総説
医療の質を高めるために
受診者の満足度の評価はなぜ必要か*1
道場信孝*2 日野原重明*3
はじめに
われわれが日常行っている医療が適切であるか否かはどのように評価されるであろうか。そもそも医療の適切性がなにを意味するかはにわかに決めがたい。しかし, 今日医療上のトラブルや医療費の高騰を考えるとき, この問題を避けて通ることはできない。従来『医療の質』は医療の供給者側から一方向性に捉えられており, そこでは迅速で, 安全で, かつ効果的に治癒がもたらされるときに高い評価が与えられ, 特に医療の場面としては緊急度が高く, そして, 重篤であるほど受診者に与える恩恵が大きいことから, 医療の供給者と需要者の双方にとって, このような図式はほぼ定着した概念となっている。しかし, より慢性に経過し, 直接短い時間で生命に危機をもたらすような緊急度の高い障害ではないが, それでも需要側にとっては単に身体的のみならず, 心理・精神的, そして, 社会的, あるいは, スピリチュアルにも大きな影響のある状態の方が現実にははるかに医療需要の多くを占めており, このような場面においては上記の図式は当てはまらない。
今日の医療に対する需要側のニーズは, 『くすりの適正使用協議会』の調査報告にまとめられているが, その問題点を要約すると以下の通りである1)。すなわち, (1)医師に対しては, 自己中心的な接遇態度と, 診療における不適切な説明の仕方, そして, 不十分な説明内容, (2)医療施設に対しては, 施設の都合を優先させる対応, 継続性のない診療, プライバシーへの配慮不足, (3)くすりに関しては, 服用することへの不安, 副作用に対する情報提供の不足, そして, (4)その他として, わかりにくい医療制度, 高い医療費, 健康診断に対する信頼性の問題, 医療機関への交通のアクセスなどが挙げられている。20世紀末から今日に至るまで, わが国においては疾病構造が著しく変化し, また, 需要者が極端に高齢化しているなかで, 医療のあり方には大きな変革が求められている。このような現状において『医療の質』をいかに高めていくかはさし迫った課題であり, 多くの需要者が強く感じている現行の医療に対する不安や不満に対して真摯に応えることが医療に携わる者の責務と思われる。今回は『医療の質』と受診者の満足度の観点から, この問題を分析してまとめてみた。
受診者の満足度はなぜ重要か
現在に至るまで『医療の質』を適正に評価する方法は確立されていない。多くは, 医療者の立場からそれぞれの施設の医療設備や, そこに所属する医療者の知識や技術レベルの高さなどが評価のターゲットになっており, その中ではいかに効率よく医療が実施されるかが医療施設自体の関心事である。すなわち, 真に必要で有効な医療を, 適時に, そして, 費用/効果比の見合った状態で供給することが医療施設の経営には必須な要件であり, つまりは医療資源の有効な活用に主眼をおいた機能的な面での評価となっている。そこで, これを需要者側からの求めとつきわせると, 問題は, そこで行われる医療における医療者と受診者との相互関係の中に存在することが分かる。すなわち, いかに迅速に結果が説明され, いかに有効に医療資源が活用されて問題の解決が図られても, 受診者がどのように理解し, 納得し, 受け入れたかの要件が満たされていなければ, 真の意味での問題解決には至らない。
そこで上記のような事態を含め, あらためて『医療の質』を問い直すとき, 『医療の質』を定義することはさらに困難になる上に, その質を正当に評価することには躊躇せざるを得ない。それでは, 誰もが満足する評価法に代わる, 簡易で有用な代替法はないのであろうか。このような問題意識を背景として, 今日, 受診者による医療に対する認知(patient perception: PP), あるいは満足度(satisfaction)の評価が次第に注目されるようになってきている2-7)。
受診者の認知と満足度を評価することの意義と妥当性
医療を受ける者はだれでもなにがしかの期待を持って受診するが, その期待と受診して得た際の満足度が一致すれば需要と供給のバランスは満たされる。しかし, かつてのわが国がそうであったように, 受診者が多くの場合受け身であって期待するレベルが低ければ, 満たされ方の閾値は低くなるし, また, 緊急度が高く, 重篤であるほど, そして, 治療効果が短時間で劇的に得られるほど同様の結果になる。それに対して, 慢性疾患で治療効果も目に見えて認知できるという状態でないとすれば, 受診者の求めるものに異なった面があるのは当然であるし, 『医療の質』の評価もそれなりに変えていかなければならない。
そのような意味から, PPが次第に『医療の質』の評価に用いられてきているが, これまでPPの定量的な意義についての研究は少なく, 従って, 現時点で証拠にもとづいた決断や選択をすることは困難であり, 今後明らかにすべき問題が多く残されている。それらをまとめると, (1)特定の医療供給システムに対してPPがどの程度インパクトがあるか(言い換えれば, どのような医療に対してPPが強いインパクトを持つか), (2)PPと医療の効果との関連はどのようになっているか(例えば, リスクで補正した死亡率や機能的状態は改善するか), (3)PPは医療供給者の技術的能力の正当な評価基準となるか, そして, (4)ケアの有効性を改善するためにPPをどのように利用できるかなどが挙げられる。これらはそれ自体極めて魅力的な研究課題であり, これから次々と多くの情報がもたらされるので, 絶えず注目していなければならない分野となることは疑いない。
このように多くの未解決な問題が残されているとしても, 他に有力な代替法がないとすれば, PPを『医療の質』の評価に用いることは当然の成り行きであり, その妥当性を現時点で検証してみることは必要, かつ有用であると思われる。Rosenthalら(1997)によれば5), 死亡率, 治癒率, そして, 合併症の発生といったこれまで種々の医療供給システム間の質の相違を示す目的で用いられてきた多くの伝統的な手法に比べて, PPはより感度が高い指標である可能性があり, このことは特に外来医療, 非急性期医療, または, 入院患者でも産科的ケアやその他の待機的ケアを受けているといった有害事象の起こりにくい状況で関連が深いと考えられる。さらにPPは安価であり, 医師の間で行われる他施設に対する評価など, 医療の質を評価する他の方法に比べればより信頼性が高いといえる。受診者には自身にとってベストな医療資源を選択する権利があり, ケアが期待される望ましいものであり, そして, 満足できる健康状態が維持できれば, 受けた医療に対する満足度は高くなるので, そのような観点から医療の供給のあり方を変えていくことも可能になる。
実際にこれまでの研究から, 例えば, ケアの技術的な質は医師の評価と相関があるなど, PPは『医療の質』に関する他の評価指標とも直接関連しており, その意味からも恐らく信頼に足る指標になると思われる8)。さらにまた, 受診者の評価によって医療の質を技術的側面と人間的側面とに解離させることが可能であるが, この点に関してもこれまでの研究は, 受診者の全体としての評価が, 病院の設備, 駐車場の広さなど, ケアの快適さに対する感じよりも, ナースによるケアの供給や受診者と医療供給者間のコミュニケーションなど, ケアのプロセスに関する受け止め方と密に関わっており, 受診者のケアに対する満足度は, ケアの最も重要な側面である医療の供給について直接感じとる問題と深いつながりがあることを明らかにしている9)。しかし, それらにもましてさらに重要なことは, 受診者のケアに対する受け止め方と満足度は, だれに医療を求めるか, あるいは, 医療供給者を替える際の決断や, 勧められる治療戦略の受け入れにも強く関連することは明らかであり, 実際に, 受けた医療に不満足な場合には良い医療の効果(outcome)が得られないことは日常の臨床でしばしば経験されることである10)。
PPをどのように評価するか
最も広く用いられているのはケアに対する受診者の満足度である。その多くは患者が受けたサービスに対する評価で, その対象はまず第1にはケア全体, あるいは, 医師や看護師が与えるケアに対する満足度など全体的なレベルと, 第2は看護師のいたわりや優しさ, 医師の技術や判断など医療サービスに特異的なレベルとに分けられる11)。評価には通常Likert-typeの5段階スケールが用いられるが, 受診者の満足度は, 受けたサービスに対する受け止め方と期待されるサービスに対する受診者のスタンダードとの相対的なバランスを表すものであることが必要であり, これらのスタンダードは, 患者が当然受けるべきと信じ, これらが最小限受け入れられると信じ, そして, これまでの経験に照らして平均的と思われることを表すものであることが望ましい。
評価の対象となる要因には以下のものが含まれる。すなわち, 第1は医療供給のシステムであり, 大きな医療システムであるほど, そして, 自己の費用負担の少ないものでは満足度が低くなる。第2はケアのプロセスで, case management(症例個別の管理方式)に対する評価が高いのが普通であるが, この方式は特に高齢者に好まれる傾向がある。一般に満足度と関連する要因は, 医師のコミュニケーション・スキル, 待機的治療に関する情報の提供量, そして, 患者教育に費やされる時間量とされている。そして, PPの有用性は医療の効果としてその結果(アウトカム)が評価されるが, それらには医療施設に対する支払い, 再診予約の適切な履行, 医療供給者の仕事に対する満足度の向上, 死亡率や再入院率などで示される臨床結果が含まれる。
しかし, PPの評価には方法上の制約もあることを理解しておかなければならない12)。すなわち, 受診者の受け止め方や期待は患者背景や臨床状態で異なっており, 一般に年齢と健康状態が主要な要因であるが, 高齢で重症であるほど満足度は高くなる。また, 多くの場合データの歪度が大きいことから, 統計処理にはしばしば問題が生じる。さらに, この種の調査に特有な無回答率の高さ(30〜70%)が実態の把握を困難にすること, そして, データの収集法によって結果が異なることも問題であり, 郵便と電話, 面接と自己記入によっても差が生じる。その他, 臨床の現場では老人, 小児, 重症者など受診者本人より直接情報を得ることが困難なことが稀ではなく, 代理者が答えている場合には実態と異なる結果になることは避けられない。受けた医療と評価の時期がずれることによっても結果が異なる点も知っておかなければならない。
このように受診者の満足度を評価することの必要性と妥当性に関してはすべてが明らかにされているわけではなく, また, 先にも述べたように多くの明らかにすべき問題が提示されているが, それが『医療の質』を測る代替法として最も有力な手段であることは, 今日広く認められるところである。
受診者の満足度を高める戦略
受診者の満足度の評価が真に必要と考えられれば, 次にはその目標を達成するための戦略が立てられ, そして, それらを実践するための行動が求められる。これまでの臨床経験から以下の2つの言語行動が受診者の満足度を高めることが知られている13)。すなわち, 第1は受診者が自身の言葉で自身の健康問題を語ること, そして, 第2は医療者が事実に基づいて事態の説明をすることである。
受診者が自身の言葉で自身の健康問題を語ることが, 今日の医療現場でどのように行われているであろうか。実際には, 受診者が語るのは医療者の質問に対する反射的反応であることが多く, それらは医療者が発するYesかNoで求められる閉鎖的質問に対する解答に過ぎず, 多くの研究は医療者が受診者に自身の問題を語る時間を与えていないことを示している。しかし, 受診者の多くは, ときに治してもらうよりは, 理解してもらうことを欲しているので, 医療者が受診者に語る時間を与えると, 彼らの満足度とコンプライアンスは著しく高められ, その結果ドクターショッピングは少なくなり, 訴訟問題も減じる。医師が受診者を気遣うことによってCHFの症状が良くなるというエビデンスすら存在する14)。
今日では医療情報を患者に与えることは診療上の常識となってはいるが, 現実には十分とはいえないし, また, その実施の仕方にも多くの問題がある。受診者の満足度とコンプライアンスは受診者が受ける情報の量に比例することは明らかで, 医療情報にアクセスすることが最も価値ある医療資源となり, 従って, 医療者が高血圧とその治療について説明できるよう訓練されている場合には, そうでない場合よりコンプライアンスが向上し, 血圧のコントロールも良くなることが示されている15)。また, 術前に手術内容や麻酔について情報を与えられている患者では, 術後の痛みが少なく, 用いる鎮痛薬も減少し, 入院日数も短縮される16)。
このように満足度の評価には情緒的側面(affective aspects)と認知的側面(cognitive aspects)の二面性があり, 前者では医療者の温かさ, 患者の医療者への信頼と自身を表現する自由さが重要な要因となっている。従って, 『この医療者は人間としての自分に関心を示している』と感じることが受診者にとって最も価値あることとなる。さらに後者では, 医療者の情報を与える機能と, 受診者自身が診断, 病因, 予後, 治療について理解できたと受け止める状態が重要であり, 医療者と会った後, いかに自身の病気が重いか, あるいは, 自身の健康の何が, どのように問題なのかが本当に分かったということが満足度に大きく影響する。そこで, 満足度の評価を医療者について行う際には次の3点が重視される。すなわち, 医療者の人間性, 職業的能力, そして, 受診のしやすさである。
医療者が日常行う業務には, 技術的事項, 健康教育・患者の受診行動の活性化, あらゆる疾病への予防行動の強化, そして, 患者自身や家族の問題に関するカウンセリングが含まれる。技術的な事項に関しては, 何が行われるかの説明, 病歴, 家族歴, 診察:身体所見, 諸検査(説明と施行), 結果の説明, 診断と治療計画, 治療効果, そして, フォローアップ計画の説明(診断, 治療, 経過観察)が全体像であるが, 最も重要なことはこの全体像を最初に説明することが日常十分に行われていない事実である。すなわち, 何がこれから行われるかが知らされないまま医療行為が進行すること自体が受診者の人間性を無視する行為となっている。
健康行動の促進においては, 医療者にとって受診者のコンプライアンスは最大の関心事であるべきであり, 健康教育を通じて健康の維持と増進を図るが, それには食事の摂り方, 運動の実施, そして, 喫煙, 飲酒など嗜好品の摂り方を効果的に指導しなければならない。そして, 受診者の受診行動を活性化するには, 健康に関する知識を高め, 受診者の活発な質問を促し, そのためには一般的な会話, すなわち, 世俗的な『おしゃべり』も必要となる。
受診者の満足度を高める要因は多様であり, まず受診者の要因として年齢, 教育の状態, 疾病の種類や重症度, そして, 医療者の要因としては医療の環境, すなわち, 一般内科なのかドック・健診なのか, あるいは, 医療者自身の性差, 年齢, 専門性, テクニカルな面, パーソナリティなどが挙げられる。職業的能力を評価するには3つのドメインがあり, それらは, (1)患者に対する関心のよせ方, (2)患者に対する説明の仕方, そして, (3)医療者の全体としての能力である。
医療者の対人行動に求められるものは, 社会的な, 疾病とは関わりのない会話(日常会話), 協力関係にあることを伝えるパートナーシップとしての会話(わかりやすく言い換える, 他の意見を求める, 理解してもらうよう求める, 笑う, 同意を求める), そして, 心理・社会的問題に関する会話(感情移入, 気配り・懸念, 保証や安心を与えるもの)であり, 正当性があって(論理的に筋が通っている), 心理・社会的な質問とカウンセリングを含むものである。そこでは意見の不一致(見解の相違)が生じても自然であるし, 医学的な内容, そして, 治療や処方に関する質問が活発に行われ, 医学的な話題, 治療や処方に関する情報が豊富に与えられることが大切である。
その他, に評価の対象となるのは専門用語であり, 医療者が発する専門用語は日常会話にはないので, 患者には理解できない。微笑みと頷き, そして, 患者と視線を交わす時間は重要であり, それらは医師が診療録に目を向ける時間の逆数であるとされている。声の質には, (1)怒り/苛立ちと友好的/暖かいひびき, (2)関心を持ち/深い関わりを示すことと無関心, (3)落ち着かない状態とリラックス, そして, (4)支配的/独断的な態度と受容的/柔らかい態度が現れる。あいづちも大切で, 話者に対する関心の持続や同意を意味するものである。同時発言も時には有効で, 医療者が受診者の文章の完結を促したり, 発言を先取りすることや, 受診者の意見をさえぎって自分の意見を述べることも折にふれて有効なのは当然である。
その他, 特に医師の意志決定に対する能力の評価には3つの過程があり, 第1は健康状態に関する測定やスクリーニングの結果から特定の診断へ結びつける過程(the assessment linkage), 第2は障害の原因を究めるために医療資源の活用を決断する過程(the resource linkage), そして, 第3は医師と受診者とが特殊な治療を開始するか否かを決定する過程(the action likage)である17)。これらはこれからの賢明な受診者によって正当に評価される基本的な臨床能力である。
まとめ
疾病構造が大きく変化し, 医療の対象も目標も変化しつつある今日の医療において, 『医療の質』の評価にはこれまでとは異なったアプローチが必要と思われる。治癒が困難でケアが主体となる疾病を有する受診者に対しては, セルフ・ケアを助長する支援が医療の主たる目標となるが, このような場面においては受診者のコンプライアンスを高く維持させることが重要である。このような医療では医療者と受診者との信頼関係が必須の要因であり, 医療自体が透明であって, かつ, 十分に説明されたものでなければならない。このような医療の質を適切に評価する手法の一つとして, 受診者の『満足度の評価』を取り上げた。PPを『医療の質』の評価基準とすることには, 未解決の問題が多く残されているが, その意義と妥当性にはこれまでのところ強い反論はない。この考え方の利点と欠点を十分にわきまえながら, 『医療の質』を向上させるための組織的な自助努力をすることがすべての医療者の責務であると思われる。
*1 The Assessment of Patient Satisfaction is Necessary to Improve the Quality of Medical Care
*2 ライフ・プランニング・センター研究教育顧問
*3 ライフ・プランニング・センター理事長
文献
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