, かつ, それらの制御は電磁空気弁などを使用し, 電気的に遠隔制御する方式と, また, 機関の操作ハンドルを駆動することなしに機関付ガバナモータ及び始動空気電磁弁群を直接遠隔操作する方式とがある。図3・19はその後者の一例を示したものである。
 この系統図において, 制御室の切替ハンドル(3)を操舵室(W/H)側に切替えると, 制御空気は(8)の始動空気タンク(標準30kg/cm2)から(9)の減圧弁(標準30kg/cm2から7kg/cm2に減圧)を通して操舵室制御系統に供給される。そこで, 操舵室のテレグラフハンドル(1)を前進(又は後進)の任意の回転数に設定すれば(4)の電磁弁により(5)の前後進の切替弁及び(6)の電磁弁によって(6)の始動空気制御弁が動作し, 主機関が始動する。続いてテレグラフハンドルの指令位置に従って(10)のガバナーモータが駆動し, 主機関は所定の回転数まで増速(又は減速)する。また, (3)の切替ハンドルを機関制御室(C/R)側に切替え, (2)の操縦ハンドルを前進(又は後進)に操作すれば(5)の前後進切替弁及び(6)の始動制御弁が動作し, 主機関は始動する。機関速度はリンクロッドにより, 直接燃料調整軸を操作して増(減)速を行う。
 
図3・19 電気+空気式ディーゼル主機関遠隔操縦装置系統図
 
 我が国では昭和36年に建造された貨物船「金華山丸」にはじめて制御室が設けられ, これがいわゆる自動化船建造の第一歩であるとされている。その後, 遠隔監視や自動制御技術の発達にともない, 急速に自動化が進み, 昭和44年にはタンカー「ジャパンマグノリア」が機関の無人運転を行う第一船としていわゆる日本海事協会のMO符号をはじめて取得した。
 また, エレクトロニクス技術の進歩にともない船舶のコンピュータの利用なども検討され, 昭和45年にはタンカー「星光丸」にはじめてコンピュータが搭載された。その後エレクトロニクス技術の進歩はめざましく, 手軽に利用できるマイクロコンピュータの普及にともない, 主機や発電装置, 監視警報装置などコンピュータの利用範囲はますます拡大する傾向にある。
 一方, 少人数でいかに効率よく船舶を運航するかという人的側面からの取組みとしていわゆる船員制度近代化に関する検討がなされ, その一環として昭和58年には運輸省により「船舶自動化設備特殊規則」が制定された。さらに, 船員制度の近代化は従来の機関部と甲板部や職員と部員と言った職務範囲そのものの見直しも含めて検討されており, 船員制度近代化委員会による総合実験船ではA段階(22名→18名), B段階(18名→16名), C段階(16名→一14名), D段階(14名→11名)と小人数運航体制となり, 船舶の自動化設備もそれに合わせて集中化, 合理化がはかられている。
 機関の無人運転の目的は船舶運航費(人件費)の節減船員の労働力の軽減や労働環境の改善等があげられる。このことは機械が人間に代って監視, 制御を行うことになるため, 人間がこれらを行っている場合と同等の安全性が確保されてはじめてその目的を達成できると言える。
 そのため, 機関の無人運転に適した設備が必要となるが, 基本的には自動及び遠隔制御装置, 異常の発生を人間に知らせるための警報装置, 装置や機器を損傷から守るための安全装置等を適切に組合せて船舶全体の安全性を確保することになる。
 機関の無人運転を行うために必要な設備についてはSOLASや船舶機関規則, 各国の船級協会の規則などに定められている。日本海事協会の鋼船規則にはMO船(少なくとも24時間連続して機関の無人運転を行うことができる船舶に付記される符号)に対して概略次の要件がある。
(1)主機の制御を船橋から行うための船橋操縦装置が必要
(2)主機, ボイラ, 発電装置, 重要な補機類の監視, 制御を行うための集中制御室が必要
(3)主機, ボイラ, 発電装置, 重要な補機類の異常発生を集中制御室, 船橋, 機関士居住区域に知らせる警報装置が必要
(4)主機, ボイラ, 発電装置等の重大な損傷を防止するための安全装置が必要
(5)二重装備の発電装置や補機類の一方に異常が発生した場合, 予備機に自動的に切換えるための装置が必要
(6)浸水や火災の発生を防止するとともに, 万一発生した場合すみやかに検出し必要な措置をとれるように特別の考慮が必要である。
(7)主要な自動機器装置は環境試験に合格したものであること。
 重要設備とは船舶設備規程, NK規則及びIEC publ. 92などの定義は, 表現法は異なっているが, その内容は次のように解釈できる。すなわち船舶の安全性及び居住性に直接関係のある機器のことである。
 なお, これらの照明装置並に電路布設等は船舶設備規程などによっていろいろな制約をうけているので, 注意が必要である。
(1)ディーゼル機関用補機の名称をあげよ。
(2)蒸気タービン機関用補機の名称をあげよ。
(3)消防ポンプ, ビルジポンプ及びバラストポンプの役目についてそれぞれ述べよ。
(4)自動制御の必要性について述べよ。
(5)シーケンス制御方式について概略を述べ, かつ主機関の自動制御はいかなる方式か述べよ。
(6)プログラム制御方式の概略を述べよ。
(7)機関の無人化の目的は何か, また, NK規則によるMO符号取得の第一船は何年頃で, どんな船かを記せ。
(8)重要設備の定義はどのような表現か, また, これを設備するにあたり, どのような注意が必要か。







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